サラマンダーを止めるべく、勇気達は古代日本に飛び立った。
そこで出会った青年タケルの妹を助けるべく、勇気達は彼に協力する道を選ぶ。
タケルもまた臆病な人間であるものの、妹を助けたいという気持ちは強かった。
そんな彼と勇気を守るべく、ディアーナも嫉妬しながらも共に戦うのだった。
タケルに先導されて歩く勇気、ディアーナ、ジャネット、プーカは、
山の麓にあるタケルの村の話を教えてもらった。
さらわれたタケルの妹はミヤズという名前で、10歳以上も年下の妹だという。
「タケル兄さんの村では時々、サラマンダーに襲われて誰かがさらわれてるんですね」
「そうなんだ。でも、村人は抵抗しない」
「何故ですか?」
「皆は神隠しだと思ってて、諦めてる」
「戦わないのですか?」
「神には逆らえないからね。でも、神様がこんな事をするはずがない。
ミヤズを誘拐するなんて……」
タケルは言葉を詰まらせた。
勇気は何も言えなくなり、ディアーナとジャネットは拳を握り締める。
「酷い話だナ」
勇気のポケットの中のプーカも、タケルが可哀想で、そう呟くのが精一杯だった。
「誰かが助けに行かないなんて、どうかしてますよ」
「あたしだったら真っ先に行くわよ」
ディアーナとジャネットは、自身が戦えるのもあって、何もしない村人に苛立つのだった。
やがて三人の人間と二人の妖精のチームは、
森を抜けて、肌が剥き出しになった険しい斜面を登り始めた。
「この斜面を登り切ったところに火龍の巣があるはずなんだ」
歩いて登れる斜面ではあるが、その勾配はかなり急なのでジグザグに歩くしかなかった。
「ぜぇ、ぜぇ」と荒い息を吐き始める勇気とジャネット。
特にジャネットは鎧を着ているので、かなり歩きにくいようだ。
「頑張レ、頑張し、勇気クン!」
ポケットから顔を出したプーカが応援をしてくれる。
しかし、勇気は馬鹿にされているようでムッとした。
「こら、五月蠅いよ。プーカは、ポケットに入ってるだけじゃないか」
「オイラはこれから、きっといっぱい飛ぶ事になるんダ。今は休んでおかないとネ」
「今はプーカを信じなさい、勇気」
「おい、着いたぞ」
先頭を歩いていたタケルが振り向いて小声で伝えてきた。
立ち止まったタケルの前方に、洞窟の入り口らしきものがある。
中は暗くて見えないため、ディアーナは光の精霊を召喚しようとするが、
見つかるのを危険視して呼ばなかった。
「ここが、火龍、君達の言うサラマンダーの巣だ」
すると、突然、洞窟の入り口がオレンジ色に光った。
―ボォォオオオ
巨大な炎が洞窟から吹き出てきた。
「わぁ!」
勇気達は身を伏せる。
「僕が見たサラマンダーは、小さなトカゲだったんだよ。
それなのに、なんでこんなに大きな炎を吐くんだよ?」
勇気はプーカを責めるように小声で質問した。
タケルに聞こえて欲しくなかったからだ。
「そんなの、オイラだって知らないヨ。本物のサラマンダーを見るのは初めてなんだかラ」
「あたしも、こういうサイズは見た事がないわ」
「プーカ、でも、これはヤバいよ」
「勇気クン、オイラもそう思うヨ」
サラマンダーは勇気達に気づいたのだろうか。
いずれにしても、洞窟の中に入ったら間違いなく焼け焦げてしまう。
「くそっ! これじゃ、ミヤズを助けるなんて無理だ。いや、もしかしたら既にミヤズは……」
タケルは歯ぎしりをし、やがて大粒の涙を流し始めた。
「ミヤズ……! ミヤズ……!」
洞窟の中に聞こえないように、タケルは声を押し殺して泣いた。
そのタケルの姿が、勇気にはとても切なく見えた。
「いい加減にして」
それを見過ごせなかったディアーナはタケルの頬を右手で叩き、
タケルを無理矢理泣き止ませた。
「何回叩いたら気が済むの? こっちの手も痛くなっちゃうわ」
「ディアーナさん……」
鋭い目でタケルを見つめるディアーナ。
その表情に怒りこそないものの、確実に良い機嫌ではなかった。
プーカはその姿を見て、自分が役に立つとタケルに自信満々で言った事を思い出した。
「オイラが見てきてやるヨ」
プーカはすかさず勇気のポケットから飛び出した。
「おい! プーカ、危険だぞ」
「やめなさい、プーカはタケルのためにやっているんだから」
勇気が小声で引き留めるが、ディアーナは勇気を制止し、その間にプーカは洞窟に向かった。
―ブ~ン、バタ、パタ、パタ
プーカは洞窟の入り口まで飛んで行って、一旦縁に身を隠して中を覗き込んだ。
しかし、中は暗くてよく見えなかった。
「仕方なイ。静かに入るゾ」
プーカはなるべく音を立てないように、羽をゆっくりと羽ばたかせて中に進んだ。
今、炎が吐かれたので、洞窟の中は暑かった。
もしここでまた炎を吐かれたら、プーカは一瞬で焼け焦げてしまうだろう。
洞窟に入っていくプーカを見届けたタケルは、赤くなった頬を撫でている。
「君は、気が強いんだな。大人にも平気でものを言える上に、折檻までできるなんて」
「そうじゃないの、あなたの無様な姿を見たくないだけ。
それに、あたしはあなたより長生きしてるのよ」
一方、洞窟の中ではプーカが慎重に飛んでいた。
―パタ……パタ……パタ……
静かに羽ばたいて、プーカは洞窟の奥へと進んでいく。
―スー、スー、スー
息をするような音が聞こえてきた。
プーカはゆっくり慎重に闇の中を進んでいく。
―スー、スー、スー
さらにハッキリと息が聞こえてきた。
プーカは目を凝らす。
闇の中で何かがゆっくりと上下に動いているのが見えてきた。
なるべく羽音を立てないように近づいていく。
動いているのは薄黄緑色の大きな身体だった。
二階建ての家くらいの大きさがあった。
(こんなに大きいのカ……)
洞窟の闇の中で、眠っている姿が見えてきた。
(これがサラマンダーなのカ。眠っている間は炎がないんだナ)
サラマンダーは常に炎を纏っているイメージだが、眠っている時に炎は無いのだ。
(これは大きな情報だゾ)
そう思ったプーカは辺りを見回した。
肝心のミヤズは無事なのだろうか。
と、洞窟はさらに奥まで続いている。
(よシ、行ってみよウ)
眠るサラマンダーの上を通り過ぎて、プーカはその奥に静かに飛んでいく。
―パタ……パタ……パタ……
プーカはなるべく音を立てないように洞窟を進んだ。
しばらくすると、地面に横たわる小さな人影が見えてきた。
プーカは背後のサラマンダーを気にしつつ、その人影に慎重に近づく。
8歳くらいの少女が、剥き出しの岩の上に横たわっている。
プーカはその子の顔の前に降り立った。
ハッと少女が目を覚ます。
「あなたは?」
サラマンダーに聞こえないように少女は囁き、プーカも囁き返す。
「オイラはプーカ。君はミヤズかイ?」
「そうよ」
「タケル兄サンが洞窟の入り口まで来てるヨ」
「え! お兄ちゃんが!」
ミヤズの声が思わず弾んだ。
「しっ!」とプーカが窘める。
「でも、あの火龍に見つからずに入り口に行くなんて無理よ」
途端に肩を落とすミヤズ。
「分かってル。でも、逆にこの奥に進んだら出口があるんじゃないのかイ?」
ミヤズは首を振った。
「行ってみたら、小さな火龍達が出入りしているところがあったの。
でも、凄く小さくて、そこから出るなんて無理だったの」
プーカはハッとした。
「もしかして、その出口は×印状だったかイ?」
「そうよ。どうして知ってるの?」
「説明は後だヨ。とにかく、オイラだけでは助けられなイ。一度戻るから、静かにしてるんダ」
「うん。でも、早く助けに来てね」
「もちろんだヨ。すぐに助けに来るかラ」
プーカはそう告げると、音を立てずに飛び立った。
未だに眠るサラマンダーの前を、静かに横切っていくプーカ。
―スー、スー、スー
サラマンダーは寝息を立てている。
ふと、ミヤズが気になった。
プーカは振り向いてミヤズの様子を伺った。
ミヤズは大人しく横たわっているようだ。
―ゴツン!
余所見をしていたプーカは壁にぶつかってしまった。
プーカはバランスを崩して地面に落下する。
―トテッ!
プーカが地面に落ちて音を立てた。
小さな身体がぶつかっただけだが、静かな洞窟の中では、その音は大きく響く。
(しまっタ!)
プーカは心の中で叫んで、目の前で眠るサラマンダーを見た。
その目が開いた。
(まずイ!)
プーカは飛び立とうとしたが、焦ったので羽が思うように動かない。
サラマンダーは目の前の小さな妖精を見つけると、身体全体が徐々にオレンジ色に光り始める。
プーカはそれを目の前で見て慌てた。
「大変ダ! 超高速で逃げるゾ!」
ハッキリ声を出し、自分に向かって宣言したプーカは飛び立った。
―ブーン! パタパタパタ!
生まれてから今まで出した事のないスピードで、洞窟の入り口に向かうプーカ。
背後から奇妙な音が響いてきた。
―オォオオオー
プーカは、怖ろしくて振り返る気になれない。
その音の正体は、サラマンダーの身体にエネルギーが漲る音に違いなかった。
「急ゲ! オイラ!」
自分を鼓舞するプーカは、必死に羽ばたく。
入り口はもうすぐだ。
次の瞬間……。
―ドォォオオオ!
爆音が響き、背後から熱が迫ってくる。
「あわわワッ!」
プーカは洞窟の外に飛び出した。
プーカを心配して洞窟の様子を見ている勇気、ディアーナ、ジャネット、タケルが目に入った。
「勇気クン! タケル兄サン! ディアーナ! ジャネット! 気をつけロ!」
プーカの忠告に驚いた勇気とタケルが、物陰に隠れた。
ディアーナとジャネットは力を解放し、二人のいる場所にプーカも続いて隠れる。
その直後……。
―ボワッ、ドオオオオオ!
炎が洞窟から吹き出して来た。
「「「うわぁ!」」」
「……っ!」
勇気とタケルとプーカが叫んで身を縮め、ディアーナとジャネットは攻撃を防ぐ。
五人の周りが炎で焼かれた。
「あちちちっ」
勇気はその熱さに思わず声を出す。
しかし、幸いに誰も火傷をする事はなかった。
「ミヤズチャンは洞窟の奥にいたヨ」
「本当か? 無事なんだな?」
「オイラは嘘は言わない」
「だったら、なおさら急いで助けないと!」
プーカの報告に、焦りを募らせるタケル。
「でも、洞窟に入れるのはここしか無いみたいなんダ」
「じゃ、どうやって助ければいいんだ?」
「「戦えばいい」」
―ドシンッ、ドシンッ、ドシンッ
ディアーナが双剣、ジャネットが旗を構えると、洞窟の中から大きな足音が聞こえてきた。
「サラマンダーが出てくるゾ!」
プーカの声に、勇気、タケル、ディアーナ、ジャネットが洞窟を見つめる。
―ドシンッ、ドシンッ、ドシンッ
サラマンダーが入り口に姿を現した。
オレンジ色の炎を身に纏った火龍。
傍にいるだけでその熱が伝わってくる。
サラマンダーは、入り口を塞ぐように立ち止まった。
誰も洞窟に入れないようにしている。
「先手必勝!」
ディアーナは剣を抜き、ジャネットに鼓舞されながらサラマンダーを貫いた。
勇気は背負っていた大型水鉄砲を手に取った。
そして、サラマンダーに向けて狙いを定めた。
―シュッ! シュッ! シュッ!
引き金を引くと、勢いよく水が連射された。
サラマンダーに辿り着く前に地面に散ってしまう水もある。
それでも、多くの水がサラマンダーに命中した。
しかし……。
―ジュッ! ジュッ! ジュッ!
―シュワァァァ!
効果は無く、まさに焼け石に水で、すぐに水蒸気になってしまう。
さらに悪い事に、勇気達はサラマンダーに睨みつけられた。
「ヤバい! タケル兄さん! プーカ! ディアーナ! ジャネット!」
勇気の声で、皆は今までよりもっとしっかりした物陰に逃げ込んだ。
ディアーナとジャネットは逃げも隠れもせずに戦った。
その直後、サラマンダーが口を開いた。
―ボワッ、ドオオオオ
炎が飛んでくる。
三人は物陰で必死に身を縮め、ディアーナも攻撃をかわしながら魔法で攻撃していく。
「ディアーナ! そちらに攻撃を!」
ジャネットは旗を持ちながらディアーナを応援した。
炎の塊が過ぎ去っていく。
勇気は大型水鉄砲を再びサラマンダーに向けた。
―スゥゥ、スゥゥ!
水がなくなっていた。
「ダメだ! どこかに水はないの?」
岩場の洞窟前には水はなかった。
勇気はタケルの水筒に目を向けた。
「タケル兄さん、その水筒の中身をこのタンクに入れて!」
勇気は大型水鉄砲のタンクの蓋を外して、タケルの前に差し出した。
「え? でも、これは水じゃなくて酒だぞ」
「そうだけど、ここには水がないんだ。妹さんを助けるために何もしないよりはいいでしょ?」
「分かった」
タケルはタンクの中に水筒の中身を流し込んだ。
勇気はタンクの蓋をしっかり閉じると、再びサラマンダーに大型水鉄砲を向けた。
―シュッ! シュッ!
銃口から酒が発射された。
サラマンダーに辿り着かずに地面を濡らす酒もある。
それでも、ほとんどの酒は命中した。
ところが、酒は水とは全く違う反応を示す。
―ボワッ! ボワッ! ボワッ!
サラマンダーに掛かった酒はますます炎を強めた。
「しまった! 酒は逆効果になるのに、なんで気づかなかったんだ!」
「え? どういう事?」
「僕が持ってきたのは強い酒だ。酒は燃えるんだよ」
「ええ! そんなの知らなかった」
「……ここには水の精霊はいないのよね」
勇気は目を丸くし、ディアーナも無力感を感じる。
すると、サラマンダーの身体の炎がふっと収まった。
「何? どうしたの?」
勇気は呟く。
その目の前で、サラマンダーが地面に散った酒を舐め始めた。
次の瞬間、サラマンダーは再び燃え盛る。
オレンジ色の炎が赤い炎に変わり始めた。
「これは、ヤバいよ!」
勇気達は慌てて物陰にしっかり隠れる。
きっと特大の炎が襲ってくるに違いない。
勇気は身を丸め、ディアーナとジャネットも身構えるが……。
―オヨヨヨヨ、オヨヨヨヨ
奇妙な鳴き声が聞こえてくる。
「え?」
勇気が顔を上げてサラマンダーを見ると、すっかり炎が赤くなってフラフラとしていた。
「どういう事? まるで酔ったみたいだ」
勇気の呟きに、タケルはハッとして語り出した。
「以前、サラマンダーが村を襲った時、酒蔵を襲った事があるんだ。
サラマンダーは酒を飲んだ後、村を襲うのをやめて、フラフラしながら山に帰って行ったんだ」
「つまり、酒が好きなの?」
「多分そうだ」
「だったら、この大型水鉄砲の酒でおびき出せば、
洞窟の入り口から引き離す事が出来るんじゃ?」
「勇気クン、それは良いアイデアだゾ」
勇気とプーカのやり取りを聞いていたタケルは、さらにハッとした。
「そうだ。この洞窟の裏側は切り立った崖なんだ。で、その下には池があるんだ」
「その池に落とせば火は消えるよね」
「勇気クン!」
「よし!」
勇気はプーカと目を見合って頷いた。
ディアーナとジャネットも彼らを見て頷く。
するとプーカはタケルを見た。
「洞窟の中はオイラが案内するゾ」
今度はタケルが頷いた。
―シュッ! シュッ! シュッ!
勇気の大型水鉄砲から発射される酒。
ディアーナの剣術と魔法、ジャネットの応援。
―ボワッ! ボワッ! ボワッ!
サラマンダーがますます赤く燃え、切り刻まれる。
―オヨヨヨヨ、オヨヨヨヨ
奇妙な声を出してフラフラするサラマンダー。
それを見た勇気は、物陰から飛び出して洞窟の裏側に回る道を走った。
「おーい、こっちだぞ!」
そう呼びかけつつ、シュッと酒をサラマンダーの少し前に飛ばした。
サラマンダーはフラフラと勇気の方に歩き出し、洞窟の入り口が開いた。
「よシ! 行くヨ!」
プーカに促されてタケル、ディアーナ、ジャネットは洞窟に向かった。
勇気はサラマンダーの少し前に酒を噴霧していく。
フラフラと付いていくサラマンダー。
『馬の鼻先にニンジンをぶら下げる』という言葉を誰かから聞いた事がある。
ニンジンが好きな馬は、それを食べようとして前進するが、
ニンジンは馬の背中から伸びた竿の先に付いているので、馬と一緒に移動してしまう。
だから幾ら走っても食べる事が出来ず、馬はとにかく必死に前に進むだけになる。
勇気はサラマンダーに対してまさに同じ事をしているのだ。
「おーい、こっちだぞ」
勇気は洞窟の裏側に向かってサラマンダーを誘導していく。
「こっちだぞ!」
背後から付いてくるサラマンダー。
―オヨヨヨヨ、オヨヨヨヨ
(よし! この調子で付いてくれば大丈夫だ!)
勇気は自信を持ったが……。
―オヨヨヨヨ、ボッ、ドォ!
「わぁ! あちぃ!」
勇気の背中が熱くなった。
振り向くと、酔ったサラマンダーが貧弱な炎をあらぬ方向に吐いていた。
「ダメだ! そんなに酔ったらダメだよ!」
「酔わせるなんてあいつじゃない」
「混乱していますね……」
―オヨヨ、ボッ、ヨヨヨ、ボッ、ドォ、ドォ!
サラマンダーは千鳥足になり、右へ左へフラフラしてなかなか前に進まない。
しかも、今来た道を戻ろうとし始めた。
「おい! おい! ダメだ! 戻るなよ!」
一方、洞窟の中ではプーカがタケルを案内していた。
―ブ~ン、パタパタパタ!
サラマンダーがいなければお構いなしに音を立てて飛べる。
「ミヤズチャンは洞窟の奥にいるヨ」
―ザワザワザワッ、ビッ、ビッ、ビッ
洞窟の奥に向かおうとするプーカだったが、不気味な音が、洞窟の暗闇から響いてきた。
「プーカ、この音は?」
タケルがゾッとして尋ねてきた。
「ミヤズちゃんは、一番奥に小さなサラマンダーがいっぱいいるって言ってたんダ」
「なんだって? じゃ、ミヤズは?」
タケルは闇の中に闇雲に走り出した。
「ミヤズ! ミヤズ! お兄ちゃんだぞ!」
「タケル兄サン!」
プーカは慌ててタケルを追いかけた。
「ミヤズ! お兄ちゃんが助けに来たぞ!」
タケルは叫びながら奥に向かった。
「お兄ちゃん!」
突然、少女の声が響いた。
「ミヤズ! 良かった!」
巨大なサラマンダーがいなくなったので、ミヤズが自ら洞窟の入り口に向かってきたのだ。
タケルとミヤズは、走り寄って抱き合った。
「お兄ちゃん!」
「ミヤズ! 無事で良かった!」
「お兄ちゃん、でも……!」
ミヤズは背後の暗闇に振り返る。
―ザワザワザワッ、ボッ、ボッ、ボッ
小さなサラマンダーが何匹も火を噴きながら走ってくるのが見えた。
「タケル兄サン! ミヤズチャン! 急いで外へ行くんだヨ!」
プーカが二人を促し、タケルとミヤズは慌てて入り口に走り出した。
勇気は大型水鉄砲の中の酒をサラマンダーの鼻先に放つ。
―シュッ、シュッ! オヨヨ、ボッ、ヨヨヨ、ボッ!
「やるわね!」
ディアーナも双剣から風の刃を飛ばし、サラマンダーを切り裂く。
酔ってふらつくサラマンダー。
だが、やっと勇気の誘導する方に向かってくるようになった。
「よし! こっちだ!」
―シュッ シュッ!
勇気は大型水鉄砲から酒を発射させながら走る。
「こっちに来るんだ!」
やがて勇気、ディアーナ、ジャネットは切り立った崖の上に出た。
下を覗くと池があった。
『時のトンネル』を抜けて降り立った場所にあった小川は、
きっとこの池から延びているのだろう。
背後を振り返ると、サラマンダーが勇気達に向かってフラフラと歩いてくる。
「さあ、大好きな酒を飲みたかったらここまで来るんだ」
勇気は崖の外側に向かって、水鉄砲の中の最後の酒を発射した。
―シュッッッ!
サラマンダーはそれを飲もうとして走り込んで来る。
勇気は素早く横に逃げた。
するとサラマンダーはまんまと洞窟の外に飛び出した。
足をばたつかせるサラマンダー。
―オヨヨヨヨヨヨ
池に向かって落ちて行く。
―バッシャーン!
崖の下で水しぶきが上がった。
―シュゥゥゥ!
サラマンダーが纏っていた炎が消えていく。
やがてその飛沫に変わるように黒い煙が上がってきた。
それを見た勇気、ディアーナ、ジャネットはホッと息をついた。
「終わった」
「大人しくさせたかったのに」
洞窟の中を入り口に向かって走るタケルとミヤズ。
そして、宙を飛ぶプーカが二人に声を掛ける。
「急ゲ!」
―ザワザワザワッ、ボッ、ボッ、ボッ
背後から追ってくる小さなサラマンダー達。
ところが……。
―シュッウー! シュ、シュッウー! シュッウウゥゥー!
小さなサラマンダー達が、黒い煙となって消えていった。
プーカはその様子を見つめる。
「よシ! 勇気クン、ディアーナ、ジャネットが怪を倒したんダ!」
「え?」
走っていたタケルとミヤズが立ち止まり、振り返った。
追いかけてきた小さなサラマンダー達が、確かに消えていた。
「お兄ちゃん……」
ミヤズは信じられない表情でタケルを見る。
「ミヤズ、助かったんだ」
「ホントに?」
「ああ、良かった」
タケルとミヤズの年の離れた兄妹は、しっかり抱き合う。
そこへ、勇気、ディアーナ、ジャネットがやって来て、抱き合う二人を見た。
「二人が再会できて、良かった」
「ああ、オイラも嬉しいヨ」
「そうね……あら?」
ディアーナは地面に何かが落ちているのに気づく。
「ちょっと、これ、何?」
勇気は地面を見てハッとした。
「これは……」
勇気はそれを拾い上げた。
それはなんと、羽心の『星のグローブ』だった。
「羽心だ!」
勇気は洞窟の中へ羽心を捜して走り出す。
「羽心! 羽心! どこだ?」
「勇気クン、待ちなヨ!」
宙を飛ぶプーカは、勇気の目の前に回り込んだ。
「怪を倒したから洞窟の奥にあった×印も消えてル。もうここにはいないヨ」
「でも、羽心のグローブが……?」
「邪鬼は何かを企んでるんだヨ。きっト」
勇気は星のグローブを握り締めた。
(確かにそうかもしれない。でも、何としてでも羽心を助けないと……)
勇気は心の中で誓った。
ディアーナとジャネットも、彼らの後ろから声をかける。
「まったく、羽心と聞くやこれだもの」
「私達はゆっくりと作戦を練りましょうね」
人の振り見て我が振り直せとばかりに、ディアーナとジャネットはそう誓った。
~次回予告~
サラマンダーを倒す事はできたが、羽心を救出する事はできなかった。
代わりに星のグローブを取り戻せたため、勇気は羽心を救いたいという気持ちが強まった。
次に勇気達が挑むのは、災いをもたらす箱だった。
原初の女の名を冠するその箱を、勇気達は見つけ出す事ができるだろうか。