怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

108 / 135
~前回までのあらすじ~

怪奇現象の原因となるパンドラの箱を回収するべく、勇気達は時を超える。
そこで出会った王女・サラと共に、様子がおかしい父王を探そうとする。
どうやら邪鬼のせいでパンドラの箱を開封しようとしているらしい。
何としてでもそれを阻止するべく、勇気達は封印の間に向かうのだった。


4 - 捕らえられた勇気

「封印の間は、こちらですわ!」

 城にやって来た勇気達は、封印の間へと向かっていた。

 部屋は、一階の一番奥にあるのだという。

 通路の両脇には、何体もの大きな石像が立っていた。

 勇気は、その石像の迫力にたじろぎながらも、ロープを持つ手に力を入れ、サラの後を追った。

 ディアーナとジャネットも、勇気の後を追った。

「これですわ」

 やがて、サラは大きな石の扉ので立ち止まった。

 扉の中央には、手形のような紋章が刻まれている。

「わたくし達王家は、代々パンドラの箱を守る役目がありますの。

 この扉は『選ばれし者の扉』と言って、特別な力を持つ王家の者しか開く事ができないのです」

「特別な力?」

 聞き難えのある言葉に、勇気は思わず聞き返そうとする。

 すると、プーカがそれを止めた。

「勇気クン、今はそんな事考えてる場合じゃないゾ」

「そ、そうだね。サラさん、早く扉を開けて。箱を他の場所に移さないと!」

「ええ!」

 サラは、手形のような紋章に、手をかざした。

 瞬間、紋章が光り輝く。

―ゴゴゴゴッ

 次の瞬間、扉がゆっくりと開いた。

 勇気達は急いで中に入る。

 だが、中央に石でできた台がポツンとあるだけで、他には何もなかった。

「どういう事ですの? パンドラの箱はこの台の上にあったはずですわ」

「そんな」

 勇気達は戸惑いながらも、辺りを見回した。

 すると、入り口の扉の前に誰かが立った。

「思った通り、来たようだね」

「あなた……」

 邪鬼を見るや否や、ディアーナが身構える。

 彼の後ろには、赤い豪華な服を着た王と兵達がいた。

「邪鬼!」

「待ちなさい!」

 勇気は邪鬼を捕らえようと、扉の方へ駆け出す。

 だがそれよりも早く、王の周りにいた兵達が、それを防ぐようにして立ち塞がった。

「お父様、パンドラの箱はどこなのですの?」

「それはもちろん、ここだ」

 王は、大事そうに持っていた黄金色に輝く小箱を見せた。

「それが、パンドラの箱……」

 勇気は、ゴクリと唾を呑み込む。

 ディアーナはパンドラの箱、ジャネットは邪鬼を睨みつけている。

「これはこの国の宝だ。王である私だけが持つ事ができる」

「その箱で、何をしようとするの?」

「決まっているだろう。これで国を守るのだよ」

 微笑みながら邪鬼を見た。

「邪鬼殿が教えてくれたのだ。周りの国々がここの国を狙っているとな」

「まさかそんな……」

 戸惑うサラをよそに、王は勇気達を見た。

「邪鬼殿。この少年と仲間が先ほど言っていた盗賊か?」

「はい。パンドラの箱を狙って、必ずやって来ると思っていました」

「盗賊? 僕は盗賊じゃない! そいつに騙されないで!」

「また騙すなんて……!」

 勇気は立ち塞がる兵達をくぐり抜けようとするが、それを見て王が怒鳴った。

「ええい、邪鬼殿は国の危機を報せてくれた人物だ。そのような人物を悪人のように言うとは。

 その子を捕まえろ!」

「はっ!」

 兵達は勇気の身体を掴んだ。

「やめろ! 邪鬼、パンドラの箱の力は絶対に使わせない!」

 勇気は邪鬼のもとへ近づこうとするが、兵達に取り押さえられ、動けなくなってしまう。

 ディアーナとジャネットも、兵達に拘束されてしまう。

「皆さん!」

 サラは勇気達のもとに駆け寄ろうとするが、王が「やめろ」と声を上げた。

「サラよ。お前は危うく騙されるところだったのだぞ」

「彼らは盗賊などではありませんわ!」

「ふん。盗賊でなければ、何故パンドラの箱を狙う?」

「だからそれは」

 サラは反論しようとするが、王は一方的に話を続けた。

「こんな少年と冒険者如きに騙されるとは、王家の人間として情けない。

 お前は死んだあいつと同じように、人が良すぎるのだ」

「あいつ……それは『お母様』の事を言っていますの?」

 サラは、険しい表情で王を睨んだ。

 王はその迫力に一瞬怯んだものの、すぐに「ふん」と鼻を鳴らした。

「サラを部屋に連れて行け。今から戦いの準備をするぞ!」

「はっ!」

「お父様!」

「サラ様、こちらへ」

 王はサラを無視して部屋を出て行き、サラも、兵達に連れて行かれてしまう。

 

「サラさん! 王様!」

「……許さない……」

「生かすわけには、いきません……!」

 勇気は捕らえられながらも必死に叫び、

 ディアーナとジャネットは我慢できずに強い怒りと殺意を露わにする。

 その姿を見て、邪鬼が不敵に笑う。

 そして傍に近寄ると、勇気に顔を近づけて囁いた。

「無駄だよ。勇気君、聖女に勇者。パンドラの箱は、この僕が手に入れるからね」

「邪鬼!」

「聖女はともかく、あたしが勇者ですって!? とにかく、消えなさい!」

 ディアーナは呪文を詠唱すると、邪鬼に向かって風の刃を飛ばし、頬を切り裂いた。

「……簡単には消えないさ。君が勇者である限りね」

 邪鬼は頬を押さえながら、その場から去って行った。

「待ちなさい! くっ、離しなさい!」

「五月蠅い、静かにしろ!」

 兵達はさらに力を入れ、勇気達を取り押さえる。

「やめろ!」

 勇気は抵抗する事ができなくなり、そのまま地下牢へと連れて行かれた。

 ディアーナとジャネットも、封印の間を追放された。

 

「よくもあたし達を……」

「何としてでも、再び入らなければ」

 怒りに燃えるディアーナとジャネットは、もう一度封印の間に入ろうとした。

 しかし、扉は特別な力を持つ者にしか開かない。

 何とか誤魔化して扉を開けるしかないとディアーナは言ったが、ジャネットは首を横に振った。

「私はそういう作戦はできません」

「そうね、それなら……気絶させるしかない」

「やめなさい!」

 どうしようもなくなったディアーナとジャネットだったが、ふとジャネットが顎に手を当てる。

「……特別な力……もしかしたら、ディアーナは……」

「あたしは王族じゃないでしょ?」

「いいえ、あなたは特別な力を持つはずです! 紋章に手をかざしてください!」

「……分かったわ」

 ディアーナは、手形のような紋章に手をかざした。

 すると、紋章が光り輝き、扉がゆっくりと開いた。

「やった!」

「あなたは、やはり勇者でしたね。勇気を助けましょう!」

 

(早く、邪鬼を止めないと……)

 薄暗い地下牢の中。

 勇気は、その事をずっと考えていた。

 邪鬼にパンドラの箱を奪われれば、見捨里市は怪の脅威に晒されるだろう。

 そんな事を絶対に許すわけにはいかない。

 勇気は急いで邪鬼のもとへ行きたいと思うが、牢には窓もなく、

 鉄格子の扉も頑丈な鍵がかかっていて、逃げ出す事は不可能だった。

(こんな時に、キユウやディアーナがいてくれたら)

 キユウとディアーナは、どんなピンチでも冷静だった。

 勇気は、そんなキユウとディアーナをいつも頼りにしていた。

「やっぱり、僕一人じゃ、邪鬼を止める事も羽心を助ける事もできないんだ……」

 勇気は、自分の無力さを痛感し、絶望感を抱いた。

 

「助けに来たわ!」

「「ディアーナ、ジャネット!」」

 すると、鍵を持ったディアーナとジャネットが勇気とプーカがいる地下牢に辿り着いた。

 看守達に息はなく、殺した事を暗示しているようで勇気は気分が悪くなるが、

 二人は怒りに燃えているため何も言えなかった。

 たとえキユウがいなくても、勇気は一人ではない。

 一人では無力でも、力を合わせれば、どんな苦難にもきっと立ち向かう事ができる。

 ディアーナは牢の鍵を開け、勇気は、飛び出すように外に出た。

「邪鬼、待ってろ」

 勇気はプーカ、ディアーナ、ジャネットと共に、邪鬼のいる場所へと急いだ。

 

「邪鬼はどこにいるんだ?」

 地下牢から一階に戻って来た勇気は、城の中を見回す。

 ディアーナの髪は強く光り、ジャネットの上半身が聖遺物に覆われる。

 二人の怒りは治まったようだが、既に人間性は残り少なくなっていた。

 城は広く、どこに邪鬼達がいるのか分からない。

「兵にも見つからないようにしないと」

 見つかれば、また捕まってしまうだろう。

 だが、勇気は奇妙な事に気づいた。

「兵が、全然いないんだけど……」

「もしかしたら、戦争を始めたとか」

「やめてよ、ジャネット」

 見渡す限り、人の姿はなかった。

 勇気達は、警戒しながら通路を歩いて行く。

 すると、角の向こうから声が聞こえてきた。

 

たす……け、て……

 今にも掻き消されそうな弱々しい声だ。

 勇気、ディアーナ、ジャネットは戸惑いながらも、角を曲がった。

「ああっ」

 曲がった通路の先に、一人の兵が倒れている。

 兵は苦しそうな顔をしていた。

「大変だ!」

 勇気達は、慌てて兵の元へ走る。

「勇気クン、捕まっちゃうヨ!」

「そんな事を言ってる場合じゃないだろ!」

「あの人は困ってるのよ!」

 勇気達は兵の傍に辿り着くと、声をかけた。

「どうしたの?」

「きゅ、急に頭が痛くなって……」

 兵が、苦しそうに答える。

「まさかこれって」

「勇気、見て!」

 ディアーナが、通路の先を指差す。

 そこには、中庭があった。

「あああ!」

 庭に、大勢の兵達が倒れていた。

 勇気は中庭へと走り、兵達を見る。

 お腹を押さえている人や、足を押さえている人、壁の前には、身体をぶつけてしまったのか、

 苦しそうに唸り声を上げている人などが倒れていた。

「みんな不幸な目に遭ったの?」

「こんな事になるのは、パンドラの箱のせいだ」

 箱が開けられた事によって、人々が不幸な目に遭ってしまったのだ。

「だけど勇気クン、どうしてこの城の兵達が怪我をしてるんダ?」

「多分、邪鬼が箱を奪って開けたんだ」

 早くしないと、邪鬼は刀で罅を作って逃げてしまうだろう。

「邪鬼、どこにいるんだ!」

「いるなら、姿を現しなさい」




~次回予告~

パンドラの箱を探すため、勇気達はサラを追っていった。
恐らく、邪鬼もいるはずなので、一石二鳥だと勇気は睨む。
だが、事態は勇気達の予想以上に悪化していた。
果たして、勇気は邪鬼からパンドラの箱を取り戻し、彼を止める事ができるだろうか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。