怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

パンドラの箱を探すべく、勇気達は城を調査していた。
城の中は不幸な目に遭った者達がたくさんいて、予想以上に事態が悪化していた。
しかも、村がパンドラの箱の力で不幸になろうとしていた。
サラが行方不明になっている、すなわち、それを使おうとしているのは……。


6 - 王と王女

「う、ううう……」

 倒れた木々によって土埃が舞う中、勇気達は道の外へと這い出した。

 何とか木々を避け、怪我をせずに済んだのだ。

「プ、プーカ……それに、ディアーナとジャネットは……」

 勇気は必死に目を凝らしながら、辺りを見回す。

「オ、オイラは、ここだゾ……」

「装備が役に立ちました……」

「……」

 土埃の中から、小さな手が伸びる。

 ボロボロになったプーカと、無傷のディアーナ、そして鎧が汚れたジャネットだ。

「プーカ! ディアーナ! ジャネット!」

「上手く逃げたつもりだったけど……枝が身体に当たっテ」

 プーカは苦しそうに悶える。

「プーカ!」

「あたしは平気よ」

「私もです」

 勇気は慌ててプーカを包み込むように持った。

 ディアーナとジャネットはゆっくりと立ち上がる。

 そんな彼らの前に、誰かが立った。

 

「あなた達まで、邪魔をするのですのね?」

 風が吹き、土埃が舞い散る。

 勇気達の目の前に立っていたのは、サラだ。

「サラさん、どうしてここに? 邪鬼は」

「邪鬼? あの少年がどこにいるのかなんて、わたくし、知りませんわ」

 サラはそう言って、冷たい笑みを見せる。

 その手には、黄金色に輝くパンドラの箱があった。

 パンドラの箱のフタは開いている。

「どうしてあなたがそれを?」

「決まっているでしょ。わたくしが、お父様からこれを奪ったからですわ」

「なんという事を……」

 悲しむジャネットをよそに、サラは城の方を眺めた。

「お父様はお母様の事を馬鹿にした。お母様はいつもみんなの事を思う素晴らしい人だったのに」

 サラは、死んだ母親を馬鹿にした父親を許せなく思ったようだ。

「だから、わたくし、パンドラの箱を奪ったのですわ。

 周りの国々と戦うなんて、お母様もきっと反対すると思ったから。だけど……」

 サラはパンドラの箱の中をじっと見つめた。

「この箱が、心の中で囁きますの。フタを開けて、みんなを不幸にしろと」

 サラは、にやりと笑った。

 それを見て、プーカが口を開いた。

「勇気クン、サラ姫は……パンドラの箱の力に支配されてるみたいだゾ」

「あの時と同じね」

 フタの開いたパンドラの箱の中から、黒い煙が出ている。

 その影響のようだ。

「早く、箱を閉めなきゃ」

 勇気は、ロープを使って、箱を閉じようと思った。

 だが、自分の手を見てハッとした。

「ロープがない!」

「仕方ないわね」

 牢に捕らえられた時、ロープを取られてしまったのだ。

 勇気とディアーナは、サラの方へと走ると、箱を奪おうとした。

「邪魔はさせないですわ!」

 サラは、パンドラの箱を突き出す。

 瞬間、勇気とディアーナは勢いよくつまずき、地面に倒れた。

「うわっ!」

「きゃ!」

「勇気クン!」

「ディアーナ!」

 パンドラの箱の力によって、不幸な目に遭ってしまったのだ。

「パンドラの箱は誰にも奪わせませんわ。

 今から、村の人達に不幸になってもらわないといけませんもの。フフフ、フフフフ」

 パンドラの箱から漏れる黒い煙に、サラは包まれていく。

「これはヤバいゾ」

「サラ、やめなさい」

 二人はサラのもとに近づこうとするが、足が痛く、上手く動けない。

「さあ、そこで村の人達が不幸な目に遭うのを見ているがいいですわ」

やめるんだ!

 突然、勇気達の背後から声がした。

 サラがその声の主を見る。

 そこに立っていたのは、王だ。

 王は、斬られた腕を押さえながら、苦しそうに荒く息をしている。

「お父様……」

「サラ、みんなを傷つけてはならん。その箱は手にしてはいけなかったのだ」

 王は、フラフラと歩きながら、ゆっくりとサラに近づく。

「私はあの少年の言葉を信じ、箱を手にしてしまった。

 それから何故か、人々の事を不幸にしたいと思うようになってしまったのだ」

 王は、苦しそうに歩きながらも、サラの傍に近づく。

「私は、お前の母の事を素晴らしい女王だったと思っている。

 それなのに、その箱のせいで、酷い事を言ってしまった。すまない……」

 そう言って、サラの前までやって来ると、優しく抱きしめようとした。

 だが、サラがその手を振り払った。

「お父様なんて信じられませんわ!」

「サラ」

「お父様は、わたくしの事もお母様の事も、愛していないんでしょ。

 そんなお父様なんて、この世からいなくなればいいんですわ!」

 するとそれを聞き、ジャネットが声を上げた。

 

いい加減にしなさい!

「ジャネット……」

 ジャネットは、サラをじっと見つめた。

「王は嘘をついていません。あなたの事を、そして母の事も、本当に大切だと思っています。

 あなたも父を愛していますよね」

「そ、それは……」

 サラは動揺しながら、王を見る。

「サラ、人を傷つけてはならん。お前は妻に似て、私の自慢の優しい子なのだ」

 王はサラを力いっぱい抱きしめた。

「わ、わたくし、わたくし……」

 サラを包んでいた黒い煙が四散していく。

「お父様!」

 サラは、パンドラの箱を地面に落とすと、泣きながら王に抱きついた。

「やった、サラさんが元に戻った!」

 勇気は、パンドラの箱を拾おうとした。

 その時、周りの木々が大きく揺れた。

「まさか!」

 三人はハッとすると、顔を上げる。

 森に、大きな竜巻が発生していた。

「これは、人為的なものですね……」

 竜巻は、木々をなぎ倒しながら、猛スピードでこちらに向かってきた。

 パンドラの箱の力によって、サラ達も不幸な目に遭いそうになっていたのだ。

「「危ない!」」

 勇気とディアーナは足の痛みに耐えながら、二人のもとへ駆け寄る。

 そのまま、彼らを連れて岩陰に飛び込んだ。

―ゴオオオォォ

 竜巻が、勇気達の上を通り過ぎて行く。

「あ、危なかった……」

 土埃が舞う中、勇気達は岩陰から顔を出すと、倒れている木々を見て冷や汗を掻いた。

 王とサラも無事なようだ。

「二人とも、ナイスだゾ!」

「よく頑張りました、ディアーナ」

 プーカが笑顔で勇気に抱きつき、ジャネットはディアーナの手を繋ぐ。

「パンドラの箱は?」

 勇気は、先程までサラ達のいた地面を見る。

 しかし、箱はどこにもなかった。

「まさか、竜巻と一緒に飛んでいったんじゃ?」

 勇気がそう言うと、プーカが「違うと思うヨ」と言った。

「多分消滅したんだヨ」

 サラを包んでいた黒い煙は四散していた。

 その後、箱も黒い煙になって消えたのだろう。

「そっか、じゃあ僕達は助かったんだ」

 勇気は箱がなくなった事に、ホッと胸を撫で下ろすのだった。

 

 翌日。

 サラは王と共に、村で人々と祭りを楽しんでいた。

 パンドラの箱の事は、サラ達は覚えていない。

 サラと王のもとには、人々が集まり、皆、楽しそうに笑っていた。

 その光景を、勇気、プーカ、ディアーナ、ジャネットは少し離れたところから見ていた。

「サラも、王と仲良くなれてよかったわ」

「ああ、王様もとてもいい人みたいだもんね」

「パンドラの箱に残ったのは……」

「『アレ』よね?」

「ええ」

 全ては、パンドラの箱のせいだったのだ。

「みんな騒動の事を覚えていないって事は、やっぱりパンドラの箱はあの時消滅したんだろうね」

「だけど、邪鬼はどこに消えたんダ?」

 封印の間で会った時以降、邪鬼には一度も会わなかった。

「箱を奪えなかったから、この時代からさっさと逃げたのかナ?」

「また、捜さないといけないって事か」

 邪鬼を捕まえない限り、羽心を取り返す事はできない。

 勇気は、苦々しい表情を浮かべながら、グローブを嵌めた拳を強く握りしめた。

 

「捜す必要はないよ」

 一人の人物が、勇気達の前にやって来た。

 黒い着物を着て、刀を差していて、左手にナイフの傷、身体にレイピアの傷、

 片目に包帯をした少年……。

 

「「「邪鬼!」」」

 邪鬼は、勇気達をじっと見つめた。

「勇気君、それに聖女に勇者じゃないか。君達は本当に勇気があるね。

 だけど、僕は目的の物を手に入れたよ」

 邪鬼はそう言うと、黄金色に輝く箱を見せた。

「パンドラの箱! どうしてそれを!」

「王女の後をずっとつけてたんだよ。竜巻が襲った時、上手く奪う事ができてよかったよ」

「奪うって、怪の力はなくなったはずじゃ?」

「僕が箱のフタを閉じたんだ。だから、元に戻ったんだよ」

 邪鬼は、フタが閉じられた箱を見て、不気味な笑みを見せた。

「王から奪うチャンスがなかなかなくてね。

 ようやく奪えそうだと思ったら、今度は王女が奪ってしまった。

 だけど、無事手に入れる事ができてよかったよ。

 この箱は、白鳥羽心と同じくらい、僕にとって重要なものだからね」

「何ですって?」

 ディアーナは思わず剣を抜こうとするが、ジャネットが制止する。

「これ以上攻撃したら、決意に飲まれ、堕ちます。今は抑えてください」

「くぅ……」

 悔しがるディアーナをよそに、邪鬼は話を続ける。

「僕の望みを叶えるためには、彼女とパンドラの箱が絶対に必要だったのさ」

 邪鬼は片手で刀を抜くと、空間を斬った。

 空間に×印状の罅ができる。

「勇気君、聖女、勇者、僕を止めたいのなら、追って来るがいい」

 邪鬼はにやりと笑うと、パンドラの箱を持って、罅の中に飛び込む。

「邪鬼!」

 勇気達は、罅を見る。

「追って来るがいいって、罅の中に飛び込めって事?」

「そんなの絶対罠だゾ」

「それは……」

 邪鬼が何をしようとしているのか分からない。

 だが、ここで逃がすわけにはいかない。

「プーカ、行こう!」

「で、でモ」

「どんな罠があろうが、僕は絶対に羽心を取り返す!」

「あたしはジャネットの期待に答えたいもの、何が何でも行くわ!」

「それに、彼らもそろそろ、海に着いているところでしょう」

 勇気、ディアーナ、ジャネットは意を決し、罅の中に飛び込んだ。

 

「あ~、もウ~!」

 プーカも真剣な表情になると、勇気達の後を追って、罅の中へ突入した。




~次回予告~

ジャネットの「羽心救出作戦」を実行に移すアプリルチームと麗羅チーム。
戦闘能力も結束力も高い彼らなら、謎の大陸「海」に楽に潜入できると思われた。
だが、行こうとする道は、かなり険しかった。
果たして、二つのチームは作戦に成功するだろうか。
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