羽心をさらった邪鬼を追うべく、勇気達は邪鬼が作った×印状の罅の中に飛び込む。
時のトンネルと似たようなものだが、やはりそれは邪悪な場所だった。
四人は罅の中を通り、邪鬼を捕獲するべく謎の大陸に辿り着く。
神殿に潜入しようとした勇気だったが、うっかり足を踏み外してしまった。
「ぬあああ!」
勇気は歯を食いしばり、腹に力を入れると、身体を前に動かした。
そのまま、前のめりになると、頂上の地面に手足をつけた。
「危なかった~」
何とか転落せずに済み、勇気はホッとする。
「なんだ」
「ひいい、許してくれ」
戸惑いながらも、勇気は男性の方を見た。
男性は尻餅をつき、完全に怯え切っていた。
彼の後ろには、四人の大人達がいた。
皆、揃いの紺色の作業ジャンパーを着て、頭には安全用のヘルメットを被っている。
彼らも眼鏡の男性と同じように、勇気を見て怯えていた。
「あの、あなた達は?」
「頼む! 離してくれ!」
「だからあの」
「もう神殿には入らない。調査もやめる。だから襲わないでくれ!」
眼鏡の男性は必死に叫び続ける。
すると、後ろにいた金髪の女性が、怯えながら眼鏡の男性に話しかけた。
「ね、ねえ、さっきの子とは違うみたいよ」
「えっ?」
男性は土埃だらけになっていた眼鏡のレンズを布で拭き、勇気を見つめた。
「ほんとだ、さっきの男の子とは違う子だ」
「男の子!?」
勇気は眼鏡の男の人に詰め寄った。
「それって、片目に包帯をしてて黒い着物を着てませんでしたか?」
「あ、ああ、僕達はその子に、刀で斬られそうになったんだ」
「えええ!?」
勇気は、彼らから話を聞いた。
彼らは調査隊のメンバーで、浮上した謎の大陸を調査していたという。
しかし、このピラミッド状の建築物の頂上にある神殿の中を調べている時、事件が起きた。
「僕達は、調査チームの隊長であるフォード博士と一緒に、神殿の中を歩いていたんだ。
そうしたら、女の子がいたんだよ」
「女の子?」
「君ぐらいの年齢で、背が高くてロングヘアーの子だ」
「羽心だ! 彼女は今どこにいるんですか?」
勇気が尋ねると、男の人達は沈痛な表情になった。
「連れて行かれたよ。着物の男の子に」
調査隊のメンバーは、神殿の中に女の子がいて驚いたのだという。
だが、いくら声をかけても、ボーッと立っているだけで、まるで反応がなかった。
フォード博士はそんな羽心を心配し、調査を中断して神殿の外に連れて行こうとしたらしい。
しかしその時、邪鬼が現れたのだ。
「彼は黄金色の箱を持っていたよ。そして『その子を返せ』と言ったんだ」
邪鬼は刀を抜き、調査隊に襲いかかってきた。
彼らは必死になって逃げ、命からがら神殿の外に脱出したのだという。
「それで、羽心、ええっと、女の子は?」
「男の子に、神殿の奥に連れて行かれたよ」
調査隊の面々は、邪鬼の事を思い出して震える。
「羽心……」
邪鬼は、羽心とパンドラの箱を使って、何をするつもりなのだろうか?
目的は分からないが、早く止めないと大変な事になってしまうだろう。
そんな中、金髪の女性が口を開いた。
「あなた達は何者なの? あなた達だけじゃない、あの男の子や女の子は一体誰なの?」
つい最近浮上した大陸に、子供が何人もいるのだ。
彼らは完全に戸惑っていた。
「僕は、ええっと、説明するのは難しいけど……」
勇気は焦りながらも、彼らを見た。
「とにかく、あなた達はすぐに階段を下りて、避難して下さい」
勇気はそう言うと、神殿の入り口を見た。
「まさか、中に入ろうっていうの?」
「それは危険だ。僕達と一緒にいるんだ」
調査隊の面々は、勇気を止めようとする。
だが、勇気は首を横に大きく振った。
「僕は、仲間を助けるためにここに来たんです。
どんな怖ろしい事が起きても、どんな危険な事が起きても、僕は絶対に羽心を助ける!」
勇気の言葉に、調査隊の面々は何も言えなくなる。
勇気は「早く安全な場所に逃げて下さい!」と言うと、神殿の中に入って行った。
「何か分かりましたか?」
ディアーナとジャネットと合流した勇気は、二人に情報を話した。
邪鬼が神殿の中に羽心を連れて行った事、邪鬼がパンドラの箱を持っていった事、
邪鬼が調査隊に斬りかかった事……。
勇気から情報を聞いた二人は、うん、と頷いた。
「分かりました。海に何か潜んでいるというわけですね?」
「だから、海って何?」
「海は海よ」
どこまでも海と言い続ける二人を、勇気は理解できなかった。
もっとも、これはディアーナとジャネットの隠語なのだが、それを話しては意味がないため、
二人はこれ以上何も話さなかった。
神殿の中は、外と同じように壁も床も真っ白な石でできていた。
壁には松明が取り付けられていて、明るくなっていた。
勇気はプーカ、ディアーナ、ジャネットと共に、神殿の通路を進んで行った。
「松明は、邪鬼がつけたのかナ?」
プーカは周りを見ながら言う。
調査隊の話によると、邪鬼は神殿の奥へと向かったらしい。
「奥と言っても、そこまで広くないですよね」
ピラミッド状の建築物自体は巨大で高さもある。
しかし、神殿そのものは体育館ぐらいの大きさだ。
「建物としては大きいけど、すぐに奥まで行けるはずだ」
神殿の中にはいくつか部屋があり、勇気達はそれらの部屋の中を確認していった。
だが、部屋の中には誰もおらず、物も置いていなかった。
「次が最後の部屋だ」
勇気達は、神殿の一番奥までやって来た。
「邪鬼がいるとしたら、あの部屋だよネ?」
プーカの呟くような声に、勇気は小さく頷く。
勇気は全身に力を入れると、ゆっくりと部屋の中を覗き込んだ。
「あら?」
すると部屋の中に、背の高い男性がいた。
男性は、一心不乱に壁を触っている。
邪鬼ではない。
「すみません」
ディアーナは男性に声をかけた。
「すみませんじゃない。君達も早く調べて」
「えっ?」
「えっじゃない。君達の仕事は調査だろう」
男性は、ディアーナの方に顔を向ける事なく、壁を調べ続ける。
「あたしは調査隊じゃなくて……」
ディアーナがそう言うと、男性はピタリと手を止め、顔を向けた。
「ぬおっ、君は誰だ?」
「あたしは、この子の仲間の女の子を助けに来て」
「女の子? あの着物の男の子に連れ去られた子の友達かい?」
男性は、勇気達の傍まで来ると、ジロジロと見つめた。
「この大陸にどうやって来たんだ? 船でも使ったのか?」
(
男性は、勇気のポケットの中にいるプーカと目が合った。
「ヤバいゾ!」
「おお、これは!」
男性はプーカを摘み上げた。
「わああ、離セ!」
「ちょっと、やめて下さい!」
「これは、妖精だな!」
「えっと、あの、ええっと、それは人形です」
勇気は必死に誤魔化すが、男性は首を横に振った。
「こんな人形はあるわけがない。この子は立派な生き物だ」
「いや、だから」
「まさか、本物の妖精に会える日が来るなんて」
男性は、満面の笑みを浮かべると、プーカに頬ずりをした。
「うわあ、やめテ」
プーカは慌てて、男性の手から抜け出すと、勇気にしがみついた。
「おお、すまない。だけど子供の頃から会いたかったものに会えて、つい、嬉しくてね」
「子供の頃から?」
「ああ、子供の頃から未知なるものに興味があったんだよ」
「あたしにとっては未知じゃないけどねぇ」
男性は、神殿の外にいた人達と同じように、紺色のジャンパーを着てヘルメットを被っている。
彼はディアーナの姿を見ると、興味深く彼女の顔を見る。
「お、君も耳が長いじゃないか。妖精か?」
「まあね。で、あなたも調査隊の人?」
「ああ、私は考古学者のフォードだ」
「それって」
外にいた人が言っていた、調査チームのリーダーだ。
~次回予告~
謎の大陸は、海に沈んだと思われた「海」だった。
どうやら、邪鬼は神殿に行って、パンドラの箱を使おうとしているらしい。
羽心は間違いなく、神殿の奥にいる……そう思った勇気達は、急いで邪鬼を追う事にした。
そんな彼らに協力してくれるのは、調査隊の男だった。