アトランティス大陸で出会ったフォード博士と共に、勇気達は邪鬼と羽心を追いかけようとする。
恐らく、邪鬼と羽心は隠し扉の中に逃げ込んだはずだ。
当の調査隊員は邪鬼に襲われて調査をやめたので、勇気達が代わりに行く事になった。
特殊能力を持つ勇気は邪鬼と羽心を追うために隠し扉を開け、地下に行くのだった。
「一体どこまで下りるんだ?」
勇気達は、隠し扉の階段を下りていた。
階段は、大きな穴のような空間の壁に取り付けられていて、螺旋状になっていた。
壁はむき出しの岩でゴツゴツとしている。
階段には手すりなどはなく、幅が狭く表面に砂も舞っていて滑りやすくなっていた。
神殿とは違い、地下へと続くこの空間には、松明の光もなく、真っ暗だ。
先頭を歩くフォード博士が持っているライトの光と、ディアーナの暗視能力だけが頼りだった。
勇気とジャネットはフォード博士の後ろを歩きながら、
足を滑らせないように、慎重に階段を下りていた。
しかし、いつまで経っても、底には到着しなかった。
ライトで下を照らしても、どこまでも階段が続いているだけで、底は全く見えなかったのだ。
「ねえ、プーカ、下がどうなってるか飛んで確認してきてよ」
「オイラが? 何言ってんだヨ。こんな真っ暗なところ、一人で行けるわけないだロ」
プーカは勇気の肩の上でブルブルと震える。
「だいたい、ほんとに底なんてあるノ?」
「それは……」
「あるわけあるじゃない」
神殿は、ピラミッド状の建築物の上にあった。
穴は、その建築物の中に作られているのだろう。
「かなり歩いたよね? いくらなんでも、もう地上には着いてると思うんだけど」
すると、フォード博士が言った。
「これは、エジプトにあるピラミッドと同じ構造なのかもしれないな」
「道理でそうだと思ったわ」
「このアトランティス大陸にある文明は、エジプトの古代文明よりも古い。
恐らく、エジプトの古代文明は、この文明を真似て作られたんだろう。
エジプトのギザのピラミッドなどには、地下にも部屋があるんだよ」
「ん? じゃあ、あたし達は地下を進んでるって事?」
ディアーナの言葉に、フォード博士は大きく頷いた。
「はっきりとした事は分かっていないが、
ピラミッドでは、その地下にある部屋の方が重要だと言われている」
「じゃあ、この下にある場所こそが、邪鬼の目的なのね……」
「急ごう!」
「分かったわ!」
勇気、ディアーナ、ジャネットは、落ちないように下りるスピードを速めた。
だがその時、螺旋状になった階段の反対側で、何かが動いた。
真っ暗なのでほとんど見えないが、人の影のようだ。
その影が、勇気達の方へと大きくジャンプした。
「えっ」
勇気は、反射的に一歩階段を上に戻った。
ディアーナとジャネットは、身構えている。
―ドンッ
次の、目の前の壁に何かが当たった。
暗闇の中に、牙の生えた獣の顔が僅かに見える。
「こいつ……」
顔は獣だが、人のように二本足で立っていたのだ。
前にいたフォード博士が慌ててその生き物にライトを当てた。
「そいつは『狼男』だ!」
「同胞っ! ここで同胞をぶつけるとは!」
狼男は、月を見ると狼の化け物に変身する怪だ。
アプリルの同胞であるこの怪を、ディアーナとジャネットは傷つけられなかった。
―ガルルルッ
狼男は、牙を剥き出しにして吠えながら、鋭い爪を振り上げ、勇気に襲いかかってきた。
「わっ!」
「傷つけないで!」
ディアーナは、光の精霊を召喚して一瞬だけ光を放った。
狭い場所で剣を振る事はできないので、魔法を使ったのだ。
狼男は怯んでその場から大きくジャンプすると、暗闇の中に消えた。
「君が言った通り、本当に怪はいるんだな」
「闇属性が多いのは仕方ない事よ」
「だけど、狼男がどうしてこんなところに?」
勇気がそう言うと、暗闇の中から、唸るような声が聞こえてきた。
「オ前ヲ、倒ス。神ヲ、守ル」
狼男だ。
「神って?」
「確か、ゾンビも言ってたよネ?」
以前、怪狩りで倒したゾンビも、消える前に同じような事を言っていた。
「神というのは、邪鬼の事か」
勇気がそう思った瞬間、上の方の壁で、何かが動いた。
―シュ
動いた物体が、勇気の腕を掠める。
「うわっ」
勇気は腕に引っかかれたような痛みを感じた。
壁にへばりついていた狼男が、勇気の元へ飛んできたのだ。
狼男は、再びその場からジャンプをすると、暗闇の中に消えた。
「大丈夫?」
「あ、ああ、ちょっと掠っただけだ」
「勇気、狼は夜行性。暗置の中でもあたし達の姿がはっきりと見えてるはずよ」
「そんな」
暗く、狭い上に滑る階段の上では、格好の餌食だ。
「ここではまともに戦えないわね。ま、あたしも傷つけられないけど」
「は、はい!」
勇気達は、落ちないように気を付けながら、階段を駆け下りた。
―ガルルルッ
背後で、狼男の鳴き声が響く。
シュ、シュという空気を切る音も聞こえる。
「ヤバいゾ。壁から壁に飛びながら追って来てるみたいダ!」
プーカが勇気の肩にしがみつきながら言う。
勇気は焦りながら、必死に走り続けた。
ディアーナとジャネットは、こんな時でも落ち着きを忘れない。
「どうして、二人とも落ち着いてるの?」
「あたしにとっては」
「当たり前だからです」
―シュ
「がっ!」
突然、前を走るフォード博士が声を上げた。
「「フォード博士!」」
「だ、大丈夫だ」
フォード博士は、腕の辺りを押さえている。
どうやら、狼男に噛みつかれてしまったようだ。
狼男は、既にジャンプをして、暗闇の中に消えてしまっている。
「このままじゃ、下に着く前にやられちゃうゾ」
「何とかして狼男の動きを止めないと」
「だけど、どうやって止めるんダ?」
「魔法……使う?」
その時、ふと、勇気は階段を見た。
「そうだ!」
勇気はフォード博士の方に顔を向けた。
「フォード博士! 狼男は、この暗闇でも僕達の姿がはっきり見えてるんですよね?」
「あ、ああ、狼と同じならきっとそうだ」
「だったら、これだ!」
勇気はその場にしゃがみ込むと、何かを掴む。
そして立ち上がり、大声で叫んだ。
「狼男! 僕を襲えるものなら襲ってみろ!」
「ちょっと、何するのよ!」
「普通の人間が立ち向かうのは自殺行為ですよ!」
ディアーナとジャネットは勇気を止めようとするが、勇気は「大丈夫」と言った。
瞬間、上空で、影が動いた。
狼男が、壁から壁へと飛び移り、勇気に襲いかかろうとしているのだ。
―ガルルルッ
やがて、影が近づく。
次の瞬間、狼男は鋭い爪を振り上げ、勇気に襲いかかった。
「今だ!」
勇気は、悩む事なくタイミングを見計らい、掴んでいた物を狼男の顔目掛けて投げた。
それは、砂だ。
―ギャアアア!
狼男の両目に、大量の砂が入る。
狼男は、悲鳴を上げ、手で目を拭う。
しかし、砂は全く取れない。
―ガアアア
狼男は、逃げるようにその場からジャンプすると、暗闇の中に消えた。
「やった、上手く行った」
「……」
狼男は、暗闇でもはっきりと見える目を持っていた。
勇気は、その目を砂で見えないようにしたのだ。
「勇気クン、ナイスアイデアだゾ!」
「フォード博士、これで時間稼ぎはできるはずです!」
「あ、ああ、下まで走るぞ!」
フォード博士は、腕を押さえながら走る。
勇気もその後に続き、ディアーナとジャネットは絶句しながらも後を追った。
(ですが、彼と同胞ならば、こいつも同じはず。アプリル達よ、間に合ってください!)
~次回予告~
神殿を探索している勇気達は、ボロボロの柱を発見する。
それは、エジプトにもあった「オベリスク」だった。
しかし、オベリスクを調査しようとすると、またもや人狼が勇気達に襲い掛かる。
勇気達が人狼に倒されようとした時、現れたのは……。