怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

麗羅、つるぎ、揚羽、カリオストロは、ついに羽心救出に成功する。
だが、パンドラの箱は既に邪鬼の手に渡っていて、三つのグローブも使われそうになる。
それを阻止するべく、ディアーナは剣を抜き、邪鬼を殺そうとする。
止めようとした勇気を邪鬼が殺そうとした瞬間、
ディアーナが勇気を庇い、奇跡のペンダントの力を使う。
そして、奇跡のペンダントはその力を使い、砕け散った。


7 - 父の書斎

「ええっと、僕は、何をしてたんだっけ?」

 勇気は、雲のようなフワフワとした地面の上に立っていた。

 空も真っ白で、遮るものは何もなく、どこまでも白い空間が広がっている。

 自分がいつからここにいるのか、どうしているのか、全く思い出せない。

「だけど、何だかここは居心地がいいなあ」

 ずっとボォーッとしていたい。

 ここにいれば、嫌な事も辛い事も全部忘れられそうな気がする。

 勇気は、ゆっくりと休みたいと思い、その場に座ろうとした。

 

―勇気。

 

 遠くでかすかに声がした。

 勇気は、座るのをやめて、周りを見る。

 だが、誰の姿もなかった。

「空耳だったのかな?」

 勇気は、腰を下ろそうとした。

 

―勇気。

 

 また、声が聞こえた。

 どこかで聞いた事がある。

 懐かしい声だ。

 

「まさか、この声は――!」

 勇気は、反射的に起き上がった。

 ベッドの上にいる。

 周りを見ると、自分の部屋の中だ。

 先程まで、ピラミッド状の建築物の地下にある部屋にいたはずだ。

「それなのに、どうして?」

 どうやらベッドで眠っていたらしい。

 勇気は、意味が分からず、混乱してしまった。

(僕は、ディアーナを守ろうとして、邪鬼に斬られそうになって、確かペンダントが光って……)

 勇気はベッドから出ると、その事を思い出そうとした。

 奇跡のペンダントは、ディアーナに握られて粉々に砕け散りながら光り輝いた。

(あのペンダントのおかげで、僕は助かったの……?)

 勇気はそう思いながら、ハッとした。

「そうだ、プーカ、ディアーナ、ジャネットは?」

 辺りを見回すが、プーカ、ディアーナ、ジャネットがいない。

「グローブは!?」

 勇気は、自分の手を見た。

 だが、太陽のグローブも月のグローブもない。

 ポケットを探るが、星のグローブもなくなっていた。

「そんな!」

 勇気は、慌てて部屋を飛び出した。

(どうしてプーカ、ディアーナ、ジャネットがいないの? グローブはどこに行ったの?)

 階段を下りながら、勇気はますます頭が混乱する。

(僕は、何度も怪狩りをしていて、だけど、邪鬼が羽心を連れ去ってしまって)

 もしかして、全て夢だったのだろうか?

 その時、勇気は「あっ」と声を上げた。

「そうだ、アトランティス大陸がある!」

 アトランティス大陸が大西洋に浮上した事は、大きなニュースになっていたはずだ。

「お母さん、アトランティス大陸はどうなったの?」

 勇気は、リビングに駆け込むと、仕事に出ようとしていた母親に尋ねた。

 しかし、母親はキョトンとしている。

「勇気、朝から何を言ってるの?」

「海に謎の大陸が浮上したってテレビのニュースで言ってたでしょ」

「大陸? そんなの、お母さん聞いた事ないわよ」

「えっ?」

 勇気は、慌ててテレビを付けた。

 アトランティス大陸の事は、ニュースだけではなく、

 ワイドショーでも毎日特集が組まれるほど、大きな話題になっていた。

 だが、どの番組を見ても、アトランティス大陸の事は言っていなかった。

「そんなはずない!」

 勇気は、リビングに置かれていたタブレット型のパソコンを操作して、

 ニュースサイトを確認する。

 しかし、どれだけ遡っても、アトランティス大陸の記事は載っていなかった。

「そうだ、フォード博士は?」

 勇気はフォード博士の名前を検索した。

 すると、外国の大学で、教授をしているという記事が出てきた。

「フォード博士は、アトランティス大陸を探索してないって事?」

 どこを探しても、そのような内容は書かれていないようだ。

「勇気、さっきからどうしたの? 変な夢でも見たの?」

「え、あ、ええっと」

「いいから、ちゃんと朝食を食べるのよ」

 母親は呆れながらも、仕事に出かけてしまった。

 

「全部、夢だったの……?」

 勇気は呆然となりながら、朝食の置かれたテーブルの椅子に座った。

「そっか、やっぱり現実なんかじゃないよね」

 怪狩りなど、本当にあるわけがない。

「僕はただの小学生だもん……」

 勇気は戸惑いながらも、心を落ち着かせようと、パンを食べようとした。

―ピンポーン

 不意に、玄関のチャイムが鳴った。

「こんな時間に誰だろう?」

 母親が忘れ物でもしたのだろうか?

 勇気は、パンを置くと、玄関へ向かい、ドアを開けた。

 

「おはよう、勇気」

 外に立っていたのは、羽心だ。

「お、おはよう」

「朝食はもう食べた? 私はさっき食べたわよ」

「え、あ、そうなんだ」

 羽心は、「お邪魔します」と言うと勝手に家に入り、今日は晴天である事を話した。

(いつも通りの羽心だ……)

 勇気は、やはり今まで経験した事は全部夢だったのだと思った。

「ええっと、それで用事は?」

 勇気が尋ねると、羽心は立ち止まり、顔を向けた。

「用事? そんなの決まってるじゃない。……この町を救うんでしょ」

「えっ?」

「も~、朝から寝ぼけてるの? アトランティス大陸に行った事も忘れちゃったの?」

「それって!」

 勇気が驚きの声を上げると、羽心の肩から声がした。

 

「勇気クン、驚いてる場合じゃないだロ」

「あたし達も帰って来たわ!」

 羽心の肩に、羽を生やした小さな男の子がいる。

 さらに、彼女の後ろに、二人の少女がいる。

「プーカ! ディアーナ! ジャネット!」

 勇気は羽心に駆け寄ると、プーカに頬ずりした。

「嬉しいけど、ちょっと痛いゾ」

「ごめん。だけどプーカ、また会えて凄く嬉しいよ!」

「あたしだって、あなたとまた会えたら嬉しいわよ」

「とにかく、皆さん、無事でよかったです」

 ディアーナとジャネットが無傷のために微笑む。

 勇気は、笑顔で羽心の方に顔を向けた。

「三人とも、無事でよかった! 僕達、助かったんだね!」

 アトランティス大陸での出来事は、夢ではない。

 だが、勇気は首を捻った。

「だけど、一体どうやって見捨里市に帰ってきたの?」

「それは、私もよく分からないけど」

 羽心の話によると、気づくと自分の家のベッドの上に戻っていたらしい。

「オイラも、羽心チャンの傍にいたんダ」

「多分、勇者の力だと思うけど」

「私達は選ばれた人ですしね」

 羽心、プーカ、ディアーナ、ジャネットも勇気と同じように、

 アトランティス大陸での出来事を覚えていたが、

 他の人達は大陸があった事すら覚えていないらしい。

「つまり、僕達だけが覚えてるって事?」

「そりゃ、あたし達以外は知らざる者(アンノウンマン)だもの」

「そうだ、邪鬼はどうなったの?」

 勇気は、その事が気がかりだった。

 すると、羽心は険しい顔になった。

「多分、逃げたと思うわ」

 羽心は、ペンダントが砕け散った瞬間、邪鬼がパンドラの箱を持って、

 刀で×印状の罅を作って逃げるのを見たのだという。

「邪鬼は、きっとまた何かをしてくるはずよ」

「そうですね……パンドラの箱は彼の手の中ですし……」

 だからこそ、羽心は「この町を救うんでしょ」と勇気に言ったのだ。

「勇気クン、これヲ」

「それは……」

 プーカは、ポーチからある物を取り出した。

 太陽と月と星のグローブだ。

「あの時、とっさに取り返したんダ」

 プーカは光の中で、あらかじめグローブを取っていたのだ。

「流石、プーカね」

「オイラ、妖精族の王子だからネ」

 羽心は、星のグローブを手に取ると、勇気を見た。

「勇気、戦いはまだ終わってないわよ」

「あ、ああ」

 勇気は、太陽と月のグローブを手に取る。

「だけど、邪鬼はまた、羽心と三つのグローブを奪いに来るはずだよね?」

 奇跡のペンダントは、もうない。

 勇気は、邪鬼が襲いかかってきても、それを防げる自信がなかった。

(そりゃ、勇気も羽心も特別な力は持ってるけど、そもそも怪とまともにやり合えないもの)

(だから私が勇者(あなた)を召喚したのです)

 ディアーナとジャネットは何としてでも勇気を守ろうと思った。

 その時……。

 

「君達なら、きっとやれる」

 どこからか声がした。

 それは、先程見た夢の中で聞こえた、懐かしい声だ。

「まさか!」

 勇気は周りを見る。

 だが、羽心、プーカ、ディアーナ、ジャネットしかいない。

「どうしたの、勇気?」

「今の声、あの声は……」

 勇気は、リビングの扉を見た。

「そうだ……!」

 次の瞬間、勇気は扉を開け、廊下に出た。

「あの声は!」

 一番奥にある半分地下室になった短い階段の前に立つ。

 そこは、父親の書斎だ。

「きっとこの中に……」

 勇気はドアを開け、中に飛び込んだ。

 すると、部屋の窓際に、一人の少年が立っていた。

 赤髪に鋭い目をした少年。

 勇気は、少年の事を知っている。

 

「やっと、会えたね」

「キユウ!」

 勇気が一番会いたかった大切な人だ。

「キユウ! 夢じゃないよね?」

 勇気は慌てて頬をつねる。

「いたたた、夢じゃない!」

 勇気は笑顔でそう言いながらも、ふと、フォード博士が言った言葉を思い出した。

「キユウ、君は……」

「ああ、僕は、君の祖父、真之喜優だ」

 キユウは、優しく微笑むと、自分の身体を見た。

「どうやら、奇跡のペンダントのおかげで、僕はこの世界に戻って来る事ができたようだね」

 奇跡のペンダントは、持ち主に危機が迫った時、奇跡を起こして助けてくれる。

 それは、あの場から脱出するだけではなかったのだ。

「キユウ、ううん、ええっと、お、おじいちゃん」

「ははは、キユウのままでいいよ。それよりも」

 キユウは、真剣な表情で、勇気をじっと見つめた。

「今度こそ邪鬼を止めよう。僕、そして勇気、君にも、彼を止めなければならない理由がある」

「理由?」

邪鬼の本名は、真之力である

「僕の、お父さん……?」

 キユウの言葉に、勇気は呆然となるのだった。




~次回予告~

キユウと邪鬼の正体は、勇気の実の祖父と父だった。
ディアーナもジャネットことジャンヌ・ダルクに召喚された「ラーの勇者」であった。
全ての準備は整い、勇気は仲間の力を信じて邪鬼と戦う事に。
果たして、勇気に家族を討つ覚悟はあるのだろうか。
そして、父が何故邪悪に堕ちてしまったのか……全ての謎が、明かされようとしていた。
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