邪鬼の正体を知った勇気は混乱していた。
ディアーナはラーの勇者であり、邪鬼を倒すために召喚された存在だと知った。
しかし、キユウは冷静に、三つのグローブとラーの勇者の力で邪鬼を倒そうと言った。
勇気は理由が分からないままキユウ達と共に時のトンネルを潜り、邪鬼を追いかけた。
勇気達は、キユウと共に、次の時代にやって来た。
降り立ったのは、平安時代の町だ。
以前、鵺と戦った場所だ。
「……既に、邪鬼は移動した後のようだね」
キユウは周りを見ながら言うと、再び左手をかざし、呪文を唱えた。
時のトンネルが現れる。
「次の時代に行くよ」
「はい」
キユウとジャネットは、そのまま光の中に飛び込もうとする。
だがそんなキユウを、勇気が呼び止めた。
「キユウ、ちょっと待って!」
「ごめん、何してるの?」
勇気とディアーナは、キユウの傍に歩み寄った。
「ちゃんと説明して。何がどうなってるかさっぱり分からないよ」
「今は時間がないんだ。邪鬼を捜し出して倒さないと」
「だから、どうして邪鬼がお父さんなんだよ!」
「そうよ。もし本当なら、あんな事はしないと思うわ」
勇気は声を荒らげ、ディアーナは冷静に言う。
「勇気、ディアーナさん、どういう事?」
「意味が分かりません……」
羽心、プーカ、ジャネットは、勇気の言葉に戸惑う。
勇気とディアーナはそんな三人にキユウに言われた事を話した。
少年&上妖精説明中……
「そんな……」
勇気の父・力は、10年前、出張中に事故に遭って死んだと言われていた。
それが何故か、邪鬼になっていたのだ。
「まさか、キユウさんと同じ幽霊って事?」
事故に遭って死んで、幽霊になったのかもしれない。
だが、キユウは首を小さく横に振った。
「真之力は死亡していない」
「生きてたって事? だけど、どうして邪鬼になんか??」
「邪鬼は、力であって、力じゃないんだ」
キユウは悔しそうな表情で言う。
「意味が分からないゾ」
「う、うん」
羽心達はますます戸惑う。
「とにかく、次の時代へ行こう」
キユウは、勇気とディアーナの方を見る。
「力の事も、ちゃんと話すよ」
キユウはそう言うと、時のトンネルに飛び込んだ。
「「勇気……」」
羽心とジャネットは心配そうに勇気を見つめる。
勇気は、父親の事でずっと混乱しているようだ。
そんな彼の傍に、ディアーナがゆっくりと近づき、彼の頬を叩こうとしたが、
勇気は慌ててディアーナから離れる。
「これ以上、僕を叩かないで。もう……平気だから……」
そう言いながらも、勇気の表情には覇気がなかった。
「勇気、キユウさんはちゃんと話してくれるって言ったでしょ。だから、私達も移動しましょう」
邪鬼が何者であれ、早く見つけ出さなければならない。
「わ、分かったよ」
勇気は、羽心達と共に、キユウを追った。
時のトンネルを抜けて、やって来たのは、砂浜だった。
遠くに小さな村が見える。
勇気達は、この場所にも見覚えがある。
人魚のセイレがいた、中世のヨーロッパだ。
キユウは宙に浮かびながら、目を瞑り、意識を集中させていた。
そして、目を開けると、首を小さく横に振った。
「残念ながら、邪鬼は逃げた後のようだね」
ここにも、邪鬼は既にいないようだ。
キユウは、フゥーと小さく息を吐くと、勇気達の方を見た。
「君達は、邪鬼についてどう思っているかな?」
「どう思うって、そりゃあ悪い奴だと思うゾ」
「そうね。色んな時代に行って、怪達に人間を襲わせようとしてるんだもんね」
「私は分かりません」
「あたしも分からないけど……あのカードを渡したのは、何か理由があるからでしょ?」
「邪鬼は色んな時代に行ける。
僕達が時のトンネルを使うように、邪鬼も時のトンネルを利用しているんだ」
キユウは、その渦をじっと見つめた。
「時のトンネルを??」
勇気は、邪鬼が刀で空間を斬り、黒い罅を生み出すところを思い出した。
「もしかしてあの罅って」
罅は、見捨里市に繋がっている。
あの罅のせいで、町で何度も怪現象が起きていた。
「勇気、あの罅は、僕達が使っている時のトンネルと同じものなんだよ」
キユウは、傍にある岩の前に行くと、グローブを嵌めた左手をかざし、呪文を唱えた。
「
螺旋状に風が舞い、岩肌に光の渦が現れる。
キユウは、その渦をじっと見つめた。
「時のトンネルは、あらゆる時代のあらゆる場所に繋がっている。
そして邪鬼は、この時のトンネルの中で生まれたんだ」
「生まれた??」
「ああ。邪鬼は、人々の負の感情から生まれた『怪』なんだ」
「そんな!」
(あいつの正体は人間の心の闇だったのね。
ネッシーやツチノコの時に見た、人々の持っている欲望は、間違ってなかったわ)
勇気達は、その事実に驚く。
ディアーナとジャネットは、胸に手を当てていた。
「だけど、邪鬼は勇気のお父さんなのよね? どうして時のトンネルの中で生まれた怪なの??」
羽心は、理解できず戸惑う。
プーカも首を何度も捻り、意味が分かっていないようだ。
だがその時、勇気が「あっ」と声を漏らした。
「キユウは、邪鬼がお父さんであって、お父さんじゃないって言ってたよね?
それって、もしかして、お父さんは、怪である邪鬼に身体を乗っ取られているって事じゃ?」
「その通り」
キユウは、空を見つめた。
「全ては10年前、力がある遺跡を調査していた時に起きた悲劇が原因なんだ」
10年前。
考古学者である力は、エジプトで遺跡の調査をしていた。
その中で、力はある壺を見つけた。
壺には、太陽と月、そして星のマークが刻まれていたのだという。
力はその壺を掘り出して、詳しく調べようと思った。
だがその時、事件が起きた。
掘り出す際に、誤って壺の蓋が開いてしまったのだ。
すると、中から黒い煙が飛び出してきた。
そしてその煙は、傍にいた力にまとわりついた。
「それが邪鬼だったんだ。時のトンネルは、あらゆる時代に繋がっている。
どの時代にも、多くの人達が住んでいる。彼らは、皆が幸せというわけじゃない。
誰かに対して、恨み、妬み、嫉みといった負の感情を抱く人達もいる。
その負の感情が時のトンネルの中に溜まっていき、やがて『邪鬼』という怪を生み出したんだ」
「人々が生み出した、怪……」
「あたし達が感じた嫌な気は間違ってなかったのね」
勇気達は、そんな怪が存在する事に驚き、ディアーナは唇をぐっと噛み締めた。
「邪鬼は人間を憎み、人々を恐怖に陥れようと考えている。
だけど、単体では人間界に存在する事ができないんだ。だから、力の身体を利用した」
結果、邪鬼は、勇気達の知っている姿になり、人間界で活動できるようになった。
「そんな事があったのね。まさに、勇気のお父さんであってお父さんじゃないわね」
「くうう~、人の身体を利用するなんて、オイラ、ますます邪鬼に腹が立ってきたゾ」
「それでも、ラーの勇者として、あたしは邪鬼を止めなきゃいけないのよ」
「私が見初めましたからね」
羽心とプーカは、キユウの話を聞き、苛立ちを感じていた。
一方、勇気、ディアーナ、ジャネットは真剣な表情で、キユウを見た。
「だけど、本当にそんな邪鬼を倒す事ができるの?」
キユウは、三つのグローブとラーの勇者の力があれば、邪鬼を倒せると言っていたのだ。
「グローブとラーの勇者の力があれば、必ず倒せる。
大昔、アトランティスの人達が実際に使って、邪鬼を封じ込めたからね」
「それって邪鬼を追って行った、あの大陸よね?」
「私達が行った時は、遺跡だけだったけど」
「大昔……そうか、大昔、あの大陸に高度な文明があった時の話って事か」
「えええ?
アトランティスに高度な文明があったって言われているのは、確か、1万年以上も前よ?」
「そう、その時代に、邪鬼は一度、この世界に現れたんだ」
「何ですって……」
キユウの言葉に、勇気達は驚く。
邪鬼は、当時の人々を恐怖に陥れようとしたという。
しかし、アトランティス文明の人々が、妖精族と組み、三つのグローブを作った。
そのグローブこそが、邪鬼を倒す武器だったのだ。
そして、アトランティスの民が異世界の人物をラーの勇者として呼び出し、彼らと共に戦った。
「邪鬼は、ラーの勇者と三つのグローブによって倒され、封印されたんだ」
「そして、今のラーの勇者が、あたし……」
「もしかして、その封印が、お父さんが開けてしまった壺って事?」
キユウは、「ああ」と答えた。
「そうか、だから壺にはグローブと同じマークが」
「アトランティスの人達は、いつか再び邪鬼が現れる事があるかもしれないと思い、
グローブを仲間達で代々保管する事にしたんだよ。
邪鬼にバレないように、あらかじめ、世間の知名度が低い英霊を召喚して、
その英霊にラーの勇者を召喚する準備をした後にね」
「それって私の事ですか?」
「ああ。ジャンヌ・ダルクなら妥当だと思って。結局、邪鬼にはバレちゃったけどね」
キユウは、勇気と羽心が嵌めているグローブと、ディアーナとジャネットを見つめた。
ジャネットは、キユウに馬鹿にされたような気がして、少しむっとした。
「そして君達は、僕と同じようにそのグローブを使える。
それはつまり、特別な力を持つアトランティスの人達の末裔という事なんだ」
「僕達が……」
「なるほど。だから、羽心に特殊能力があったのね」
勇気は戸惑い、ディアーナは顎に手を置いた。
「私も、そうだったんだ……」
羽心も驚く。
すると、羽心は「あっ」と声を上げた。
「そう言えば、私、キユウさんがずっと見えてるんだけど?」
以前、勇気の傍にキユウがいた時、その姿は全く見えていなかったのだ。
「君が勇気と同じように特別な力を発揮できるようになったからだよ。
君達の話によれば、サラという女の子の城に、パンドラの箱があったんだよね。
恐らく彼女の一族も、アトランティス人の末裔なんだろう。
邪鬼は1万年以上前、アトランティス大陸の神殿にあったあれを奪おうとしていたからね」
「そうだったんだ」
「一つ聞くけど、結局あの黒い鈴は何だったの?」
「ラーの勇者が使った武器の一つさ」
「それで、邪鬼はあの箱をどうするつもりなの??」
勇気が身を乗り出して尋ねる。
しかし、キユウは首を小さく横に振った。
「どういう風に使うのかは残念ながら分からない。
だけど、三つのグローブとパンドラの箱を手に入れようとしている事だけは確かだ。
アトランティス人達との戦いの時も、同じ事をしようとしていたと言われているからね」
「そんな昔から狙ってたなんて……」
勇気達は恐ろしく思うが、同時に、自分達こそが、邪鬼に対抗できる唯一の存在だと気づいた。
「じゃあ、キユウ。あなたがあたしにくれたこのカードは、何?」
そう言って、ディアーナはキユウにカードを見せた。
「だから、そのカードはしまってと言っただろ」
「そうじゃなくて、あたしはこのカードに見覚えがあるの。キユウ、分かる?」
「……君以外には内緒だからね。このカードは、『超融合』という、君より前のラーの勇者が使ったカードだ」
キユウは小声でディアーナに話した。
「えっと、超融合って……?」
「ありとあらゆるものを、何にも邪魔されずに融合できる、最高の融合カードだ。
……まあ、出さずに融合できる方が強いんだけどね*1」
「……何でも融合できるカード……」
ディアーナはしげしげと超融合のカードを見やる。
もしかしたら、このカードを使えば、力から邪鬼を引き剥がせるかもしれないと。
ディアーナは、超融合のカードをベルトポーチにしまうと、勇気に向き直る。
「行きましょう、勇気、キユウ、羽心、プーカ、ジャネット。力を救うために!」
勇気達は、邪鬼を捜し出すために、次の時代へ行く事にした。
~次回予告~
勇気達が向かった場所は、勇気が最初に怪狩りをした洞窟だった。
すると、彼らはその洞窟の中で邪鬼の気配を見つけた。
邪鬼はここに潜伏して傷を癒しているという。
完全に治る前に止めなければと勇気達は思ったが、
勇気達に倒された怪の復讐劇が始まろうとしていた。