邪鬼がパンドラの箱の力を解放し、見捨里市にたくさんの怪が襲い掛かってきた。
四人の聖職者は怪を相手に取っているが、彼女達は徐々に疲労が蓄積していた。
そんな怪に襲われ、恐怖する原末兼太を救ったのは、勇気達だった。
勇気達は怪を倒すと、邪鬼を追いかけるのだった。
「まったく、こんな奴と渡り合うとはねぇ!」
麗羅、つるぎ、揚羽、カリオストロの四人は、邪鬼が呼び寄せた怪と渡り合っていた。
彼らが相手しているのは、九尾の狐だ。
麗羅達はかつて邪鬼に仕えていたが、人間を恐怖に陥れるやり方に不満を抱いて離反した。
その怪に反撃を受けたのだが、苦々しい顔をするのは当然だ。
「麗羅君、引くつもりはないよね?」
「当たり前さ! 揚羽、カリオストロ! こいつらをやっつけるよ!」
「はーい!」
「もちろんだ」
麗羅達はそれぞれの武器を身構えて、九尾の狐と応戦した。
悪党にも、悪党なりの誇りがあるのだ。
ノノ、アプリル、チェイニー、愛衣が相手しているのは、大蜈蚣――デビルドーザーだ。
「うわーん、むかでこわいよー!」
「狼狽えるな! 俺達は怪であっても、この町を守る正義の味方なんだ!」
「これくらいで怯んじゃいけません! 愛衣も一緒に戦いますから!」
泣き叫ぶノノを、アプリルと愛衣が激励する。
ノノは何とか泣き止んだ後、意を決して鳥に変身する。
「その意気だぞ、ノノ。では、儂も戦おうとするかのぅ」
そう言って、チェイニーは血液から槍を生成した。
「これこそが、僕が待ち望んでいた光景だ」
見捨里市の一角に、見捨里タワーが建っている。
赤い鉄塔で、町の名物だ。
そのタワーの一番上にある展望室からは、町を一望する事ができ、
休日は町の人達で賑わっている。
しかし今は、展望室にはたった一人しかいない。
邪鬼だ。
邪鬼は、展望室から眼下に広がる町を眺めていた。
町は、至るところから火の手が上がり、人々の悲鳴が飛び交っていた。
無数の怪が、町の人々を襲っているのだ。
「もっと襲え。人間達に恐怖を与えろ」
邪鬼は、不気味な笑みを浮かべる。
「この町の人間達を全て襲った後は、世界中の人間を怪に襲わせてやる。
やれ、もっとやれ。ハッハッハ、ハーッハッハッハ」
展望室に、邪鬼の笑い声が響いた。
「邪鬼は、見捨里タワーにいるのね!」
勇気達は、キユウと共にタワーに向かっていた。
「今度こそ絶対に逃がさないわよ」
「うんうん。オイラを操った事、後悔させてやるゾ!」
「ディアーナ、あのカードだけは、なくさないでね」
羽心達が意気込む中、勇気はふと、キユウの方を見た。
キユウは、何故か神妙な顔つきになっていた。
「キユウ、どうしたの?」
「ああ、必死に考えてるんだ」
「考えてるって何を?」
「どうすれば邪鬼を倒す事ができるかだよ」
「それって」
勇気は、自分の右手を見てハッとした。
「そうか、グローブはもうないんだった……」
「箱は、黒い煙が出る時に消えちゃったわよね?」
「それって、つまりグローブも消えちゃったって事?」
勇気の言葉に、キユウは「ああ」と答えた。
「じゃあどうやってあいつを倒せばいいんダ?」
「キユウさん、邪鬼の『弱点』はないの?」
「グローブ以外に『弱点』はない。まったく、笑えないよね」
キユウは、力なく答えた。
「それじゃあどうすれば……」
勇気達は動揺する。
邪鬼の元に辿り着いても、倒す方法がなかったのだ。
「グローブ以外にも、切り札はあるわ」
「切り札?」
「それは、後でのお楽しみよ」
しかし、ディアーナには自信があった。
キユウは、もう一つの武器をディアーナに渡したからだ。
彼女は、二刀流と魔法も使えるため、諦める気など全くなかった。
その時……。
「無駄な努力はしない方がいいぞ」
男の声が聞こえた。
道路の前方から、一人の男が現れた。
背が高く、全身黒ずくめの服を着ていて、
羽織った黒マントの裾が広がり、大きなコウモリのように見える。
「何故、お前が!」
「……!」
ドラキュラ伯爵。
勇気とディアーナは、この男を知っていた。
「倒したはずなのに!」
勇気がそう言うと、キユウが口を開いた。
「この男は、あのドラキュラ伯爵じゃない」
「えっ?」
男は、ニヤリと笑った。
「その通り。私は、ドラキュラの弟、ヴァーニーだ」
ヴァーニーは、オールバックの髪から一束だけ垂れた前髪を撫でるように触った。
「ヴァリー?」
「ヴァーニーだ! ……こほん。兄は、こんなにカッコいい髪形をしてなかっただろう?」
顔はよく似ているが、ヴァーニーはドラキュラとは違い、
無精ヒゲが生えていて、服もあちこち汚れている。
「弟がいたなんて」
「ドラキュラ……。勇気、ディアーナ、私、何となく覚えてるわ!」
羽心は以前、ドラキュラに操られていた花恋に襲われそうになった事があった。
その時の記憶は、勇気達がドラキュラを倒した事によってリセットされたが、
特別な力に目覚めた羽心は、僅かに覚えていたのだ。
「兄は、自分で動くのが嫌いで、手下のコウモリを使ったり、人を操ったりしてばかりいた。
しかし、私は違う。私は自ら動くのが好きだからねえ」
ヴァーニーは、笑みを浮かべる。
鋭い2本の牙が、キラリと光った。
ディアーナは縮こまりながら、ジャネットの後ろに隠れる。
「だけど、どうして外にいられるんだ?」
空は黒い煙に覆われていたが、まだ夕方前だった。
太陽の光は、僅かだが地上にも届いている。
吸血鬼であるドラキュラは、夜しか活動できないはずだった。
それは、弟であるヴァーニーも同じはずなのだ。
すると、ヴァーニーは、嬉しそうに自分の手や身体を見た。
「全て、あの邪鬼という少年のおかげだよ」
ヴァーニーの身体から黒い煙が漏れ出す。
「まさか」
「ほう、察しがいいね。私はあの少年に強くしてもらったのさ」
「そんな!」
ヴァーニーは狼男と同じように、パワーアップしていたのだ。
「おかげで、太陽の下でもこうやって動く事ができる。そしてこんな能力も手に入れたんだ。
ふんんん!」
ヴァーニーは全身に力を入れる。
マントが破れ、背中から大きな2枚の黒い羽が生えた。
「どうだい、カッコいいだろう~?」
ヴァーニーは、羽を羽ばたかせると、宙に浮いた。
ディアーナとジャネットは、彼を白い目で見ていた。
「分かっていると思うが、私にはニンニクも効かないよ。つまり、私には弱点はないという事だ」
兄であるドラキュラは、勇気達との戦いの中で、召し使いにニンニクを口の中に押し込まれ、
狼狽えたところに太陽の光を浴びて、青白い炎に包まれて消滅した。
その戦い方が、できないというのだ。
「くっ、早く邪鬼のもとへ行きたいのに」
キユウは苦々しい表情を浮かべる。
「キユウさん、どうするの?」
「さっき倒した怪達と違って、なんか強そうだゾ」
羽心とプーカも、ヴァーニーを見て困惑していた。
ディアーナとジャネットは、一歩引いている。
「私は無敵だ。兄にも、私のこの強さを見せたかったよ」
ヴァーニーはそう言いながら、眉間に皺を寄せた。
「兄は、私の事をコウモリよりも役に立たないといつも言っていた。
だが、私はそんな兄を倒した君達に勝つ。
私の方が、兄より優れた吸血鬼である事を証明してやるんだ!」
ヴァーニーは、口を大きく開き、牙を剥き出しにした。
「私は兄より凄いんだぁぁ!!」
ヴァーニーは、勇気に襲いかかった。
「「勇気!」」
キユウは、空中を飛び、攻撃を止めようとする。
だが、幽体であるキユウの手は、ヴァーニーを掴む事ができなかった。
「逃げるんだ、勇気!」
キユウは、勇気に向かって叫ぶ。
しかし、勇気はその場から一歩も動かない。
「怯えているようだね!」
ヴァーニーが笑う。
すると、勇気は目を大きく開いた。
「お前なんか怖くない!」
次の瞬間、勇気は傍に落ちていた石を拾った。
そしてその石を、襲いかかって来るヴァーニーの口に向かって突き出した。
―ガチンッ
ヴァーニーの口の中に、拳大の石が押し込まれる。
その衝撃で、鋭い牙が2本とも折れた。
「うぎゃああ!!」
ヴァーニーはその場に倒れると、口を押さえてのた打ち回る。
「わ、私にょ、歯ぎゃあ!!」
ヴァーニーは、勇気を睨んだ。
「許しゃにゃい!」
―ズズズッ
ヴァーニーの両手の爪が伸び、剣のようになる。
「お
その爪で、ヴァーニーは勇気を突き刺そうとした。
「うわああ!」
勇気は、悲鳴を上げて横に逃げる。
「「「勇気!」」」
「勇気クン!」
羽心、プーカ、ディアーナ、ジャネットが叫ぶ。
「きゃきゃきゃ、怖いんだにゃ!」
ヴァーニーは、逃げた勇気の方に爪を向け、そのまま勢いよく突き刺そうとする。
「かかったな!」
瞬間、勇気がその場にしゃがんだ。
―ズサッ
10本の爪が、家の塀に突き刺さった。
「にゃんだ? にゅおお!」
ヴァーニーは必死に爪を抜こうとするが、爪は全く抜けない。
「勇気、大丈夫ですか?」
「ああ、怯えたフリをしただけだ」
勇気は、ヴァーニーを油断させて、塀の傍に誘導したのだ。
「ぬうあああ! 私は兄ふぉり優秀にゃ! こんなはずではにゃいんだ!」
ヴァーニーは泣きそうな顔で叫び続ける。
だが、爪が抜けず、最早どうする事もできなそうだった。
「みんな、行こう!」
「え、ええ、そうね」
「う~ん、なんか拍子抜けだゾ」
「……よく落ち着けましたね」
「もう反省したわよ」
勇気達は、ヴァーニーを放って、見捨里タワーへと向かった。
~次回予告~
ヴァーニーを退けた勇気達は、ついに邪鬼が待つ見捨里タワーに突入しようとする。
グローブがなくても、邪鬼を倒せるかもしれない。
そう思ったキユウは、勇気を信じて、彼とその仲間と共に邪鬼を追っていく。
そんな彼らの前に、またもや人狼が現れるのだった。