勇気は諦めない心をもって、希望を見出そうとしている。
ようやく彼が見せたその勇気に、キユウとディアーナは惹かれていた。
そして、見捨里タワーに入ろうとした勇気達の前に、またもや人狼が現れる。
羽心、プーカ、ジャネットは、邪鬼の相手を勇気達に任せ、人狼と対峙するのだった。
「大丈夫よね。羽心達は絶対に、あいつを倒せるわよね」
「うん、信じてるよ。だって、羽心達は僕の、大切な仲間だから」
勇気、キユウ、ディアーナは、タワーの階段を駆け上がっていた。
1階のフロアにも、2階のフロアにも、邪鬼はいなかった。
他に考えられるのは、展望室だけだ。
階段を上がるたびに、踊り場の窓から町が見える。
町のあちこちで火の手が上がっている。
怪が暴れているのだろう。
勇気とディアーナは、その景色を見ながら、苦々しい表情になっていく。
「早く、みんなを助けないと」
「あたしみたいに、まともに戦える人はいないしね」
怪に襲われた人々は、恐怖を感じているだろう。
怪我を負い、苦しんでいる人達も大勢いるはずだ。
元に戻すには、邪鬼を倒すしかない。
全ては勇気と、ラーの勇者・ディアーナにかかっていた。
やがて、勇気、キユウ、ディアーナは、展望室に到着した。
「へえ、まだ追って来るとはね」
展望室の窓辺に、邪鬼が立っている。
「「邪鬼!」」
勇気とディアーナは、険しい表情で身構える。
ディアーナは既に、レイピアとダガーを抜いていた。
「狼男は彼女達に任せたのか。まったく、全員倒せと言ったのに」
「邪鬼、これ以上あなたの好きにはさせないわ!」
「お父さんの身体も必ず返してもらう!」
「威勢がいいねえ。だけど、いい加減諦めた方がいいと思うよ。
君達が僕に勝てる可能性があったのは、グローブがあったからだろう?」
「たとえ、グローブがなくても勝ってみせる!
僕とキユウ、それにディアーナはそのためにここに来たんだ」
勇気の横に、キユウも立つ。
ディアーナは、頷いた。
「勇気、ディアーナ、行くよ!」
「ああ!」
「ラーの勇者、参る!」
三人は、同時に駆け出した。
「あ~あ、僕はそういう熱い思いだけで行動する奴が、一番嫌いなんだ!
たとえ相手が善良な怪でもね!」
邪鬼は刀を抜いた。
勇気達は警戒する。
だが、邪鬼はそんな三人を気にせず、そのまま刀を振るった。
―シュ
瞬間、刀から、黒い閃光が走る。
その閃光が、キユウの方に向かい、腕に直撃した。
「がっ」
「ちょっ」
キユウは、腕を押さえて、苦悶の表情を浮かべた。
「キユウ!」
「忘れたのかい? 僕の刀は幽霊でも斬る事ができるんだよ」
以前、キユウはオシリスの鈴の音を聞いて弱ったところを、
邪鬼に刀で斬られ、消滅してしまった。
「もちろん、キユウだけじゃない。君達にも」
邪鬼は、再び刀を振るう。
―シュ
再び、刀から黒い光が走る。
勇気は避けようとするが、光が足に掠った。
「うわっ!」
「勇気!」
「残念だったねえ。僕に近づく事すらできないなんて。ほうら、行くよ!」
「そうはいかないわ! 剣ならあたしも使える!」
ディアーナはレイピアとダガーを邪鬼に向かって振りかざした。
ダガーで刀を絡め取り、レイピアで邪鬼の身体を突き刺す。
「がっ!」
「ディアーナ、殺しちゃダメ! あれは、お父さんなんだよ!」
「それだけで躊躇うほど、あたしは甘くないわ。邪鬼が取り憑いている以上、やるしかないのよ」
ディアーナはレイピアとダガーを巧みに使い、邪鬼の攻撃をいなしていった。
「あっ!」
だが、一瞬の隙を見せてしまい、邪鬼は素早くディアーナから離れた。
「ハッハッハ、人間は、そして勇者は、なんて愚かな生き物なんだろうね」
邪鬼は笑いながら、倒れた勇気達に近づいて来た。
「僕は、別に生まれたくてこの世に生まれたわけじゃない。
だけど、恨みや妬みや嫉みといった人間の負の感情が、僕という怪を生み出したんだ」
邪鬼は、倒れている勇気達を見る。
ディアーナは急いで、彼らのところに走った。
「僕は、君達人間が隠そうとしてきた、本能そのものだ。
平和を望みながらも争い、平等だと言いながら勝つ事にこだわる愚かな君達そのものなんだよ」
その言葉を聞き、勇気は顔を上げる。
ディアーナは切り札を使うため、レイピアとダガーを鞘にしまう。
邪鬼の顔から、いつの間にか笑みが消えていた。
「僕は人間が憎い。それは人間が他人を憎む生き物だからだ。
僕は人間達がやりたいと思っている事を実行しているに過ぎないんだ」
「そうよね」
「……」
ディアーナは頷き、勇気は、立ち上がろうとする。
そんな勇気の襟首を、邪鬼が掴んだ。
「君もちゃ~んと見れば、理解できると思うよ」
邪鬼は勇気を掴んだまま、窓辺に歩き出す。
「は、離せ!」
「「勇気!」」
キユウは立ち上がろうとするが、身体が上手く動かない。
邪鬼は、窓の前までやって来ると、勇気の顔を外に向けさせた。
「ほうら、よく見るんだ。君だって、怪を憎く思うだろ?」
町では、先程見たよりもさらに火の手が上がっている。
巨大な怪が、ビルを壊そうとしている。
数え切れない怪達が、笑いながら人々を追いかけている。
「怪を狩るのは、憎いからだ。どうだい、僕や怪の事が憎いだろう?」
邪鬼は、勇気の襟首から手を離すと、高笑いをした。
その言葉に、ディアーナはついに我慢できなくなり、邪鬼に掴みかかった。
「好き勝手言うんじゃないわよ。確かに人間には心の闇があるわ。
でも、それは本当は消し去るべきではないもの。だから、受け入れるべきなのよ」
「……ラーの勇者め……」
そもそも、人間の心の闇は、決して消し去ってはならないものだ。
心の闇を乗り越えてこそ、人間は成長する。
キユウはそれを考えていたのか、ディアーナに超融合のカードを渡したのだ。
そして、勇気は邪鬼の方を見た。
「まだだ。僕はまだ……諦めるつもりはない」
勇気は、崩壊しようとしている町を背にして、邪鬼を睨んだ。
「ふっ、その根性だけは褒めてあげるよ。だけど、これを見ても同じ事を言えるかな?」
邪鬼は、刀を振り上げると、街を斬った。
空間に、黒い穴ができる。
その穴の向こうに、風景が見えた。
「あれは……」
勇気には、見覚えがある。
穴の向こうに、江戸時代の町並みが広がっていた。
「ほらほら、みんな、美味しい煎餅があるぞ」
長屋の一角で、優しそうな顔をした男が、近所の子供達に煎餅を配っていた。
キセル職人の巳之吉だ。
巳之吉はかつて、雪女と一緒に暮らしていた。
勇気はキユウとディアーナと共に、そんな巳之吉の元へ行き、交流した事があったのだ。
巳之吉は、子供達が大喜びで煎餅を食べる姿を見て、嬉しそうに笑った。
「ねえ、あれなあに?」
ふと、一人の男の子が空を指差した。
「どうしたんだい?」
巳之吉は、空を見上げる。
すると、空に罅が出来ていた。
その罅から、黒い煙が漏れ出している。
「アアアァァ、ウウウウ」
ヒビの中から、不気味な呻き声が聞こえる。
「ありゃあ、何なんだい?」
罅はさらに大きくなり、ピキピキと音を立てて割れていく。
その罅の向こうに、いくつもの邪悪な目が光っていた。
見捨里市。
勇気とディアーナは、タワーの展望室に浮かぶ穴から、その光景を見ていた。
「まさか、巳之吉さんのいる時代にも怪達を!?」
「これが目当てだったのね……」
戸惑う勇気と、唇を噛み締めるディアーナを見て、邪鬼はニヤリと笑った。
「何を言っているんだい。こんな楽しい事、彼の時代だけにするわけないだろ」
「何だと!?」
「何ですって!?」
邪鬼は、さらに刀で宙を斬る。
空間に、先程と同じような穴がいくつもできた。
その向こうに、次々と風景が映し出される。
それを見て、勇気とディアーナは目を大きく見開いた。
「そんな……」
それらの風景にも、見覚えがあったのだ。
一番端の穴の中には、太った保安官の姿が見えている。
フラットウッズ・モンスターと戦った時に、協力してくれた保安官だ。
彼は、空を見て呆然となっていた。
巳之吉の町と同じように、黒い煙を出す罅が現れていたのだ。
その横の穴には、青いスカーフを頭に巻いた女性の姿が見える。
彼女は、弓を持っていた。
ファフロツキーズを一緒に倒した、リサだ。
リサは、村の人達と共に、空に現れた罅を見て戸惑っていた。
次に、その横の穴には、二人の少女の姿が見えていた。
プーカと出会った妖精事件の、エルシーとフランシスだ。
二人は、罅の中から聞こえて来る不気味な呻き声に怯えていた。
様々な時代に、怪達が現れている。
さらに、その横の穴には、村人の姿が見えた。
ジャネットの故郷・ドンレミ村の村人だ。
黒い煙が漏れ出している罅を見て、村人は恐怖していた。
他の穴にも、勇気達が知っている人達の姿が見えていた。
皆、怪を見て恐怖に慄いていた。
「何て事を……」
その光景を見て、キユウは愕然となる。
邪鬼は、この時代だけではなく、全ての時代の人々を苦しめようとしていたのだ。
「これで分かっただろう。君達には、最早どうする事もできないんだよ」
邪鬼は、勇気とディアーナに顔を近づけた。
「どうだい? 僕が憎いだろう?」
「何だと……?」
「父親の身体を奪い、怪を使って人々を苦しめる。憎くて憎くて仕方がないだろ?」
「確かに……そうかもしれないわね」
勇気とディアーナは目の前で不気味な笑みを見せる邪鬼を、じっと睨みつける。
全身を震わせ、拳を強く握り締める。
「お前だけは!」
勇気は、握り締めた拳を大きく振り上げた。
「殴っちゃ駄目!」
突然、大きな声がした。
見ると、展望室の入り口に、羽心、プーカ、ジャネットが立っている。
「怒りに任せて殴るなんて、勇気らしくないわよ」
「よく、我慢できましたね」
「羽心」
「ジャネット」
「どうしてお前達が? 狼男はどうしたんだ??」
邪鬼は、タワーの外で戦っているはずの羽心達がいる事に驚く。
そんな邪鬼に、羽心は真っ直ぐ顔を向けると、堂々と答えた。
「決まってるでしょ。倒してやったわよ、コテンパンに!」
~次回予告~
絶望に立ち向かうために、勇気と希望を抱いた勇気達の反撃が始まった。
戦えば戦うほど己の身を削るならば、勇気達にできる事は耐える事だった。
そして、邪鬼と戦っていたのは、勇気達だけではなかった。
彼らは、決して一人では戦っていないのだ。