怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

人狼を倒した羽心達は、勇気達と合流する。
黒い煙は確かに怪を強力にするが、その代償は自身の命だった。
激しく動けば動くほど肉体を維持できなくなり、やがては消滅するのだ。
それをキユウに指摘された邪鬼は、死なば諸共と勇気に襲い掛かる。
だが、勇気は決して一人で戦ってはいなかった。
様々な時代の人間も、勇気を出して怪と戦っていたのだ。
皆の勇気と希望は、負の感情を上回り、ついに勇気は邪鬼への逆転勝利を果たそうとした。


6 - 最後の時

「ふざけるな!」

 邪鬼の全身から、黒い煙が漏れ出す。

 右目からも、さらに黒い煙が溢れ出る。

「人間は弱い! 僕に敵うはずなどない!! ああああ!!

 邪鬼は刀を大きく振り上げ、勇気とディアーナを斬ろうとした。

「勇気!」

「ディアーナ!」

 キユウ達が叫ぶ。

 だが、勇気とディアーナは冷静だった。

「邪鬼っ!!」

 次の瞬間、勇気は振り上げられた刀に怯える事なく、邪鬼に体当たりした。

「ぐあっ!」

―カチャン

 体当たりを受けた衝撃で、邪鬼は刀を落とす。

「ぐう!!」

 邪鬼は、落ちた刀を拾おうとするが、そんな邪鬼の身体を勇気が掴んだ。

「お父さんを返せ!」

 勇気はそのまま邪鬼を押し倒す。

「邪魔をするな!!」

 邪鬼は、勇気の手を振りほどこうとする。

 だが、勇気はさらに強く掴んだ。

「ええい、離せ!」

「離すもんか!!」

 勇気は、邪鬼を必死に押さえ込もうとする。

 しかし、邪鬼は少しずつ手を伸ばし、刀を握り締めた。

「これで終わりだ!」

 邪鬼は、刀の刃を勇気に向け、突き刺そうとした。

 そんな邪鬼の腕と身体を、誰かが掴んだ。

 羽心とジャネットだ。

 横には、プーカもいる。

「そんな事させない!」

「怪がみんな人間を憎んでると思ったら、大間違いだゾ!」

「私はイギリスに裏切られ、炎の中に消えました。ですが、もうイギリスは恨んでいません!」

「貴様ら!」

 腕と身体を押さえられ、邪鬼は再び刀を落とす。

 勇気はその刀を掴んだ。

「勇気、あたしにそれを貸して!」

 ディアーナが声を上げる。

 勇気は頷くと、彼女に刀を投げ飛ばす。

貴様ああああ!

 邪鬼が暴れるように手足を動かし、羽心達を振り払う。

許さんぞおお!!!

 邪鬼は、勇気、キユウ、ディアーナのもとへ駆け寄ろうとした。

 瞬間……邪鬼の動きが止まった。

「が、あ、ああ」

 全身から黒い煙が漏れ出す。

 邪鬼は大きくよろめく。

「許さん……許さん……許さん……ガアアアアアッッ

 悲鳴のような叫び声が響く。

 邪鬼の右目から、大量の黒い煙が溢れ出た。

 邪鬼の身体がその場に崩れるように倒れる。

 煙が宙を舞う。

 その姿は、まるで生き物かのようだ。

 

「あれは」

 驚く勇気に、キユウが答えた。

「『邪鬼』の本当の姿だ」

「……」

ニンゲンドモメ ニクイ ニクイニクイニクイィィィ

 『邪鬼』は、空中をうねるように飛びながら、壁や天井に何度も激しくぶつかる。

ニクイニクイニクイニクイ アア アアアア ガアアア

 その体から、黒い煙が四散していく。

 キユウは、それを見ながら、勇気達に話しかける。

「『邪鬼』は、単体ではこの世界で生きていく事ができないんだ。

 あの体は僕と同じような幽霊だからね」

 羽心がピクリと反応した。

 勇気、ディアーナ、ジャネットは、ごくりと唾を呑み込んだ。

「あいつは、このまま消滅するんだね」

「……ああ」

 長い戦いが終わった。

 勇気は、そう思った。

 だがその時、『邪鬼』がピタリと止まった。

 

オマエモ ミチヅレダアァァア

 『邪鬼』は、煙を四散させながら、勇気に向かってきた。

「ああっ!」

 勇気は逃げようとするが、足元に違和感を覚えた。

 見ると、黒い煙が漂っている。

 その煙が、勇気の足にまとわりつき、動けなくしていたのだ。

「勇気!」

 キユウは勇気を助けようとするが、

 黒い煙が身体にまとわりつき、身動きが取れなくなってしまう。

「くっ」

 『邪鬼』は、キユウの横を通り抜け、勇気に襲いかかろうとした。

 刹那、ジャネットが声を上げた。

「ディアーナ、あのカードを使う時です!」

「あのカード……分かったわ。これで終わりよ」

 ディアーナはベルトポーチから、一枚のカードを取り出した。

 白い渦が描かれた緑のカードだ。

 そのカードを見た『邪鬼』は、慌てふためく。

チョウユウゴウ!?

「そうよ、このカードを使って、あなたとあたしを融合するの」

「融合……そんな事が……」

「できるの。だからあたしは、キユウからこのカードをもらったの」

 超融合は、何にも邪魔されずにあらゆるものを融合できるカードだ。

 『邪鬼』の妨害も、人々の恐怖も、全てを弾いて融合できるそのカードは、

 まさしく切り札に相応しいものだった。

「見せてあげるわ。知恵と勇気が作り出した、最強の力の象徴を!」

 ディアーナが超融合のカードを掲げると、超融合のカードの中から白く巨大な渦が現れる。

 『邪鬼』は、その渦の中に吸い込まれていった。

ヌアァァァァァァァァァァ!!

「これが……超融合……」

「なんという力なの……!」

「うぅ、なんか怖いゾ」

 勇気と羽心は思わず腰を抜かし、プーカはポケットの中に隠れてしまう。

 ディアーナにカードを渡したキユウは、

 真剣な表情で『邪鬼』とディアーナが融合しようとする光景を見た。

「絶対無敵、究極の力! あたしとあなたの魂を一つに!!」

 ディアーナは『邪鬼』が吸い込まれた渦の中に、共に吸い込まれていった。

「オシリスの鈴が……!」

「私の指輪が……!」

 羽心の手からオシリスの鈴が離れ、同じく、渦の中に吸い込まれた。

 そして、ジャネットの指輪から、光が消え失せた。

 

 渦の中では、一人の上のエルフと、一匹の幽霊、そして小さな黒い鈴が宙に浮かんでいた。

 周りは黒く、泥のようにドロドロとしているが、

 上のエルフ――ディアーナは真剣な表情で一匹の幽霊――『邪鬼』と向かい合っていた。

「あなたは、邪鬼と言ったわね。

 誰かに依存しなければ生きていけない、他人の姿を借りる事しかできない、哀れな悪霊」

グ……ゥゥ……

 弱っていた『邪鬼』を、ディアーナは憐れんでいた。

「けれど、その哀れな生も、これで終わり。後は、あたしが一緒についていってあげるわ。

 邪鬼……これからは、あたしと一緒に、世界の脅威を倒していくのよ」

 そう言って、ディアーナは『邪鬼』を抱きしめた。

 破滅をもたらす闇を、正しい闇に変えるための、とても優しい抱擁だった。

 ディアーナの身体から、眩い光が溢れ出て、黒い煙を眩い光で取り込んでいく。

 

 邪鬼は、時のトンネルの中で生まれた。

 人間を憎み、人間の怒りを、自らのエネルギーにしようと思っていた。

 邪鬼の野望、それは人間を滅ぼす事。

 しかし、その野望は今、ディアーナと共に終わろうとしていた。

 

アア……コレハ ヤサシスギル アカルスギル ナンテ ヤサシイ ヒカリナンダ……

 アア アアアア アアアアアア……

―チリン チリン チリン

 鈴の音を聞き、邪鬼は浄化され、さらに超融合により、ディアーナと一体化する。

 今、邪鬼とディアーナは、文字通り一つになろうとしていた。

 

「ただいま」

「ディアーナ……」

 渦が消えると、黒い煙と白い光を身に纏い、衣装も変わったディアーナが勇気達の前に現れる。

 超融合によりディアーナは邪鬼と一つになり、ディアーナ以外の全員は、彼女を見て驚愕した。

 今、彼女は一時的にだが、神になったのだから。

 

「ディアーナ……君は……」

「この戦いで失われたものを、全て蘇らせて」

 ディアーナは目の前に落ちていた刀を拾うと、空に向かってそう叫んだ。

 それは、神の願いとしては酷くエゴイストだった。

 それでも、彼女はそれを望み、神が持つ再構築の力を発動した。

 

 刀は空を包んでいた黒い煙を吸い込んでいく。

 そして、全ては優しい光の中に包まれていった。

 

「これで……終わったのか……」

 勇気が呆然としていると、キユウは苦しそうな表情をしていた。

「キユウ!」

 勇気は、慌ててキユウに駆け寄った。

「キユウ、しっかりして!」

「勇気、君は凄かった。僕は最後に君の勇気のある姿を見られて嬉しかったよ」

 キユウは、勇気をじっと見つめた。

「僕は……邪鬼を倒して、息子の力を救い出すために……存在していた。

 そして、ラーの勇者が発動した超融合の代償は……誰かの存在の力なんだ……」

 キユウはその場に倒れる。

「それが、キユウなの……? ねえ、キユウ!」

 超融合の代償に、キユウの身体が、だんだん透明になっていく。

「キユウ、別れるなんて嫌だ!」

 勇気の目に涙が浮かぶ。

「君に会えて本当によかった……。僕は、君のような孫が持てて幸せだよ」

「キユウ! 僕だって君に出会えて幸せだったよ! これからももっと話がしたいんだ!」

 その言葉に、キユウは微笑んだ。

「僕は、遠い空の向こうから、いつまでも君の事を見守っている……。

 だから、勇気、これからも、勇気を出して前に進むんだ」

 キユウの身体が光り輝き、その身体が消えていく。

「勇気」

「キユウ!」

 勇気は、キユウに手を伸ばす。

 キユウも微笑みながら、手を伸ばした。

 掴む事はできない。

 だが二人は、確かに互いの手をしっかりと握り合っていた。

 

「さようなら、みんな」

「本当に、ありがとう」

 次の瞬間、キユウとディアーナは、光と共に消えていった。




~次回予告~

邪鬼と超融合したディアーナは、その力をもって世界を再構築した。
役目を終えたノノ達は光の船に乗り、直線の道を通って見捨里市を去っていく。
そして、勇気はついに邪鬼から父親を取り戻した。
勇気達の怪狩りは、終わりを告げようとしていた。
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