雪女を倒すため、勇気達は江戸の町に向かった。
しかし、勇気のミスによって武器のマッチを落としてしまった。
戻ろうとしたが、この時代の怪を倒すまで「時のトンネル」は通る事ができなかった。
ディアーナはキユウの「時のトンネル」の不便さに不満を言いつつ、
勇気、キユウと共に雪女を探す事にした。
「あのー、お雪って人を知りませんか?」
江戸の大通りで、勇気は道行く人々に尋ねて歩いた。
しかし、江戸の人達はこちらをジロジロと見るばかりでまともに答えてくれない。
「坊や、その妙な着物はなんだい?」
「お嬢ちゃんは南蛮の子かい? それにしては、耳が長いな」
「いいねぇ、その着物。どこで売ってるんだい? 流行りそうだねぇ」
(時代と文化の壁が立ち塞がるわね……)
どうやら、かなり目立っている。
勇気とディアーナは周りからジロジロ見られながらも、雪女の事を探し続けた。
しかし、いくら聞いても、全く情報は得られなかった。
「やっぱり、名前だけじゃそう簡単には見つからないよ」
「まあ、江戸の町には100万人ぐらい住んでるからね」
「100万人!! そんなの見つかるわけないよ!」
見捨里市など比べ物にならないほどの大都市だ。
「はぁ、はぁ……」
勇気とディアーナは、大通りから伸びる路地の入り口に座り込んだ。
歩き回り、人に話しかけるのにすっかり疲れてしまったからだ。
「おや、どうしたんだね? 迷子にでもなったのかい?」
白髪交じりの男性が路地から勇気とディアーナの傍へやってきた。
男性はそう言って、優しい笑みを見せる。
「えっと……」
尋ねる気力が二人にはもう無かった。
「勇気、このおじさんにも聞いてみろよ」
「無駄だよ。こんな大きな町で見つかるわけがない」
勇気は背後のキユウに小声で答えた。
「えっ、何だい?」
「あっ、いえ、ちょっと聞きたい事があって」
「あたし達は、お雪って人を探してるのよ」
「お雪? お雪? うちの長屋に、『お雪ちゃん』ならいるけどね?」
「え? ほんとですか?」
「俺はここの長屋の大家だけど」
男性は後ろの路地を指差した。
「煙管職人のミノキチさんのところにお雪ちゃんはいるよ」
勇気、キユウ、ディアーナは、三人で目を見合わせた。
「親戚か何かかい? 煙管の看板が出てるから直ぐに分かるよ」
「煙管職人のミノキチさんですね?」
「ああ、大家から教えてもらったって訪ねてみな。じゃ、俺はちょいと用があるんでね」
そう言うと大家は歩き去って行った。
勇気とディアーナはすくっと立ち上がると、単なる路地だと思っていた道を見た。
木戸の奥に狭い道があり、両側には障子が貼られた引き戸が連なっている。
高層マンションに住んでいる友達の家に行くと、室内廊下を挟んで両側に家があった。
勇気はその時の事を思い出したが、あのマンションに比べると、木造の家々は古臭い。
「もしかして、これが長屋?」
「ああ、江戸の町の多くの人が住んでた家だよ」
勇気とディアーナは木戸を潜った。
「勇気、これが煙管の看板だよ」
キユウの言葉で勇気は立ち止まった。
目の前に、曲がるストローのような先端が曲がった棒状の看板があった。
「煙管って何?」
「子供の君には関係ないけど、煙草を吸う道具だよ」
「そうなんだ……」
勇気は看板の端に『巳之吉』と書かれている文字を見た。
「この漢字が、もしかして?」
「ああ、ミノキチって読むんだよ」
「……倭国語ね」
それを聞いて勇気はゴクリと唾を飲む。
今まではお雪を探すのに夢中だったが、
上半分が障子の引き戸の向こうに雪女がいるかもしれない。
そう想像すると、勇気は急に足が竦んだ。
「あなた……馬鹿みたいに臆病だわ。あたしみたいに、慣れればいいのに」
「ディアーナ……慣れすぎだよ……」
そんな勇気に、ディアーナは呆れている。
「で。僕は、そのお雪ちゃんに、なんて尋ねればいいの?」
「ああ、確かに、そうだよねぇ」
キユウは少し考える。
「あんたが、雪女だよね? 見捨里市のプールを凍らせただろ? って聞くしかないよねぇ」
「でも、雪女は正体を隠していて、それを暴いたら殺されちゃうんじゃなかった?」
「ほぉっ! 怖いのが苦手なのに、よく知ってるな」
「感心する事じゃないだろ!」
「確かに雪女は自分の正体を口にした者を殺す怪だ。尋ねるのは危険だよねぇ」
「ふーん? そうなの。あたしがいた世界では認知されてるのにね」
小声で揉めている三人の顔の引き戸が、突然開いた。
「ひっ!」
勇気は思わず数歩後ずさる。
出てきたのは髷を結った30歳ほどの男性で、手には風呂敷で包まれた仕事道具を持っていた。
巳之吉に間違いないだろう。
どうやら仕事に行くようだ。
急いでいるのか、引き戸を閉めると、
勇気とディアーナには目もくれずに浮かない表情で長屋の出入り口に向かう。
「待ちなさい」
「なんだい?」
ディアーナが声を上げると、巳之吉が立ち止まって振り返った。
「迷子になって困ってたら、大家さんが助けてくれたのよ」
「そうなんだ。迷子にね……。悪いけど、俺、今急いでるんで……」
「何を急いでるのかしら。魔物でも見たような顔ね」
ディアーナが言うと、巳之吉は少し考えてから口を開いた。
「……実はこの数日、嫌な夢を見るので、よく眠れないんだよ」
「どんな夢なの?」
「いや、それは……」
「言いなさい。悩みは打ち明けた方が良いわ」
巳之吉の心が少し動いた。
「実は、その夢というのが……」
巳之吉の家の引き戸が再び開いた。
勇気とディアーナが振り向くと、抜けるような白い肌が眩しい、
勇気と同い年くらいの少女が立っていた。
「おとっつぁん、早くしないと約束の時間に遅れちゃうよ」
少女は透き通るような優しい声で巳之吉を仕事に急き立てる。
「あ、そうだよな。じゃ」
巳之吉は勇気とディアーナに軽く挨拶をすると、慌てて表通りに向かった。
少女は勇気とディアーナに向き直る。
少女の頬は少しこけていて、着物から見える腕や足首から、華奢な身体つきなのも分かった。
具合でも悪いのだろうか。
「何かご用ですか?」
勇気を訝しげに見ていた少女が尋ねた。
「え? ……ご用?」
少女の美しさに心を奪われていた勇気はボンヤリと聞き返した。
「おい、勇気、しっかりしろ! 君のお母さんは『お雪』という名前じゃないかと聞いてみろ」
キユウの耳打ちで勇気はハッと我に返った。
「あの、もしかして、君のお母さんはお雪という名前じゃないですか?」
キユウに言われた通りに少女に尋ねる勇気。
少女はじっとこちらを見返してくる。
しかしその視線は勇気ではなく、背後に注がれている。
「あなたは……? あなたは何者?」
勇気とディアーナの背後にいたキユウが、前に出た。
「僕の姿が見えるのか?」
少女は何も答えなかった。
キユウを睨みつけた少女は、家の中に入り、引き戸をぴしゃりと閉めた。
~次回予告~
江戸の町で、雪女はあっさり見つかった。
お雪という真っ白な少女、彼女こそが怪――雪女だった。
しかし、雪女の生態によれば、こんな無意味な事はしないはずだ。
何故、お雪は見捨里市に怪奇現象を起こしているのか。
謎が深まる中、勇気はとある夢を見る……。