江戸の町で、勇気は幼少時代の巳之吉が体験した夢を見ていた。
夢の中、巳之吉の祖父を凍り付かせたお雪は、巳之吉に「今夜の事は忘れろ」と伝える。
そんな恐ろしい雪女……お雪が見捨里市を凍らせる理由は何なのか。
勇気、キユウ、ディアーナは、お雪を追跡するのだった。
三人は外に出てお雪をそっと追いかける。
街灯のない時代は、月明かりだけが頼りだ。
お雪の白一色の着物が闇に浮かんでいて、勇気が夢の中で見たのと同じだった。
「恐怖を与えないと……私は……」
長屋の外れの藪にお雪が入っていく。
それを物陰から覗く勇気、キユウ、ディアーナ。
その先には、なんと藪の中に×印があった。
幸いにも、罅はまだ小さくて、お雪が入れる大きさではない。
お雪が×印に顔を近づけ、小さな口から冷たい息を吹き込んだ。
現代の夜の見捨里市。
むし暑い空気に包まれた住宅街のあちこちに、小さな罅が走った。
その小さな×印から、一斉にモワモワと真っ白な冷気が漏れ出す。
「なんだ、あれ、煙……?」
帰宅途中だったスーツの男性が、道路を照らすオレンジ色の街灯を見上げた。
街灯に白い靄がまとわりついている。
火事だろうか、と首を傾げた瞬間、街灯が凍りついて割れた。
男性は悲鳴を上げて走って逃げ出した。
別の道、塾帰りの高校生が自動販売機でジュースを買おうとすると、
その販売機に白い冷気がまとわりついた。
目の前の自動販売機が真っ白に凍りつき、高校生は腰を抜かした。
「ひっ!!」
同じ頃、羽心は二階の自室で勉強をしていた。
音が聞こえて、羽心は窓のカーテンを開ける。
「何?」
窓外の信じられない光景が目に飛び込んできた。
駐車場に停めてある車や、周囲の窓などが見る見る凍りついていく。
「え? 何これ?」
羽心は自分の目が信じられず、目を擦った。
藪の中のお雪が×印の罅にさらに冷気を吹き込み、罅が音を立てる。
お雪が身を引くと、×印から黒い煙が湧き出て、×印の罅が少しだけ大きくなる。
「この程度の恐怖じゃ、罅が大きくならないのよね。
生き物を凍らせれば恐怖も大きいから、大きくなるはずだけど……」
お雪は溜息をついた。
それを、木々の陰から勇気とディアーナが覗いていた。
キユウは勇気に囁く。
「勇気、エルフ、このままじゃ、見捨里市が凍りつく。急いで倒さないと」
「分かってるわ」
「でも……」
「なんだ?」
木々の間から見えるお雪は、悩んだ表情で藪から出て行った。
勇気は魅入られたように、ディアーナは真剣な表情でそっと追いかける。
「おい、勇気、エルフ! 何してる」
お雪の後を、勇気とディアーナは静かにつけていった。
勇気とディアーナは小声で話している。
「さっき、お雪が小声で『恐怖を与えないと』って言ったわよね?
って事は、お雪は恐怖を原動力にしているのかしら?」
「そうだと思う……」
怪は人々の恐怖を原動力にして動いているらしい。
人々の希望を原動力にしている妖精とは大違いだ。
それを知ったディアーナは、「人と怪は共存できない」と嘆いていた。
勇気は、彼女を見て複雑な表情になった。
「やっぱり……怪のお雪ちゃんを倒さなきゃいけないのかな……?」
~次回予告~
見捨里市に雪女の力がさらに強く漏れ出した。
このままでは、見捨里市が雪女の力によって氷の町になってしまう。
しかし、お雪はどうしても生き物を殺したくないという。
お雪が抱く「決意」は、果たして何なのか……。