雪女のお雪は、たった一人で江戸の町を彷徨っていた。
お雪は見捨里市を凍り付かせるべく、彼女の力を見捨里市に送り込む。
次々と物体が凍り付く見捨里市。
どうやら、お雪は恐怖を与えないといけないらしい。
何故、お雪は人々を恐怖させようとしているのか。
彼女が抱く決意は、一体何なのか、勇気は複雑な気持ちになるのだった。
人っ子一人いない江戸の通り。
周囲の木造の建物を、月明かりが淡く照らしている。
そこを力なく彷徨うお雪は、まさに幽霊そのものだった。
勇気とディアーナは物陰に隠れながら、そんなお雪を尾行する。
「いい加減にしろ、勇気! 長屋に戻って怪を倒す方法を考えるんだ!」
キユウは勇気に、小声だが強い語気で言う。
「ミャー」
不意に、どこかで猫の鳴き声がした。
お雪は軒下に猫の母子を見つけて覗き込んだ。
子猫は熱があるのか、小さく震えていた。
それを心配して母猫が子猫の身体を舐めている。
「ミャー。ミャー」
母猫が子猫を元気づけるように必死に声をかけ続ける。
お雪はそんな親子をじっと見つめた。
「物を凍らせるより、生き物を殺した方が恐怖は大きいに決まってるわ。
試しに、この親子を凍りつかせてみようか……」
お雪は子猫にそっと近づき、じっと見た。
「ニャー!」
母猫が不安げにお雪を見上げた。
「二匹同時に殺すよりも、子だけを殺した方がお前の恐怖は大きいんだろうね」
母猫が異変を感じて身を硬くした。
「私が長屋の子供達にいじめられて殴られた時に、
巳之吉おとっつぁんもそんな不安な表情をしてたわね」
警戒心を強めていく母猫を、お雪は冷たく見つめる。
「子猫の事が心配なんだね。だったら、目の前で我が子が凍ったら、さぞかしショックだろうね。
さぞかし恐怖も大きいだろうね。ふふふっ、ふふふふっ」
お雪はそう呟くと、熱に浮かされている子猫を睨みつけた。
「ニャー!」
「シャアアアアアァ!」
猫が一際大きく鳴いた瞬間、お雪が冷たい息を吹き出し、子猫の顔に冷気がかかる。
母猫は毛を逆立てて、お雪に飛びかかったが、お雪の冷気は治まらない。
子猫の頭がうっすらと白くなっていく。
「シャーッッ!」
母猫がお雪にもう一度飛びかかろうとした、その時。
「ニャー!」
子猫が元気に鳴き声を上げた。
お雪が程よい冷気で熱を下げたのだ。
「ニャァー!」
母猫が明るく鳴いて、子猫と頬を擦り合わせる。
その様子を見てお雪が微笑んだ。
「元気に暮らすんだよ」
お雪は猫の親子に声をかけると、ゆっくりと立ち上がった。
「今の私には生き物を殺すなんて出来ない」
お雪の頬を一筋の涙が流れた。
勇気、キユウ、ディアーナは、その一部始終を見ていた。
「ねえ、僕達は、お雪ちゃんを本当に倒さないといけないの?」
「あたしには、見逃す事しかできないわ」
歩き去って行くお雪を見つめる勇気の気持ちは、辛くなっていた。
今の質問はキユウだけでなく、自分への問いかけでもある。
「さっき、×印に冷気を吹き込んで、見捨里市を凍らせていたのを見ただろ?」
「そうだけど……。でも……」
「怪は怪だ」
「キユウ……」
「お雪! お雪!」
巳之吉の声が背後から響いてきた。
後ろを見ると、巳之吉の姿が通りの奥から近づいてくる。
しかし、勇気とディアーナが向き直った時には、お雪の姿は既になかった。
「彼に話を聞こう」
キユウの耳打ちに従って、勇気は巳之吉の前に出た。
「お願いです。話を聞かせてくれませんか?」
巳之吉は立ち止まった。
~次回予告~
お雪の正体が雪女であるという真実を、巳之吉は知ろうとしていた。
それを伝えるかどうか、勇気達は迷った。
見捨里市か、巳之吉か……どちらを取るのだろうか……。