見捨里市立博物館でエジプト文明に関する遺産を見ていた勇気と羽心だったが、
突然、羽心が謎の唸り声と共に意識を失ってしまう。
何の前触れもなく倒れた羽心に、勇気は不安になる。
一方、ディアーナとノノはジャネットから怪奇現象の調査依頼を受け、
原因を調査する事になったが……。
「そういえば、あの本には軍を率いて祖国を解放した後、
敵軍に捕らえられ、19歳の若さで処刑された……って書いていたわ」
「かなしいね、おねえちゃん」
ディアーナとノノは、ジャネットの依頼で見捨里市を周っていた。
しかし、この時間なのにやけに静かだ。
どんな怪奇現象が起こったのだろうか。
ディアーナとノノには、全く分からなかった。
「まともに情報収集ができないし、書斎に行くしかないわね」
「うん」
人っ子一人いない以上、聞き込みをする事はできないと判断したディアーナとノノ。
仕方なく、ディアーナとノノは、書斎に向かった。
一方、勇気はというと。
(羽心、大丈夫かな……)
病院の待合室でソファに座り、不安げな表情を浮かべていた。
あの後、博物館の係の人に救急車を呼んでもらい、羽心と病院に移動したのだ。
(だけど、どうして急に……?)
羽心は、朝からずっと元気だった。
風邪も引いていないし、体調も崩していない。
それなのに……。
勇気がそう思っていると、白衣を着た一人の女性がやってきた。
「そこにいたのね」
「お母さん」
この病院で看護師をしている、勇気の母親だ。
「羽心は大丈夫なの?」
勇気は立ち上がると、母親の下へ駆け寄った。
「病院は走っちゃ駄目よ」
「ねぇ、羽心は?」
心配する勇気の顔を見て、母親は優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。今は落ち着いて眠ってる。羽心ちゃんのご両親もすぐに到着するって」
「風邪? それとも食
勇気が矢継ぎ早に尋ねると、母親は急に怪訝そうな顔をした。
「それが、分からないの」
「どういう事?」
「どうして、羽心ちゃんの体調が悪くなったのか、検査しても全然分からないのよ」
「そんな……」
勇気はますます不安になる。
そんな彼の気持ちを察したのか、母親は落ち着いた口調で話を続けた。
「大丈夫。大きな病院で検査をすれば、きっと原因が分かるはずよ」
勇気の母親が勤めている病院は、小さな町の病院だ。
大きな病院には詳しく検査ができる設備が整っているという。
「だけど……」
母親の表情が曇った。
「これで、今日5人目なの。原因が分からなくて倒れた人……」
「えっ?」
「みんな、どこからか変な唸り声が聞こえたって言ってたわ」
「唸り声……」
羽心が言っていた事と同じだ。
「お母さん!」
勇気が母親の方に顔を向けた時。
「ここって……」
勇気は何故か、道路の真ん中に立っていた。
さっきまで病院にいたはずなのに。
「え……あれって……」
すると、道路の角から母親が現れた。
先ほどまで白衣を着ていたのに、
今は、普段家にいる時のような白いブラウスにデニムのパンツを穿いている。
「お母さん!?」
勇気は混乱しながらも、母親の下へ駆け寄ろうとした。
「ゆ……う……き……」
母親が、勇気の方に顔を向けた。
その顔は苦しそうに歪んでおり、胸の辺りに手を当ててふらふらしながら声を絞り出した。
「ゆう……き……に……げて……」
母親は、その場に崩折れた。
「お母さん!」
勇気は慌てて母親に駆け寄るが、街の道路の向こうを見て、思わず唖然となった。
道路の向こうに、数え切れないほどの人々が倒れていたのだ。
皆、気を失っていて、その顔は苦痛で歪んでいる。
「どうなってるんだ?」
「ウウゥゥウ、ウウウゥゥゥ、ウウゥゥウ、ウウウウウウウゥゥ」
突然、倒れた人々の向こうから、声が聞こえてきた。
不気味な唸り声は、だんだんと言葉になっていった。
「ウウゥゥゥウウウ……シメェェ、ルシメエエ……ウウウウウウウ、ルシメェェ……クルシメエエエ」
「苦しめ? がっ! あがが……」
勇気がそう繰り返した瞬間、胸が苦しくなった。
まるで、誰かに心臓を掴まれているようだ。
息ができず、あまりの苦しさで顔が歪んでいく。
「クルシメェェ、クルシメエエ」
「く、来るな……が、あ、ああ……」
何かが、勇気の方へ近づいてきた。
勇気は胸を押さえながら必死に逃げようとするが、あまりの苦しさで動けない。
「クルシメエェ……クルシメエエ……ニンゲンドモヨ、クルシメエエェェエエエ」
次の瞬間、人影が勇気に襲いかかってきた。
「うわあああ!!」
「勇気、大丈夫?」
ハッとすると、目の前に白衣を着ている母親が立っていた。
周りを見ると、病院の待合室だ。
「ぼ、僕……」
「急にどうしたの? ボーッとしてたわよ」
「ボーッと……」
また、夢を見たのだ。
(もしかして、さっきのは……)
勇気は、羽心達が何故急に倒れたのか、その理由に気づいた。
「このままじゃ、みんなが!」
「勇気、どうしたの?」
「お母さん、羽心の事ちゃんと見ててね!」
「えっ、ええ、もちろんそのつもりだけど」
「後は僕が何とかするから。この町は、僕が絶対に守ってみせるから!」
勇気はそう言うと、病院から飛び出した。
~次回予告~
勇気は、人間に憎しみを抱く「怪」が、町中の人々を苦しめている夢を見ていた。
そしてその「怪」は、かつて人間であった英雄がかけた呪いだった。
このままでは、見捨里市の住民全員が、呪いによって命を落としてしまう。
見捨里市を救うため、勇気はキユウ、ディアーナ、ノノと共に怪狩りの旅に出る事になった。