怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

勇気は予知夢により、見捨里市の住民が苦しむ光景を見た。
彼もまた、怪奇現象を引き起こしている存在により倒れた人々と同じように苦しめられる。
このままでは取り返しのつかない悲劇が起きてしまうと考えた勇気は、
怪奇現象を起こす「怪」を止めるべく、キユウ達に会いに行くのだった。


3 - 灼熱の太陽の下で

「キユウ!」

 勇気は家に帰ってくると、父親の書斎に駆け込んだ。

「キユウ、大変なんだ!」

 だが、部屋の中にキユウがいない。

 いるのはディアーナと有翼の少女だけだ。

「君達は……誰?」

「あたしはディアーナよ」

「ノノだよ! ねえ、どうしたの?」

「実は……」

 勇気が事情を話そうとすると、頭上から声がした。

 

「勇気」

 見ると、天井付近にキユウが浮かんでいた。

「そんなところで何してるの?」

「いやぁ、窓の外を見てたんだよ。またあれが現れたからね」

「あれって!」

 勇気、ディアーナ、ノノは窓の外を見た。

 町の上空に、×印状の罅が浮かんでいる。

 罅の中から、黒い煙がゆらゆらと揺らめいていた。

「既にかなり罅が大きくなってるね」

「やっぱり、さっきの夢は!」

 勇気の見る夢には、不思議な力がある。

 このまま放っておいたら、夢の出来事が現実になってしまうのかもしれない。

 勇気は自身が見た夢と羽心が倒れた事をキユウ、ディアーナ、ノノに話した。

 

 少年説明中……

 

「そういう事だったのね……」

 ディアーナは真剣な表情で、顎に手を当てる。

「今回の怪らしく厄介な現象が起きているようだね」

「今回はどんな怪なの?」

「君達も知ってると思うよ。……ツタンカーメン。古代エジプトの王だ」

「えええ?」

「ジャネットおねえちゃんと、おなじ……」

「彼は人間に強い怨みを抱いている。

 このまま放っておいたら、町のみんなはツタンカーメンの呪いによって、

 苦しみながら死んでしまうだろうね」

死ぬ!??

 人間への憎しみから、歪んでしまったツタンカーメン。

 彼が起こす怪奇現象は、ただ、体調が悪くなるだけではなかったのだ。

「そんなの絶対駄目だ!」

「みんながかわいそうだよ!」

 羽心や母親達を死なせたくない。

 勇気、ディアーナ、ノノはキユウを見つめた。

「ああ、君達の気持ちは分かってる。だから、僕はここにいるんだよ」

 キユウは幽霊なので、物を触ったり持ったりする事はできない。

 しかし彼には、時と場所を超えて、怪のいる時代へ行く事ができる力がある。

「さあ、行くよ」

「うん!」

 キユウは左手に嵌めた漆黒のレザーグローブを見せた。

 勇気は怖がるが、ここで逃げるわけにはいかない。

 ディアーナとノノも武装し、勇気はポケットの中からグローブを取って右手に嵌めた。

 勇気のグローブには太陽のマークの羅針盤、

 キユウのグローブには月のマークの羅針盤がついている。

 キユウはグローブを嵌める事によって、時空を超える穴を作り出す事ができるのだ。

「よし。じゃあ、そこの本を取るんだ」

 キユウは、部屋の隅にある本棚を指差した。

「一番上の段の右端にある本だよ」

「ツタンカーメンを倒すための道具って事だね!」

 キユウは、いつも怪を倒すためのアイテムを選んでくれる。

 今回は本のようだ。

 ツタンカーメンを倒す呪文が書いてある魔術の本だろうか。

 勇気は期待しながら、その本を手に取った。

【とっても楽しい エジプト観光ガイド】

 その本には、表紙にこう書かれていた。

「へっ?」

「見ての通り、気楽に読める観光ガイドだよ」

「ええっと、これでツタンカーメンを倒す事ができるの?」

「ああ、多分ばっちりだ」

「ばっちりって!」

「だいじょうぶだよね、おにいちゃん?」

「ああ、大丈夫さ。さあ、行くよ」

「えっ、あ、ちょっと待って」

「待てないよ。早く怪を倒さないと、この町が大変な事になる」

「みんな、しんじゃうからね」

 キユウはグローブを嵌めた左手を傍の壁の前にかざし、呪文を唱えた。

時空貫通(カオス・ゲート)

 螺旋状に風が舞い、壁に光が渦巻く。

 その渦が大きくなって、壁に大きな渦の穴ができた。

 まるで巨大な掃除機のパイプが壁に現れたようだ。

 先に向かって強い風が起きている。

「靴も忘れないようにね」

「う、うん!」

 勇気はあらかじめ部屋に置いていた靴を手に取った。

 瞬間、風と光が増し、壁にできた大きな渦が光り輝いた。

「行くぞ!」

 キユウ、ディアーナ、ノノが、光の渦の中に消えた。

「ああ、ちょっと!」

 観光ガイドでどうやってツタンカーメンを倒すのか、キユウからまだ教えてもらっていない。

 羽心と同じで、キユウもいつも肝心な事を教えてくれない。

「どうして、僕の周りはそういう奴ばっかりなんだよ!」

 勇気は呆れながらも、本を握り締めた。

 そして意を決すると、光の渦の中に飛び込んだ。

 

「んんんん!」

 光のトンネルの中を飛んでいき、目が回り、頭が回る。

 何度飛んでも慣れる事はないが、勇気は耐え続ける。

 やがて、光のトンネルの奥に、乾いた土の地面が見えてきた。

 

「あいたたた」

 勇気は勢いよく地面の上に落ち、尻もちをついてしまう。

「あちちちち!」

 途端に、地面に触れた。

 手足が燃えるような熱さに襲われ、勇気は思わず飛び上がった。

「熱いわ……森の声が聞こえない」

「あついよ……」

 ディアーナは暑さに耐えられず、髪が淡く光り、ノノを思わず睨みつける。

「そりゃあ、熱いと思うよ。ここはエジプトだからね」

 宙に浮いたキユウが涼しげな顔で言った。

「エジプト?」

 勇気は辺りを見回す。

 空には灼熱の太陽が照りつけ、辺り一面は荒れた大地がどこまでも広がっていた。

「勇気、靴を履いて!」

「えっ、あ! あちちちち!」

 勇気は慌てて靴を履いた。

「ねぇ、ここは本当にエジプトなの?」

「ああ、またタダで海外旅行に来られたね」

「旅行気分になんてなれないってば!」

 勇気はそう言いながらも、周りの景色を見て首を捻った。

「何だか、イメージしていたエジプトとは随分違うんだけど……」

 勇気のイメージにあるのは、砂漠の中にピラミッドやスフィンクスがある風景だ。

 しかし、砂漠もピラミッドもなく、ただの荒野といった風情だった。

 ディアーナとノノも苦しそうな顔をしている。

「おにいちゃん、ピラミッドはどこにあるの?」

「ああ、あれはここからかなり離れた場所だね」

「じゃあ、どうしてこんなところに?」

「ツタンカーメンがここにいるからさ」

「こんなところに?」

「王様だったら、ピラミッドの近くとか宮殿とかにいるんじゃないの?」

 勇気がそう言うと、キユウは傍にある岩壁の方を見た。

「あの岩壁の下に、ツタンカーメンがいるはずだ」

「えっ!」

 勇気、ディアーナ、ノノは思わず身構える。

 もしかしたら、岩壁の下にツタンカーメンが大勢の兵達と共にいるのかもしれない。

 勇気は、キユウ、ディアーナ、ノノと共に岩壁の端へと近づくと、恐る恐る下を眺めた。

 

「あれっ?」

「ひとがいっぱいいるよ」

 岩壁の下には、大勢の人達がいた。

 頭にターバンを巻き、白いローブのような服を着た人達が、何か作業をしている。

 その中には、勇気が普段見慣れている形のズボンとシャツを着た人達も交じっていた。

「何、あの人達……」

 勇気が戸惑いの声を上げた。

「現地の作業員と、イギリスから来た政治家とか研究者だろうね」

「えらいひとがいっぱいだ!」

「え? ここって古代エジプトじゃないの?」

「そんな事、一言も言ってないだろう。ここは、1925年のエジプトだよ」

「ええ? どうしてそんな時代に?」

「ツタンカーメンが王だったのは、古代エジプト時代、つまり紀元前の事だ。

 だけど、その頃のツタンカーメンは人間だった。用があるのは、怪になった彼だからね」

「ええっと、それってつまりどういう事?」

「言っただろう。彼は人間に強い怨みを抱いているって。彼はその怨みを持ったまま死んだ。

 そして、1925年に棺が開けられて、怪になって外に出てしまったんだ」

「人間が、怪に……?」

 今まで出会ったメデューサともネッシーとも雪女とも違う。

 勇気はごくりと唾を飲む。

 一方で、ディアーナは明るい表情をしていた。

「それって、やっぱり伝説の英雄じゃない。

 伝説や歴史はあやふやなものだけど……でも、怪奇現象が起こっているのは確かよね」

「……まあ、それよりも」

 キユウはしばらく話した後、優しく微笑んだ。

 

「みんなでやれば、きっと倒せる。――さあ、怪狩りの時間だ!




~次回予告~

見捨里市に謎の病をもたらしたツタンカーメンの呪いを解くため、
20世紀のエジプトに辿り着いた勇気、キユウ、ディアーナ、ノノ。
そこで勇気達が出会ったのは、意外な人物だった。
彼もまた、勇気達同様に、ツタンカーメンを探しているという。
一体どんな人物なのだろうか。
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