ツタンカーメンの呪いを解くべく、20世紀のエジプトにやってきた勇気達。
人間に強い怨みを抱いているツタンカーメンを倒す事は、難しい。
だがそれでも、勇気達は逃げずにエジプトを歩いていく。
すると、四人はとある人物と出会うのであった。
「ここって何なの?」
勇気はキユウ、ディアーナ、ノノと共に、岩壁の下へとやってきた。
上から見た時は、岩だらけの荒れた大地かと思ったが、
岩壁の側面に大きな横穴がいくつも開いていた。
人々は、その穴の周辺で土を運んだり、何かを調べたりしている。
「彼らは遺跡の発掘作業をしているんだ。
ここには古代エジプト時代の歴代の王の墓がいくつもあるからね」
「お墓なんかどこにあるんだよ」
勇気は辺りを見回すが、墓石などどこにもなかった。
「君達の顔に見えているじゃないか! あの穴がツタンカーメン王の墓の入り口だよ!」
「え? そ、そうなの?」
三人が後ろを見ると、白いワイシャツにズボンを履き、短い黒髪に口髭をたくわえた、
優しそうな中年男性が立っていた。
「ここは『王家の谷』と呼ばれているんだよ。
長い間、存在が忘れられていたんだけど、
ジャン=フランソワ・シャンポリオンがヒエログリフを解読してくれたおかげで、
ここを発見する事ができたんだ。
穴は一つ一つが歴代の王達の墓になっていて、
王家の谷で最初に墓を作ったと言われているトトメス一世の墓もあるし、
あっちにはラムセス二世の墓もあるよ。
凄いだろう? ロマンを感じるだろう?」
「うん! おじさん、すごいね!」
「え、ええっと……」
男性とノノは、キラキラと目を輝かせながらそう言った。
博物館を案内していた時の羽心と同じ感情だが、二人とも勇気より年上だ。
勇気とディアーナが戸惑っていると、男性は首を傾げた。
「君は誰の子供だい? あの子は誰だい?」
「えっ、あ、えっと、僕は」
勇気が名前を言おうとすると、男性の傍に部下らしき人が駆け込んできた。
「ハワードさん! ジョンの奴が!」
「まさか、またか?」
ハワードと呼ばれた男性は、血相を変えて部下の人と共に走っていった。
「何だったんだ、あの人?」
「なるほど……」
勇気がキョトンと立ち尽くすと、キユウが呟いた。
「彼がハワードか」
「キユウ、あの人知ってるの?」
「ああ。彼は世界的に有名なイギリスの考古学者、ハワード・カーター。
彼がこの場所で、ツタンカーメンの墓を発見したんだ」
「ええ? そうなの?」
「ハワードさん、かっこいい!」
「あの人、凄い人だったんだ……」
羽心は、ツタンカーメンの墓は世紀の大発見と呼ばれていたと言っていた。
そんな風には全く見えなかった。
「……というか、あそこの穴がツタンカーメンの墓だって言ってたよね?」
「って事は、この中に怪がいるの?」
だが、前方に見える岩穴には、たくさんの研究者や警備の人がいて、
とても簡単には近づけそうにない。
「いや、あれだけ人がいて、騒ぎになっていないという事は、墓の中にもう怪はいないだろう。
恐らく、魂だけが抜け出してどこかに移動したんだ」
「そんな……じゃあ、どこを探せばいいか分からないじゃないか」
「ハワードさんを追うんだ。彼なら、可能性のありそうな場所を知っているはずだ」
「よし、追いかけるわよ!」
キユウの言葉に、勇気、ディアーナ、ノノは頷く。
四人は、急いでハワードの元へ向かった。
ハワードは、少し離れた場所にあるテント小屋にいた。
テントの入り口には大勢の人達が集まっており、テントの中を見ながら、何故か怯えている。
勇気、ディアーナ、ノノは彼らを見て戸惑いながらも、中を覗き込んだ。
「えっ?」
テントの中には簡易的なベッドがあり、その上に、若い男性が苦しそうな表情で寝ていた。
「ジョン、しっかりしろ! すぐに医者が来るからな!」
ハワードは苦しんでいる男性の手を握り、必死に励ましていた。
「ジョンの奴、さっきまで元気だったのに」
「これで今週7人目だぞ」
「まさか、あの噂は本当なんじゃないのか?」
「ツタンカーメン王の呪い……」
「やっぱり、王の棺を開けたりしたから……」
「しっ、ハワードさんに聞こえるぞ」
テントの入り口で、人々が怯えながらそう話していた。
「これって……」
ディアーナの顔が険しくなる。
見捨里市で起きている怪奇現象と全く同じだったのだ。
その時、黒いバッグを持った医者が、テントの中に駆け込んできた。
「先生、早く診てください!」
医者はベッドの上のジョンをしばらく診察すると、首を大きく横に振った。
「ハワードさん。他と同じだよ。原因は全く分からん」
「そんな……」
ハワードはジョンの方を見ると、悲しそうな表情を浮かべた。
「何とかしなくっちゃ……」
勇気は、拳を強く握り締める。
羽心や見捨里市の人達だけではない。
ここにいる人達も、怪の力によって苦しんでいるのだ。
「勇気、今から言う事を彼に伝えるんだ」
キユウは勇気に耳打ちした。
霊であるキユウは、人間では勇気と退魔の力を持つ者以外には見えない。
そのため、人間と話をするためには、勇気が代わりに話さなければならなかった。
勇気はキユウの話を聞いて頷くと、ハワードに近づいた。
「あの、僕、『ジョンさんや皆さんを助けられる方法を知っています!』」
「なんだって!?」
ハワード達が一斉に勇気の方を見る。
だが、医者だけは眉間に皺を寄せていて勇気を睨んだ。
「君、親はどこにいるんだね?
大方、ツタンカーメンの墓を見学しに来た学者か政治家の子供だろう?
大人をからかっちゃいかん。とっととテントから出て行くんだ!」
医者はそう言うと、勇気をテントの外に追い出してしまった。
勇気はテントに入ろうとするが、外にいた人達が入り口を塞いでしまう。
ノノは落胆し、ディアーナは不快な表情になる。
見知らぬ子供が助ける方法を知っていると言っても、全く説得力がなかったのだ。
「キユウ、どうにかならないの?」
「うーん、こうなったら、自力でツタンカーメンを探すしかないね」
「自力でって言われても……」
勇気、ディアーナ、ノノは王家の谷を見つめる。
王家の谷はかなり広く、手がかりもなしにツタンカーメンを見つけ出す事は難しい。
すると、ハワードが勇気の傍にやってきた。
「君、本当にみんなを助ける方法を知っているのかい?」
「えっ、えっと、それは……」
「知っていると言うんだ」
「し、知ってます! 僕はみんなを助けるためにここに来たんです!」
勇気とハワードは、互いの目をしっかりと見つめる。
ハワードは真剣な表情でそう言った。
「君が研究者なのかは分からない。だけど、嘘をついているようには思えない。
私は君を信用するよ。だから頼む、教えてくれ! 私はみんなを助けたいんだ!」
「いい人ね」
ディアーナもまた、ハワードを信頼するのだった。
~次回予告~
勇気達がエジプトで出会ったのは、考古学者のハワード・カーターだった。
彼はツタンカーメンの墓を発見した、偉大なる人物だ。
だが、ハワードもまた普通の人間であり、キユウの姿は見えなかった。
さらに、子供と大人の違いもあり、勇気は疑われてしまう。
誤解を解くためにも、勇気達はハワードと行動を共にするのだった。