ツタンカーメンが怪になった原因、それは人間達が彼の信仰を奪ったからだった。
悲劇に彩られた生涯から人間に強い怨みを抱くようになるのも、無理はなかった。
ツタンカーメンを止めるべく、勇気達は動くが、
ピラミッドの中で太陽と月のマークが描かれた部屋に入る。
すると、勇気達は時空を繋ぐ穴に飲み込まれてしまった。
「たたた……」
勇気とディアーナはどこかに着地した。
また、勇気はお尻から落ちてしまった。
傍を見ると、ハワード、キユウ、ノノもいる。
「ハ、ハワードさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、一体何が起きたんだい?」
「それは、ええっと」
勇気は助けを求めようとキユウの方へ顔を向けた。
「えっ?」
キユウの後ろに、何故か空が広がっている。
三人が周りを確認すると、階段のように積み上げられた石段の上だった。
「ここってまさか!」
「勇気君、ディアーナ君、ノノ君、ここはピラミッドの頂上だよ!」
ハワードが真っ赤な顔で高揚しながら叫んだ。
「わあ、ピラミッドだ!」
「ほらっ、あそこに見えるのはスフィンクス! ここはギザだ!
凄いよ、一瞬で王家の谷から移動したんだ!」
「キユウ、どういう事なの?」
勇気は、石段から落ちないようにキユウの傍に寄った。
ノノは空を飛び、ディアーナは慎重に立っている。
「どうやら、あの部屋には時空を繋ぐ穴があったようだね」
「それって、時のトンネルの事? あの太陽と月のマークが関係してるの?
っていうか、どうしてあの部屋にマークがあったんだよ?」
「それはまた、いつか詳しく話すよ。残念ながら、今はそれどころじゃない」
「えっ?」
「おい、あれはなんだい?」
突然、ハワードが声を上げ、上空を指差した。
そこには、×印の罅が浮かんでいた。
そしてその近くに、浮遊している影があった。
豪華な前垂れとローブ、頭には縞柄の頭巾を被り、蛇と禿鷲の飾りが取り付けられていて、
顎には棒のような付け髭がある。
「あれって!」
勇気よりも早くハワードが声を上げた。
「ツタンカーメンだ!」
「アアアアアアアアァァァ」
ハワードの声に反応するかのように、ツタンカーメンが叫んだ。
「これが怪なのか?」
ハワードは怯えながらも興奮している。
ツタンカーメンとの戦いが、始まった。
ノノは真っ先に鳥に変身し、翼を羽ばたかせて衝撃波を飛ばす。
だが、ツタンカーメンには、大したダメージを与える事ができない。
「かぜのせいれいよ、みえざるしょうげきを! Wind Blast」
「アガァ」
ディアーナは呪文を唱えて、強力な衝撃波をツタンカーメンに飛ばした。
ツタンカーメンはまともに攻撃を食らい、逆に苦しんだ。
「今だ! 勇気、本を開くんだ!」
「本?」
キユウは勇気の横に立ち、指示を出した。
勇気は観光ガイドを持っている事を思い出した。
「32ページを開け!」
「わ、分かった!」
勇気が慌ててページをめくると、黄金のマスクの写真が目に飛び込んできた。
「そのページをツタンカーメンに見せるんだ!」
「うん!」
勇気は開いたページをツタンカーメンに向けようとした。
「クルシメエエエエエエエ」
瞬間、ツタンカーメンが激しく身体を震わせ、身体中から黒い靄が吹き出した。
ノノは翼を羽ばたかせて黒い靄を吹き飛ばす。
攻撃を防がれたのか、ツタンカーメンはノノに向かって襲いかかってきた。
ツタンカーメンはノノの胴体を掴むと、そのまま石段に押し付けた。
「いたい!」
「があっ!」
ノノは集中を切らして人の姿に戻る。
その衝撃で、勇気が持っていた観光ガイドが落ちてしまう。
黒い靄がハワードを襲い、胸を押さえる。
ハワードはノノの傍へ行こうとするが、胸が苦しく、動く事ができない。
「があ、ああ……」
跪いたハワードの前には、開かれたままになった観光ガイドが落ちている。
「クルシメエェェ、クルシメエエエ」
ツタンカーメンは、ノノを石段に押し付けながら叫び続ける。
その目は怒りに満ち、我を忘れているように思える。
「クルシメエェェ、クルシメエエエ、クルシメエエエエエ」
「やめなさい!」
ディアーナは風を飛ばし、ノノを掴む腕を無理矢理引き剥がす。
自由になったノノは再び鳥に変身して黒い靄を吹き飛ばすが、このままでは本が取れない。
「クルシメエェ……クルシメエエ……ニンゲンドモヨ、クルシメエエェェエエエ」
必死でノノは翼を羽ばたかせているが、徐々に疲れが見えてくる。
ツタンカーメンがノノに襲い掛かろうとした、その時。
「やめろ!」
「アァァァァ」
ハワードの、悲痛な叫び声が響いた。
「ツタンカーメン、あなたはこんな事をする人じゃない!」
「グ……?」
「私は、10代の頃にあなたの事を知った。そして、あなたの墓を見つけようと人生をかけた」
ハワードはツタンカーメンを睨み、近づく。
「ツタンカーメンなど存在しない……墓などない、とみんなに笑われた。
だけど、私は、あなたがいたと信じた。あなたがいた事を、みんなに知ってほしかった。
だから私は、ここにいるんだ!」
ハワードは、ツタンカーメンの目の前に立つと、持っていた物を突き出した。
それは、勇気が落とした観光ガイドだ。
「私は……間違っていなかった!
あなたは、あなたは、こんなにも、みんなに愛されるんだ!」
開かれたページには、ツタンカーメンの黄金のマスクの写真が載っていた。
エジプトの博物館で展示されている風景だ。
マスクの前には、数え切れない人達が集まっていた。
皆、ツタンカーメンに注目していた。
「ア、ア、アァァ」
瞬間、それを見たツタンカーメンの動きが止まった。
「その人のおかげだ」
ふと、キユウがツタンカーメンに言った。
「あなたは歴史から消された存在だった。だけど、ハワードさんがあなたの墓を見つけてくれた。
確かに、あなたは悲劇の王だ。しかし今は違う。
今は、あなたは古代エジプトの歴代の王の中で、最も有名な王なんだ」
「アア、アアアアアァァ」
「ツタンカーメン!」
瞬間、ノノが元の姿に戻り、ツタンカーメンが光り輝いた。
ハワードとツタンカーメンは、互いに手を伸ばす。
「ア……リ……ガ……ト……ウ」
その顔は、笑っていた。
次の瞬間、ツタンカーメンは黒い煙になり、風に舞い、消え、罅も消滅した。
勇気達はそれを見つめながら、眩しい光に包まれた。
気がつくと、勇気達は発掘現場の近くに立っていた。
時刻は夕暮れ時で、作業員達が発掘作業を終え、テントへ戻ってくるところだった。
「さあ、みんな食べてくれ! 腹が減っては発掘作業はできないからな!」
作業員達に食事を配っているのは、ハワードである。
ハワードの傍には、ジョンもいる。
ジョンは笑顔でハワードの手伝いをしていた。
その様子を、勇気、キユウ、ディアーナ、ノノは岩壁の上から見ていた。
「ジョンさん、元気になったみたいだね」
「ああ、見捨里市も元に戻っただろうね」
「よかった。今回はハワードさんがいて、本当に助かったよね」
「すっごい、すっごいひとだったよ」
ハワードがいなければ、あのままツタンカーメンに殺されていたかもしれない。
「そう……だね」
キユウはそう答えながら、ふと、自分の手を見つめ、勇気の肩にそっと手を伸ばす。
しかし、幽霊であるキユウに、勇気を掴む事はできない。
「どうしたの?」
「えっ、いや、何も?」
「さあ、帰ろう。僕、お腹減っちゃった」
「あ、ああ」
勇気、ディアーナ、ノノは屈託なく笑う。
キユウも、優しい笑みを勇気に見せた。
「英雄は、常識では語る事ができない強さがある。だから、怪でもあるのよね?」
「……ああ」
~次回予告~
ハワード・カーターによってツタンカーメンは浄化され、呪いは解けた。
勇気達は、エジプトと見捨里市を救ったのだ。
だが、ジャネット、ディアーナ、ノノの休みは終わらなかった。
次に現れる怪は、小さくも恐ろしい、あの生物である――