夜の路地で突然、人間と小鳥が消えた。
そんな怪奇現象を起こしている怪は、ツチノコであった。
しかも、ツチノコはただの魔物ではないという。
ディアーナとノノは、ツチノコの調査をする事になったが……。
「ねぇ、見て見て!」
日曜日の昼間。
勇気の家に、羽心の明るい声が響いていた。
羽心は書斎にある椅子に座って、勇気に髭付き眼鏡を見せていた。
「どう? 一周回ってお洒落でしょ」
「そんなのどこで付けるんだよ」
「もちろん、誕生日会よ。みんな笑ってくれると思うのよ」
羽心は髭付き眼鏡をかけると、笑顔でウィンクした。
来週は、クラスメイトの蒲谷亜衣の誕生日なのだという。
そこで、仲の良い女子達が集まって、誕生日会を開くらしい。
羽心は朝から100円ショップやおもちゃ屋を回って、
会で使うクラッカーやパーティーグッズを買ってきたのだ。
髭付き眼鏡もその1つで、羽心の傍の机の上にはそれらが入った買い物袋が置かれていた。
最近、羽心は亜衣と仲が良く、ネッシー騒動の時も、
亜衣は羽心と同じように怪奇現象に興味を持っていた。
彼女も不思議な話が大好きなので、羽心と相性が良いのだろう。
「だけど、どうして買い物帰りに僕の家に寄るんだよ? オレンジジュースも勝手に飲んでるし」
勇気は、羽心が手にしているオレンジジュースを見た。
「あら、勝手になんか飲んでないわよ。
おばさんに、いつでもジュース飲んでいいからねって言われてるんだから」
「今、お母さんは仕事でいないだろ」
「いない時も飲んでいいからねって言われてるの。だから大丈夫」
羽心は美味しそうにジュースを飲んだ。
(まったく、どうしていつも僕の家に来るんだよ)
羽心は用もないのに、よく勇気の家にやって来る。
他人のジュースも飲むほど自己中心的な羽心に、勇気は呆れていた。
「そうそう、勇気にプレゼントがあるのよね」
羽心は髭付き眼鏡を外すと、買い物袋の中を探って何かを取り出した。
「ジャジャーン! 可愛いでしょ!」
それは、小さな藁人形のキーホルダーだ。
「何これ?」
「100円ショップで見つけたの。見習い藁人形のわら夫君って言うのよ。可愛いでしょ?」
「可愛い? これが?」
どう見ても不気味すぎる。
羽心のセンスはよく分からない。
「私も、わら夫君の恋人のわら子ちゃんのキーホルダーを買ったんだ。
明日から学校用のリュックに付けるつもり。
だから、勇気もわら夫君をリュックに付けてよね!」
「これを、リュックに? う~ん……」
勇気はどう答えればいいのか困り果ててしまった。
「ところで、ちょっと気になる事があるの……」
羽心は、急に真剣な表情になった。
「何、気になる事って?」
「笑わない?」
「う、うん」
「あのね……」
羽心は一瞬言うのを
「空中に浮かぶ、変な罅を見たような気がするの」
「えっ!」
勇気の脳裏に、あの×印状の罅が思い浮かんだ。
また、罅が現れたのだろうか。
すると、羽心は困惑したような表情を浮かべた。
「だけど、いつ見たのか全然思い出せないの」
「どういう事?」
「見たような気はするんだけど、それがいつ、どこで見たのかは記憶にないの」
「記憶に、ない……?」
羽心は、以前怪奇現象が起きた時に見た罅について、かすかに覚えているようだ。
怪が消えれば、その怪が起こした全ての事が人々の記憶から消えるはずなのに、
羽心の記憶の中に残っている。
勇気が戸惑い、何も言えずにいると、羽心が苦々しい表情になった。
「私の事、呆れてるでしょ?」
「えっ、いや、そういうわけじゃないけど」
説明するにはあまりにもややこしすぎるため、適当にやり過ごすしかない。
「多分、羽心はオカルト系の本の見すぎなんだよ。
ほら、この藁人形だって、普通の6年生だったら喜んで買ったりしないしさ」
勇気は無理矢理話題を変えようと、藁人形のキーホルダーを見ながら笑った。
「!?」
突然、大きな音が響いた。
見ると、羽心が机を叩いて立ち上がっていた。
「真剣に話して損した!」
「う、羽心?」
「どうせ私はオカルトオタクよ。センスもないわよ。
悪かったわねぇ、変なキーホルダーもプレゼントしちゃって!」
「え、えっと」
「ジュースも勝手に飲んじゃってごめんなさいね!
っていうか、家に勝手に来ちゃって悪かったわね!」
「あの、羽心」
「もういい! 私、帰る!!」
羽心は書斎のドアを勢いよく開けると、玄関へと歩いて行った。
「あっ、ちょっと!」
勇気は慌てて羽心を追いかけるが、羽心はそのまま外へ出て行ってしまう。
羽心は一度も振り返る事なく、道路の角を曲がって行った。
「何なんだよ……」
さっきまで機嫌がよかったのに、急に怒り出してしまった。
羽心の気持ちが理解できない。
勇気は目の前で立ち尽くしながら、呆然となっていた。
「いなくなった??」
ふと、すぐ横の道路から声がした。
振り返ると、近所のおばさん達が何やら神妙な面持ちで立ち話をしている。
「ええ、家に帰ってこなかったらしいよ」
「スマホも全く通じないらしいわ」
「流石に、それは心配ね」
「あの、どうしたんですか?」
勇気は、話の内容が気になり、おばさん達に声をかけた。
「あら、勇気君、こんにちは」
最も親しくしている田中さんが、勇気の方を見た。
「それが大変なのよ。高橋さんの息子さんが、急にいなくなったんですって」
「ええ?」
高橋さんは確か、隣の地区に住んでいる若い男性だ。
話した事はないが、朝の通学路でよく見かけるので顔だけは知っている。
ヨレヨレのスーツを着て、疲れ切った表情をしているのが印象的だった。
「息子さん、仕事の事で悩んでたそうよ」
「毎日遅くまで働いてたんでしょ?」
「仕事が嫌になって、家出でもしたんじゃないかしら?」
田中さんがそう言うと、他のおばさん達が大きく頷いた。
「家出かぁ……」
大人でも、家出をする事があるのだろうか。
羽心のコロコロ変わる気持ちと同じように、勇気にはよく分からない。
勇気は、おばさん達に挨拶をすると、家へ戻る事にした。
「あれ、ディアーナに、ノノ? 何をしてたんだ?」
玄関の前には、金髪の女性ディアーナと銀髪の少女ノノが立っていた。
「あたし、失踪事件を調査していたの。……ったく、あの自己中女め」
「自己中女って、羽心の事?」
「そうよ」
「それはやめろ!」
ディアーナに羽心を自己中と言われて、勇気は珍しく怒った。
幼馴染を侮辱されるのは、流石の彼も腹が立った。
「ごめんなさい」
「許すよ。……ところで、失踪って何?」
「突然、いなくなる事よ」
「あと、こうえんにいたことりさんも、いなくなっちゃったんだ」
「小鳥も……?」
高橋さんだけではなく、小鳥も消えてしまった。
勇気は家出だと思っていたが、ディアーナが「失踪」と言った事に、首を傾げる。
「とにかく、話は書斎に入ってからにしよう」
「ええ。彼も待っているから……」
「いたわ」
「キユウ!」
書斎のドアの向こうには、予想通り、キユウが立っていた。
~次回予告~
見捨里市から姿を消した高橋と小鳥。
原因はやはり、ツチノコという怪が起こした怪奇現象であった。
昭和時代、人々はツチノコを探していたのだが、それとこれと何の関係があるのだろうか。
真相を知るため、勇気、ディアーナ、ノノの三人はキユウが待つ書斎に行くのだった。