怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

来週の日曜日、蒲谷亜衣の誕生日パーティーを開く事になった。
羽心が買ってきた奇妙なグッズを見て、勇気は困惑する。
さらに、羽心が怪奇現象について覚えている事に勇気はますます困惑し、彼女を怒らせてしまう。
そして、勇気は高橋と小鳥が見捨里市から突然姿を消した事を知る。
こんな事を起こせるのは怪しかいない。
そう考えた勇気は、ディアーナ、ノノと共に、キユウが待つ書斎へ向かった。


3 - 可愛い怪

「キユウ、急にどうしたの?」

「僕が君達の前に現れる理由は一つしかないだろう」

「それって……」

 勇気はキユウを見つめた。

 

「高橋さんは、怪の力に襲われたんだ――」

 

 その言葉に、勇気の身体が強張る。

 怪は、いつ襲ってくるか全く予想がつかない。

 今回は完全に油断していた。

「犯人は分かっているわ」

「ことりさんをたすけなきゃ」

「……ディアーナ……ノノ……」

 ディアーナとノノには、分かっていたらしい。

「さあ、行くよ」

 キユウは書斎の壁の前に向かうと、グローブを嵌めた左手をかざそうとした。

「ちょっと、待ってよ! まだ心の準備ができてないよ!

 っていうか、どういう怪なのか教えてよ!」

 勇気はキユウの傍に駆け寄った。

「あー、今回は今までで一番小さな怪だよ。兎ぐらいかな。

 見た目もまあ、可愛いと言えば可愛いかもしれないね」

「可愛い……?」

 勇気は、雪女のお雪の顔を思い出した。

「大きさは兎ぐらいなんだよね?」

 そんな怪はいただろうか?

 勇気は、読んだ怪奇現象の本の内容を思い出そうとした。

「まっ、どんな怪かは実際に会ってからのお楽しみだね。エルフ達は知ってるだろうけど。

 ところで、今回は怪を倒すためにちょうどいい物を、羽心ちゃんが買ってきてくれたようだ」

 キユウはそう言うと、机の上を見た。

 そこには、買い物袋が置かれている。

「あっ、急に怒っちゃったから」

 どうやら、羽心は頭に血が上り、買い物袋を持って帰るのを忘れてしまったようだ。

「その中に、缶が入っているだろう。今回はそれが役に立ちそうだ」

「缶?」

 勇気が袋の中を見てみると、『ヘリウムガス』と書かれた缶が入っていた。

「これって何なの?」

「何だい、ヘリウムガスを知らないのかい?」

「ええっと、理科の授業で先生が言ってたような気もするけど、うーん……」

 勇気は思い出す事ができず、首を捻った。

 すると、ノノが明るい声でこう言った。

「ヘリウムガスすいこんだらへんなこえになるし、ふわふわふくらむよ」

「そ、そうか……」

 勇気はとりあえずポケットからグローブを取り出して右手に嵌めると、

 缶をしっかりと握り締めた。

「準備はいいようだね。さあ、怪を倒しに行くよ。――怪狩りの時間だ!」

 キユウはグローブを嵌めた左手を壁の前にかざして、呪文を唱えた。

時空貫通(カオス・ゲート)

 次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。

 勇気は慌てて部屋に置いていた靴を持つ。

 ディアーナ、ノノ、キユウに続いて、勇気も光の渦の中に飛び込んだ。

 

「んんんん!」

 光のトンネルの中を飛んでいく。

 やがて、光のトンネルの奥に、森が見えてきた。

「やああっ!」

 勇気は今度こそ尻もちをつかないようにとバランスを取った。

「よし」

「やったぁ!」

 勇気、ディアーナ、ノノは、茂みの上に見事に着地する。

「やった! やったよ、キユウ!」

 勇気はキユウに向かって笑顔でピースした。

「そんな事で喜んでいる場合じゃないよ」

「いいだろ、初めて上手く着地できたんだから!」

 勇気は満面の笑みで周りを見た。

 そこは、山の麓の野原で、野原の向こうに広場が見える。

 広場には、大勢の人達が集まっていた。

「なにしてるんだろう?」

 100人以上はいるようだ。

 家族連れが多く、皆、リュックを背負っていて虫取り網を持っていた。

 屋台もいくつも出ていて賑わっている。

「こんなところでお祭りかな……?」

「それなら、たのしそうだね」

 勇気はそう言いながら、ふと、ある事に気づいた。

「ここって、日本だよね? だけど……」

 皆、馴染みのある顔つきをしているが、勇気は違和感を覚えた。

 日本で間違いなさそうだが、彼らの着ている服がどれも古めかしかったのだ。

 ディアーナとノノは、楽しそうな様子で周りを見渡している。

「そう、ここは日本だよ。だけど、君の知っている時代じゃない」

「どういう事?」

「ここは、昭和50年……1975年の日本なんだ」

「ええ、40年以上も昔なの?」

 道理で、皆の服装が少し今と違うはずだ。

「何だか僕、凄い体験をしているような……」

「今更、何を言ってるのよ。あなた、紀元前や日本の江戸時代にも行ったじゃない」

「それはそうだけど、今まで行ったところはあまりにも自分の時代とは違ってたからね。

 40年以上前の日本って言われると、何だかリアルに昔だなーって思って」

 40年以上前と言えば、両親が生まれるより前だ。

 広場にいる子供達が両親より年上だと思うと、妙な気持ちになった。

「ところで、怪はこの時代にいるんだよね? 君が言うなら正しいけど……」

 キユウは、小さな怪だと言っていた。

 40年以上前の日本にそんな怪がいたなど信じられないが、放っておく事はできない。

 勇気はヘリウムガスの缶を構えると、いつでもスプレーを噴射できるように準備をした。

 ディアーナも双剣を構えている。

 

「みんな! 絶対に捕まえたいかー!」

 その時、広場の方から声がした。

 皆の前で、中年男性が拡声器越しに叫んでいる。

「みんな、用意はいいか!」

「オー!」

「今日で伝説が本物になるぞ!」

オー!

「みんな、気合いを入れろ! 絶対にツチノコを捕まえるぞー!」

オオー!

 広場から歓声が上がる。

 勇気、ディアーナ、ノノは中年男性の言葉を聞き、目を大きく見開いていた。

「ツチノコって、あのツチノコ、だよね……?」

「そうよ」

 勇気は、父親の書斎にあった本で、それを読んだ事があった。

 小さい怪というのは、ツチノコの事だったのだ。

「だけど、あの人達は何してるの?」

 広場にいる人達は、ツチノコの調査をしようとする研究員なのだろうか?

 それにしては、家族連れが多い。

「あれは、ツチノコを捕まえるイベントに集まった人達だよ。

 昭和40年代後半から50年代の最初にかけて、

 ツチノコを探すのが日本中で大ブームになったんだ」

「大ブーム?」

「ああ。テレビや雑誌でツチノコがよく取り上げられるようになってね。

 毎月のように日本のどこかで、ツチノコを捕まえるイベントが行われたんだよ」

「そんなブームがあったんだ……」

「すごいねー」

 勇気とノノは、まじまじと広場に集まっている人達を見つめた。

 すると、キユウが浮いたまま動き始めた。

「彼らより早く、ツチノコを見つけないとね」

「え、あ、そうだよね」

 彼らに捕まえられてしまっては、面倒な事になりそうだ。

 勇気、ディアーナ、ノノは、キユウと共に、山の中へ入って行った。




~次回予告~

ツチノコを探すため、勇気達は山の中に入った。
山の中で四人が出会ったのは、ツチノコを探している大学生達だった。
だが彼らもまた、怪奇現象に悩まされていた。
何故、ツチノコが生物を消すのか。
その謎を探るため、勇気達はツチノコを追いかけるのだった。
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