来週の日曜日、蒲谷亜衣の誕生日パーティーを開く事になった。
羽心が買ってきた奇妙なグッズを見て、勇気は困惑する。
さらに、羽心が怪奇現象について覚えている事に勇気はますます困惑し、彼女を怒らせてしまう。
そして、勇気は高橋と小鳥が見捨里市から突然姿を消した事を知る。
こんな事を起こせるのは怪しかいない。
そう考えた勇気は、ディアーナ、ノノと共に、キユウが待つ書斎へ向かった。
「キユウ、急にどうしたの?」
「僕が君達の前に現れる理由は一つしかないだろう」
「それって……」
勇気はキユウを見つめた。
「高橋さんは、怪の力に襲われたんだ――」
その言葉に、勇気の身体が強張る。
怪は、いつ襲ってくるか全く予想がつかない。
今回は完全に油断していた。
「犯人は分かっているわ」
「ことりさんをたすけなきゃ」
「……ディアーナ……ノノ……」
ディアーナとノノには、分かっていたらしい。
「さあ、行くよ」
キユウは書斎の壁の前に向かうと、グローブを嵌めた左手をかざそうとした。
「ちょっと、待ってよ! まだ心の準備ができてないよ!
っていうか、どういう怪なのか教えてよ!」
勇気はキユウの傍に駆け寄った。
「あー、今回は今までで一番小さな怪だよ。兎ぐらいかな。
見た目もまあ、可愛いと言えば可愛いかもしれないね」
「可愛い……?」
勇気は、雪女のお雪の顔を思い出した。
「大きさは兎ぐらいなんだよね?」
そんな怪はいただろうか?
勇気は、読んだ怪奇現象の本の内容を思い出そうとした。
「まっ、どんな怪かは実際に会ってからのお楽しみだね。エルフ達は知ってるだろうけど。
ところで、今回は怪を倒すためにちょうどいい物を、羽心ちゃんが買ってきてくれたようだ」
キユウはそう言うと、机の上を見た。
そこには、買い物袋が置かれている。
「あっ、急に怒っちゃったから」
どうやら、羽心は頭に血が上り、買い物袋を持って帰るのを忘れてしまったようだ。
「その中に、缶が入っているだろう。今回はそれが役に立ちそうだ」
「缶?」
勇気が袋の中を見てみると、『ヘリウムガス』と書かれた缶が入っていた。
「これって何なの?」
「何だい、ヘリウムガスを知らないのかい?」
「ええっと、理科の授業で先生が言ってたような気もするけど、うーん……」
勇気は思い出す事ができず、首を捻った。
すると、ノノが明るい声でこう言った。
「ヘリウムガスすいこんだらへんなこえになるし、ふわふわふくらむよ」
「そ、そうか……」
勇気はとりあえずポケットからグローブを取り出して右手に嵌めると、
缶をしっかりと握り締めた。
「準備はいいようだね。さあ、怪を倒しに行くよ。――怪狩りの時間だ!」
キユウはグローブを嵌めた左手を壁の前にかざして、呪文を唱えた。
「
次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。
勇気は慌てて部屋に置いていた靴を持つ。
ディアーナ、ノノ、キユウに続いて、勇気も光の渦の中に飛び込んだ。
「んんんん!」
光のトンネルの中を飛んでいく。
やがて、光のトンネルの奥に、森が見えてきた。
「やああっ!」
勇気は今度こそ尻もちをつかないようにとバランスを取った。
「よし」
「やったぁ!」
勇気、ディアーナ、ノノは、茂みの上に見事に着地する。
「やった! やったよ、キユウ!」
勇気はキユウに向かって笑顔でピースした。
「そんな事で喜んでいる場合じゃないよ」
「いいだろ、初めて上手く着地できたんだから!」
勇気は満面の笑みで周りを見た。
そこは、山の麓の野原で、野原の向こうに広場が見える。
広場には、大勢の人達が集まっていた。
「なにしてるんだろう?」
100人以上はいるようだ。
家族連れが多く、皆、リュックを背負っていて虫取り網を持っていた。
屋台もいくつも出ていて賑わっている。
「こんなところでお祭りかな……?」
「それなら、たのしそうだね」
勇気はそう言いながら、ふと、ある事に気づいた。
「ここって、日本だよね? だけど……」
皆、馴染みのある顔つきをしているが、勇気は違和感を覚えた。
日本で間違いなさそうだが、彼らの着ている服がどれも古めかしかったのだ。
ディアーナとノノは、楽しそうな様子で周りを見渡している。
「そう、ここは日本だよ。だけど、君の知っている時代じゃない」
「どういう事?」
「ここは、昭和50年……1975年の日本なんだ」
「ええ、40年以上も昔なの?」
道理で、皆の服装が少し今と違うはずだ。
「何だか僕、凄い体験をしているような……」
「今更、何を言ってるのよ。あなた、紀元前や日本の江戸時代にも行ったじゃない」
「それはそうだけど、今まで行ったところはあまりにも自分の時代とは違ってたからね。
40年以上前の日本って言われると、何だかリアルに昔だなーって思って」
40年以上前と言えば、両親が生まれるより前だ。
広場にいる子供達が両親より年上だと思うと、妙な気持ちになった。
「ところで、怪はこの時代にいるんだよね? 君が言うなら正しいけど……」
キユウは、小さな怪だと言っていた。
40年以上前の日本にそんな怪がいたなど信じられないが、放っておく事はできない。
勇気はヘリウムガスの缶を構えると、いつでもスプレーを噴射できるように準備をした。
ディアーナも双剣を構えている。
「みんな! 絶対に捕まえたいかー!」
その時、広場の方から声がした。
皆の前で、中年男性が拡声器越しに叫んでいる。
「みんな、用意はいいか!」
「オー!」
「今日で伝説が本物になるぞ!」
「オー!」
「みんな、気合いを入れろ! 絶対にツチノコを捕まえるぞー!」
「オオー!」
広場から歓声が上がる。
勇気、ディアーナ、ノノは中年男性の言葉を聞き、目を大きく見開いていた。
「ツチノコって、あのツチノコ、だよね……?」
「そうよ」
勇気は、父親の書斎にあった本で、それを読んだ事があった。
小さい怪というのは、ツチノコの事だったのだ。
「だけど、あの人達は何してるの?」
広場にいる人達は、ツチノコの調査をしようとする研究員なのだろうか?
それにしては、家族連れが多い。
「あれは、ツチノコを捕まえるイベントに集まった人達だよ。
昭和40年代後半から50年代の最初にかけて、
ツチノコを探すのが日本中で大ブームになったんだ」
「大ブーム?」
「ああ。テレビや雑誌でツチノコがよく取り上げられるようになってね。
毎月のように日本のどこかで、ツチノコを捕まえるイベントが行われたんだよ」
「そんなブームがあったんだ……」
「すごいねー」
勇気とノノは、まじまじと広場に集まっている人達を見つめた。
すると、キユウが浮いたまま動き始めた。
「彼らより早く、ツチノコを見つけないとね」
「え、あ、そうだよね」
彼らに捕まえられてしまっては、面倒な事になりそうだ。
勇気、ディアーナ、ノノは、キユウと共に、山の中へ入って行った。
~次回予告~
ツチノコを探すため、勇気達は山の中に入った。
山の中で四人が出会ったのは、ツチノコを探している大学生達だった。
だが彼らもまた、怪奇現象に悩まされていた。
何故、ツチノコが生物を消すのか。
その謎を探るため、勇気達はツチノコを追いかけるのだった。