見捨里小学校の図書委員・桐谷花恋と出会った勇気は、彼女と共に図書室の整理をしていた。
穏やかな性格の花恋に、勇気は少しずつ惹かれていく。
しかし、そんな彼女に蝙蝠が襲い掛かり、噛みついてしまう。
花恋が怪物になる夢を見た勇気は、大急ぎで書斎に向かうのだった。
勇気が花恋を家に招き入れると、彼女は自分から自宅に電話を入れた。
夜更けに娘の姿が見えなくなり右往左往していた両親は、慌てて勇気の家に迎えに来た。
花恋の父も母も事情を飲み込めずにいたが、
とにかく娘が無事だった事に感謝して直ぐに帰って行った。
「……怪、だよね」
玄関の扉を閉じた勇気だが、安心は出来なかった。
花恋が蝙蝠に襲われただけで終わらないのは間違いない。
勇気は父親の書斎に足早に向かった。
そして、半地下の短い階段を下り、ドアを開いた。
「やあ、また怪が動き出したようだね」
「よくぞやって来た、勇気ある少年よ」
「ディアーナ!?」
「……ディアーナおねえちゃん、けさからこんなかんじなの」
キユウとノノ、そして様子がおかしいディアーナがいた。
勇気は頭を振って、今までの事をキユウに語った。
「僕は夢で蝙蝠が花恋ちゃんを襲うのを見たんだ。そして、花恋ちゃんは本当に蝙蝠に襲われた。
だから、今回の怪は蝙蝠のお化けだと思うんだ」
それを聞き終わったキユウは、珍しくじっと考え込んだ。
「どうしたの?」
キユウの顔色がいつもより悪く見える。
「花恋という女の子は蝙蝠に襲われて首筋を噛まれたんだね」
「そうだけど……何?」
「花恋ちゃんは怪に操られるだろう」
「何だと? 他者を支配し意のままにする……それは人形か? 洗脳術か?」
ディアーナが仰々しい口調で聞き返すと、キユウはゆっくり頷く。
「……それって、蝙蝠に操られるって事?」
「その蝙蝠は怪の手下にすぎない」
「え? 手下?」
「そうだ。蝙蝠だけじゃない。人間の血を吸う事で、その人間を操って手下にしてしまうんだ。
そしていずれは、全ての血を吸いつくし、その人間を殺してしまう」
「ああ、強敵だ」
「強敵って? 誰?」
「決まっているだろう! ドラキュラだ!」
「えっ!」
「……」
勇気の口から、驚きが思わず漏れてしまった。
恐らく、誰でもよく知っている名前だろう。
「勇気の見た夢の中で何匹も蝙蝠が飛んでたなら、襲われたのは花恋ちゃんだけじゃないだろう」
「嘘だ、花恋ちゃんがドラキュラに?」
勇気はショックで呟くばかりだ。
それでもキユウはお構いなしに語り続ける。
「一刻も早く倒さないと、花恋ちゃん達も吸血鬼となり仲間をどんどんと増やしていくだろうね」
「闇は感染し同族を増やす……そして血の繋がりし親と子は血族となり……
さらなる勢力を増やすだろう!」
勇気は心臓に針を刺されたようなショックを受けた。
「やめてよ! 花恋ちゃんもドラキュラになっちゃうだなんて!」
「落ち着いた方がいいよ。花恋ちゃんはドラキュラにはならないよ」
「え? じゃ、花恋ちゃんは助かるの?」
「少年よ、吸血鬼がドラキュラと呼ばれているわけではない。
ドラキュラは吸血鬼の中の一人の名前に過ぎぬ。
ノスフェラトゥ、カーミラ、ナハツェーラーもいたな。
ともかく、桁外れの身体能力、しぶとき肉体、機敏な動き、洗脳術、破滅をもたらす力、
姿を変える力、血による武器生成……多彩な能力を持っているのだ」
それを聞き、勇気は総毛立った。
目の前の怯える少年に、キユウが強い口調で言う。
「……とにかく、やる事は一つ。今すぐ怪狩りだ」
勇気の心に大きな恐怖と不安がのしかかってくるが、
花恋や見捨里市の事を考えると深く頷くしかない。
「さあ、ゆくぞ!」
勇気は右手にグローブを嵌め、ディアーナとノノは武装する。
キユウは左手のグローブの装着を確認した。
「僕は何を持って行けばいい?」
「ふ……いいだろう。夜に活動するドラキュラは日射しに弱く、光を浴びると灰となる。
その隙に、杭に心臓を打ち込むがよい」
「杭を心臓に打ち込む?」
「……つまり昼の間、寝ている時に杭を心臓に打ち込むのが一番の退治方法だ」
「ここに杭なんてないし、そんな残酷な事は出来ないよ」
「子供故に残酷を拒むようだな? だが、助からぬ道を選ぶか?」
「そうだ! 十字架が効くんじゃないの? お父さんがコレクションした十字架があるよ」
勇気はすかさず書斎の棚を見回したが、キユウは浮かぬ顔だ。
「十字架か……。無いよりましかもしれない」
「何故だ?」
「あれは、勇気以外に僕が見える人間……ブラックコートだったら使えるけど……」
キユウとディアーナの呟きは、十字架探しに夢中になっている勇気の耳には入らなかった。
勇気は様々なコレクションの中から、手のひらサイズの銀の十字架を見つけた。
「ほら、これがあればドラキュラを退治できる」
「まあ、そうかもしれない。でも、念のために、ニンニクを持って行こう。
ドラキュラはニンニクを嫌うんだ」
「分かった。念には念をだね」
勇気はキッチンにニンニクを取りに行く。
キッチンから戻ってきた勇気は、銀の十字架とニンニクを、上着の左右のポケットに入れた。
ニンニクは株をまるごと持ってきたので、バッグのポケットが大きく膨らんだが何とか入った。
「それで、今度は何処に行くの?」
「中世の東ヨーロッパ。トランシルヴァニアだ」
「初めて聞く名前だけど、分かったよ」
勇気が準備を終えると、キユウは壁を見つめた。
「さあ、怪を倒しに行くよ。……怪狩りの時間だ!」
「この疾風の霊双剣士ディアーナにかかれば、闇の領主など風の中に消し去ってくれる!」
キユウは、グローブを嵌めた左手を壁の前にかざし、呪文を発した。
「
螺旋状に風が吹き、壁に光が渦巻く。
その渦が大きくなっていき、激しく輝いた。
次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。
ディアーナ、ノノ、キユウが渦の中に飛び込む。
続いて勇気も飛び込んだ。
悪魔が振り下ろす三つ又槍のような稲妻が、天空を走る。
遅れて轟く雷鳴、闇に包まれた山、風雨で森の木々が踊っている。
再び走った稲妻が、石造りの屋敷の輪郭を、ざわつく木々の間に浮かべた。
城の外に降る雨が突如、渦を巻き始めた。
「わわっとと!」
「む……まさしくここは、闇夜に沈みし城か」
ディアーナとノノは無事に着地するが、勇気は着地に失敗して地面に転んだ。
勇気はトンネルを出た瞬間、風雨に煽られてバランスを崩した。
「あわっ!」
勇気は葉が生い茂る大木の下に逃げ込んだ。
ここなら多少は雨が凌げるが、勇気はすっかりびしょ濡れだ。
そこにのんびりと宙を滑るようにキユウがやってきた。
「キユウは、雨に濡れる事もないんだな」
激しく降る雨が、キユウの身体を通り抜けている。
ディアーナの髪は淡く光り、夜の風景を照らしている。
「僕は霊体だからね。ごめん、雨は予想外だった」
「水の精霊が暴れている……」
「だけど、なんで夜に来るんだよ。
昼の間、寝ている時に杭を心臓に打ち込むのが、一番のドラキュラの退治方法だ、
ってディアーナが言ってたのに」
「昼間に来てもドラキュラの隠れ場所なんて分からないよ」
「本人に直接会え。その方が手っ取り早く解決できるだろう」
(確かに早く解決できるかもしれないけど……)
勇気は酷く不安になった。
しかも目の前の城が予想以上に大きかったのでさらに不安が募った。
目の前に建つ城。
周囲を見張る塔を持った建物は、現代なら七階建てくらいのビルの高さがあるが、
窓は小さく数も少ない。
「なんで、こんなに窓が少ないの?」
勇気は素直に疑問を口にした。
「ここは
「何それ?」
「人が住むけど、砦でもある城の事だよ」
「そっか、高い建物にして窓も少なければ敵が入ってこられないものね」
「ああ、そうだね」
「逆に、囚われた敵が逃げ出す事も難しいぞ」
「え? じゃ、もし僕達がドラキュラに捕まったら……?」
「旗は立てるな、少年! 間違いなく回収されるだろう! さあ、ゆくぞ! 少年!」
ディアーナはそう言って、城の入り口に向かう。
それを追って、勇気、キユウ、ノノは大木の下から飛び出した。
~次回予告~
吸血鬼化しつつある花恋を救うため、中世ヨーロッパに辿り着いた勇気達。
そこで出会う怪は、吸血鬼の中でも最も有名にして強敵の「ドラキュラ」。
一筋縄ではいかないドラキュラに、勇気達は勝てるのだろうか。