怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

花恋が蝙蝠に襲われ、吸血鬼になろうとしていた。
原因はドラキュラという怪の仕業であり、放っておけば町中の人が吸血鬼になってしまう。
それを阻止するべく勇気達が向かったのは、中世のトランシルヴァニア。
ますます暴走するディアーナと、不安になる勇気とノノ。
果たして、ドラキュラを倒す事ができるのだろうか。


3 - ドラキュラ城

 正面の重たい木の扉は上に向かって尖った形だ。

 大型の手漕ぎボートが縦に置いてあるように思えた。

 勇気は大きく深呼吸をして強張る心を解し、そして、覚悟を決めて拳で扉を叩こうとする。

「勇気、手で叩いても中には聞こえないよ。その金属のノッカーを叩くんだ」

殴打するというわけだな

 ノッカーには不気味な蝙蝠の顔型の金属製の扉の飾りがあり、

 口からは同じく金属で出来た輪がぶら下がっている。

「その輪で叩くんだよ」

はあっ!

「おねえちゃん!」

 ディアーナは勢いよく重い扉を開けた。

 すると、扉の奥の暗闇の中から、頭の禿げた小太りな男が出てきた。

 白いシャツに裾の長い黒い背広を着ていたが、シャツは染みだらけで、

 背広もところどころが破けて薄汚い。

 男の手にしたランプの灯りで、夜でもそれははっきり見えた。

「ド、ドラキュラなの……?」

 背後のキユウに向いて、震える声で勇気は尋ねた。

「怖がらなくていいよ。彼はドラキュラの召し使いだ」

このあたしが、両手の剣で貫いてやろう……

「おちついて、おねえちゃん」

 レイピアを抜こうとしたディアーナを、ノノは落ち着かせる。

「美味そうだな……へへへっ」

 下品な笑い声が扉の方から聞こえた。

ほう、あたしを美味そうだと言ったな。お前の口にはさぞかし妖精の肉は合うだろう。

 だが食すのならば、お前と同じ肉を食すがよい

 召し使いは「しまった」とばかりに口に手を当てたが、

 直ぐに召し使いは覚えてきた台詞を思い出したようだ。

「お待ちしておりました。雨の中をわざわざお越しくださり感謝いたします。

 そう言えって、ご主人様は言ってたんだ。そうだ、これで間違ってないぞ、へへへへっ」

 召し使いは間違えずに言えた事で悦に入っていた。

「キユウ、これはどういう事なの? 僕達が来る事を知ってたの?」

「何も言うな。ドラキュラには全てお見通しなんだ。下手な事をすると命を無くすよ」

 キユウは背後から囁いた。

「そうだ。ご主人様は全てお見通しだ。だから、俺の事をバカ、バカ言いやがる」

 どうやら召し使いにもキユウは見えていて、声も聞こえるようだ。

「彼は人間だが、半分吸血鬼にされてる」

なるほど……半怪というわけか

 キユウは召し使いの首筋の傷跡を見て言った。

 勇気が目を凝らすと、確かに召し使いの首に花恋と似た傷があった。

「雨に濡れた服を着替えて大広間にいらしてください、という事だよ」

 ランプを揚げた召し使いに促されて、勇気とキユウ、ディアーナとノノは城の中に入った。

「閉じ込められた。もう逃げられないんだね」

はっ、それがどうした。後で破壊すれば良いだろう?

 あたしは風を操る者。竜巻は扉を飲み込み、壊すであろう

「ディ、ディアーナ……」

 勇気は、湧き上がる不安と恐怖を抑える事は難しかった。

 こんな時でも物騒な事を言うディアーナもまた、人ではなかった。

 

 召し使いに案内された勇気、ディアーナ、ノノと霊体のキユウは城の中を歩いた。

 狭い場所なので、ノノは飛ばなかった。

 ところどころに置かれたランプや蝋燭だけで照らされた内部は薄暗い。

 木の根に白い壁の部屋があったかと思うと、剥き出しの石で作られた廊下や階段があった。

 ドラゴンや様々な怪物を退治するゲームに出てくる世界だと勇気は思った。

 しばらく廊下を歩くと、音楽がかすかに響いてきた。

「この音楽は?」

 勇気が思わず疑問を口にした。

「今夜は前祝いのパーティーを開催しているのですよ。へへへっ」

「前祝いって、なんの前祝いなんですか?」

「そんなの知らないよ。俺には何も教えてくれねぇんだよ。

 ご主人様は俺をバカにしてるんだよ。まったく!」

 召し使いはそう言うと、ペッと廊下の床に唾を吐いた。

汚いな……お前も汚くなるが良い

 ディアーナは風を呼び、召し使いを軽く吹き飛ばした。

 しばらく歩くと音楽がはっきりしてきて、人々の騒めきも聞こえてきた。

 そして、召し使いは廊下の突き当たりの扉の前で立ち止まり、

 勇気、ディアーナ、ノノ、キユウに振り向いた。

「こちらが大広間です。どうぞ、お入りください。へへへっ」

 そして、召し使いは扉を開ける。

「これは……!」

舞踏会ではないか!

 勇気は思わず息を呑んだ。

 華やかに着飾った老若男女が、音楽に合わせて踊っている。

 金髪の頭を南瓜のように束ね、足が隠れるくらいに長いスカートを穿いた女性。

 肩まである髪を束ね、スカートのような服を着てタイツを穿いている男性。

 ピンク、オレンジ、様々な色の衣装だが、

 デザインはどれも似ていて、色も鮮やかさに欠けていた。

醜い。なんと醜い舞踏会だ。華やかなりしものであろう。このあたしが吹き飛ばしてみせる

「おねえちゃん、めをさまして!」

 ディアーナが呪文を詠唱しようとすると、ノノが止める。

あたしは目覚めている。それがどうした?

「おちついてよ!」

「彼女の言う通りだ、少し落ち着け」

……むう

 ディアーナは不満げな表情になると、大人しくなった。

 

 それにしても、こんな嵐の夜にこれだけ大勢の人がどこから集まってきたのだろう。

「ねぇ、キユウ、この人達は……?」

「彼らはドラキュラの仲間だ」

「仲間って?」

「ドラキュラに血を吸われて、吸血鬼になってしまった人間だよ」

 ドラキュラを慕う貴族や名士達なのだという。

 勇気が戸惑っていると、二人の貴婦人が近寄ってきた。

「あなた達は伯爵が招いたという大事なゲストね。でも、あなた達は汚い。

 ……さあ、踊りましょう」

 一人の貴婦人が勇気に手を差し出し、もう一人の貴婦人がキユウを踊りに誘う。

 ディアーナとノノは、相手にされなかった。

「さあ、いらっしゃい。楽しいわよ」

「どうしよう?」

「機嫌を損ねないのが一番だよ。ここにいる連中は君の血が欲しくて仕方ないのだからね」

時代は妖精より人間か

 驚いている間もなく、貴婦人に誘われて勇気は踊りの輪の中に入った。

 といっても踊りは分からないから、貴婦人に付いているだけだ。

 しかし、キユウはもう一人の貴婦人に触れる事なく、その周りを優雅に舞っていた。

「キユウはどこで踊りを覚えたの?」

「昔だよ」

「昔って?」

「勇気、こうなったら楽しむのが一番だ」

まったく、話を聞かない奴だな……

「「君が言うな」」

 キユウはニコニコと笑顔を絶やさない貴婦人の周囲をますます華やかに舞う。

 すると突然、音楽が止んだ。

「伯爵です! へへへっ」

 大広間の一番目立つ出入り口の脇に立った召し使いが声を上げた。

 人々は踊りを止めて、出入り口に向いた。

 人々は固唾を呑んで出入り口を見つめる。

 耳目が集まる中、オールバックで青白い顔の紳士が、マントを翻して颯爽と現れた。

 勇気、キユウ、ノノも男を見て息を呑んだが、ディアーナは対照的に飢えた目をしていた。

 ドラキュラだ。

「おお、伯爵!」

 周囲の人々が跪く。

 ドラキュラは、集まった人々を満足げに見回す。

「今夜、集まってくださった皆さんに深く感謝する。

 この催しが大変に素晴らしい出来事の前祝いなのはご存じだろう。

 まずは乾杯をしよう。皆さん、杯を手に取るのだ」

 召し使いがトレーに載せた杯を参加者に渡して歩いた。

「伯爵、ありがとうございます!」

「感謝します! 伯爵」

 杯を受け取った参加者達は、それぞれに伯爵に頭を垂れる。

 そして、ドラキュラの脇に立った召し使いも、最後の杯を自分用に手に持ち微笑んだ。

 それを見たドラキュラは眉間に皺を寄せた。

「馬鹿か!」

 ドラキュラは召し使いの杯を奪い取った。

「あ! ご主人様!」

「お前如きが、一緒に祝うなどあり得んぞ!」

 召し使いはドラキュラを唖然と見た。

 しかし、城主はお構いなしに、参加者に見えるように杯を高々と掲げた。

「さあ、皆さん、乾杯をしよう! 乾杯っ!」

「乾杯!」

 杯を頭上に掲げた不死者達の声が、大広間に響いた。

 だが、トレーだけを虚しく持つ召し使いは、脇に立つドラキュラを憎々しげに睨みつけていた。

 ドラキュラは柄の中身を一気に飲み干すと再び参加者に語りかける。

「さて、本日の前祝いを飾る素晴らしいゲストが四人も来てくださっている」

 ドラキュラは、勇気、キユウ、ディアーナ、ノノを真っ直ぐに見据えた。

 その視線を邪魔しないように、二人の少年と女の前の人々がどいていく。

 ドラキュラは四人に軽く会釈する。

「ようこそお越し下さいました。私はドラキュラ、伯爵です。

 よろしくお願いします。勇気君とそのお友達さん」

 黒マントの男は顔を上げるとにやりと笑った。

「なんで、あの男は僕の名前を知ってるの? ねぇ、どうして? キユウ」

「勇気、落ち着け」

 二人は囁き合った。

 ディアーナは、レイピアを抜こうとしている。

「ほほう、勇気君の後ろにいる怪はキユウという名前なんですね」

「しまった!」

「恐れる必要はありません。今宵は存分に楽しみましょう」

 青白い顔をした伯爵はそう語ると、四人にゆっくりと近づいて来た。

Wind Blast

 ディアーナは呪文を詠唱し、風を飛ばして攻撃する。

 風はドラキュラに当たるが、ドラキュラにとってはかすり傷にしかならなかった。

(そうだ! 十字架だ!)

「ああぁぁ!」

 勇気はポケットから銀の十字架を出す。

 周囲の人々が悲鳴を上げたが、ドラキュラはお構いなしに四人に近づいて来る。

「来るな!」

 迫ってくる長身の男に、勇気は十字架を見せつけるように振った。

 しかし、ドラキュラは不敵な笑いを浮かべるだけだ。

「信仰心のない君がそんな事をやっても無意味だよ」

やはり、現代の者では不可能か! ブラックコートではなかったな

 そう言うと、ドラキュラは勇気の手の十字架を握った。

 勇気はなすすべもなく十字架を奪い取られ、ドラキュラの手から煙が上がり、

 銀の十字架は溶けてしまった。

 唖然とする勇気の背後でキユウが呟く。

「やはりか……」

 肩を落としたキユウが、今度はハッとする。

「勇気、ニンニクだ!」

 ショックで呆然としていた勇気が、もう一方のポケットからニンニクを出した。

 周りにいた人々は本性を現した。

 牙を剥き、目を真っ赤に変えて、三人を威嚇する。

「なんだ、その汚らわしいものは!」

「よし! 勇気、杭になるものを探すんだ!」

 ニンニクの効力にドラキュラも怯む。

 叫ぶキユウの横で、ドラキュラも声を荒らげた。

「おい! その臭くて汚らわしい植物を奪え!」

「え? 俺がですか? 俺もこの植物は嫌いですよ。へへへっ」

 召し使いも尻込みしている。

それは魔を払うからか

「馬鹿! お前は半分人間だろ! ニンニクは怖くないはずだ」

「なんで、馬鹿、馬鹿、言われるんですかね」

 召し使いはブツブツ言いながら、近くにあった食事用のナイフを手にした。

 一方、勇気はニンニクを振り回しながら、大広間を杭になる物を探してうろうろしている。

 ディアーナは呪文を唱え、ドラキュラの動きを制限する。

 すると、召し使いが走ってきた。

「おい、あんた、そんなものは捨てるんだよ。へへへっ」

 召し使いは勇気の肩を掴むと、首筋にナイフを突きつける。

くそ、劣勢か

「キユウ、どうしよう?」

「これは笑えないね」

 召し使いにまんまとニンニクを奪われ、勇気は肩を落とした。

 そのナイフはすぐに、ディアーナによって落とされたが……。

 

「皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした。

 その二人のゲストには地下の牢屋に入ってもらいます。さあ、舞踏会の続きを楽しんで下さい」

 ドラキュラはそう告げると、勇気とキユウを睨みつけた。




~次回予告~

ドラキュラと遭遇した勇気達だったが、彼の力は予想以上に強く、
勇気とキユウはなすすべもなく、ドラキュラに捕まってしまった。
しかし、ディアーナとノノは、ここで諦める性格ではなかった。
ディアーナとノノは勇気とキユウを助けるべく、ドラキュラと戦う決意を固めた。
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