見捨里市で起こっている怪奇現象を止めるため、
中世ヨーロッパのドラキュラ城に辿り着いた勇気、キユウ、ディアーナ、ノノ。
しばらく城の中を進むと、吸血鬼達による舞踏会が始まり、そこでドラキュラが姿を現した。
勇気は十字架でドラキュラに対抗しようとするが、
現代人である勇気には信仰心がないため効果がなく、
勇気とキユウはドラキュラに捕まってしまう。
ディアーナとノノは、この状況を打開するためにドラキュラと戦うが……。
地下牢では、灰色の生き物が床を走った。
「わぁ、ネズミ!」
勇気は部屋の隅に飛び退いた。
地下の牢屋は岩肌が剥き出しになり、とても居心地が悪かった。
勇気は周囲を見回した。
鉄格子の向こうにある松明の灯りだけでボンヤリと照らされる牢屋内。
窓もなく逃げ出しようがなかったが、勇気は、はたと閃く。
「キユウの身体は雨が通り抜けるんだから、ここから抜け出せるでしょ? 何とかならないの?」
「僕が抜け出したところで何もできないからね……」
「じゃ、僕達はここから一生逃げ出せないの?」
「自分達だけじゃない。見捨里市も心配だ」
「え?」
勇気は不安げに牢屋の天井を見上げた。
「……ドラキュラめ。大人しくしないのか?」
大広間では舞踏会がまだまだ賑やかに開催されている。
それを満足げに見ていたドラキュラが、一際目立つ出入り口から出て行く。
廊下を歩き、階段を上ると、そこは豪華な書斎だ。
ドラキュラは書斎を抜けて、奥の扉を開けた。
薄暗い部屋があり、何匹もの蝙蝠が飛んでいて、しかも×印状の罅が中空に浮いていた。
ディアーナは双剣を構え、ノノと共に対峙している。
黒マントの紳士は蝙蝠達に指示を出す。
「行け!」
「待て!」
「やめて!!」
蝙蝠達が、中に入っていく。
ディアーナは追いかけようとするが、ノノがバリアを張ってディアーナを止める。
「いまはドラキュラさんをやっつけるのがさきだよ! みすてりしにいくのは、まだだよ!」
「……すまなかった」
夜の見捨里市。
中空に×印状の罅が現れる。
「キィキィ!」
「キキ、キィキィ!」
何匹もの蝙蝠が罅から舞い出てくる。
学校帰りの男子高校生グループが、その羽音に気づいた。
「なんだ、あれ?」
「嘘、蝙蝠?」
「蝙蝠なんて初めて見たよ」
そんなやり取りをしながら、彼らはスマホで写真や動画を撮り始めたが、
蝙蝠達は単に宙を舞っているだけではなかった。
「キィキィ!」
彼らは高校生達に向かって急降下していく。
スマホ撮影に夢中になっていた高校生達は、逃げ遅れてしまった。
「わぁ!」
彼らの首に止まった蝙蝠は、すかさず噛みついた。
「痛いっ!」
「止めろ!」
「なんなんだ、こいつら!」
高校生達は振り払おうとするが、蝙蝠は執拗に首筋に牙を立ててきた。
同様の蝙蝠襲撃事件は、見捨里市のあちこちで起きていた。
夕飯の食材の買い物に出た主婦、会社帰りのサラリーマン、午後の診察を終えた高齢者。
人々は蝙蝠を珍しいと思って最初は眺めるが、その隙に襲われていた。
一方、ドラキュラ城の部屋では、ディアーナとノノが奮闘していた。
罅が音を立て、×印から黒い煙が湧き出る。
「うわっ!」
ドラキュラは蝙蝠を使役し、ノノにけしかけるが、ノノは素早く飛んで攻撃をかわす。
続けてもう一匹の蝙蝠がノノに襲い掛かる。
「きゃっ!!」
ノノは何とかギリギリでかわすも、その隙に蝙蝠がノノの背中に飛びかかる。
しかし、大声を出して蝙蝠を怯ませ、高く飛んで蝙蝠の攻撃をかわした。
ノノの身体に小さな羽が舞う。
これも、彼女が人ならざる者だからなのだ。
ノノは鳥に変身し、素早くその場を離れて、蝙蝠やドラキュラと距離を取った。
「みずとかぜのじょういせいれいよ、こくうよりきたりてさばきをふるえ! Indignation」
ディアーナは呪文を唱えて、落雷を起こす。
それは、外で鳴っている雷よりも遥かに大きい、天の意志そのものであった。
蝙蝠は彼女の攻撃一発で黒い煙になって消滅した。
にも拘わらず、舞踏会は相変わらず続いていた。
それは、ディアーナとノノが、結界を張っているためであったが……。
「さあ、後はお前だけだ」
「ふふ……女二人だけで、私を倒せるとでも?」
やがて舞踏会が終わり、すっかり夜も更けていた。
嵐もいつの間にか収まり、厚い雲の間から星が見え始めていた。
「今までで最高の舞踏会だった」
「おかげでこんな時間まで楽しんでしまった」
「早く帰らないと夜が明けてしまう」
この世ならざる者達にとってよほど楽しい一夜だったのだろう。
彼らは闇の中に三々五々消えていった。
地下の牢屋にいる勇気とキユウも、舞踏会が終わった事は雰囲気で分かった。
しかし打つ手を思いつかず、二人は項垂れるばかりだ。
「ね、キユウ、何かできる事はないの? 今までは何とか乗り越えてきたじゃない」
「そうだよな」
腕を組んだキユウは、しばらく唸った。
「……あ、上手い言葉が浮かんだよ」
「え? ホントに? 流石、キユウだね」
勇気は明るい顔でキユウを見つめ返した。
「
「そんな言葉は知らないけど、何とかなるんだね」
「『四面楚歌』とは、四方を敵に囲まれてどうにも動きようがないって意味なんだ」
「……」
「中国の『史記』という歴史書に書かれていた戦の物語から生まれた言葉なんだ。
今の僕達の状況にピッタリだろ」
「ねぇ、キユウ、要するに誰も助けに来ないし、僕達は何もできないって事だよね」
「確かにそうだけど……いや、エルフと翼ある者が頑張っている。彼女達に期待しよう」
その時、牢屋の鉄格子の鍵が開く音が響いた。
そちらを見ると、召し使いが立っていた。
「ご主人様がお呼びだよ。へへへっ」
二人は顔を見合わせた。
~次回予告~
ドラキュラに囚われた勇気とキユウは、最早戦う気力を失ってしまった。
さらに、ドラキュラの手下である蝙蝠が見捨里市に現れ、町中がパニックになってしまう。
劣勢になっている勇気一行に追い打ちをかけるように、
ドラキュラはキユウを傷つける「黒い鈴」を勇気に振らせようとしていた。
キユウの存在を取るか、見捨里市の住民の命を取るか、勇気は選択を迫られる……。