舞踏会に参加した勇気、キユウ、ディアーナ、ノノは、主催者である怪・ドラキュラと出会う。
何とかドラキュラと戦おうとする勇気だが、
強力な力を持つドラキュラの前では何もできず、キユウと共に囚われてしまった。
ディアーナとノノはドラキュラと戦い、彼をあと一歩のところまで追い詰めた。
だが、怪を倒す事ができるのは、勇気だけだ。
この最大の危機を、勇気達は乗り越える事ができるのだろうか。
召し使いに連れられて書斎に行く勇気とキユウ。
そこでは、ドラキュラと、ディアーナと、ノノがいた。
ディアーナとノノは、疲労から顔色が悪くなっている。
「窮屈な思いをさせてすまなかった。私達に舞踏会を邪魔されたくなくてね。
でも、あの女二人は荒っぽかったな。お腹が減っているだろう。さあ、座って」
テーブルに料理が並んでいた。
食事を食べるように促すドラキュラ。
「と言っても、霊体のキユウ君はお腹が減る事がないから食事は無用だね」
キユウは小さく笑った。
顔色が悪い黒マントを纏った男は、何でもお見通しのようだ。
一方、勇気が牢屋にいる間、空腹を感じたのは確かだが、
この状況で食べ物など喉を通るはずもない。
「ご馳走なのに食べたくないのかい? それとも、毒が入っていると不安になっているのかね?」
勇気は何も答えなかった。
「私はそんな無粋な事はしないよ。
主として同じものを食べて毒が入っていないのを証明したいのだが、
私の主食は君達人間と違うんでね、その失礼を許して欲しい」
ドラキュラはテーブルの上の純金の杯を手に取って赤い液体を一口飲む。
その赤い液体が赤ワインでないのは、勇気にも直ぐに察しが付いた。
「実はこの土地の主食はほとんど飲み尽くしてしまってね。
この杯に入っているのは動物のものなんだ。
ところが、先日ある少年に出会ったら、
時空を超えれば新鮮な主食が簡単に手に入ると教えられたのだよ。
少年は時空の出入り口を作ってくれた。その代わり、私は少年の望みを叶える事になった」
「少年」の言葉に険しい表情になるキユウ。
勇気も江戸時代に行った時の事を思い出した。
(きっと、お雪ちゃんを騙した太郎と同じ少年だ!)
勇気は背後を向いた。
「キユウ、その少年は何者なの?」
勇気が尋ねるが、キユウは黙って首を横に振るだけだ。
キユウは何かを隠している……勇気にはそうとしか思えなかった。
「これを見るがよい」
ドラキュラが指を鳴らし、召し使いがテーブルに黒い鈴を置いた。
銅製と思われる手のひらサイズの鈴を見て、勇気は首を傾げた。
「これは、何?」
背後のキユウの顔が強張ったのが、勇気には分かった。
ドラキュラはソファから立ち上がり、勇気の近くに寄ってくる。
「少年から状況を教えられて、これが有効だろうと探してきたんだ」
ドラキュラが黒い鈴を手にして振る。
しかし、何も起きず、キユウはホッとする。
「この鈴は私が振っても効果が無い。
でも、勇気君、君が振ると絶大な効果を発揮するはずなんだよ」
そう言って、ドラキュラは勇気に黒い鈴を渡した。
「さあ、振ってみなさい」
「でも……」
「早くしろ!」
ドラキュラが牙を剥き出しにして、真っ赤な目で迫ってくる。
勇気はその恐怖に耐えられず、つい鈴を振ってしまう。
「勇気! 止めてくれ!」
勇気は慌てて鈴を振るのを止めた。
突然、ドラキュラの嫌らしい笑い声が響いてくる。
「なるほど、やはり効果絶大だ! 勇気君が振ればその幽霊を消滅させる事が出来るんだ」
高らかに笑うドラキュラに、勇気は困惑するしかない。
「キユウ、どういう事なの?」
キユウは胸を押さえながら、肩で息をしている。
話すのも苦しいのだろうか。
すると、ドラキュラの笑い声が止まり、異様な目を勇気に向けてきた。
「勇気君、ゲームをしよう」
「ゲ、ゲーム?」
「なあに、簡単なゲームだよ。勇気君、君にある選択をしてもらおうと思ってね」
ドラキュラが指示を出すと、召し使いが書斎の奥の扉を開けた。
隣の薄暗い部屋に大きな罅が浮いていた。
その罅の中に見捨里市の風景が見える。
ある家の二階の窓の奥に、羽心が眠るベッドが見える。
「羽心!」
勇気は思わず声を上げたが、その声は羽心には届かなかった。
ディアーナは、ぶつぶつと呪文を詠唱していた。
夜の見捨里市、風が羽心の部屋の窓ガラスを撫でている。
それに紛れて、か細い声が聞こえてきた。
「……うらら……ちゃん、うらら……ちゃん」
ベッドの上で静かに寝息を立てていた羽心が目を開けた。
「……羽心ちゃん」
やはり聞こえる。
(こんな時間に、なんで……?)
そう思ったのは、聞き覚えのある声だったからだ。
ベッドから降りた羽心は、ゆっくりと窓に近づいた。
「えっ……?」
「羽心ちゃん……」
窓下からパジャマ姿の少女がニヤニヤと笑いながら自分を呼んでいた。
少女は羽心の姿を見ると、さらにニヤニヤと笑って名前を呼ぶ。
「嘘!? 花恋ちゃんなの……?」
花恋の声なのに、闇の中に立つ少女は眼鏡を外していて彼女に思えない。
「眼鏡、どうしたの?」
「羽心ちゃん、お願いだから窓を開けて。これからご主人様が来るのよ」
「花恋ちゃん! 何言ってるの?」
訳が分からず窓を開ける羽心は、空に大きな×印状の罅が浮かんでいるのに気づいた。
それを罅越しに見たドラキュラは、笑い声を上げた。
「羽心に何をする気だ!」
「だから、ゲームだよ」
「この少年を押さえていろ」
勇気に笑いかけたドラキュラは、召し使いに言いつける。
「え? この子の血を吸ってもいいんですかい? へへへっ」
「バカ! 押さえていろと言っただけだ」
ドラキュラは怒鳴った。
召し使いは悲しい表情を見せたが、勇気を押さえ込んだ。
「さあ、久しぶりの旅だ。楽しみだ」
「何する気だ?」
ドラキュラはマントを翻した。
召し使いの腕の中でもがく勇気は、ドラキュラに叫んだ。
マントを蝙蝠の羽のように羽ばたかせて、ドラキュラは罅の中に入っていく。
「羽心、逃げるんだ!」
勇気が叫んでも羽心には聞こえない。
そして、ドラキュラは羽心の部屋に舞い降りた。
「きゃあああ!」
「さあ、私の目を見たまえ」
悲鳴を上げる羽心の口をドラキュラは素早く押さえると、優しく呟く。
思わず目を見た羽心は、あっという間にドラキュラの術にかかってしまう。
「羽心! 目を覚ませ!」
勇気は叫ぶが、それを遮るように少女の不気味な声が響く。
「羽心ちゃん、あなたも私の仲間になるのよ」
「花恋ちゃんも目を覚ますんだ!」
下から見上げていた花恋が微笑む。
勇気は叫ぶが、罅の向こうのドラキュラは微笑みながら見返すだけだ。
「勇気君、君には2つの選択肢がある。
君がその鈴を振れば、私はこの少女の血をいただくのを諦めよう。
だが、その鈴を振るつもりがないなら、この若くて綺麗な血をいただくよ」
ドラキュラは大きく口を開いて牙を剥いた。
羽心の首筋に今にも噛みつきそうになる。
「止めろ! 止めてくれ! 羽心、目を覚ますんだ!」
召し使いの腕の中で必死にもがいて叫ぶ勇気。
しかし、ぼんやりとした羽心の耳には勇気の叫び声は聞こえない。
ドラキュラは不気味に笑う。
「叫んでも無駄だよ。この子には何も聞こえないよ」
ドラキュラの牙が羽心の首筋に近づく。
「ゆ、ゆう、き……!」
未だにぜいぜいと荒い息をするキユウが、声を絞り出した。
「勇気! ドラキュラを倒さない限り、羽心ちゃんの術は解けない。その鈴を振るんだ!」
キユウが勇気に厳しい表情で言う。
「そんな事をしたらキユウが……!」
勇気は手にした鈴を見る。
勇気は究極の選択を迫られた。
「僕は……僕は……」
その時だった。
「うあああああああああ!!」
突然、ドラキュラが真っ赤な炎に包まれた。
ドラキュラの服が燃え、焼かれ、ドラキュラは頭を抱えて苦しみ出す。
一体誰がやったんだ、と向こうを見ると、ディアーナが笑みを浮かべていた。
「ディ、ディアーナ!? その炎、どうやって……!」
「火炎呪文、インフェルノだ。
エルフは禁忌とする炎だが……ドラキュラを倒すためだ、仕方あるまい」
「さっきぶつぶつ言ってたのは……呪文を唱えていたからか……!」
「さあ、後はお前がやれ! 黒い鈴は投げ捨てろ!」
「ああ!」
ディアーナが放った炎が消えると同時に、勇気は黒い鈴を投げた。
×印状の罅の中に鈴が勢いよく入り、それが×印のトンネルの中を通過していく。
そして、見捨里市の×印状の罅から鈴が飛び出し、
鈴は、見事にドラキュラの顔面にぶつかった。
「わぁぎゃぁ!」
ドラキュラが仰け反る。
やがてドラキュラの顔は今まで見た事もない悍ましい形相に変わった。
鋭い牙がグッと伸び、普段の倍に広がった赤い目がギョロリと勇気を睨みつけた。
「ぐううっ、うううううう!」
地獄の底で呻くようなドラキュラの声が罅越しに響いてくる。
勇気はその凄まじい顔と声に心臓が止まりそうだ。
身が竦んでしまうが、仲間達がいる前で逃げてはならない。
怒ったドラキュラは罅を抜けて勇気に飛びかかってきた。
「ああああ!」
今度は勇気が仰け反った。
ドラキュラは、勇気の首筋に牙を剥き、噛みつこうとする。
「止めろっ!」
「ガァアアアッッ!」
キユウが叫んで、ドラキュラに飛びつくが、すり抜けてしまう。
勇気の首筋にドラキュラが大きく口を開けて牙を立てようとした……。
「うっぐぐぐ!」
その時、ドラキュラの口にニンニクが突っ込まれた。
ドラキュラがもがき苦しむ。
それは、勇気が持ってきたニンニクだ。
勇気から取り上げたニンニクを、召し使いが突っ込んだのだ。
悶えるドラキュラは、勇気から離れる。
ニンニクを吐き出すが胸をかきむしってのたうつ。
「お前、裏切ったな!」
召し使いはドラキュラに幻滅していたのだ。
「いつもバカ、バカ、と馬鹿にしやがって! いい気味だ! へへへっ!」
瞬間、カーテンの隙間から光が差し込んできた。
朝日が昇ったのだ。
「勇気! 日光だ!」
勇気は慌てて窓に走った。
それに気づいたドラキュラが叫ぶ。
「何をする気だ! 止めろ!」
勇気はテーブルの上に駆け上がり、そこから水泳の飛び込みでもするようにジャンプした。
「やめろっ!」
ドラキュラは叫んだ。
だが、勇気の身体全体の重みでカーテンは窓から剥がされた。
朝日が窓から一直線にドラキュラに降り注ぎ、ドラキュラから青白い炎が上がる。
「嫌だ! そんな! この私が! 嫌だ! いやっ! い! ウボァー!」
ドラキュラは、みるみるうちに青白い炎に包まれる。
そのまま黒い煙になって、ドラキュラは消滅した。
朝日が書斎全体を照らした。
隣の部屋の×印状の罅も無くなっていた。
「私は、なんでこんなところに? しかも、こんな汚らしい服を着て……」
ボンヤリと佇んでいた召し使いがハッとして、狐につままれた表情で狼狽える。
そんな男に、勇気は声を掛ける。
「あの、すみません。首筋を見せてもらえませんか?」
「は? なんだね、君は? この城の城主に向かって首筋を見せろだと? 失礼な!」
男はプリプリと怒って書斎から出て行った。
だが、勇気とやり取りをしている間にキユウが男の首筋を見ていた。
「噛み傷は消えてたよ」
キユウは勇気にニッコリと微笑んでそう伝えた。
四人はドラキュラを倒す事ができて、ホッとする。
「見捨里市は元に戻ったはずだ。さあ、帰ろう」
キユウはグローブを嵌めた左手を壁にかざすと、勇気がそれを制した。
「待って! あの黒い鈴はなんだったの? 伯爵の言ってた少年は何者なの?」
キユウは観念したように軽く溜息をついた。
「あの少年の名は邪鬼。僕は、あいつを倒すために君の下へ来たんだ。
そして、『黒い鈴』について説明をしたら、君に、全てを話さなければならない――」
キユウはそう言うと、グローブを嵌めた手で『時のトンネル』を作り始める。
「
次の瞬間、壁に大きな光の渦ができた。
キユウ、勇気、ディアーナ、ノノはその中に入った。
静まり返った明るい部屋、床には灰が積もっていた。
それを少年の足が踏みつけ、灰が日射しの中で輝く埃となって舞う。
「口ほどにもないとは、この事だね」
片目を包帯で隠した少年――邪鬼は溜息をついたが、しばらくすると冷たい笑みを浮かべた。
「何故、私、こんなところに……?」
その頃、花恋が羽心の家の前で狼狽えていた。
その首筋から傷は消えている。
「花恋ちゃん!」
羽心も、何故自分が窓際に立っているのか理解できなかった。
ふと足下を見下ろすと、見慣れない「黒い鈴」が落ちている。
羽心は、怪訝な表情でそれを拾った。
「何、これ?」
~次回予告~
勇気と羽心の通う学校で、悪臭が漂った。
それは、3メートルの宇宙人「フラットウッズ・モンスター」の仕業だった。
勇気達はアメリカに向かおうとするが、何を持っていけばいいか分からなかった。
そして、羽心が拾った黒い鈴によって、勇気とキユウの絆に最大の危機が訪れる……。
~要するに~
2020年10月、エピソード3「太陽と月の絆」の二次創作を予約投稿します。
ついでにこの月は最新刊の発売月だったり