怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

勇気、キユウ、ディアーナ、ノノは、中世ヨーロッパでドラキュラを倒した。
キユウは、怪の力を見捨里市に送っている少年の名「邪鬼」と、自らの目的を勇気に話す。
邪鬼を倒せば、見捨里市に怪が襲ってくる事はない。
勇気は、キユウと共に怪を狩る事を誓った。
しかし、羽心は勇気が投げ捨てた、あの「黒い鈴」を拾っていた。
黒い鈴を振れば、キユウが消滅する事に気付かないまま――


episode3 - Bonds Sun and Moon ~ 未知の恐怖との遭遇
1 - 少年と黒い鈴


 ドラキュラを倒してから一週間後の午前2時。

 路地裏の建物の中で、ディアーナとノノはジャネットに叱られていた。

「あれほど迷惑をかけるなと言ったのに、ドラキュラとの戦いで派手に暴れ回ったようですね」

「……申し訳ありません」

 ディアーナはジャネットに謝っている。

 ドラキュラとの戦いで派手に力を使ったせいで、怪がいる時代だけでなく、

 見捨里市にも影響を及ぼしていた。

 幸い、ドラキュラを撃退した事で魔力も綺麗さっぱり消えたが、

 魔法を使ったという事実だけは残っていた。

 ジャネットは溜息をついた後、ディアーナとノノを指差してこう言った。

「ディアーナ、ノノ、あなた達には5日間の謹慎処分を与えます。

 それまではこの建物から出ない事。分かりましたね?」

「なんで、ノノまで……?」

「ディアーナを止められなかった責任です」

「そ、そんなあ……」

 連帯責任という事で、しょんぼりするノノ。

「よって、怪の調査には、彼が行ってもらいます」

 そう言って現れたのは、緑の髪と瞳を持つ、狼の耳と尻尾を生やした男だった。

「よっ!」

「……あなたは?」

「俺はアプリル・フェルナンデス。人狼だ」

「うぇ……」

 要するにワーウルフなのか、とディアーナは吐きそうになる。

 だが、謹慎処分を受けたため、今は文句を言えなかった。

「ん? お前らは行かないのか?」

「実は、ドラキュラと戦って、謹慎処分を受けちゃって……」

 だから5日間、この建物から出られないんだな、とアプリルは理解した。

 ノノも、連帯責任として今日は怪の調査ができない。

 それを察したアプリルは、頷いた。

「分かった。お前らが行けないなら、俺が代わりに行ってやる」

「……ありがとう、アプリルおじちゃん」

「じゃ、待ってろよ! 怪って奴、調査するぜ!

 っていうか、おじちゃん、じゃないんだけどね」

 そう言って、アプリルは調査に向かうのだった。

 

 そして、見捨里市は月曜日の朝を迎える。

「よし、授業を始めるぞ」

 6年2組の教室に、担任の原末先生の声が響いた。

 1時間目は国語の授業だ。

 真之勇気は体育の次に国語が好きだったが、今日はまるで集中できなかった。

 ずっとある事を考えていたのだ。

(あれから、もう一週間近く経つんだね……)

 勇気は先日、ディアーナ達と共にドラキュラと戦い、見事倒す事ができた。

 怪の力によって操られていたクラスメイトの桐谷花恋や見捨里市の人達も、助ける事ができた。

 それ以来、怪現象は起きていない。

 本来ならホッとするところだが、勇気は心が休まらなかった。

 ドラキュラを倒した後、キユウは『邪鬼』という少年と『黒い鈴』について話をした。

 一週間経った今でも、その話が信じられなかったのだ。

 勇気はぼんやりと窓の外を眺めると、その時の事を思い出した。

 

『一連の騒動は、全て邪鬼の仕業なんだ』

 時のトンネルを抜けて、書斎に戻ってきたキユウは、宙に浮かびながら勇気にそう言った。

『仕業って、見捨里市に怪の力が漏れ出してる原因っていう事?』

『ああ。邪鬼の持っている刀は、×印状の罅を作る事ができるんだよ

 キユウの嵌めたグローブが時のトンネルを作り出すように、

 邪鬼も、時代を超える罅を作り出す事ができるというのだ。

『そんな! だけど、どうしてこの町を?』

『それは……』

 勇気には、何故邪鬼が見捨里市を狙って怪現象を起こすのか全く分からなかった。

 すると、キユウは言いかけて首を横に振った。

 何か思うところがあるのだろうか。

『このまま邪鬼を放っておいたら、見捨里市が怪によって大変な事になるのは間違いない』

『大変な事……』

 勇気はごくりと唾を飲んだ。

 もし、ドラキュラを倒せていなかったら、今頃、町中の人々が吸血鬼になっていただろう。

『どうすればいいんだよ』

『君が何とかするしかない』

 戸惑う勇気の傍に、キユウがスゥーッと降り立った。

 キユウは、真剣な表情で勇気をじっと見つめる。

『何とかって……? 僕だってこの町を守りたいけど』

 メデューサを皮切りに様々な怪と出会ってきた。

 そのたびに恐怖で心臓が何度も止まりそうになった。

 そんな怪を操る少年がどれほどに恐ろしい存在かは想像さえ出来ない。

 勇気の不安に気づいたキユウは、僅かに笑った。

『大丈夫。僕がついてる。一緒に戦えば、邪鬼を止める事ができるよ』

 キユウはグローブを嵌めた左手を握り拳にして、勇気の目の前に突き出す。

 勇気はキユウの唐突な仕草の意味が分からなかった。

 キユウはにこりとして左手の拳をさらに突き出す。

 そこで勇気は気が付いた。

 グータッチ、というスポーツ選手がよくやっている挨拶だ。

 何かをやり遂げた時にやるが、友情や絆を確かめ合う意味もある。

 勇気はとても嬉しくなった。

 慌ててグローブを嵌めた右手を握り締めると前に突き出すが、

 キユウは幽霊なので実体が存在しない。

 二つの拳はぶつからずに、勇気の拳がキユウの拳の中にスゥーッと入ってしまった。

 そして二人のグローブに付いた羅針盤のマークが、重なって一つになった。

『キユウは月のマークで、僕は太陽のマーク……』

『太陽と月。昼と夜。つまり、僕らは表裏一体の関係なんだ』

 しっかりと語るキユウの声は、何十歳も年上のような深みがあった。

 それを聞き、勇気の心に立ちこめていた不安が、さっと散っていった。

 幽霊のキユウは、物に触る事ができない。

 キユウの代わりに、勇気は色々な道具を使って怪と戦ってきた。

 仲間もいるし、一人で戦ったわけではない。

 

僕達は二人で一つなんだね!!

 勇気の言葉に、キユウは真剣な目つきで頷いた。

 勇気もキユウの目を真っ直ぐに見て頷いたが、キユウの表情が直ぐに曇った。

『どうしたの?』

『えっ、ああ……』

 そう言いながら、霊体のキユウは背を向けるとまた天井の方に音も無く上がってしまった。

 勇気に不安な表情を見せたくなかったようだ。

『まさか、邪鬼があの鈴を手に入れているとは思わなくてね』

『それって、ドラキュラが僕に振らせた鈴の事?』

 背を向けていたキユウが振り向き小さく頷いた。

『あれは、オシリスの鈴と言って、

 僕のような幽霊があの鈴の音を聞くと、苦しんだ挙句、消滅してしまうんだ』

『えええ??』

『ちなみにオシリスは、エジプト神話に出てくるあの世を治めている神様だよ。

 ツタンカーメンを倒しに行った時の事を思い出してごらん』

『……あ』

 勇気がドラキュラに言われて鈴を振った時、キユウは確かに苦しんでいた。

『それで、あのまま鈴を振ってたら、キユウ、本当に死んじゃってたの?』

『僕は幽霊だから元々死んでるよ。

 ただ、消滅して、二度とこの世に現れる事はできなくなるだろうね』

『そんな!』

 勇気はゾッとした。

『邪鬼は、余程僕の事が邪魔なんだろうね』

『鈴を持って邪鬼が現れたらどうしよう……急に鈴を振られたりしたら……』

 不安に俯く勇気を、キユウは明るく励ます。

『大丈夫、君が振らなければあの鈴はただの鈴だ』

『どうして?』

『あの鈴は、君のような特別な力がある人間が振らないと効果がないんだ。

 だから、邪鬼はドラキュラに言って君に鈴を振らせるように仕向けたんだよ』

『そうだったんだ……』

 オシリスの鈴を持って邪鬼が現れたとしても、

 勇気さえ振らなければ、キユウが消滅する事はない。

『僕、絶対振らないよ! もし100万円くれるって言われても振らない!』

『当たり前だろう。1億円でも1兆円でも振ってもらったら困るよ』

 キユウはそう言って笑うと、いつもの優しい表情に戻った。

 

 キユウとのやり取りを思い出していた勇気は、はたと重要な事に気がついた。

(そういえばあの鈴、どこに行ったんだろう……)

 確かあの時、ドラキュラに向かって鈴を投げつけて、×印の罅に入って……。

「ねぇねぇ、勇気、ねぇってば、ねぇ」

 ふと、誰かの呼ぶ声が聞こえた。

 ハッとして教室を見ると、斜め後ろの席に座っている羽心がこちらを見ていた。

「また、変な夢見てたんでしょ?」

「え?」

「だって、さっきからずっとボォーッとしてたもん」

 羽心は、黒板に教科書の詩を書き写している原末先生にバレないように、小声で尋ねた。

 勇気は時々ボォーッとする事がある。

 そういう時に限って、変な夢を見てしまうのだ。

 しかし、今回は夢を見ていたわけではない。

「違うよ、ちょっと考え事をしてたんだ」

「勇気が? 今日の給食に何が出るのか考えていたとか?」

「そんな事じゃない」

 怪を倒せば怪現象は消え、それが起きた事も人々の記憶から消え、全てが元に戻る。

 ドラキュラに襲われた羽心も、当然その事を忘れてしまっていた。

(羽心は気楽でいいよなぁ)

 勇気は相変わらず苦労を分かってくれない羽心に、小さな溜息をついた。

 

「ところで、話があるんだけど」

「話って、今授業中だよ」

「今じゃなくてもいいんだけど、ちょっと相談したい事があって」

 羽心は、困ったような表情を浮かべていた。

 いつも明るい羽心にしては珍しい。

「どんな話なの?」

 勇気は少し心配になり、羽心に尋ねた。

 と、その時、大きな人影が二人の間に立った。

「真之、そんなに私の授業は退屈かね?」

「えっ、あ、退屈じゃないです」

 慌てて答える勇気に呆れながら、原末先生は羽心の方を見た。

「真之が授業に集中していないのはいつもの事だが、白鳥、君もとはな」

 羽心は、勇気と違って勉強がよくできる。

 いつもは授業も真面目に受けていて、先生からの評価も高い。

「ごめんなさい」

 素直に謝る羽心に、原末先生もそれ以上何も言えないようだ。

「まあ、分かればよろしい。二人とも、ちゃんと授業に集中するように。詩の朗読をするぞ」

 原末先生はそう言うと、教壇に戻ろうとした。

 

「先生!」

 突然、窓側の一番前の席に座っていた男子生徒が手を挙げた。

「どうした? 朗読してくれるのか?」

「そうじゃないです。外から、変な臭いがするんです!」

「何だって?」

 原末先生は男子生徒の傍に行くと、開いている窓から顔を出し、臭いを嗅いだ。

 勇気も、傍の窓を開け、鼻をヒクヒクさせてみた。

「ホントだ……」

 原末先生は頭を捻った。

「なんだ、この刺すような臭いは……」

 クラスメイト達は次々に窓を開けて臭いを嗅いだ。

 おかげで、教室の中に妙な臭いがどんどん充満していく。

「何だか、頭が……」

「うん、気持ち悪くなってきた……」

 女子生徒が声を上げたのを聞いて、原末先生が慌てて声を上げた。

「とりあえず、みんな窓を閉めるんだ。今日は少し風が強いからそのせいだろう」

 勇気も顔を(しか)めながら、皆と同じように窓を閉めた。

 だが、羽心だけは、窓の外を見ながら、何故か神妙な表情になっていた。

「もしかしたら、あの現象は……」




~次回予告~

謹慎処分を受けたディアーナとノノの代わりに怪奇現象の調査に赴くのは、
人狼のアプリル・フェルナンデス。
小学校で漂う悪臭は、やはり怪が引き起こした怪奇現象であった。
さらに、勇気は町が燃えてしまう未来を夢で見てしまう。
悪しき未来を阻止するために、勇気、キユウ、アプリルは怪を狩ろうとした。
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