アプリル・フェルナンデスは、見捨里市の異臭事件を調査していた。
また、羽心も怪が起こした異変について認識するようになった。
何故羽心が異変を覚えているのか、理由は分からなかった。
だが、怪奇現象が起きている事に変わりない。
勇気達は見捨里市を襲う怪奇現象を止めるべく、
時のトンネルを潜ってアメリカに向かうのだった。
「アメリカ……」
また外国に来た、しかも70年近く前だ。
「正確には、アメリカのウェストバージニア州ブラクストン郡フラットウッズ。
って言ってもよく分からないよね」
「長ったらしいぜ」
「まあ、場所はともかく、今から一週間後の9月12日の夜、
この町の丘に、通称『3メートルの宇宙人』が現れるんだ」
「「宇宙人???」」
勇気とアプリルは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「『フラットウッズ・モンスター』とも言ってね。世界中で話題になった怪だよ」
「おいおい、何だよそれ」
~フラットウッズ・モンスター~
1952年のアメリカ合衆国ウェストバージニア州で、
夜空に光る正体不明の物体の目撃情報が相次いだ。
その後、UFOが墜落したと思われる場所へ様子を見に行った近隣住民によれば、
現場には焼け付くような不快な臭いが立ち込めていたらしい。
さらに、その場には「シューッ」と音を立てる謎の生物がいた。
玉葱のような頭に大きな光る目を二つ備えた丸い顔で、
その姿はまるで巨大な
この怪物は、見つかった地域の名前を取ってフラットウッズ・モンスターと呼ばれ、
日本でも「3メートルの宇宙人」として話題になった。
(3メートル? 玉葱のような頭に、梟のような姿?)
アプリルの頭が混乱する。
「今回の怪は、宇宙人かよ」
「『もし宇宙に我々しかいなかったらスペースがもったいない』、
カール・セーガンはそう言ってた」
「え? カール……」
「誰だよ、そいつ」
「アメリカの有名な天体物理学者だよ。
英語の『SPACE』には『宇宙』と『空間』の意味があるから、その二つを掛けた言葉なんだ」
「はあ……?」
勇気とアプリルはきょとんと聞き入った。
「地球は太陽の周りを回る惑星で、太陽系の一員に過ぎない。
そして、太陽系は1000億個の星を抱えた銀河系の一員に過ぎない。
それなのに、地球にしか生物がいないなんてむしろおかしいだろ?」
「はあ、まあ……でも、だったら宇宙人が地球にいるって事なの……?」
「いや、カール・セーガンは地球に別の星の知的生物が来ているとは言ってない。
でも、恐ろしい怪がいるのは確かだ」
勇気はそれを聞き、持っていたテンプラステルンをチラリと見た。
(こんなので倒す事ができるのかな……)
何だか不安な気持ちになる。
しかし、今さら怪狩りをやめるわけにはいかない。
怪を倒さない限り、元の時代には戻れないのだ。
ディアーナがいれば途中撤退できるのだが、生憎、彼女は現在謹慎中だ。
「だけど、ちょっと待って」
勇気はふと、ある疑問を抱いた。
「どうして、12日に来なかったの?」
フラットウッズ・モンスターが現れたのは、一週間後の12日なのだ。
「この町に一週間もいるのか?」
すると、キユウは首を横に振った。
「別に、一週間ものんびりしているつもりはないよ。今日でよかったんだ。
今日の夜、フラットウッズ・モンスターが初めて現れるからね」
「どういう事だよ」
「世間的には9月12日に現れた事が有名だけど、実は9月5日の夜にも現れているんだ。
ただ、その時は目撃者も少なく、みんな信じなかったんだよ」
キユウは、周囲を見渡した。
「この付近の丘に現れるはずだ」
アプリルと勇気も周囲を見回す。
キユウは今日を選んだ理由を力強く言う。
「人々がまだパニックになっていない今日なら、
被害者を出す事なく、怪を倒す事ができるはずだ」
「そこまで計算してたんだ……」
キユウは、被害を最小限に食い止めたいと思っているのだ。
怪を倒せば全て元に戻るが、それでも人が傷つく姿は見たくない。
勇気もアプリルも、それは同じだ。
「ん?」
三人の傍に、一台の車が止まった。
「おい、坊や達、こんなところで何をしてるんだい?」
車を運転していた男性がドアを開けて下りてきた。
車の側面には『SHERIFF』の文字が大きく記されている。
「シェリフだよ。つまり保安官だね」
キユウは勇気の耳に囁いた。
制服のお腹がズボンのベルトの上からはみ出している太った男性が近づいてくる。
その胸には星型のバッジが付いていた。
アメリカは日本より大きいので、警察官の他に、地域を守る保安官という仕事がある。
そんな話を聞いた事があると勇気は思った。
「この人が保安官なんだ……」
勇気はキユウだけに囁いていたつもりだったが、それは巨体の男性にも聞こえていた。
「その通り、俺は保安官だ。だから尋ねるが、君達は何をしている?」
「えっと、僕は、あの」
困った勇気は助けを求めて背後をチラリと見たが、キユウも上手い言葉が見つからない。
アプリルには、気づいていなかった。
「見ての通り、ここは小さな町だ。俺はこの辺りに住んでいる子供は全て覚えている。
君達の顔は初めて見たな。名前は?」
「アプリル・フェルナンデスだぜ」
「し、し、真之勇気です」
「シンノユウキ? 変な名前だな」
「ちょっと遠いところから来て……」
「遠く? それはご苦労様だな」
保安官は優しく接してきたが、酷く疲れた顔をしている。
今日は、余程忙しかったのだろう。
看護師の仕事をする夜勤明けの母親の顔に似ていた。
そんな時に下手な事を言うと、母親はムッとした顔でキツいお説教を始める。
だが、目の前の太った男性は、腰にピストルをぶら下げた保安官だ。
勇気は緊張して急にドキドキしてきた。
「あ、その……」
「まさか、家出とかじゃないよな?」
保安官の声のトーンがさっきより低くなった。
既に家出と決めつけているのだろう。
そんな相手に、見捨里市を救うために未来の日本から来ました、と言っても通じるはずがない。
「どうしよう? 助けてよ!」
思わず背後のキユウを振り向き、囁いてしまった。
それが失敗であり、保安官の疑いをますます深めた。
「さっきからチラチラと後ろを気にしてブツブツ言ってるのは何故かな?」
「あ、そ、それは」
幽霊のキユウの姿が見え、声が聞こえる人間は、勇気と退魔師だけだ。
保安官はじっと勇気を睨みつけた。
「まさか、目から光線を出す気じゃないだろうね?」
「ヒーローかい?」
「冗談だよ」
「君もワシントンDCの事件は知ってるだろ?」
「何だそりゃ」
「ホワイトハウスの上を幾つもの怪しい光が飛び交ったあの事件だよ。
あれ以来、アメリカ中が空飛ぶ円盤や宇宙人に怯えてる。まったく、バカバカしい!」
そう吐き捨てた保安官は、自分の腕のバッジと腰のホルダーを指差した。
「だがな、俺はこのバッジをして、ピストルを持っている。それがどういう事か分かるか?」
「あんた自身で町を守るのか?」
「その通り! 俺はどんな相手だろうと、この町の平和を乱す者は絶対に許さん!
相手が宇宙人であっても、そして君のような子供と狼であってもね」
保安官は皮肉な笑みを顔に浮かべた。
「今日は忙しくて昼飯を食い損ねたんで、機嫌が悪い。
君達のせいで面倒になるのは避けたいんだ。分かるね?」
保安官は、勇気達を再び疑って見つめた。
勇気は何とか自分の状況を説明したいが、それは無理というものだ。
「えっと、あの……その……」
ついキユウを頼って背後を見てしまう。
保安官の目つきがさらに険しくなった。
「後ろに何があるんだ? とにかく、保安官事務所に来なさい」
保安官は勇気の腕を掴んで、車へ引っ張った。
「えっ、あの、ちょっと!」
「今説明したように、俺は機嫌が悪い。素直に言う事を聞くんだ」
「でも、僕には用事が。だから、あああ」
キユウは宙に浮かびながら、連れて行かれる勇気を見て項垂れた。
「う~ん。流石にこれは笑えないね」
「俺達も追いかけようぜ」
「ああ」
保安官は勇気を助手席に押し込むと、ドアを力任せに閉めた。
そして車の腕を回って、運転席に向かって巨体を動かした。
頭につばの広い帽子を被っていなかったら、力士にしか見えないと勇気は思った。
アプリルは、車を走って追いかけていた。
「キユウ、ワシントンDCの空飛ぶ円盤事件って何?」
勇気は前を向いたまま後部座席のキユウに語りかける。
「僕達が来ている今は1952年の9月だけど、その2ヶ月前の7月に、
ワシントンDCの上空を幾つもの怪しい光が飛び交う事件があったんだよ」
「そんな事があったの?」
「それで、宇宙人の侵略だって大騒ぎになったんだ。
21世紀になった現在では自然現象の悪戯だと言われてるけどね」
「あっ、そうかい」
ガチャと運転席側のドアが開いて保安官が太った身体を乗せてきた。
その体重で車が運転席側に傾く。
「さて、変な名前の坊や。出発だ」
保安官はエンジンを掛けると、車のアクセルを踏んだ。
~次回予告~
保安官に怪しまれ、連れていかれてしまった勇気。
しかし、保安官は決して悪い人物ではなかった。
アメリカの町に着いた勇気達は、フラットウッズ・モンスターを倒すための作戦を練る。
だが、いくら考えても、作戦が決まる事はなかった――