怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

フラットウッズ・モンスターを倒すべく、アメリカに行った勇気達。
そこで保安官と遭遇した勇気達は事情を話すが、保安官はキユウを認識できず、逆に怪しまれる。
勇気は「変な名前の坊や」と言った保安官に、町まで連れていかれるのだった。


4 - アメリカの町

 暮れなずむ田舎道を車が走る。

 周囲には人家がポツンポツンと点在するだけで、風景のほとんどは牧場の草原か山の木々だ。

 勇気はキユウを気にしてはいけないと、只管正面を見て助手席に座っていた。

 アプリルは、繰り返し追いかけている。

 すると、背後から声が語りかけてきた。

「勇気、このまま市街地に行ってしまったら、モンスターから離れすぎて倒すなんて無理だ。

 トイレが我慢できない、と言うんだ」

 勇気は前を向いたまま軽く頷くと、隣で運転する保安官を見た。

「あの、すみません。トイレに行きたいんです。車を停めてくれませんか?」

「トイレ? 保安官事務所まで我慢しなさい」

 機嫌の悪い保安官は素っ気ない。

「でも、漏れそうです。我慢できません!」

 勇気は股間に手を当ててもぞもぞしながら言ってみた。

「なあ、君を他の悪人と一緒にしたくないが、

 こういう時にトイレに行きたいと言う奴に限って、逃げ出す事を考えてるんだ。

 申し訳ないが、我慢しなさい」

 勇気のガッカリと同時に、背後からも落胆の溜息が聞こえた。

「あーあ」

「これは笑えないね」

 その時、保安官の方から大きな音が響いた。

 びっくりして勇気が保安官を見ると、再び音が鳴った。

 保安官のでっぷりとしたお腹が鳴っているのだ。

「くそ! 腹が減りすぎてるんだ」

 そう言った保安官は帽子の上から頭をかいた。

 さっきまでの厳しさが形無しだと照れたのだろう。

 車の前方には『ナンシーのキッチン』の看板がライトで照らされている。

 若い女性が食べ物の載った皿を、可愛いポーズで運んでいる絵が描かれていた。

 この絵の女性がナンシーなのだろう。

「仕方ない。君はトイレ、俺は食事だな」

 保安官は道沿いの食堂にハンドルを切った。

 

「ぶわっ、はははっ!」

 テーブルを挟んで座った保安官が大声で笑った。

 何故かというと、勇気が今までの経緯を正直に話したからだ。

 フラットウッズ・モンスターが現れる場所から遠く離れてしまったら怪を倒しようがない。

 怪を倒さないと見捨里市を救えないのだ。

「勇気、これは正直に話すしかないね」

「保安官もこの町を守ろうとしてるし、話は分かるみたいだぜ」

 キユウのその提案に勇気も納得したのだ。

 話をするタイミングは、保安官のお腹がいっぱいになり始めてからにしたのだが……。

 

 涙を流して大笑いする保安官は、目の前に置かれた7本目のホットドッグに手を掛けた。

「それで、君は、そのキユウという幽霊の少年と、アプリルという狼と一緒に、

 ここに現れるモンスターを倒しに来たというのかい?」

「そうです」

 勇気は消え入りそうな声で答えた。

 全く信じてくれない保安官に、途方に暮れていたのだ。

「しかも、未来の日本から来たんだろ? いやー、これは笑えるなぁ」

「だよなー」

 保安官は笑いながらホットドッグの真ん中のソーセージの挟んである部分を少し膨いた。

 普通はソーセージにケチャップやマスタードを付けるが、

 保安官は、テーブルの上に置いてある砂糖をサラサラとかけるのだ。

(ホットドッグに砂糖をかけるなんて……)

(味覚が変わってるなー)

 勇気は気持ち悪いと思ったし、保安官が太っている理由も分かった気がした。

 でも、今はそんな事はどうでも良い。

 保安官に勇気、キユウ、アプリルがここに来た理由を信じてもらい、

 ここから解放されるかが重要だ。

「それにしたって、こんな小さな町に宇宙人が何をしに来るというんだね。

 まったく、俺の子供の頃は嘘をつくにしてももう少しマシな嘘をついたものだぞ」

 保安官は呆れた様子で、砂糖がけの特製ホットドッグを頬ばった。

 店内のラジオから音楽が流れており、

 三味線のような音色の楽器が奏でる軽快なメロディーに乗せて歌手が歌っている。

 『カントリー&ウエスタン』というアメリカの民謡だろう。

 勇気は、父親の書斎のCDプレイヤーで聴いた事がある。

 もう店内に入って30分近く、こんな聴き慣れない音楽を耳にしていた。

 何組かいた客は既に帰り、店内には、勇気達と店員の女性しかいなかった。

 

(嘘なんかじゃないのに……)

 窓の外は日が落ち、暗くなっている。

 フラットウッズ・モンスターはもうすぐ現れるはずだ。

(どう説明したら信じてくれるだろう……)

 勇気もアプリルも背後のキユウも解決策が見つけられなかった。

 アプリルはあまり度数が高くない酒を飲んでおり、

 困った勇気は目の前に置かれていたオレンジジュースを一気に飲み干した。

 すると、空になったコップに女性の手がピッチャーからジュースを注いだ。

「この子は別に、何も悪い事してないんでしょ?」

 この店を経営するナンシーだ。

 看板では若い女の子だが、本物は白髪交じりのおばさんだ。

「だけど、ナンシー、この子は自分の後ろにキユウという幽霊の友達がいると言うんだよ」

「こんにちは」

「「「え?」」」

 ナンシーは勇気の背後をじっと見て微笑んだ。

 勇気、キユウ、アプリルは声を上げた。

「ナンシー、君には幽霊が見えるのか?」

 保安官も目を丸くした。

 そんな勇気達の反応にお構いなく、ナンシーはキユウの方を見て話しかけようとする。

 勇気もキユウもアプリルも、話が通じると期待して見返した。

「久しぶり、私のバニーちゃん。子供の時はいつも遊んでくれてありがとう」

「バニーちゃんって誰だ?」

 保安官がナンシーに尋ねる。

「ああ、バニーちゃんっていうのはね、私以外には見えなかった大切な友達よ。

 子供の時はそんな空想の友達がいるものよ。そうよねぇ?」

 そう言ったナンシーは、勇気の頭を撫で始めた。

(僕は空想の友達と遊ぶほど幼くないよ!)

(でも、お前はガキだしなぁ)

 勇気はナンシーの対応にムッとしたが、口には出さなかった。

 アプリルは、勇気を子供扱いしていた(実際、子供だが)。

「ナンシー、君はいいからカウンターに戻って」

「はいはい」

 笑いながら去って行くナンシーを、保安官は笑って見送る。

 

(これから恐ろしい事が起きるのに……)

 どうすれば良いか分からない勇気とアプリルは腕を組んだ。

 さっきまでは聴き慣れない音楽と思っていたラジオの音楽が鬱陶しくなってくる。

「勇気、アプリル、ラジオだ!」

 背後からキユウが語りかけてきた。

「フラットウッズ・モンスターが現れる前に電波障害が起きたらしい」

「ん? つまり、モンスターがやって来る前にラジオが聴けなくなったのか?」

「ラジオは5分間、聴けなくなったそうだ。それに、地震も起きたそうだ」

「フラットウッズ・モンスターが現れる前に地震も起きたんだね?」

「そうだ。それを保安官に伝えるんだ」

「保安官にラジオが聞こえなくなる事と、地震が来る事を伝えれば良いんだね?」

「そうだ」

 勇気は保安官に向き直るとその事を伝えようとした。

「保安官さん、よく聞いてください。これからラジオが……」

「あの奇妙な独り言は聞こえてたよ」

 保安官はやれやれと首を振った。

 厄介な子供と狼に出会ってしまったとうんざりしたのだろう。

 

「あらっ、どうしたのかしら?」

「どうしたんだ?」

 カウンターにいたナンシーが声を上げた。

 保安官が立ち上がって顔を向けると、ナンシーはラジオを指差した。

「ラジオが、急に聞こえなくなったの」

 ラジオのスピーカーからは、ノイズだけが響いていた。

「さっきまで音楽が流れてたよね?」

「ナンシー、急にラジオが壊れただけなんじゃないのかい?」

「そんなはずないわ。先月買い替えたばかりなのよ」

 その言葉に、キユウはハッとなった。

 

「来るぞ!」

「えええ!?」

 瞬間、床が大きく揺れた。




~次回予告~

突然、前触れもなく起こった地震。
明らかに自然現象ではなく、怪が起こしたものだと知る勇気。
いよいよ、怪のフラットウッズ・モンスターが現れる。
勇気達は覚悟を決めて、フラットウッズ・モンスターに挑むのだった。
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