勇気、キユウ、アプリル、保安官は、フラットウッズ・モンスターに戦いを挑んだ。
フラットウッズ・モンスターの能力は悪臭を放つだけではなかった。
火炎弾という、遠距離攻撃手段も持っていた。
苦戦する四人だが、それでも、四人は挑み続ける。
町を守るという気持ちは、誰も、変わらないのだ。
「ホットドッグ用のパンをください!」
勇気は、食堂に駆け込むと、カウンターにいたナンシーに向かって叫んだ。
店には、丘から逃げて来たあの女性も避難していた。
「何があったの?」
「森の方からまた音がしたわよ?」
ナンシーと女性は勇気に歩み寄ろうとするが、それよりも早く、勇気はナンシーの傍に走った。
「今は事情を説明している暇はないんです!
早くしないと保安官が大変な事になっちゃうんです!」
「保安官が?」
勇気の真剣な表情を見て、ナンシーは頷いた。
ナンシーは厨房から調理用のパンの入った箱を持ってきて、勇気に渡した。
「ありがとうございます! 二人とも、外に出ないでください!」
勇気はパンの箱を抱えて、店を飛び出した。
「保安官さん! アプリルさん!」
森に戻ってきた勇気は、保安官とアプリルを捜した。
異臭が立ち込めているが、保安官もアプリルも、
そしてフラットウッズ・モンスターの姿も見当たらない。
「どこに行ったんだ?」
「勇気、空を見るんだ」
キユウに言われて空を見ると、×印状の罅が浮かんでいた。
「まさか、フラットウッズ・モンスターは見捨里市に行ったんじゃ?」
「いや、まだ罅は小さいからそれはない。この森にいるはずだ。
とにかく、『テンプラステルン』をパンに詰めよう」
「う、うん……」
勇気はパンの切れ目の間に、テンプラステルンの粉末をサラサラと流し込んで詰めていった。
一つ、二つ、三つ……10個ほどのテンプラステルン・ホットドッグが完成した。
「よし! 行こう! 勇気」
勇気は全身に力を入れて緊張しながら、森の中を進む事にした。
「ひゃああ!」
突然、何かが勇気に向かって飛んできた。
勇気はフラットウッズ・モンスターだと思い、
とっさに頭を抱えて身を屈めたが、襲ってこない。
顔を覆った両腕の隙間から恐る恐る上を見ると、一羽の梟が飛んでいた。
「な、なんだ、梟か……まったく、怖がらせるなよな」
勇気は、ホッと胸を撫で下ろす。
その時、ツーンと何かが臭った。
「キユウ、変な臭いがする。今までとは違う臭いだ」
理科の実験で油に火を付けた時に嗅いだ臭いだ。
「勇気、気をつけろ! 危ない!」
突然、火球が飛んできた。
キユウの声で勇気が飛び退くと、火球が近くに落ち、火柱が上がった。
火柱の向こうに、勇気達の方を見ているフラットウッズ・モンスターの姿が浮かび上がった。
「勇気! 特製ホットドッグを!」
勇気はホットドッグの詰まった箱を抱えた。
フラットウッズ・モンスターは奇妙な音を立てながらこちらに近づいてくる。
「そうか、あいつは火の玉を撃つのにチャージが必要なんだ。
次に撃ってきた後にホットドッグを口に投げ込むんだ!」
「分かったよ。でも、ここからじゃ、投げても届かないよ」
「充分に引きつけるしかない」
フラットウッズ・モンスターは、
火球のチャージ音と自分自身の駆動音を響かせながら森の中を進んでくる。
「勇気、慌てるなよ。充分に引きつけて、火の玉を撃たせるんだ」
「でも、近くから撃たれて、逃げられるかな?」
「やるしかない!」
あと5、6歩も近づけばホットドッグを投げても届く距離に近づいてきた。
「勇気、撃ってくるぞ!」
勇気は逃げ出したい恐怖を振り払い、モンスターの口を睨んだ。
開いた口の中には飛び出す直前の火球が見え始め、勇気は身構えた。
その時、近くの茂みが揺れる音が響いた。
フラットウッズ・モンスターの口から火球が発射され、茂みの中に火柱が上がった。
「うわああ!」
悲鳴と共に、茂みの中から保安官の巨体とアプリルの肉体が転がり出てきた。
「二人とも!」
「おお、こんなに走ったのは久しぶりだ」
勇気はホッとして汗だくのアプリルと保安官に抱きついた。
「勇気、のんびりするな!」
勇気は特製ホットドッグを手に持った。
「アプリル、これをあいつの口に投げ込むんです」
「テンプラなんとかを中に挟んだんだな」
アプリルは、特製ホットドッグに手を伸ばした。
「えっ?」
勇気が振り返った瞬間、機械の手が伸びて来た。
いつの間にか、フラットウッズ・モンスターは背後に近づいていた。
「わぁぁぁ!」
勇気は叫んだ。
フラットウッズ・モンスターは、勇気の腕を掴むと、口を大きく開けた。
「勇気、早く口の中に特製ホットドッグを投げ込め!」
「そんな事を言われても!」
勇気はフラットウッズ・モンスターに腕を掴まれ、手を動かす事ができない。
「放せっ! 放せぇぇっ!」
異臭のする口が勇気に迫る。
すると、人影がフラットウッズ・モンスターの腕に覆いかぶさった。
「そいつを放せ!」
アプリル・フェルナンデスだ。
彼が全体重をかけると、フラットウッズ・モンスターが少し傾いた。
その手が、勇気から離れた。
「勇気、今だ!」
「はいいいい!」
勇気は、テンプラステルン入り特製ホットドッグを
フラットウッズ・モンスターの口に投げ込んだ。
「よし! 俺も!」
「いくぜ!」
保安官も特製ホットドッグをモンスターの口に投げ、アプリルも続けて投げつける。
フラットウッズ・モンスターの身体が、大きく揺れ動く。
「全部、投げ込むんだ!」
「もちろん!」
キユウに言われるまでもなく勇気、アプリル、保安官は、
特製ホットドッグを、次々と相手の口に投げ込む。
フラットウッズ・モンスターの梟のような目が激しく点滅し、その場でクルクルと回り始めた。
勇気と保安官は慌ててモンスターから離れ、アプリルも素早く離れた。
「どうなってる!?」
「油が固まり始めたんだ!」
アプリルが不安そうに叫ぶと、三人の脇に浮かぶキユウが答える。
キユウのその言葉は保安官には聞こえなかったが、
目の前の光景を見れば、勇気が伝える必要も無かった。
大きな二つの目玉を様々な色に点滅させるフラットウッズ・モンスター。
ネズミ花火が地面を飛び回るように滅茶苦茶に動く。
フラットウッズ・モンスターは地面に倒れ、その音と共に大きな目玉の光が消えた。
「こ、こいつを、倒せたのか……?」
保安官がフラットウッズ・モンスターの方を見つめる。
キユウとアプリルが深く頷いた。
勇気は、そんな保安官を見て笑顔を浮かべると、「はい」と答えた。
保安官は勇気に手を差し出した。
「俺の町を救ってくれてありがとう」
勇気は少し戸惑ったが、直ぐに保安官の手を握った。
「一つ謝らせてくれ」
「何をですか?」
「真之勇気、君の名前は変じゃない。とても良い名前だ」
勇気と保安官は笑い合った。
やがて、フラットウッズ・モンスターの身体が黒い煙となって辺りに飛び散り、そして消える。
UFOも、同じように黒い煙になって、消滅した。
「これにて一件落着!」
「う~ん、今日も平和だねぇ」
寂れた食堂では、保安官がコーヒーを飲んでいた。
「この町はいつも平和でしょ」
ナンシーはラジオの前に座って音楽を聴きながら、笑う。
店には、丘の上に住んでいる女性の姿もあった。
それは、いつもと変わらない風景だ。
勇気、キユウ、アプリルは、丘の外から丘越しにその様子を見ていた。
「よかった……」
怪を倒した事により、保安官の記憶は無くなったため、
今は勇気とアプリルを見ても誰だか分からない。
二人はそれが少し寂しかったが、今夜の出来事があろうがなかろうが、
この町のために必死に働いている保安官を憧れの眼差しで見た。
「この町のヒーローだね……」
勇気は、この町を守るために戦った保安官のような人間になりたいと思った。
「なれるよ」
ふと、キユウが言った。
「え? 僕、何も言ってないけど……」
「言わなくても分かるよ。君なら、きっとなれる」
キユウは優しい笑みを勇気に見せた。
「さあ、戻るよ」
「あ、う、うん!」
「よし! ディアーナとノノに報告するぜ」
勇気は、丘から離れると、キユウ、アプリルと共に元の時代に戻る事にした。
その頃、見捨里市のある家では、白鳥羽心が小さな溜息をついていた。
(結局、勇気に相談できなかったなぁ)
羽心は、自室の机の椅子に座り、落ち込んでいるようだった。
(最近、何かがおかしい気がする……)
羽心はふと、窓の方を見る。
一週間前、何故か夜に花恋が窓の下にやってきた日。
その日に何か、重大な事があった気がする。
「×印……」
そう、また×印状の罅に関係していた気がする。
それは、ぼんやりとした記憶だったが、羽心には夢ではないという確信があった。
羽心は、机の一番上の引き出しをじっと見つめる。
周りを見て、誰もいない事を確認すると、その引き出しをゆっくりと開けた。
そこには、『黒い鈴』……オシリスの鈴が入っていた。
~次回予告~
オシリスの鈴に気づいた羽心に、ジャネットが警告を送る。
しかし、羽心に警告が届く事はなかった。
次に起こる怪奇現象は、呪われし雨。
常識では考えられない「現象」に、勇気達は立ち向かえるのだろうか。