町を守るという決意のもと、勇気達はフラットウッズ・モンスターに挑んだ。
まともな攻撃は通じず、徐々に追い詰められていく四人。
しかし、ここで負ければ町を守る事はできない。
勇気達はテンプラステルン入り特製ホットドッグをフラットウッズ・モンスターに食べさせる。
そしてついに、フラットウッズ・モンスターは倒れ、アメリカと見捨里市に平和が戻った。
しかし、羽心は黒い鈴――オシリスの鈴がどんな効果なのか、まだ気付いていなかった。
1 - 降ってきた異物
「……ん?」
朝、白鳥羽心が起き上がると、目の前に手紙が届いていた。
羽心がそれを開くと、そこにはこんな文章が書かれていた。
オシリスの鈴の在り処が見つかりました
それは、特別な能力を持った人間のみに使用できるものです
あなたが何者なのかは、私は調べていませんが
その鈴は、決して使用しないでください
ジャネット・ディ・アルク
「オシリスの鈴……? ジャネット……?」
羽心には何が何だか分からなかった。
しかし、知らない人から手紙が届いても、決して反応してはいけない、
と羽心は覚えているため、羽心は手紙をゴミ箱に捨てた。
その行為が羽心自身を苦しめる事になるのは、彼女はまだ、知らなかった。
「なあ羽心、何を調べてるんだ?」
日曜日、勇気はいつものように父親の書斎にいた。
隣には、羽心がいる。
最近、羽心は書斎にやってきては、本や資料を見て何かを調べていたのだ。
「何って、多分勇気に言っても分からないわよ」
「怪奇現象の話? だったら僕、結構詳しくなったんだよ」
怪狩りを始めてからというもの、勇気は時間さえあれば怪奇現象の本を読むようになった。
羽心には敵わないが、それでも以前より怪奇現象の話ができるはずだ。
しかし、羽心は首を横に振った。
「それでも、勇気には分からないわよ。……だって、私もさっぱり分かってないんだもん」
羽心はそう言うと、再び本を読み始めた。
(なんだよそれ)
羽心は何か悩んでいるようだが、それを全然話してくれない。
(羽心って、肝心な時に限って、一人で悩んじゃうタイプなんだよな……)
小学2年生の時、学校の遠足で山に登ったが、
羽心は水筒を忘れてしまった事を誰にも言わなかった。
先生に叱られると思ったのだ。
勇気がそれに気づいて、バレないようにお茶を分けてあげたからよかったものの、
そのまま山を登っていたら、羽心は脱水症状を起こして倒れていた事だろう。
(心霊写真の撮影とかUFO探しとか、くだらない事だとすぐ声をかけて来る癖に。
まぁ、僕も僕で、羽心に相談できない悩みがあるんだけど……)
勇気はキユウに、邪鬼の事を聞いて以来、彼が何者なのか調べるようになった。
邪鬼がただの人間のようには思えなかったのだ。
しかし、いくら本や資料を調べても、それらしいものは見つからなかった。
(そもそも、邪鬼って鬼の事だよね……?)
図書館でたまたま手に取った仏像の本に、『邪鬼』という鬼の彫刻の写真が載っていた。
邪鬼というのは、祟りを起こす神で、妖怪とも物の怪とも言われているらしい。
もしかしたら、邪鬼は怪なのかもしれない。
(だけど、だったらどうしてキユウは、怪って言わなかったんだろう?)
今まで出会った怪物達の事を、キユウは怪と呼んだ。
だが、邪鬼と、エルフだけは怪とは呼んでいなかったのだ。
「はあ~」
勇気は羽心の横で大きな溜息をついた。
すると、ノック音がしてドアが開き、母親が部屋に入って来た。
「勇気、お友達が来てるわよ」
「えっ、誰だろう?」
今日は、羽心がいつものように勝手に書斎に来た以外、特に誰とも遊ぶ約束はしていなかった。
母親は勇気に近づくと、にやにやと笑った。
「羽心ちゃんって可愛い彼女がいながら、ホント、隅に置けないわねぇ~」
「はあ? 羽心はただの幼馴染だろ。って言うか、誰が来たの?」
「桐谷さんよ」
「桐谷さん?」
羽心がその名前を聞き、顔を上げた。
「勇気、花恋ちゃんと遊ぶ約束してたの?」
「遊ぶ約束なんてしてないけど……」
桐谷花恋……同じクラスで図書委員の花恋の事だ。
今まで、花恋と休日に遊んだ事などない。
「何の用だろう?」
とりあえず、勇気は花恋を書斎に招く事にした。
「はぁ~、ようやく謹慎は解除か」
「ディアーナ、よく我慢できたな」
謹慎処分を解かれたディアーナは、アプリルと共に怪奇現象の調査をしていた。
「空からヤドクガエルが降ってくる怪奇現象ねぇ」
「確かにあれは、危険な蛙だよなぁ」
「……ん?」
ディアーナが地面を見てみると、それは宝石だった。
「あら、宝石? 蛙しか降ってこないと思ったのに」
ディアーナは落ちた宝石を拾った。
アプリルもいくつか拾って、鞄の中にしまった。
「つまりこれは、蛙以外にも何か降ってくるって事なのか?」
「多分……」
ディアーナとアプリルは、町中を歩いていく。
すると、二人は勇気と出会った。
「あれ? ディアーナさんに、アプリルさん? 何をしていたの?」
「『さん』はいらねぇよ。俺達は空から何かが降ってくる怪奇現象を調査していたんだ」
「……?」
「そんなわけで、あたしも書斎に行かせて」
「ああ、いいけど……」
見捨里市だけでは何も分からないので、結局、最終的には書斎に行く事になった。
そして、ディアーナとアプリルは書斎にやってきた。
そこには、既に花恋がやってきていた。
「わ~、凄い!」
書斎にやってきた花恋は、部屋にある数々の本を見て、一瞬で虜になったようだ。
「花恋ちゃんも怪奇現象とかが好きなのね」
「えっと、そういうのはよく分からないけど、学者の人とか研究者の人のお部屋が大好きなの!」
花恋は、本棚の周りの前で息を大きく吸い込んだ。
「う~ん、いい匂い。本のインクの匂いって、何故か心が落ち着くわよね」
「そうかな?」
「そうよ! 勇気君、いいなぁ、こんな素敵なお部屋があって! あっ、写真撮っていい?」
「う、うん、別にいいけど」
「ホント! やったぁ!」
花恋はポケットからスマホを取り出すと、部屋の写真を撮り始めた。
「きゃ~! 図鑑もいっぱいある! 素敵~! 最高すぎる~!」
花恋は眼鏡の奥の目をきらきらと弾かせながら、本棚に並べられた図鑑を写真に撮りまくる。
「花恋ちゃんって、こんなんだったんだ……」
「何だか意外よねぇ」
「そうね」
「あー、ちょっとうるせぇなぁ」
花恋は普段は大人しい女の子だが、どうやら本を見ると性格が変わってしまうらしい。
本当は注意したいアプリルだったが、女好きな彼にはできず、耳を塞いで愚痴るしかなかった。
やがて、花恋は満足したのか、写真を撮り終え、勇気にお礼を言った。
「……それで、花恋ちゃんはどうして僕の家に?」
「あっ、そうそう、羽心ちゃんに見てもらいたいものがあったの!」
花恋は羽心の家を訪れたものの、勇気の家に遊びに行っていると聞き、こちらに来たらしい。
「これなんだけど」
花恋は二人にスマホの画面を見せると、動画を映した。
それは、どこかの公園のようだ。
大学生ぐらいの女性が、カメラで自分の姿を写しながら楽しそうに喋っていた。
「ここって、パンダ公園……だよね?」
勇気は、画面の隅に、バネのついたパンダの遊具が三つ並んでいる事に気づいた。
パンダ公園は、町外れにある小さな公園だ。
同じパンダの遊具が並んでいるので、みんな昔からそう呼んでいた。
「この動画を撮ってるのは、近所に住んでるお姉さんなの」
女性は、ネットで動画を配信しているらしい。
三つもあるパンダの遊具を面白く思い、紹介動画を配信しようと思ったという。
「それで、この動画がどうかしたの?」
羽心は首を傾げる。
パンダ公園の事を知らない人が見たら面白いかもしれないが、
勇気達には特に目新しさはなかった。
すると、花恋が急に真顔になった。
「見てほしいのは、この後なの」
動画の中で、女性はカメラで自分の姿を撮りながら、パンダの遊具に乗ろうとしていた。
その時、後ろで何かが落ちる音がした。
「何だろう?」
女性はそう言いながら、何気なくカメラを後ろに向けた。
すると、地面に何かが落ちている。
女性はカメラを向けながら、ゆっくりと近づいた。
「えっ?」
それは、宝石だった。
「どうして?」
女性はそう呟くと、何かに気づいたのか、カメラをふと、空に向けた。
瞬間、空から数え切れないほどの宝石が降って来た。
「きゃ!」
カメラが大きく揺れる。
画面に、地面に落ちた色とりどりの宝石が映る。
「こんなのあり得ない!」
動画は、女性の叫ぶような声で終わっていた。
「何だよこれ……?」
空から宝石が降って来るなど、絶対にあり得ない。
「もしかして、ドッキリ動画?」
女性が、花恋を驚かせるために偽物の映像を作ったのではないだろうか?
「そうじゃないと思うわ。だって、お姉さん、私の前で本気で驚いてたもん」
映像を撮ったのは、つい30分ほど前なのだという。
女性は、公園から逃げると、すぐに花恋の家に駆け込んで来たらしい。
花恋が以前、不思議な現象に詳しい友達がいると話していたのを思い出し、
これが何なのか知りたいと思ったというのだ。
「不思議な現象……」
それを聞き、勇気はハッとなった。
それは、恐らく怪の仕業だ。
すると、画面をじっと見つめていた羽心が口を開いた。
「これって、『ファフロツキーズ』かも」
「ファ、フロ? ツキーズ?」
「知っている……」
「それ、本に載ってたよね?」
戸惑う花恋とは違い、勇気にはその言葉に心当たりがあった。
最近読んだ怪奇現象の本に載っていたからだ。
勇気は本棚からその本を取り出すと、ページを開いた。
「あった!」
~ファフロツキーズ~
「空からの落下物」を意味する「フォールズ・フロム・ザ・スカイズ」の略語。
怪雨とも言われ、常識では考えられないものが空から降ってくる現象である。
1578年、ノルウェーで、鼠の雨が降った。
1793年、日本で、動物の毛の雨が降った。
1861年、シンガポールで、魚の雨が降った。
1890年、イタリアで、真っ赤な血の雨が降った。
1901年、アメリカで、蛙の雨が降った。
「こんなに記録があるなんて……」
「ヤドクガエルや、宝石だけじゃなかったのね……」
勇気はごくりと唾を飲み込む。
ここに書かれている事は、恐らく本当の事なのだろう。
一方、羽心は真剣な顔つきになっていた。
「……もしかしたら、また」
羽心は呟くように言うが、勇気にはその声は聞こえていなかった。
「花恋ちゃん、そのお姉さんに会わせて!」
羽心は持ってきていたポーチを手に取ると、出かける用意をした。
「勇気も来るでしょ?」
「えっ、僕も?」
「もしかして怖いの?」
「怖くはないけど」
ファフロツキーズが起きたのは、恐らく怪の力のせいだ。
だったら、女性に会っている時間はない。
「ごめん。僕はここに残るよ!」
残って、やらなければならない事がある。
だが、そんな勇気の気持ちを羽心は当然分かってくれないようだ。
「も~、ホントに勇気は勇気ないんだから! じゃあいいわよ! 花恋ちゃん、行こう」
羽心はうんざりして、部屋から出て行ってしまった。
「あっ、ちょっと!」
勇気があるから残ったのに……。
閉められたドアの前で、誰もその気持ちを分かってくれない。
「僕にはちゃんと分かってるよ」
ふと、背後から声がした。
勇気が振り返ると、そこにはキユウが立っていた。
~次回予告~
ようやく謹慎処分を解かれたディアーナは、見捨里市で起こる怪奇現象を調査していた。
空から奇妙なものが降ってくる怪奇現象――ファフロツキーズ。
それを止めるため、勇気達は時空を超えて怪を狩る事になった。