見捨里市で、空から何かが降ってくる怪奇現象、ファフロツキーズが発生していた。
勇気は羽心、花恋と共に、ディアーナはアプリルと共にファフロツキーズについて調査する。
だが、そこでも羽心は怪奇現象について認識していた。
何故彼女が認識できているのか分からないまま、勇気達は書斎に向かうのだった。
「キユウ、いたんだね!」
勇気が驚きながら尋ねると、キユウは優しく笑った。
「彼女達がいたから、出にくくてね」
「別に出てきても、羽心達にはキユウは見えないだろ」
「それはそうだけど、いると君達とゆっくり話もできないし、
時のトンネルを開く事もできないだろ」
「赤文字! ……じゃない! キユウ、この宝石を見て!」
「ああ、羽心ちゃんの予想通り、ファフロツキーズだ」
「空から何かが降ってくる現象ね。一部では奇跡*1って呼ばれてるけど」
勇気はそれを聞き、慌てて棚の下に隠していた靴を手に取った。
「だったらすぐに行かなきゃ! 今回はどんな武器を持って行けばいいの?」
「へぇ、随分やる気だねぇ」
「当たり前だろ。
羽心の性格なら、お姉さんから話を聞いたあと、きっとパンダ公園に行くと思うんだ」
その時、また怪現象が起きて、それに巻き込まれてしまったら……。
「なるほど、確かに彼女ならその可能性があるね。
ファフロツキーズは生き物や宝石が降ってくるだけじゃない。
宝石よりもっと大きな石や鉄の塊が落ちてくる事もある」
「そんな!」
もし、そんな物に当たったら、怪我だけではすまない。
「早く怪を倒すわよ。宝石は拾いたいけどね」
「ああ、もちろんそのつもりだ」
キユウはそう言うと、机を指差した。
「今回の武器は、机の一番下の引き出しに入ってるよ」
「分かった!」
勇気は机に駆け寄ると、引き出しを開けた。
そこには、ゴムのついたYの字形の木製の棒が入っていた。
「あ、スリングショットだわ! でも、あたし達はあまり使わないし、アプリルは……」
「おい、俺を遠回しに馬鹿にするな」
「とにかく、スリングショットっていうのはね……」
ディアーナは、スリングショットの使い方を勇気に教えた。
スリングショットは、Yの字形の部分についているゴムに弾をセットして、
ゴムを引っ張り、手を離す。
すると、ゴムが戻る力で、弾が勢いよく飛んでいき、対象物を攻撃する事ができるのだ。
「僕の子供の頃は、みんなパチンコ……エルフが言ってるスリングショットで、
空き缶とかを撃って遊んでたんだけどね」
「子供の頃? 今も子供だろ?」
「あ、ああ、そうだったね。とにかく、それを持って行くよ。
弾は向こうで小石とかを拾っても利用すればいいから」
「う、うん!」
「まともな武器が手に入ってよかったわね、勇気」
スリングショットは、武器らしい武器と言っていいだろう。
勇気は、右手にグローブを嵌めると、スリングショットを握り締め、キユウの傍に立った。
ディアーナとアプリルも、準備をする。
「さあ、怪を倒しに行くよ。……怪狩りの時間だ!」
キユウはグローブを嵌めた左手を壁の前にかざし、呪文を唱えた。
「
次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。
キユウ、ディアーナ、アプリルが、光の渦の中に消えた。
勇気も、渦の中に飛び込んだ。
「んんんん!」
「ばびゅーん!」
「飛んでいくわよ!」
光のトンネルの中を飛んでいく。
やがて、トンネルの奥に、干し草の山が見えてきた。
「わっ、ちょ、ちょっと!」
トンネルを出ると同時に、勇気、ディアーナ、アプリルは干し草の山の中に頭から突っ込む。
「んん、ぶはっ!」
勇気は慌てて、干し草から顔を出した。
ディアーナとアプリルは楽しそうな顔をしていた。
「もう、なんだよ~!」
その時、何かが勇気の顔を舐めた。
「ひゃああ!」
「あ、馬だわ」
思わず仰け反り、逃げるように干し草山から這い出る。
干し草の傍に顔を向けると、そこには馬が立っていた。
勇気、ディアーナ、アプリルが着地した場所は、どうやら馬小屋のようだ。
「よかったじゃないか。馬に懐かれて」
「人間なのに……」
キユウが馬の背に座るように浮かびながら笑う。
「嬉しくないよ! 顔を舐められたんだよ」
勇気は服で顔を必死に拭きながら立ち上がった。
「それで、ここはいつの時代なの?」
「ここは、19世紀のイギリスの田舎の村だよ」
「「イギリス……」」
「スリギイ……」
「「逆から読むな」」
三人が馬小屋から出て村を見ると、三角屋根のレンガ造りの家がいくつか建っていた。
「わああ~」
時刻は昼間。
村は山の麓にあり、綺麗な川も流れている。
以戦、ネッシーのいるイギリスのネス湖へは行った事があったが、
あの時は森と湖しか見なかった。
ここはそれとは違い、おとぎの国に来たような気分になる。
勇気、ディアーナ、アプリルの三人はその風景を楽しげな様子で見つめていた。
「景色を楽しめる余裕が出てきたようだね」
「ええ、素晴らしい景色ね」
「だけど、住んでる人達が素晴らしいかどうかは分からないよ」
「どういう事?」
勇気が首を傾げた瞬間、数人の村の人達が傍にやってきた。
「お前、どこから来た?」
先頭にいた恰幅のいい中年の男が、勇気を睨みつける。
男は何故か、鍬を構えていた。
他の人達も鎌や鋤などの農機具を構え、怒りに満ちた表情を浮かべていた。
「どこって、ええっと、ちょっと遠くから」
「さては、お前も『呪われ人』だな!」
男はそう言うと、勇気に迫って来た。
「え、ちょっと? 呪われ人って何ですか?」
「
男は鍬を振り上げると、勇気に襲いかかろうとした。
その時、強い風が吹き抜けた。
「わっ!」
舞い上がった砂が目に入り、勇気達は思わず目をつぶる。
男達は、青ざめた表情で空を見上げた。
「逃げろ! 呪いの雨だ!」
突然、空から拳大の石が落ちて来た。
「三人とも、屋根の下に逃げるんだ!」
「は、はいいい!」
「分かったわよ……防ぐ余裕はないしね」
勇気は目を擦りながら、キユウ、ディアーナ、アプリルと共に馬小屋の中へと逃げた。
村の人達も、蜘蛛の子を散らしたかのように、家の中へと逃げて行く。
「どうなってるの?」
勇気は戸惑いながら、目を開けると、空を眺めた。
すると、空に赤い雲が浮かんでいた。
「来るぞ!」
次の瞬間、無数の拳大の石が、まるで雨のように降り落ちて来た。
ファフロツキーズだ。
馬小屋の屋根にいくつも石が当たる。
「うわっ! わっ!」
勇気は傍にあったブリキのバケツを手に取り、頭に被ると身を縮める。
ディアーナとアプリルは、何とか敏捷な動きで逃げている。
「怖がってる場合じゃない。ファフロツキーズを倒すんだ!」
「倒すって、どうすればいいんだよ?」
空には赤い雲しか見えない。
怪がどこかから雲を操っているというのだろうか?
すると、キユウが赤い雲を指差した。
「雲をよく見るんだ!」
勇気はその言葉を聞き、恐る恐る雲を見る。
「ああっ!」
雲の真ん中に、赤い目が見えた。
「あの赤い目が弱点だ!」
「あそこにスリングショットを撃つのよ!」
瞬間、石の雨が止んだ。
同時に、赤い雲がゆっくりと動き出した。
「今よ!」
「だけど、また石が降ってきたらどうすればいいんだよ?」
「その時は、エルフ達のように上手く避けるんだ」
「避けるって、僕、体育は好きだけど、運動神経はあんまり良くないんだよ!」
「それでも君がやらなきゃ、誰が怪を倒せるっていうんだ!」
時空を超えたのは、見捨里市を怪から守るためだ。
放っておいたら、羽心はパンダ公園に行って大変な事になってしまうかもしれない。
「あたしよ!」
「俺だ!」
「いや、怪を倒せるのはいつだって人間だ」
ディアーナとアプリルは叫ぶが、キユウは首を横に振った。
「怪を倒せるのはいつだって人間……。ここにいる人間は、僕しかいない……。やらなきゃ!」
勇気は立ち上がると、スリングショットを強く握り締め、山の方へと動いて行く雲を睨んだ。
「あいつは、僕が倒す!」
勇気は、バケツを投げ捨てると、馬小屋から飛び出した。
「なるべく高い場所から撃つんだ!」
キユウが傍を飛びながら指示を出す。
前方を見ると、山の頂上へと続く坂になった山道が見える。
雲はその山道に沿って、ゆっくりと動いていた。
「あそこの上からパチンコを撃てば……」
目玉に弾が届くだろう。
勇気は、山道を一気に駆け上がった。
だがその時、前方に生えていた木の陰から、数人の若い男性達が飛び出してきた。
「くそっ、こっちに来たぞ!」
「早く逃げろ!」
「ああもう、邪魔するな!」
どうやら、ファフロツキーズが現れた時に家まで戻る事ができず、木の陰に隠れていたようだ。
男性達は物凄い勢いで山道を駆け下り、勇気の方へと迫って来た。
「えっ、あ、ちょっと!」
「どけ!」
「邪魔だ!」
「あ、あああ!」
「うわわ!」
勇気は走って来た男性達にぶつかり、その場に倒れる。
その衝撃でスリングショットを地面に落とした。
倒れた拍子に、勇気はスリングショットをお尻で踏みつけてしまった。
「あああ!」
お尻を上げると、スリングショットはバラバラになっていた。
「お前らのせいで武器が壊れたじゃねーか!!」
「ひぃ……っ!!」
アプリルが男性達に向かって叫ぶ。
男性達は彼の怒号に耐え切れず、恐怖でへたり込んだ。
その時、ファフロツキーズの動きが止まった。
赤い目が、ジロリと勇気達を睨んだ。
次の瞬間、ファフロツキーズが勇気達の方に迫ってきた。
「わああ! こっちに来たよ!」
「チッ……。こうなったら、俺が撃ち落として……!」
アプリルが無茶をしようとした、その時。
「こっちよ!」
突然、女性の声が響いた。
山道の横にある茂みを見ると、青いスカーフを頭に巻いた女性が立っていた。
「早く走って!」
女性は、大きく手招きする。
勇気は、訳が分からないまま、全力で彼女の方へ走った。
「そのまま走り続けて!」
「は、はい!」
「隠れながら走れば、呪いの雲を撒く事ができるから!」
「はいぃぃ!」
(また隠れたり逃げたりするのね……)
(真っ向から立ち向かわないのかよ、と言いたいが、奴はただの人間だからな)
女性は、身を屈めて茂みの中に隠れながら必死に走る。
勇気も同じ姿勢になりながら、彼女の後に続いた。
ディアーナとアプリルは、心の中で悪態を吐きながらも勇気を追いかけた。
~次回予告~
見捨里市で起こっているファフロツキーズを止めるため、
19世紀のイギリスの村に辿り着いた勇気、キユウ、ディアーナ、アプリル。
そこでは、余所者を災いの元凶である「呪われ人」に仕立て上げていた。
武器を失い、呪われ人とも呼ばれ、途方に暮れる勇気。
しかし、そんな彼を助けた女性は、勇気達の力になるべく、新たな武器を授けるのだった。