怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

見捨里市で、空から何かが降ってくる怪奇現象、ファフロツキーズが発生していた。
勇気は羽心、花恋と共に、ディアーナはアプリルと共にファフロツキーズについて調査する。
だが、そこでも羽心は怪奇現象について認識していた。
何故彼女が認識できているのか分からないまま、勇気達は書斎に向かうのだった。


2 - 呪われ人

「キユウ、いたんだね!」

 勇気が驚きながら尋ねると、キユウは優しく笑った。

「彼女達がいたから、出にくくてね」

「別に出てきても、羽心達にはキユウは見えないだろ」

「それはそうだけど、いると君達とゆっくり話もできないし、

 時のトンネルを開く事もできないだろ」

「赤文字! ……じゃない! キユウ、この宝石を見て!」

「ああ、羽心ちゃんの予想通り、ファフロツキーズだ」

「空から何かが降ってくる現象ね。一部では奇跡*1って呼ばれてるけど」

 勇気はそれを聞き、慌てて棚の下に隠していた靴を手に取った。

「だったらすぐに行かなきゃ! 今回はどんな武器を持って行けばいいの?」

「へぇ、随分やる気だねぇ」

「当たり前だろ。

 羽心の性格なら、お姉さんから話を聞いたあと、きっとパンダ公園に行くと思うんだ」

 その時、また怪現象が起きて、それに巻き込まれてしまったら……。

「なるほど、確かに彼女ならその可能性があるね。

 ファフロツキーズは生き物や宝石が降ってくるだけじゃない。

 宝石よりもっと大きな石や鉄の塊が落ちてくる事もある」

「そんな!」

 もし、そんな物に当たったら、怪我だけではすまない。

「早く怪を倒すわよ。宝石は拾いたいけどね」

「ああ、もちろんそのつもりだ」

 キユウはそう言うと、机を指差した。

「今回の武器は、机の一番下の引き出しに入ってるよ」

「分かった!」

 勇気は机に駆け寄ると、引き出しを開けた。

 そこには、ゴムのついたYの字形の木製の棒が入っていた。

「あ、スリングショットだわ! でも、あたし達はあまり使わないし、アプリルは……」

「おい、俺を遠回しに馬鹿にするな」

「とにかく、スリングショットっていうのはね……」

 ディアーナは、スリングショットの使い方を勇気に教えた。

 スリングショットは、Yの字形の部分についているゴムに弾をセットして、

 ゴムを引っ張り、手を離す。

 すると、ゴムが戻る力で、弾が勢いよく飛んでいき、対象物を攻撃する事ができるのだ。

「僕の子供の頃は、みんなパチンコ……エルフが言ってるスリングショットで、

 空き缶とかを撃って遊んでたんだけどね」

「子供の頃? 今も子供だろ?」

「あ、ああ、そうだったね。とにかく、それを持って行くよ。

 弾は向こうで小石とかを拾っても利用すればいいから」

「う、うん!」

「まともな武器が手に入ってよかったわね、勇気」

 スリングショットは、武器らしい武器と言っていいだろう。

 勇気は、右手にグローブを嵌めると、スリングショットを握り締め、キユウの傍に立った。

 ディアーナとアプリルも、準備をする。

「さあ、怪を倒しに行くよ。……怪狩りの時間だ!」

 キユウはグローブを嵌めた左手を壁の前にかざし、呪文を唱えた。

時空貫通(カオス・ゲート)

 次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。

 キユウ、ディアーナ、アプリルが、光の渦の中に消えた。

 勇気も、渦の中に飛び込んだ。

 

「んんんん!」

「ばびゅーん!」

「飛んでいくわよ!」

 光のトンネルの中を飛んでいく。

 やがて、トンネルの奥に、干し草の山が見えてきた。

「わっ、ちょ、ちょっと!」

 トンネルを出ると同時に、勇気、ディアーナ、アプリルは干し草の山の中に頭から突っ込む。

「んん、ぶはっ!」

 勇気は慌てて、干し草から顔を出した。

 ディアーナとアプリルは楽しそうな顔をしていた。

「もう、なんだよ~!」

 その時、何かが勇気の顔を舐めた。

「ひゃああ!」

「あ、馬だわ」

 思わず仰け反り、逃げるように干し草山から這い出る。

 干し草の傍に顔を向けると、そこには馬が立っていた。

 勇気、ディアーナ、アプリルが着地した場所は、どうやら馬小屋のようだ。

「よかったじゃないか。馬に懐かれて」

「人間なのに……」

 キユウが馬の背に座るように浮かびながら笑う。

「嬉しくないよ! 顔を舐められたんだよ」

 勇気は服で顔を必死に拭きながら立ち上がった。

「それで、ここはいつの時代なの?」

「ここは、19世紀のイギリスの田舎の村だよ」

「「イギリス……」」

「スリギイ……」

「「逆から読むな」」

 

 三人が馬小屋から出て村を見ると、三角屋根のレンガ造りの家がいくつか建っていた。

「わああ~」

 時刻は昼間。

 村は山の麓にあり、綺麗な川も流れている。

 以戦、ネッシーのいるイギリスのネス湖へは行った事があったが、

 あの時は森と湖しか見なかった。

 ここはそれとは違い、おとぎの国に来たような気分になる。

 勇気、ディアーナ、アプリルの三人はその風景を楽しげな様子で見つめていた。

「景色を楽しめる余裕が出てきたようだね」

「ええ、素晴らしい景色ね」

「だけど、住んでる人達が素晴らしいかどうかは分からないよ」

「どういう事?」

 勇気が首を傾げた瞬間、数人の村の人達が傍にやってきた。

 

「お前、どこから来た?」

 先頭にいた恰幅のいい中年の男が、勇気を睨みつける。

 男は何故か、鍬を構えていた。

 他の人達も鎌や鋤などの農機具を構え、怒りに満ちた表情を浮かべていた。

「どこって、ええっと、ちょっと遠くから」

「さては、お前も『呪われ人』だな!」

 男はそう言うと、勇気に迫って来た。

「え、ちょっと? 呪われ人って何ですか?」

五月蠅(うるさ)い、隠しても無駄だ! この村から出て行け!」

 男は鍬を振り上げると、勇気に襲いかかろうとした。

 その時、強い風が吹き抜けた。

「わっ!」

 舞い上がった砂が目に入り、勇気達は思わず目をつぶる。

 男達は、青ざめた表情で空を見上げた。

「逃げろ! 呪いの雨だ!」

 突然、空から拳大の石が落ちて来た。

「三人とも、屋根の下に逃げるんだ!」

「は、はいいい!」

「分かったわよ……防ぐ余裕はないしね」

 勇気は目を擦りながら、キユウ、ディアーナ、アプリルと共に馬小屋の中へと逃げた。

 村の人達も、蜘蛛の子を散らしたかのように、家の中へと逃げて行く。

 

「どうなってるの?」

 勇気は戸惑いながら、目を開けると、空を眺めた。

 すると、空に赤い雲が浮かんでいた。

「来るぞ!」

 次の瞬間、無数の拳大の石が、まるで雨のように降り落ちて来た。

 ファフロツキーズだ。

 馬小屋の屋根にいくつも石が当たる。

「うわっ! わっ!」

 勇気は傍にあったブリキのバケツを手に取り、頭に被ると身を縮める。

 ディアーナとアプリルは、何とか敏捷な動きで逃げている。

「怖がってる場合じゃない。ファフロツキーズを倒すんだ!」

「倒すって、どうすればいいんだよ?」

 空には赤い雲しか見えない。

 怪がどこかから雲を操っているというのだろうか?

 すると、キユウが赤い雲を指差した。

「雲をよく見るんだ!」

 勇気はその言葉を聞き、恐る恐る雲を見る。

「ああっ!」

 雲の真ん中に、赤い目が見えた。

「あの赤い目が弱点だ!」

「あそこにスリングショットを撃つのよ!」

 瞬間、石の雨が止んだ。

 同時に、赤い雲がゆっくりと動き出した。

「今よ!」

「だけど、また石が降ってきたらどうすればいいんだよ?」

「その時は、エルフ達のように上手く避けるんだ」

「避けるって、僕、体育は好きだけど、運動神経はあんまり良くないんだよ!」

「それでも君がやらなきゃ、誰が怪を倒せるっていうんだ!」

 時空を超えたのは、見捨里市を怪から守るためだ。

 放っておいたら、羽心はパンダ公園に行って大変な事になってしまうかもしれない。

「あたしよ!」

「俺だ!」

「いや、怪を倒せるのはいつだって人間だ」

 ディアーナとアプリルは叫ぶが、キユウは首を横に振った。

「怪を倒せるのはいつだって人間……。ここにいる人間は、僕しかいない……。やらなきゃ!」

 勇気は立ち上がると、スリングショットを強く握り締め、山の方へと動いて行く雲を睨んだ。

 

「あいつは、僕が倒す!」

 勇気は、バケツを投げ捨てると、馬小屋から飛び出した。

「なるべく高い場所から撃つんだ!」

 キユウが傍を飛びながら指示を出す。

 前方を見ると、山の頂上へと続く坂になった山道が見える。

 雲はその山道に沿って、ゆっくりと動いていた。

「あそこの上からパチンコを撃てば……」

 目玉に弾が届くだろう。

 勇気は、山道を一気に駆け上がった。

 だがその時、前方に生えていた木の陰から、数人の若い男性達が飛び出してきた。

「くそっ、こっちに来たぞ!」

「早く逃げろ!」

「ああもう、邪魔するな!」

 どうやら、ファフロツキーズが現れた時に家まで戻る事ができず、木の陰に隠れていたようだ。

 男性達は物凄い勢いで山道を駆け下り、勇気の方へと迫って来た。

「えっ、あ、ちょっと!」

「どけ!」

「邪魔だ!」

「あ、あああ!」

「うわわ!」

 勇気は走って来た男性達にぶつかり、その場に倒れる。

 その衝撃でスリングショットを地面に落とした。

 倒れた拍子に、勇気はスリングショットをお尻で踏みつけてしまった。

「あああ!」

 お尻を上げると、スリングショットはバラバラになっていた。

 

お前らのせいで武器が壊れたじゃねーか!!

「ひぃ……っ!!」

 アプリルが男性達に向かって叫ぶ。

 男性達は彼の怒号に耐え切れず、恐怖でへたり込んだ。

 その時、ファフロツキーズの動きが止まった。

 赤い目が、ジロリと勇気達を睨んだ。

 次の瞬間、ファフロツキーズが勇気達の方に迫ってきた。

「わああ! こっちに来たよ!」

「チッ……。こうなったら、俺が撃ち落として……!」

 アプリルが無茶をしようとした、その時。

 

「こっちよ!」

 突然、女性の声が響いた。

 山道の横にある茂みを見ると、青いスカーフを頭に巻いた女性が立っていた。

「早く走って!」

 女性は、大きく手招きする。

 勇気は、訳が分からないまま、全力で彼女の方へ走った。

「そのまま走り続けて!」

「は、はい!」

「隠れながら走れば、呪いの雲を撒く事ができるから!」

「はいぃぃ!」

(また隠れたり逃げたりするのね……)

(真っ向から立ち向かわないのかよ、と言いたいが、奴はただの人間だからな)

 女性は、身を屈めて茂みの中に隠れながら必死に走る。

 勇気も同じ姿勢になりながら、彼女の後に続いた。

 ディアーナとアプリルは、心の中で悪態を吐きながらも勇気を追いかけた。

*1
『東方非想天則』の東風谷早苗のスペルカード、奇跡「ファフロッキーズの奇跡」。




~次回予告~

見捨里市で起こっているファフロツキーズを止めるため、
19世紀のイギリスの村に辿り着いた勇気、キユウ、ディアーナ、アプリル。
そこでは、余所者を災いの元凶である「呪われ人」に仕立て上げていた。
武器を失い、呪われ人とも呼ばれ、途方に暮れる勇気。
しかし、そんな彼を助けた女性は、勇気達の力になるべく、新たな武器を授けるのだった。
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