怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

ファフロツキーズ異変を解決するため、勇気達は19世紀のイギリスに向かった。
しかしそこで勇気達は「呪われ人」と呼ばれ、迫害を受け、攻撃されようとしていた。
さらに、雪女異変同様に、せっかく持ってきた武器を勇気のミスで失ってしまった。
このまま殺されそうになった勇気達だったが、
現地の女性と出会い、ひとまず危機を乗り越えるのだった。


3 - 新しい武器

「ここまで来れば、もう大丈夫よ」

 しばらく走った後、女性は立ち止まり、勇気、ディアーナ、アプリルを見た。

 山の方を眺めると、ファフロツキーズはいつの間にかいなくなっていた。

 どうやら、上手く撒いたようだ。

「助けてくれてありがとうございます」

「そんなかしこまらなくていいわよ。私は、リサ」

「あっ、僕は勇気です」

「あたしはディアーナよ」

「俺はアプリルだ」

「よろしくね、勇気君、ディアーナさん、アプリルさん」

 勇気達がいるのは、村の外れのようだ。

 川沿いにポツンと小屋のような小さな家が建っている。

「あれが私の家よ。入って」

 勇気、ディアーナ、アプリルは頷き、リサと共に家へと入った。

「走って疲れてるでしょ。飲み物を持って来るわね」

「あっ、ありがとうございます」

「だから、そんなに気を遣わなくていいから」

 リサは微笑みながら、部屋の奥へと歩いて行く。

 勇気はひとまず、傍にあった椅子に腰を下ろした。

 家の中には、木製のテーブルと椅子が四脚、それに棚があるだけだ。

 置き物も飾りらしい飾りもなかった。

 部屋も、調理場と奥にもう一部屋あるだけのようだ。

「さっきの人達とは違って、随分優しい人だね」

 ふと、キユウが壁を通り抜けて、部屋の中に入って来た。

「辺りを調べてみたけど、ファフロツキーズは消えたみたいだよ」

「助かったって事?」

「今はね。だけどすぐにまた現れるだろう」

 勇気は、あの雲の真ん中にあった赤い目を思い出した。

 形らしい形をしているのは、あの目だけだ。

 全く正体が掴めない、謎の怪だ(まあ、怪は謎だらけだが)。

「ファフロツキーズって、どんな怪物なの?」

「怪物なんかじゃないよ」

「えっ?」

「あれは本来、存在しているだけの怪なんだ。

 意思も目的もなく、ただ物を吸い上げては雨のように降らす」

「言ってみれば、台風と同じような自然現象。要は魔導みたいなものよ」

「そうなんだ。だけど、僕達の方を睨んだよ?」

「それに、人がいるところを狙って石を落としてたような気がするぜ」

 勇気とアプリルがそう言うと、キユウは急に険しい表情になった。

「邪鬼の仕業だよ。

 どういう風にやったのかは分からないけど、人間を襲わせるように仕向けたんだ」

「どうしてそんな事を?」

「決まっているだろう。見捨里市に向かわせるためだ」

 キユウは勇気をじっと見つめた。

罅は、怪や怪の力に襲われた人々の恐怖によって大きくなるんだ

「だから、人々から慕われる奴は、怪とは呼ばないのか」

「そうだよ。そして、大きくなれば、ファフロツキーズそのものが見捨里市に行く事ができる。

 そうすれば、怪の力だけの時よりも何十倍もの被害を与える事ができる」

「それって……」

 勇気は、見捨里市を襲ったメデューサの事を思い出した。

 あの時はすぐに倒せたが、もし逃がしていたら、町中の人達が石にされていただろう。

 邪鬼が何故見捨里市に怪を送ろうとしているのかは分からないが、

 野望を食い止めなければ大変な事になる。

 勇気は、ゴクリと唾を飲み込み、ディアーナとアプリルも険しい表情になった。

 

「あらっ、辛そうな顔して、もしかして怪我をしてたの?」

 リサが飲み物を持ってやって来た。

「そうじゃありま……あっ、そうじゃないよ。ちょっと考え事をしてて」

「そう、よかった。家にいれば呪いの雲からは身を守れるはずだから」

 リサは、「どうぞ」と飲み物を勧めた。

 勇気、ディアーナ、アプリルはお礼を言い、一口飲んだ。

 ただのぬるい水のようだが、全力で走り続けていた三人にはありがたかった。

「ところで、勇気君、ディアーナさん、アプリルさんはこの村の人じゃないわよね?」

 リサはもう一つの椅子に腰を下ろすと、勇気をじろじろと見つめた。

 綺麗な青い大きな目に見つめられると、何だか照れてしまう。

 だが、勇気はすぐに頭を振り、冷静なフリをした。

「遠いところから来たんだ。この村に用事があって」

「そうなのね。もしかして、村の人達に変な事言われた?」

「変な事?」

「お前も呪われ人だな、と」

「やっぱり……」

 リサは悲しそうな表情になった。

「あの人達、私達のせいで呪いの雲が現れたと思っているの」

「どういう事?」

「……」

 勇気が首を傾げ、ディアーナが不快な表情になると、キユウが口を開いた。

「村の人達は勇気達に呪われ人だと迫った時、()()()って言ってたよね。

 つまり、勇気以外にも原因になる人間がいるという事だよ」

「それじゃあ、あなたも呪われ人って言われたの?」

「ええ……」

 その理由をリサは話した。

 リサは、かつて両親と兄と共にサーカス団の一員として、

 様々な町や村を旅していたのだという。

 しかし母親はこの時間軸で3年前に亡くなり、兄もショックのあまり自殺し、

 リサは父親と二人っきりになってしまう。

 さらにこの村の近くを通りかかった時、父親が病気になってしまったので、

 リサは父親の看病をするためにサーカス団を辞め、二人でこの村で暮らす事にしたのだ。

「だけど、私とお父さんがこの村に住むようになってから、

 あの呪いの雲が現れるようになって……」

 そのため、村の人達は、二人が呪いの雲を連れて来たのではと思うようになったというのだ。

「なるほど、だから呪われ人か……」

「呪われ人って何?」

 キユウが納得した様子で頷き、ディアーナはキユウに問いかける。

「この時代はまだ、田舎の方では迷信が強く信じられていたんだ。

 天災や疫病が起こる度に、他所(よそ)から来た人間のせいにされて、

 彼らは不当な差別を受けていたんだよ」

「それって魔女狩りじゃない! まだこの時代*1にもやってたの? 信じられない!」

「ああ、魔女狩りと同じだ。

 人間というのは、恐怖に直面すると普通では考えられないような行動を取ってしまうんだ。

 恐怖は、人を狂わせる……」

 それを聞き、勇気はハッとした。

 農機具を構えていた村の人達は、皆、怒りに満ちた表情をしていた。

 全ては、恐怖に怯えていたせいだったのだ。

 彼らは恐らく、普段は優しくて善良な人々なのだろう。

 しかし、ファフロツキーズのせいで恐怖に支配され、人を信じられなくなってしまったのだ。

「誤解を解くためには、ファフロツキーズを倒すしかない」

「あの目玉を狙えば、倒せるんだよね……?」

 だが、どのような武器があれば目玉を狙う事ができるのか、勇気には分からなかった。

 

「ねぇ、さっきから誰と喋ってるの?」

 ふと、リサが首を傾げながら勇気に言った。

「ええっと……」

「あー、リサ人間だしなー」

 リサは退魔の力を持たない人間なので、キユウが見えないのだ。

「ところで、目玉を狙えば倒せるってどういう事?」

「あ、それはつまり……」

 

 少年説明中……

 

「そうだったのね」

「だけど、そのための武器を壊しちゃって」

「目玉を狙える武器があれば、呪い雲を倒す事ができるのね?」

 勇気が頷くと、リサは何かを思いついたのか、奥の部屋の方を見つめた。

 すると、奥の部屋から、一人の白髪の男性が現れた。

「リサ、これを使おうと思っているんだろう?」

「お父さん!」

 リサの父親のようだ。

 父親は、持っていた『弓』と『矢』を見せた。

「話は聞かせてもらったよ。これなら、呪い雲の目玉を射貫けるんじゃないのかね?」

 父親はフラつきながら勇気に尋ねる。

「お父さん、寝とかなきゃ駄目でしょ」

「分かってるんだが、お前がこれ以上みんなに責められるのを見たくはないんだよ」

「私は大丈夫だから」

 リサは、フラつく父親の肩を抱きながら、奥の部屋に連れて行った。

 

「弓か。確かにあれなら、パチンコより正確に目玉を射る事ができるね」

 キユウは笑みを浮かべるが、勇気は困ったような顔をした。

「そんなの僕には無理だよ!」

 去年の夏休み、勇気は羽心と近くの神社で行われた夏祭りに行った事があった。

 そこで、おもちゃの弓を使った射的をやったのだ。

「羽心は全部的に当てたけど、僕は一本も当たらなくて……」

 羽心が一等賞の豪華お菓子の詰め合わせセットをゲットしたのとは対照的に、

 勇気が得た賞品は、参加賞の10円ガム一つだけだった。

 勇気にとって、それは苦い思い出だ。

「勇気、君は肝心な時にいつも残念な事を発表するね」

「まったく……」

「こればっかりはしょうがないだろ。人には得意な事と苦手な事があるんだから」

「だったら、私に任せて!」

 見ると、奥の部屋から戻って来たリサが、勇気の方を見ながら弓を構えていた。

「ちょ、ちょっと、リサさん!」

 次の瞬間、リサは勇気とディアーナに向かって矢を放った。

「ひゃあああ!」

 勇気の真横の壁に、矢が突き刺さる。

「どう?」

「どうって、危ないよ!」

 勇気がリサに文句を言うと、キユウが壁を見ながら微笑んだ。

「彼女、かなりの腕前だね」

「えっ?」

 壁を見ると、小さな○印が描かれていた。

 矢は、その中心に見事刺さっていたのだ。

「私、サーカス団にいた時は弓を使った芸を披露していたの」

「えっ、そうだったの?」

弓使いの(アーチャー)リサって言って、サーカスでは結構人気者だったのよ」

 リサは、弓をバトンのように軽やかに回転させ、ウィンクした。

 弓を見たディアーナは、興味を抱く。

「ちょっと貸して」

「いいわよ」

 ディアーナはリサから弓を借り、構えた。

 そして、勇気の頭ギリギリに矢を放った。

「ぎゃあああ! やめろ!!」

「エルフは弓術に秀でているの。だから、あたしとリサが呪いの雲の目玉を狙うわ」

「えええ? じゃあ、僕とアプリルはお留守番?」

「そうみたいだね」

「危険な目に遭わないように、あたしがリサを守るわ。

 一人の人間を守れなくて、町のみんなを守れるわけがないでしょ? だから、行ってくるわ」

 ディアーナがリサの方に歩み寄ろうとすると、突然、誰かが家のドアを激しく叩いた。

 

「だ、誰!?」

 ディアーナは、急いで身構えた。

*1
魔女狩りは18世紀頃、科学の発達で終わりを迎えた。勇気達がいる時代は19世紀。




~次回予告~

勇気、ディアーナ、アプリルは、恐怖から人々が憎悪する事を知った。
呪われ人(まじょ)追放(しょけい)するだけでは何も解決しないが、それでも恐怖は簡単に人を狂わせる。
放っておいては、村が大変な事になってしまう。
ファフロツキーズを止め、人々を恐怖から救うために、
ディアーナとリサは武器を取り、ファフロツキーズに挑むのだった。
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