勇気達は服部誠と共に、二階堂の家に行こうとしていた。
そこで勇気は、羽の生えた動物が襲ってくる夢を見る。
羽心は誠や二階堂が怪物に襲われないか危惧していたが、
勇気は「羽心が怪奇現象を覚えている事はあり得ない」と思っていた。
本当はファフロツキーズ異変の時に思い出していたが、勇気にはまだ届いていなかった。
「ここだよ」
住宅地をしばらく歩いた後、誠が立ち止まった。
道路の向こうに、二階堂が通っている小学校が見える。
隣町は駅を挟んだ反対側にある。
勇気は普段あまりこちら側に来た事がなく、この小学校も初めて見た。
「学校帰りの二階堂君を待つって事?」
てっきり家に直接行くものだと思っていた勇気は、戸惑いながら誠に訪ねた。
「違うよ。二階堂君の家は、学校のすぐ傍にあるんだ」
誠は、目の前に見える3階建てのビルを指差した。
「ここが二階堂君の家だよ」
「そうなんだ。何階に住んでるの?」
「何階とかじゃないよ。このビルが二階堂君の家なんだ」
「えええ~!」
「……何が言いたいわけ?」
驚く勇気をよそに、誠は入り口にあるインターフォンを鳴らした。
「お金持ちだとは聞いてたけど、まさかここまでとは」
勇気がそう言うと、羽心は訝しげな表情でビルを見上げた。
それに気づいた勇気は、羽心に声をかけようと思ったが、
その時、インターフォン越しに男の子の声が聞こえた。
「やあ、服部君じゃないか」
「突然ごめん。あのさ、昨日言っていた動物を見せてほしいんだけど」
「もちろん! 上がってよ!」
「えっ、あ、ああ」
勇気は、羽心とちゃんと話ができないまま、ビルの中へと入った。
ディアーナとノノは「失礼します」と言ってから入った。
ドアを開けて中に入ると、大きな玄関が広がっていた。
物はほとんど置かれておらず、家というより会社のように見える。
やがて目の前にあるエレベーターのドアが開き、
マッシュルームヘアの、頭の良さそうな顔をした男の子――二階堂が出てきた。
「彼らは、服部君の友達かい?」
二階堂は、まるで物を品定めするかのような目つきで勇気と羽心を見回した。
「二階堂君の動物の話をしたら、二人が見てみたいって言ったんだ。
連れて来ちゃ駄目だったかな?」
「そんな事はないよ。見てもらう人数は多い方がいいからね。
なんて言ったって、あの動物は僕の自慢の作品だから」
「作品?」
アプリルは二階堂が何を言っているのか全く分からなかった。
二階堂は、エレベーターに乗るように言うと、自分の部屋があるという3階に連れて行った。
「ここが、僕の部屋だよ」
3階には、広いリビングがあった。
ソファーがあり、大きなテレビもある。
勉強机の横には本棚があり、科学や医学の難しそうな本が並んでいた。
「3階は全部、僕専用の部屋なんだ」
二階堂の両親は仕事が忙しく、いつも夜遅くにしか帰って来ないのだという。
二階堂はいつも下の階にはほとんどおらず、この部屋で過ごしているらしい。
「凄い部屋だねぇ。二階堂君の学校の友達が羨ましいよ。
こんなお家に毎日遊びに来られるんだもんね」
誠が部屋を見て微笑んだ。
だが、二階堂はそんな誠を見ながら目を細めた。
「友達? そんなの僕にはいないよ」
「えっ?」
「学校のみんなは子供っぽくて、話をしても全然楽しくないんだ。塾でも同じだよ。
服部君は科学が好きだから、他の子達とは少しは違うけどね」
「そ、そうなんだ」
「……」
誠は、どう答えればいいのか分からないようだ。
「まあ、僕は君達と違って天才だから。君達にはこの苦労が分からないだろうね」
二階堂は声を上げて笑った。
そんな二階堂を見て、勇気は戸惑い、ディアーナは蔑む。
今まで、ここまで自分に自信を持った同級生に会った事がない。
その時、羽心が一歩前に出た。
「何それ? 天才ってそんなに凄いわけ?」
羽心は眉間に皺を寄せて二階堂を睨んでいる。
腹が立っているようだ。
「ちょっと、うららおねえちゃん!」
ノノは、羽心を落ち着かせようとした。
しかし、二階堂は苛立ちながら、そんな羽心を睨み返した。
「じゃあ教えてあげるよ。僕が君達と違ってどれだけ凄いかって事を」
二階堂はほくそ笑みながら、部屋の奥にあるドアをゆっくりと開けた。
「さあ、見てごらん。ここが僕の秘密の実験室だよ」
二階堂は、部屋の明かりをつけた。
瞬間、部屋の奥から何かが羽ばたく音がした。
「何?」
勇気とノノは思わず身構える。
一方、羽心、ディアーナ、アプリルは部屋の中に入ると、目を大きく見開いた。
「何なの……あれ」
「どうした、羽心」
勇気と誠も部屋に入った。
部屋には、隅に大きな檻が置かれていて、中で猫が飼育されていた。
だが、ただの猫ではない。
猫の身体に、羽が生えていたのだ。
「何だよこいつは!」
「見て分からないのかい? 僕が作った新しい動物だよ」
「作った?」
だから、二階堂は作品と言っていたのだ。
「だけど、これって……」
夢で見た不気味な動物達と同じだ。
すると、誠が二階堂の傍に詰め寄った。
「新しい動物なんか作れるわけないだろ!」
「そりゃあ、君達には無理だろうね。だけど僕は、作れる力を手に入れたんだ」
「力だって?」
「ああ、死骸を繋ぎ合わせて、新しい動物を作る力」
二階堂は、檻の前に立ち、羽の生えた猫を見た。
「一週間ぐらい前だったかな。交差点で猫が車に轢かれて死んでいるのを見つけたんだ。
ちょうどその時だったよ。僕の頭の中に何かが入り込んだんだ」
それこそが、死骸を繋ぎ合わせて生き返らせる事ができる力だった。
二階堂は、公園で死んでいた鳩を見つけて猫の死体と繋ぎ合わせ、生き返らせたというのだ。
「それって、キメラゾンビ?」
「昨日、やっと完成したんだけどね」
「何言ってるんだよ?? どうやったのか分からないけど、こんなの良くないよ!」
誠は二階堂をじっと見つめた。
「良くない? この素晴らしい力が?」
「死んだ動物を生き返らせるなんて素晴らしくなんかない! こんな事、すぐやめるんだ!」
「死者蘇生はこの世界でも禁忌なのね」
誠は二階堂の肩を掴もうとしたが、二階堂は誠の手を叩くように振り払った。
「くそっ、君も僕を理解してくれないのか!」
「誠!」
二階堂は、誠を突き飛ばした。
ディアーナが誠に駆け寄る。
二階堂は「ふん」と鼻を鳴らした。
「君なら僕の研究を理解してくれると思ったのに。だから家に来てもいいよって言ったのに。
それなのに……それなのに……。
だったら、もういい! 君達なんか、こいつの餌になればいいんだ!」
二階堂は、檻の入り口を勢いよく開いた。
次の瞬間、羽の生えた猫が飛び出してきた。
「ニャアアアアァァァ!」
「みんな逃げろ!」
「あたしがやるわ!」
勇気とディアーナは羽心達に向かって叫んだ。
二階堂の力は、怪の力によるものだ。
その力によって生み出された猫に襲われたら、ただでは済まないだろう。
「だけど、勇気」
「いいから、羽心!」
「無理に戦わないの!」
勇気は誠、羽心、ノノ、アプリルと共に、部屋から飛び出した。
「せいっ!」
「ニャ!?」
「しょくぶつのせいれいよ、そのうでをのばしかのもののじゆうをからみとれ! Binding」
ディアーナは猫に先制攻撃を仕掛けた後、束縛魔法で猫の動きを封じ、駆け出した。
勇気達は、部屋の隅にある階段へと走ると、そのまま一階へ駆け下り、家の外へと出る。
そして、そのまま一心不乱に走り続けた。
やがて、勇気達は自分達の住む町へと戻ってきた。
「誠君、家に帰ったら絶対外に出ちゃ駄目だよ!」
「勇気……」
羽心は何かを言おうとしたが、それよりも早く勇気が喋った。
「羽心も家にいるんだ!」
「だけど……」
「いいから!」
勇気は必死の形相で羽心を見つめる。
羽心はそんな勇気に何も言えなくなり、黙って頷いた。
「後は、あたし達が何とかするわ!」
「……あの、ディアーナ、それ、僕のセリフだけど」
誠は戸惑いながらも、家へと帰った。
羽心も勇気を心配そうに見つめながら、家へと戻る。
「それでいいんだ」
羽心達が羽の生えた猫に襲われる前に、怪を退治しなければならない。
勇気は、ディアーナ、ノノ、アプリルと共に家へ駆け込むと、書斎のドアを開けた。
すると、既に部屋の中にはキユウが待っていた。
~次回予告~
羽の生えた動物自体は怪ではなく、怪の力で生まれたものだった。
キユウは当然、それを知っていた。
その怪が潜むのは、19世紀のヨーロッパである。
物語の作中人物であるその「怪」に、勇気達は勝てるのだろうか。