怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

勇気達は服部誠と共に、二階堂の家に行こうとしていた。
そこで勇気は、羽の生えた動物が襲ってくる夢を見る。
羽心は誠や二階堂が怪物に襲われないか危惧していたが、
勇気は「羽心が怪奇現象を覚えている事はあり得ない」と思っていた。
本当はファフロツキーズ異変の時に思い出していたが、勇気にはまだ届いていなかった。


2 - 秘密の実験室

「ここだよ」

 住宅地をしばらく歩いた後、誠が立ち止まった。

 道路の向こうに、二階堂が通っている小学校が見える。

 隣町は駅を挟んだ反対側にある。

 勇気は普段あまりこちら側に来た事がなく、この小学校も初めて見た。

「学校帰りの二階堂君を待つって事?」

 てっきり家に直接行くものだと思っていた勇気は、戸惑いながら誠に訪ねた。

「違うよ。二階堂君の家は、学校のすぐ傍にあるんだ」

 誠は、目の前に見える3階建てのビルを指差した。

「ここが二階堂君の家だよ」

「そうなんだ。何階に住んでるの?」

「何階とかじゃないよ。このビルが二階堂君の家なんだ」

「えええ~!」

「……何が言いたいわけ?」

 驚く勇気をよそに、誠は入り口にあるインターフォンを鳴らした。

「お金持ちだとは聞いてたけど、まさかここまでとは」

 勇気がそう言うと、羽心は訝しげな表情でビルを見上げた。

 それに気づいた勇気は、羽心に声をかけようと思ったが、

 その時、インターフォン越しに男の子の声が聞こえた。

「やあ、服部君じゃないか」

「突然ごめん。あのさ、昨日言っていた動物を見せてほしいんだけど」

「もちろん! 上がってよ!」

「えっ、あ、ああ」

 勇気は、羽心とちゃんと話ができないまま、ビルの中へと入った。

 ディアーナとノノは「失礼します」と言ってから入った。

 

 ドアを開けて中に入ると、大きな玄関が広がっていた。

 物はほとんど置かれておらず、家というより会社のように見える。

 やがて目の前にあるエレベーターのドアが開き、

 マッシュルームヘアの、頭の良さそうな顔をした男の子――二階堂が出てきた。

「彼らは、服部君の友達かい?」

 二階堂は、まるで物を品定めするかのような目つきで勇気と羽心を見回した。

「二階堂君の動物の話をしたら、二人が見てみたいって言ったんだ。

 連れて来ちゃ駄目だったかな?」

「そんな事はないよ。見てもらう人数は多い方がいいからね。

 なんて言ったって、あの動物は僕の自慢の作品だから」

「作品?」

 アプリルは二階堂が何を言っているのか全く分からなかった。

 二階堂は、エレベーターに乗るように言うと、自分の部屋があるという3階に連れて行った。

 

「ここが、僕の部屋だよ」

 3階には、広いリビングがあった。

 ソファーがあり、大きなテレビもある。

 勉強机の横には本棚があり、科学や医学の難しそうな本が並んでいた。

「3階は全部、僕専用の部屋なんだ」

 二階堂の両親は仕事が忙しく、いつも夜遅くにしか帰って来ないのだという。

 二階堂はいつも下の階にはほとんどおらず、この部屋で過ごしているらしい。

「凄い部屋だねぇ。二階堂君の学校の友達が羨ましいよ。

 こんなお家に毎日遊びに来られるんだもんね」

 誠が部屋を見て微笑んだ。

 だが、二階堂はそんな誠を見ながら目を細めた。

「友達? そんなの僕にはいないよ」

「えっ?」

「学校のみんなは子供っぽくて、話をしても全然楽しくないんだ。塾でも同じだよ。

 服部君は科学が好きだから、他の子達とは少しは違うけどね」

「そ、そうなんだ」

「……」

 誠は、どう答えればいいのか分からないようだ。

「まあ、僕は君達と違って天才だから。君達にはこの苦労が分からないだろうね」

 二階堂は声を上げて笑った。

 そんな二階堂を見て、勇気は戸惑い、ディアーナは蔑む。

 今まで、ここまで自分に自信を持った同級生に会った事がない。

 その時、羽心が一歩前に出た。

「何それ? 天才ってそんなに凄いわけ?」

 羽心は眉間に皺を寄せて二階堂を睨んでいる。

 腹が立っているようだ。

「ちょっと、うららおねえちゃん!」

 ノノは、羽心を落ち着かせようとした。

 しかし、二階堂は苛立ちながら、そんな羽心を睨み返した。

「じゃあ教えてあげるよ。僕が君達と違ってどれだけ凄いかって事を」

 二階堂はほくそ笑みながら、部屋の奥にあるドアをゆっくりと開けた。

 

「さあ、見てごらん。ここが僕の秘密の実験室だよ」

 二階堂は、部屋の明かりをつけた。

 瞬間、部屋の奥から何かが羽ばたく音がした。

「何?」

 勇気とノノは思わず身構える。

 一方、羽心、ディアーナ、アプリルは部屋の中に入ると、目を大きく見開いた。

「何なの……あれ」

「どうした、羽心」

 勇気と誠も部屋に入った。

 部屋には、隅に大きな檻が置かれていて、中で猫が飼育されていた。

 だが、ただの猫ではない。

 猫の身体に、羽が生えていたのだ。

「何だよこいつは!」

「見て分からないのかい? 僕が作った新しい動物だよ」

「作った?」

 だから、二階堂は作品と言っていたのだ。

「だけど、これって……」

 夢で見た不気味な動物達と同じだ。

 すると、誠が二階堂の傍に詰め寄った。

「新しい動物なんか作れるわけないだろ!」

「そりゃあ、君達には無理だろうね。だけど僕は、作れる力を手に入れたんだ」

「力だって?」

「ああ、死骸を繋ぎ合わせて、新しい動物を作る力」

 二階堂は、檻の前に立ち、羽の生えた猫を見た。

「一週間ぐらい前だったかな。交差点で猫が車に轢かれて死んでいるのを見つけたんだ。

 ちょうどその時だったよ。僕の頭の中に何かが入り込んだんだ」

 それこそが、死骸を繋ぎ合わせて生き返らせる事ができる力だった。

 二階堂は、公園で死んでいた鳩を見つけて猫の死体と繋ぎ合わせ、生き返らせたというのだ。

「それって、キメラゾンビ?」

「昨日、やっと完成したんだけどね」

「何言ってるんだよ?? どうやったのか分からないけど、こんなの良くないよ!」

 誠は二階堂をじっと見つめた。

「良くない? この素晴らしい力が?」

「死んだ動物を生き返らせるなんて素晴らしくなんかない! こんな事、すぐやめるんだ!」

「死者蘇生はこの世界でも禁忌なのね」

 誠は二階堂の肩を掴もうとしたが、二階堂は誠の手を叩くように振り払った。

「くそっ、君も僕を理解してくれないのか!」

「誠!」

 二階堂は、誠を突き飛ばした。

 ディアーナが誠に駆け寄る。

 二階堂は「ふん」と鼻を鳴らした。

「君なら僕の研究を理解してくれると思ったのに。だから家に来てもいいよって言ったのに。

 それなのに……それなのに……。

 だったら、もういい! 君達なんか、こいつの餌になればいいんだ!」

 二階堂は、檻の入り口を勢いよく開いた。

 次の瞬間、羽の生えた猫が飛び出してきた。

「ニャアアアアァァァ!」

「みんな逃げろ!」

「あたしがやるわ!」

 勇気とディアーナは羽心達に向かって叫んだ。

 二階堂の力は、怪の力によるものだ。

 その力によって生み出された猫に襲われたら、ただでは済まないだろう。

「だけど、勇気」

「いいから、羽心!」

「無理に戦わないの!」

 勇気は誠、羽心、ノノ、アプリルと共に、部屋から飛び出した。

「せいっ!」

「ニャ!?」

しょくぶつのせいれいよ、そのうでをのばしかのもののじゆうをからみとれ! Binding

 ディアーナは猫に先制攻撃を仕掛けた後、束縛魔法で猫の動きを封じ、駆け出した。

 

 勇気達は、部屋の隅にある階段へと走ると、そのまま一階へ駆け下り、家の外へと出る。

 そして、そのまま一心不乱に走り続けた。

 やがて、勇気達は自分達の住む町へと戻ってきた。

「誠君、家に帰ったら絶対外に出ちゃ駄目だよ!」

「勇気……」

 羽心は何かを言おうとしたが、それよりも早く勇気が喋った。

「羽心も家にいるんだ!」

「だけど……」

「いいから!」

 勇気は必死の形相で羽心を見つめる。

 羽心はそんな勇気に何も言えなくなり、黙って頷いた。

 

「後は、あたし達が何とかするわ!」

「……あの、ディアーナ、それ、僕のセリフだけど」

 

 誠は戸惑いながらも、家へと帰った。

 羽心も勇気を心配そうに見つめながら、家へと戻る。

「それでいいんだ」

 羽心達が羽の生えた猫に襲われる前に、怪を退治しなければならない。

 勇気は、ディアーナ、ノノ、アプリルと共に家へ駆け込むと、書斎のドアを開けた。

 すると、既に部屋の中にはキユウが待っていた。




~次回予告~

羽の生えた動物自体は怪ではなく、怪の力で生まれたものだった。
キユウは当然、それを知っていた。
その怪が潜むのは、19世紀のヨーロッパである。
物語の作中人物であるその「怪」に、勇気達は勝てるのだろうか。
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