怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

隣町にある二階堂の家で、勇気達は二階堂が作ったという奇妙な動物を見る。
複数の動物の特徴を併せ持ったその姿に、勇気達は恐怖し、逃げ出す。
怪奇現象の原因となる怪は、果たして何なのか。
勇気、ディアーナ、ノノ、アプリルは大急ぎで、書斎に向かうのだった。


3 - 天才すぎる科学者

「ねぇ、大変なんだ!」

「実はかくかくしかじか」

 勇気とディアーナは、先ほどの出来事をキユウに話した。

 ノノとアプリルは、既に来ている。

「なるほど、危ないところだったね」

「あの怪は何なの?」

「羽が生えた動物は、ペガサスがいるけど……どう見てもアレは、ペガサスじゃないわよね」

「動物の怪じゃないよ。今回の怪は、フランケンシュタインだ」

「それって、のしのし歩くあの怪物の?」

 怪奇現象の本に載っている有名な怪物だ。

 だが、キユウは首を横に振った。

「フランケンシュタインは怪物の名じゃない。

 フランケンシュタインは、怪物を作った大学生の名前で、

 フルネームはヴィクター・フランケンシュタインだ」

 赤文字という事は、真実だ。

「えっ、大学生の名字がフランケンシュタインで、名前はヴィクターなの?」

「長い年月の中で色々な事が勘違いされたんだよ」

「へぇ、物語の人物も怪になるなんてね」

 ディアーナは、ジャネットとツタンカーメンを思い出した。

 フランケンシュタインは小説の存在が実体化した存在であり、

 二人と同じような存在だと思っているのだ。

「とにかく急ごう。フランケンシュタインは、ある意味ドラキュラより厄介だ。

 同じ陣営*1になった事はあるけどね」

「ドラキュラよりも……?」

「同じ陣営……?」

 勇気は、想像しただけでゾッとする。

 ディアーナは、同じ陣営という意味が分からなかった。

「武器は何を持っていけばいいの? 今度は絶対に落としたり壊したりしないよ!」

 勇気は真剣な表情になると、部屋を見回した。

「武器はないよ」

「へっ?」

「フランケンシュタインは、まだ人間だからね」

「どういう事?」

「生きた人間も怪になる可能性がある」

「魔術師や超能力者も、広い意味では怪なのね」

「ま、そうかもしれないね。

 今回は、上手く説得して怪にならないように彼を止めるんだ。さあ、行くよ」

「はいはい、ヴィクターを止めに行くのね」

 ディアーナは二つ返事で引き受けた。

 キユウはグローブを嵌めた左手を壁の前にかざし、呪文を唱えた。

「時空貫通(カオス・ゲート)」

 次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。

 キユウ、ディアーナ、ノノ、アプリルが、光の渦の中に消えた。

 勇気も戸惑いながらも、右手にグローブを嵌め、隠していた靴を持つと、

 急いで光の渦の中に飛び込んだ。

 

「んんんん!」

「わーい!」

「ひゃーっ!」

「気持ちいいぜ!」

 光のトンネルの中を飛んでいく。

 やがて、トンネルの奥に、地面が見えてきた。

 四人が地面に綺麗に着地した瞬間、頭の上に閃光が走った。

 夜空に轟音が鳴り響いた。

 雷が落ちたのだ。

「うわっ!」

「きゃあ!」

 勇気とノノは慌てて身を縮めた。

 そこは、風が吹き荒れる夜の町の中だった。

 ディアーナとアプリルは、物怖じせずに立っている。

「ここはどこなの?」

 勇気は手で雨を防ぎながら、宙に浮かぶキユウの方を見た。

 ノノはバリアを張り、雨を防いでいる。

「ここは、19世紀のドイツのバイエルンにあるインゴルシュタットという町だよ」

「また19世紀?」

「ああ。ファフロツキーズの時とは違って、ここは大学もある都会だけどね」

 それを聞き、勇気、ディアーナ、ノノ、アプリルは町並みを眺めた。

 暗く大雨も降っているので遠くまでは見えないが、

 キユウの言うように、舗装された道路に沿って建物がどこまでも並んでいた。

「ヴィクター・フランケンシュタインは、あのアパートに住んでいる」

 キユウは、前方に見える屋敷のような建物を指差した。

「あそこの最上階で、彼は、今まさに死体を生き返らせようとしているはずだ」

「えええ?」

 勇気は二階堂の事を思い出した。

 二階堂は猫と鳩の死骸を繋ぎ合わせて、新しい動物を作り出した。

「けど、死体っていうのは……」

 キユウは、死骸ではなく、死体と言った。

 勇気は、その意味を尋ねようとキユウの方を見た。

 瞬間、再び稲妻が走り、轟音が鳴り響いた。

「わっ!」

「きゃあ!」

「怖がってる場合じゃない」

「だけど……」

「嵐が予想より早く来ている。早くしないと取り返しのつかない事になるぞ!」

 キユウはそう言うと、アパートの方へと飛んで行った。

 

「あっ、待ってよ!」

「行くわよ、勇気!」

 まだヴィクター・フランケンシュタインをどう説得すればいいのか分からない。

 だが、考えている余裕などなさそうだ。

 早くしないと大変な事になるのは四人にも理解できた。

「ああ、もう!」

 勇気は無我夢中で走り出すと、ディアーナ、ノノ、アプリルと共にアパートに飛び込んだ。

 

「ここだ!」

 最上階までやってきたキユウは、ドアの前で立ち止まった。

 必死に階段を駆け上がった勇気は、息を切らしながら周りを見回す。

 ディアーナ、ノノ、アプリルは警戒しながら身構える。

 最上階には、部屋は一つしかないようだ。

 ドアを見ると、僅かに開いていた。

「さあ、早く」

「う、うん……」

 勇気はごくりと唾を飲み込むと、ドアをゆっくりと開けて、中に入った。

 ディアーナ、ノノ、アプリルも入った。

 

「くらい……こわい……」

 部屋の中は薄暗かった。

 目を凝らして見ると、人が暮らしている家とは思えなかった。

 部屋の真ん中に、小さな潜水艦のようなタンクが置かれている。

 タンクには様々なパイプやコイルが繋がっていた。

 壁際には大きな棚がいくつも並んでいて、器具が乱雑に置かれている――まさしく実験室だ。

 部屋の奥から誰かが咳き込む声が聞こえた。

 見ると、窓の傍で、白衣を着た一人の男が、机の上に置かれた器具をせわしなく調整していた。

「あの男が、ヴィクター・フランケンシュタインだ」

 キユウが勇気の横に浮かびながら言う。

「彼が……」

「何だか気持ち悪いわね……」

 大学生と言っていたので、まだ若いはずだ。

 しかし、髪は乱れ、異常なほど頬が痩せこけていた。

 咳き込むたびに、身体が大きくフラつき、今にも倒れそうだ。

 だが、ヴィクター・フランケンシュタインは怪ではなく、人間そのものだ。

 

「あ、あの……」

「誰だ?」

 勇気は勇気を出して、ヴィクター・フランケンシュタインに声をかけた。

 瞬間、窓の外に稲妻の閃光が走った。

 光に照らされたヴィクター・フランケンシュタインは、睨むように勇気達を見た。

 目はギラつき、血走っている――明らかに、普通の人間とは思えない。

「みんな、見かけない服装だな。

 あの少年の言った通り、時代を超えて、この僕の研究を止めに来たんだな?」

「あの少年って!」

「邪鬼の事だね」

 キユウがそう言うと、ヴィクター・フランケンシュタインはにやりと笑った。

「邪鬼。確かそんな風な名前だったな」

「えっ? どうしてキユウの言った事が?」

「人間じゃないの?」

 退魔の力がなければ、人間にはキユウは見えないはずだ。

 キユウは険しい表情でヴィクター・フランケンシュタインを見つめた。

「思った以上に、怪になりつつあるようだ」

「それって、半怪になってるのね?」

 ディアーナの言葉にキユウは頷く。

 半分怪になっているため、ヴィクター・フランケンシュタインにはキユウが見えるのだ。

 勇気は危険を感じ、ディアーナ、ノノ、アプリルと共に身構えた。

 そんな四人を見て、ヴィクター・フランケンシュタインは笑った。

「カッカッカ、何を恐れているんだい? 怪になれば神にもなれる。

 現に僕は生死だって意のままにできるんだ!」

「ヴィクターおにいちゃん、このせかいだと、それはありえないよ」

「あり得ない? あり得ないのは僕の研究の素晴らしさを理解しない君達の方だ!」

 ヴィクター・フランケンシュタインは大きな声を出すと、激しく咳き込んだ。

「どうやら、彼は病に侵されているようだね」

「ああ」

 キユウの言葉に、ヴィクター・フランケンシュタインは不気味な笑みを見せた。

「僕のこの身体はもってあと半年だろう。だから必死に研究に打ち込んだ。

 だけど、誰もこの天才である僕の研究を理解しようとしなかったんだ」

「研究……それに天才って……」

 ヴィクター・フランケンシュタインの言っている事は二階堂そっくりだ。

 すると、キユウが口を開いた。

「君が会った少年は、ヴィクター・フランケンシュタインと似ている部分があった。

 だから、ヴィクター・フランケンシュタインから漏れ出した力の影響を受けて、

 動物を生き返らせる事ができたんだ」

「そんな……」

「ヴィクター。あなたは、おかしな研究をしたのね」

 勇気は怯え、ディアーナは反対する。

 一方、ヴィクター・フランケンシュタインはその話を聞き、ますます笑みを浮かべた。

「おかしな研究じゃないよ?」

 その時、勇気達の傍にあった四角い箱のような物体が揺れ動いた。

 勇気がハッとしてその物体を見ると、それは檻だった。

 檻の中に、羽の生えた犬がいた。

「ウウゥゥウ、ワン!」

「うわあっ!」

「やめてっ!」

 勇気は思わず仰け反り、ディアーナはレイピアで動物を突く。

 二階堂の家にいた不気味な動物と同じだ。

「カッカッカ。君達が下らない事ばかり言うものだから、『27号』が怒っているようだな」

「27号? これってもしかして死骸を繋ぎ合わせたんじゃ?」

「その通り。だがそれは、あくまで僕の研究の過程でしかない。

 君達には今から始める最終実験の証人になってもらうよ」

 ヴィクター・フランケンシュタインはそう言うと、タンクの前に立った。

 瞬間、窓の外に稲妻が走り、部屋が照らされ、タンクの中が見えた。

「あああ!」

「これが……あなたが作った、理想の人間なの……?」

 タンクの中には、こめかみにボルトが刺さった、継ぎ接ぎだらけの大男が眠っていた。

*1:
『Fate/Apocrypha』では、ヴラド三世とフランケンシュタインは同じ黒の陣営。




~次回予告~

19世紀のドイツで、勇気達はヴィクター・フランケンシュタインと出会った。
完璧な人間を作ろうとして生まれた無名の怪物。
あまりにも醜いために自ら捨てた「それ」を、彼は蘇らせようとしていた。
果たして勇気達は、ヴィクター・フランケンシュタインの野望を止める事ができるのだろうか。
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