動物が蘇生するという怪奇現象を止めるべく、
19世紀のドイツに辿り着いた勇気、キユウ、ディアーナ、ノノ、アプリル。
奇妙な動物が見捨里市に現れたのは、
ヴィクター・フランケンシュタインの力が漏れ出したせいであった。
彼はあまりにも天才過ぎて、常人の感性を持つ勇気には全く理解できなかった。
最高傑作である28号、名前のない怪物――それを見た勇気は、さらなる恐怖に陥った。
だが、ここで諦めては勇気の名が廃るため、怪狩りを続けるのだった。
「大変だ!」
「怪物がいるわ!」
勇気とディアーナはタンクの傍に駆け寄る。
タンクは緑色の液体で満たされていた。
大男は酸素ボンベもつけずにその中にいたのだ。
しかし、タンクに触れようとする勇気を、ヴィクター・フランケンシュタインが遮った。
「28号に触るな!」
ヴィクター・フランケンシュタインは血走った目で、勇気とディアーナを睨んだ。
すると、キユウとノノが勇気の傍に飛んで来た。
「フレッシュ・ゴーレムだわ!」
「あれは人間じゃない。繋ぎ合わされた死体だ」
キユウはアパートに入る前に、彼が死体を生き返らせようとしていると話していた。
「そっか、人間の死体だから、死骸とは言わなかったんだ……」
「……きもち、わるい……」
「死体から作ったのが、その木偶の坊なのか」
勇気はキユウの言った言葉の意味をようやく理解した。
ノノは気持ち悪さで吐きそうになり、
アプリルは鋭い目でヴィクター・フランケンシュタインを睨む。
「だけど、死体なんて……。人を殺したって事だよね……」
勇気は怯えた目で、ヴィクター・フランケンシュタインを見つめる。
だが、ヴィクター・フランケンシュタインは怒鳴った。
「何を言ってる! 完璧な人間を作ろうとしている僕が、人を殺すなんて事するわけないだろ!」
「美しいとか、そういうのは度外視なのね」
「じゃあ、どうやって死体なんかを……」
「勇気、君のいる時代では考えられないが、この時代のヨーロッパでは、
研究のためなら死体のパーツを手に入れる事はそれほど難しい事じゃないんだ」
「そ、そうなの?」
自分のいる時代とは全く違うため、勇気は恐ろしさを感じた。
ディアーナとアプリルは、顎に手を当てた。
そんな中、ヴィクター・フランケンシュタインは、タンクの中の大男を見た。
「どうだい、素晴らしい身体だろう。この肉体なら熊にだって負けないし、豹よりも速く走れる」
「生き返らせるの? 人道に反するわ!」
ディアーナがそう言うと、目の前の男は蔑んだ目で彼女を睨んだ。
「何だ、君も周りの下らない奴らと同じなのか。
やはり、天才であるこの僕の考えは理解できないようだな」
「天才……ねぇ。確かに、あなたは『天才』よ。
でも、そういう考えは、あの子みたいな普通の人には理解できないって事も知ってるわよね?」
「はは、そうか。君はそんな意見を言ってきたか。
僕の事を理解してくれたのは、あの邪鬼という少年だけだったな。
彼は罅の向こうには、僕のような天才を理解する素晴らしい世界があると教えてくれたよ」
次の瞬間、ヴィクター・フランケンシュタインは窓の外を見た。
勇気達も釣られるように窓の外を見る。
「ああっ!」
外に、×印状の罅が浮かんでいる。
罅は、既に人が入れるほど大きくなっていた。
「そんな!」
勇気は焦りながらヴィクター・フランケンシュタインを見る。
「あっ!」
ヴィクター・フランケンシュタインはいつの間にか銃を取り出し、銃口を勇気達に向けていた。
「ヴィクター!」
「フランケンシュタインさん!」
「動くな!」
ヴィクター・フランケンシュタインは銃口を向けたまま、布がかかった物体の傍まで移動した。
「さあ、最後の実験を始めよう!」
そう言って布を取ると、太いホースでタンクに繋がっている、電極が付いた椅子があった。
肘かけのところには、レバーもある。
ヴィクター・フランケンシュタインは、銃を構えたまま、
金属でできたヘルメットのような物を被ると、その椅子に座った。
「まさか、あれは」
「ほう、分かったようだね。タンクの中のこの身体には、まだ、一番大切なものがなくてね」
「どういう事だ?」
アプリルが首を傾げると、ヴィクター・フランケンシュタインは不気味な笑みを浮かべた。
「頭脳だよ。今からこの装置を使って、僕の頭脳をこの身体に移すんだ」
瞬間、ヴィクター・フランケンシュタインは激しく咳き込んだ。
身体が大きく揺れ、銃口が下がった。
「今だ!」
「う、うん!」
「ああ!」
勇気、ディアーナ、ノノ、アプリルは、
無我夢中でヴィクター・フランケンシュタインの元へ走った。
「くそっ!」
ヴィクター・フランケンシュタインは慌てて銃を構えようとするが、
それよりも早く、勇気とアプリルがその腕を掴んだ。
「は、離せ!」
「離すもんか!」
「ヴィクター……やめるんだな」
ヴィクター・フランケンシュタインの腕は、枝のように細い。
二人が腕を捻ると、ヴィクター・フランケンシュタインは銃を床に落とした。
「捕まえるんだ!」
「ああ!」
勇気とアプリルはヴィクター・フランケンシュタインの身体を押さえようとする。
「邪魔をするな!」
だが、ヴィクター・フランケンシュタインは力を振り絞って勇気を突き飛ばした。
ヴィクター・フランケンシュタインは急いで肘かけのところに付いていたレバーを握った。
アプリルは寸でのところで、ヴィクター・フランケンシュタインの腕を掴む。
「やめろ!!」
「完璧な肉体を手に入れれば僕に弱点はなくなる!
今まで馬鹿にして来た奴らを見返す事ができる!
さあ、見ろ、これが天才の作った最高傑作だ!!」
ヴィクター・フランケンシュタインは高笑いしながら、
アプリルを突き飛ばした後、レバーを引いた。
天井が開き、強い雨と風が部屋に入って来た。
「くっ!」
勇気は立ち上がると、ヴィクター・フランケンシュタインの元へ駆け寄ろうとする。
しかし、キユウが前を塞ぐように飛んで来て声を荒らげた。
「近づくな! もう間に合わない!」
稲妻が、勇気達のいる建物につけられた避雷針に落ちた。
大男が眠るタンクと、ヴィクター・フランケンシュタインが座る椅子が揺れ動く。
ヴィクター・フランケンシュタインが被っているヘルメットからは、激しく火花が飛び散った。
「アアアアァアア!!!」
椅子の上のヴィクター・フランケンシュタインは悲鳴を上げると、頭をガクンと垂らした。
そして、全く動かなくなった。
「フ、フランケンシュタインさん……?」
「ヴィクター……」
「どうしたんだ……?」
勇気は近づこうと思ったが、キユウの方を見て動くのを躊躇った。
キユウ、ディアーナ、アプリルは険しい表情で、タンクをじっと見つめた。
勇気とノノは視線だけを動かし、タンクを見る。
すると、タンクに入っていた大男が目を開いた。
「わっ!」
その迫力に勇気は思わず仰け反る。
大男は手を伸ばし、タンクの蓋を開けた。
「ウウゥ、アァアア」
唸り声を上げながら、大男がゆっくりと出てくる。
こめかみに刺さったボルトから、小さな火花が飛び散っている。
「ボくの……名ハ……ヴぃクたー……フらンケン……しゅタイン」
「ヴィクターの意識だけが、怪物の中に移動したのね」
「ええっ」
「あれはもう人間じゃない。……怪だ」
ヴィクター・フランケンシュタインは、フラフラと窓際まで動くと、罅を見た。
「スバラしい……世かイへ……」
「止めなきゃ!」
「ああ!」
勇気、ディアーナ、ノノ、アプリルは怪になった男の下へ駆け寄ろうとした。
「ジャマを……スるナア!」
男は傍にあった大きな棚を軽々と掴むと、勇気の方へ放り投げた。
「うわっ!」
「危ない!」
「オオオオッ」
棚が勇気の傍に勢いよく飛んで来るが、ディアーナが風を操って棚を防いだ。
ヴィクター・フランケンシュタインは獣のような声を上げると、周りの物を破壊し始めた。
「彼はただの怪物になったようだね。実験が完璧じゃないのに完成を急いだせいだ」
「そんな!」
「全て、邪鬼の仕業だ。
邪鬼はただ、ヴィクター・フランケンシュタインを怪にして暴れさせたかっただけなんだ」
「それって……」
邪鬼はヴィクター・フランケンシュタインの事を理解してくれていたわけではない。
利用していただけだ。
「オオオオォォオオ」
ヴィクター・フランケンシュタインは窓を開けると、罅に向かってジャンプした。
そのまま、罅の中に消える。
「ああ!」
「追いかけるんだ!」
キユウが罅に向かって飛んだ。
「でも、罅は窓の外だよ!」
「窓の外だろうが宇宙の果てだろうが、今ジャンプしなければ全てが終わってしまうぞ!」
罅の向こうには見捨里市がある。
もし、みんなが大男になったヴィクター・フランケンシュタインに襲われたら……。
「あああ! 分かったよ! んん!」
「あたし達が、ヴィクターを阻止するわ」
勇気は歯を食いしばって窓からジャンプすると、罅の中へと飛び込んだ。
ディアーナ達もまた、彼の後を追うのだった。
~次回予告~
天才科学者ヴィクター・フランケンシュタインは、名もなき怪物と融合し、完全な怪となった。
そして、そのまま見捨里市に向かい、決意のままに暴れようとしている。
このままでは見捨里市が、ヴィクター・フランケンシュタインの手により崩壊する。
勇気達は大急ぎで、見捨里市に戻るのであった。