怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

羽心は石化する動物を調べるため、一人で調査に向かっていった。
ディアーナもまた、石化事件の調査をしていた。
勇気は怖がりながらも、夢の真相を知るため、ディアーナと共に書斎に赴く事になったが……。


4 - 謎の少年

「さ、行くわよ」

「うん」

 勇気とディアーナが書斎の前までやってくる。

 時計の針は、8時を過ぎていた。

 母親は看護師をしていて、今日は夜勤なので、家には勇気とディアーナしかいなかった。

(怖いけど、だけどこのままじゃ僕は……)

 勇気は全身に力を入れると、目を大きく見開いた。

 ディアーナは表情一つ変えていない。

「……勇気を出すんだ!」

 勇気は自分に言い聞かせるようにそう言うと、

 ドアのノブを掴み、回し、ゆっくりとドアを開く。

 ディアーナも共にドアの中に入る。

 次の瞬間、部屋の明かりが目に飛び込んできた。

 勇気は目が眩みそうになるのを必死に耐えて、ディアーナと共に部屋の中を見た。

 

「やっと、会えたね」

 

 部屋の窓際に、あの少年が立っていた。

「夢、じゃないよね……?」

「やってみる?」

 ディアーナに促され、勇気は頬をつねってみた。

「痛い……」

 痛みを感じるという事は、これは現実だ。

(……いや……だけど、この子は一体どこから……?)

(書斎に住み着くのかしら)

 戸惑う勇気と、顎に手を当てるディアーナに、少年は優しい笑みを浮かべた。

「僕はね、君が自らドアを開けるのをずっと待ってたんだ」

「ずっと? 夕方はいなかったじゃないか」

「君がドアを開けたわけじゃなかったからね。

 異変が起きた時、勇気がドアを開ければ、朝でも昼でも夜でも、この部屋に現れる

「意味が全然分からないんだけど……」

「大体、あなたは誰なの?」

「それは後で説明するよ。今はあまり時間がないからね」

 入り口のドアが勢いよく閉まった。

「何?」

 勇気とディアーナはドアの方を見る。

 

「勇気、君に手伝ってほしい事があるんだ」

 突然、勇気の耳元で声がした。

 振り返ると、窓際にいたはずの少年が勇気の真横に立っている。

「ひゃ、いつの間に?」

「神出鬼没ね」

「僕は霊体なんだ」

「え?」

「簡単に言うと、幽霊だね」

「そこそこ高位のアンデッドね」

 勇気は慌てて離れ、ゾッとして少年を見た。

 ディアーナは冷静に少年を見ている。

 少年はそんな勇気をよそに、レザーグローブを嵌めた左手で、父親の机を指差した。

「あの机の一番上の引き出しを開けてみて」

「ど、どうして?」

「いいから」

 勇気は首を捻りながらも、机の傍に行くと、恐る恐る引き出しを開けた。

 すると、引き出しの中に、ある物が入っていた。

 時計のような装置がついた漆黒のレザーグローブだ。

「あら、これは?」

 ディアーナは興味深そうに見ている。

「これって、君のと同じ物……だよね?」

 勇気は少年の嵌めたグローブを見つめる。

「グローブは左右逆の手で、羅針盤も少し違うけどね」

「「羅針盤?」」

「この時計のような物だよ。

 方角を示すコンパスで、僕の羅針盤には『月のマーク』が、

 そこにある羅針盤には『太陽のマーク』がある」

 そう言われて、羅針盤を見つめると、確かに太陽のマークがあった。

「さあ、勇気、そのグローブを嵌めるんだ。あのエルフには必要ないからね」

「僕が? なんで……?」

「というかなんで、あたしの事をエルフだって知ってるの?」

 勇気とディアーナの質問には答えず、少年は別の質問をする。

「ところで、君達は、×印状の罅を見た事はあるかい?」

「それって……」

 ディアーナは調査していた時、空中に浮かんでいた×印を思い出した。

「黒い煙を出す罅の事でしょう?」

「ああ、やっぱり見たんだね。だったら、急がないと」

 少年は険しい表情になった。

「勇気、君はグローブを嵌めたら、そこのカメラを持つんだ」

「あたしは?」

「必要ない」

 少年は棚の上に目をやる。

 棚の上には、父親の古いインスタントカメラが置かれていた。

「どうしてカメラなんか?」

「そのカメラが必要なんだよ。『怪』を止めるためにはね」

「カイ?」

 耳慣れない言葉に、勇気は首を捻った。

「怪物、怪人、怪奇現象……つまり、常識では考えられない存在だよ」

「な、何それ……」

「待って! 妖精や天使は怪なの? これらもこの世界の常識では考えられない存在よ」

 勇気は急に怖くなったが、ディアーナは質問する。

 質問に対し、少年は首を横に振った。

人々に恩恵を与える者は、怪とは呼ばない。これは絶対の真実だ。さあ、怪を止めに行くよ」

 少年はそう言って、勇気とディアーナに近づこうとした。

「来るな!」

 勇気はドアの前まで逃げるが、ディアーナは物怖じせずに剣を抜こうとしている。

「お、お前は誰なんだ?」

「それは後で話すよ。今は怪を」

「怪、怪、うるさい!」

 勇気が怒鳴ると、少年は小さな溜息を漏らした。

「まったく、君と下らない押し問答をしている暇はないんだ」

 そう言って、少年は勇気とディアーナをじっと見つめる。

「……この世は、ヒトが理解できる事ばかりじゃない」

 少年は、グローブを嵌めた左手を傍の壁の前にかざし、呪文を唱えた。

時空貫通(カオス・ゲート)

 螺旋状に風が舞い、壁に光が渦巻く。

 その渦が大きくなっていき、次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。

 まるで巨大な掃除機のパイプが壁に現れたようだ。

 壁に向かって強い風が起きている。

「わあぁ!」

「わあ、かっこいい! ……あら、聞いた事があるわね」

 勇気は身体を支えるためにドアの枠に手をかけた。

 一方、少年は微動だにもせず、ディアーナもわくわくしている。

「さあ、行くよ!」

 少年は、グローブをした手を勇気に向かって差し出した。

「な、何なんだよお前は!!」

 勇気はパニックになりながら叫び、そのまま、書斎から飛び出す。

(こんなのあり得ない! 絶対変だ!!)

 勇気は玄関のドアを開けると、家の外へ逃げようとした。

 その時、勇気とディアーナの目の前に何かが落ちてきた。

「あ、が、がああ」

 それは、顔が半分石になった、男の生首だった。

うわああああ!!

「自然じゃないわね……」

 勇気は思わず仰け反り、ディアーナが不快な表情になると、

 上空に浮かぶ大きな×印が目に入った。

(ま、まさか、あそこから……? いや、でも!)

 足元の生前の男は、目を大きく見開き、勇気とディアーナをじろりと睨んだ。

「み、みんな……やられ、た! ちくしょおおおお!!

 男の顔が音を立てて、石になっていく。

 男は目と口を大きく開いたまま、完全に石になってしまった。

「ひいいっ!」

「なんて不快! 許さないわ!!」

 勇気は慌てて家の中へ逃げ帰り、ディアーナは感情的になって暴言を吐く。

 

「その首は、盗賊のものだ」

 冷静な声が響いて、勇気とディアーナはハッとした。

 ドアが開いたままになっていた書斎から、少年がこちらを見ている。

「盗賊……?」

「怪の棲んでいる洞窟の宝を盗もうとしたんだ。

 だけど石にされて、首だけ×印状の罅へ投げ捨てられたんだろうね」

「石に? 投げ捨てられた?」

「あの×印の罅の向こうは、怪のいる場所に繋がっているんだ。罅から黒い煙が漏れ出てるだろ。

 つまり、怪の力が、この町に漏れ出しているんだよ」

「そんな……」

 少年は厳しい顔つきで勇気とディアーナをじっと見た。

「このままでは、この町の全ての生き物が」

「石にされてしまうわよね」

「そうだ。さあ、怪を倒しに行くよ」

「ま、待ってよ!」

 戸惑う勇気を安心させるように少年は微笑む。

「君が必要なんだよ、勇気。エルフも……」

 少年の目が真剣で厳しいものになった。

「夢の中で言っただろう。この町を救えるのは、君しかいないんだって」

「僕……だけ」

「さあ、グローブを嵌めて、カメラを手に取るんだ。エルフも、行くよ」

「……分かったわ」

 勇気は戸惑いながらも書斎に入ると、グローブを見つめた。

 恐る恐るグローブを手に取ると、右手に嵌め、棚のインスタントカメラを持った。

 少年は、床に置いてあった父の登山靴を指差す。

「それを履いた方がいい。足場の悪い場所に行くからね。怪我はしたくないだろう?」

 勇気は渋々、言われた通りに靴を履いた。

「さあ、これで今度こそ、準備が整った」

「剣も魔法も、準備はしているわ」

「なあ、どこに行くんだよ?」

「決まっているだろう。――怪のいる場所だ! 時空貫通(カオス・ゲート)

 少年はグローブを嵌めた手を再び渦にかざした。

 そして、先程と同じ呪文を唱えると、風と光が増し、壁にできた大きな穴が光り輝いた。

 勇気とディアーナは眩しさと強い風に目を細める。

 少年のハーフコートが舞い上がって音を立てる。

「行くぞ、僕に続け!」

「ええ!」

 少年とディアーナは、光の渦の中に消えた。

 勇気は一瞬躊躇う。

「どうして僕なんだよ……?」

「このままじゃ、みんなが……」

 勇気はぎゅっと目を瞑ると、顔を上げた。

 足に力が入り、手にしたカメラもしっかり握る。

 

「ああー、もう、何なんだよ!」

 勇気も遅れて、光の渦に飛び込んだ。




~次回予告~

勇気は謎の少年とディアーナと共に、時のトンネルを潜った。
石化事件の元凶、メデューサを止めるために向かった場所は、古代ギリシャ。
そこには、たくさんの石化した人間がいた。
メデューサの恐ろしい力に身震いする勇気だが、果たして、勇気達は勝てるのだろうか。
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