邪鬼と、彼に騙された羽心により、勇気はキユウを失ってしまった。
あまりにも衝撃的だったので、勇気は心が傷ついてしまい、しばらく学校にも行けなかった。
ディアーナとノノは、助っ人のチェイニーと共に何とか羽心を説得し、
勇気の家に行くが、勇気は羽心ともまともに話せないほど落ち込んでいた。
羽心はそんな勇気の力になるために、キユウが残した月のグローブを彼に渡す。
そのおかげで、勇気は少しだけ、平常心を取り戻すのだった。
1 - 見捨里市大パニック
「ふわぁああ~」
夜に歩いたせいで、ディアーナは欠伸してしまった。
だが、そんな彼女にも、ジャネットは容赦なく仕事の内容を言う。
「突然ですが、あなたとチェイニーに仕事があります」
「なぁに~? ジャネット~」
ディアーナが眠そうな声で言うと、ジャネットはディアーナを指差してこう言った。
「あなたの種族である『エルフ』の本来の意味は分かりますか?」
「エルフ~? 森の民でしょ~?」
ディアーナはそう答えたが、ジャネットは首を横に振った。
「いいえ、違います。今回は、本来の意味の『エルフ』が怪奇現象を起こすのです。
その調査に向かってください」
「え? な、何~?」
「ゴブリンも、トロールも、ピクシーも、全てが『エルフ』なのです。
……チェイニーには分かりますよね?」
「うむ」
チェイニーは、エルフという言葉の意味を理解しているようだ。
ディアーナは訳が分からず、首を捻った。
「とにかく、私の仕事内容は以上です。ディアーナ、チェイニー、行ってきなさい」
「は~い……」
「いってらっしゃ~い!」
「いってらっしゃい」
ノノとアプリルに見送られながら、ディアーナとチェイニーは仕事をしに行くのだった。
その頃の勇気である。
三日間も休んでしまった後の学校の授業は、居心地が悪かった。
休む前、原末先生の算数は分数の掛け算の勉強をしていたが、
今はややこしい割り算に進んでいた。
勇気にはよく分からなかったので、溜息をついて頭をかいた。
先生がコツコツ、コツコツと黒板にチョークで式を書き始める。
理解できない式をノートに写すのが面倒くさくなり、勇気は教室の窓の外を見た。
校舎の三階からは見捨里市の住宅街が見える。
建ち並ぶ一軒家と五、六階建てのマンションの中に巨大なボールのようなガスタンクがある。
(なんで、町の真ん中にガスタンクなんてあるんだろう?)
勇気はいつもそう思うが、それ以上深く調べる気もなかった。
とにかく今は平和な町の風景だ。
青空を綿菓子のような雲が幾つもゆっくりと流れている。
この空に突然×印状の罅が入り、世界の様々な怪が襲ってくるはずだ。
(やっぱり僕一人では守れないかも……)
そう思うと、勇気の心はどんよりと曇る。
勇気は窓とは反対側を見た。
少し離れた席に羽心が座っている。
一生懸命にノートを取っていた羽心が、勇気の視線に気づいてこちらを見た。
勇気はハッとして気まずく視線を外す。
朝の登校で勇気は羽心に、挨拶をしただけだった。
(今までの事を説明しないと……。でも、羽心があの鈴を振ったから……)
キユウの事を考えると複雑な気持ちになるが、彼女は何も知らなかったのだ。
邪鬼に騙されて勇気を助けようとして鈴を振っただけなのだ。
それなのに、羽心を恨むような気持ちを持つべきじゃない。
それは分かっているのだが、勇気は心の整理が付かなかった。
その時……。
「え? 何これ?」
背後から女の子の声が聞こえた。
振り向くと、クラスメイトの花恋が、顔の前で掌を上に向けていた。
上から降ってくる何かを受け止めようとしている。
「あ、なんだこれ?」
「え? 嘘?」
「静かにしろ!」
教室の様々なところから声が上がった。
黒板にチョークを走らせていた原末先生も振り向いたものの、奇妙な光景に手を差し出した。
花恋が、的確な表現をする。
「これ、ラメみたい。金色で綺麗ね」
「ラメってなんだよ?」
花恋の横の男子が尋ねる。
「女の子がほっぺにキラキラした粒みたいなお化粧をしてるのを見た事ない?」
「化粧品かよ?」
「化粧品の事じゃないけど、フランス語でキラキラしたものの事をいうのよ。
英語だとグリッターっていうんだけど、スパンコールと混同する人も多くて」
「ああ、もういいよ」
その男子は花恋の解説を遮った。
教室後方の二人がそんなやり取りをしている間もそれは降っていた。
勇気も目の前で掌を上に向けた。
金色の粒子が皮膚の上に散っている。
突然、足音のような奇妙な音が響いた。
「きゃあああ!」
勇気の背後にいる花恋が悲鳴を上げた。
「嫌だっ!」
怯えて立ち上がった花恋が、窓際に走った。
なんと、花恋の机が勝手に動いていた。
まるで犬が走るように机は四本の脚で花恋に突進した。
「いやぁ!」
悲鳴を上げる花恋に、勇気は息を呑むだけだった。
その時、羽心が叫んだ。
「逃げて!!」
羽心の声に反応し、花恋は間一髪で机を避けた。
机はそのまま窓を突き破り、落ちていく。
不意に、奇妙な笑い声が教室中に響いた。
皆がぞっとして教室内を見回した瞬間、
筆箱や教科書やノートが宙を飛んで皆に襲いかかってきた。
悲鳴を上げて逃げ惑う児童達。
筆箱は蓋を、ノートや教科書はページを羽にして飛んでいる。
机や椅子が犬や猫のように教室を走り回る。
勇気は窓側に追い詰められた。
「嫌だぁ! あっち行け!」
叫んでもお構いなしに近寄ってくる机や椅子。
勇気は窓の外を見た。
パニックになっているのは学校だけではなかった。
灰色の瓦が住宅の屋根からカラスのように飛び立ち、人々を襲っていた。
マンションの窓を破って飛び出したテーブルが、ペガサスのようにいななきながら飛んでいく。
町中が大混乱だ。
「大変だ!」
そして勇気は、息を呑んだ。
町の真ん中のガスタンクに、空飛ぶ瓦、いななくテーブルが攻撃を仕掛けていた。
「ダメだ! 爆発する! 見捨里市がメチャメチャになる!」
ガスタンクが、大爆発を起こす。
「わぁああ! 助けて! キユウぅう!」
~次回予告~
見捨里市に降り注いだ金の粉は、どんな「怪」の仕業なのだろうか。
ディアーナとチェイニーによれば、それは「エルフ」と呼ばれる者らしいのだが……。
だが放っておけば、見捨里市が崩壊してしまうため、勇気は怪奇現象を止めるために動く。
そして、羽心はキユウを消した責任を取るため、勇気にある相談を持ち掛けるのだった。