怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

コティングリーの妖精事件により、見捨里市が崩壊しようとしていた。
それを阻止するべく、勇気は月のグローブを嵌めて時のトンネルを作り、
ディアーナとチェイニーと共に時を超える。
羽心も太陽のグローブを嵌めて共に行こうとするが、
勇気に止められて怪狩りには同行できなかった。
彼女はキユウがいない彼の力になるために共に戦いたかったのだが、彼には届いていなかった。
そして、コティングリーに辿り着いた勇気だったが、肝心の武器を忘れてしまっていた。


4 - 二人の少女

「キユウ、どうしよう? 僕のバカバカっ!」

 森の中で、勇気は自分の頭をポコポコと叩いた。

 ディアーナとチェイニーは、はぁ、と溜息をついている。

(どうやって妖精を倒せばいいんだ……?)

 今までずっと、キユウが怪の弱点となる武器を教えてくれたし、

 戦闘能力が高いディアーナ達も同行している。

 だからこそ、怖がりながらも勇気は勇気を出して、怪狩りを行う事ができたのだ。

「妖精の弱点……妖精の弱点……」

 勇気はこの時代で武器を入手しようと思った。

 しかし、妖精にどんな弱点があるのかさっぱり分からなかった。

(こうなったら、何でもいいから武器を……)

 勇気は武器になるものを見つけようと周囲を見渡す。

 だが、森の入り口で武器になりそうな物といえば木の枝くらいだ。

「あれ? ここって、コティングリーって村だよね……?」

「そうじゃが、何故人が集まっておる?」

 チェイニーの言う通り、田舎の村にも関わらず、何故か人々で溢れ返っていたのだ。

 

「5時間もかけて来たというのに、どういう事なんだ?」

「コナン・ドイルさんは嘘つきなのか?」

「私、妖精を見たかったわ!」

「俺だって! 捕まえて売れば金持ちになれるからな!」

 人々は、帽子を被ったスーツ姿の紳士に詰め寄っていた。

「皆さん、落ち着いて。私はあなた達にこの村へ来てくださいとは一言も言ってませんよ」

「はあ? 何言ってるんだ?」

「あなたとコナン・ドイルさんが、ここに妖精がいるって言ったんでしょ!」

「まさか、お前達だけで妖精を捕まえて大儲けするつもりか!」

「そうじゃありません!」

「じゃあ、どういう事なんだよ、ガードナーさん!」

「ガードナー?」

 恐らく、彼は妖精事件を調査した神智学者のエドワード・L・ガードナーだろう。

 ガードナーが調査をし、コナン・ドイルが「本物」だと断定した事によって、

 大勢の妖精を探しに村へやって来たようだ。

(なんか、これってあの時にそっくりよね……)

 ディアーナは、以前、時空を超えて行ったツチノコ異変の光景を思い出した。

 時代も国も異なるが、人々が好奇心や欲望を丸出しにして群がる姿はとても似ていて、

 ディアーナは不快な気分になった。

 その時、勇気達の前を、二人の少女が通り過ぎて行った。

 一人は勇気よりも年上の少女で、もう一人は年下のように見える。

「あの子は確か……」

 勇気が二人を見ていると、彼女達は森の入り口までやってきて、コソコソと喋り出した。

エルシーお姉ちゃん、ほんとに行くの?

ええ。フランシス、あなただって妖精達がみんなに捕まっちゃうのは嫌でしょ

「えっ?」

 その言葉に、勇気は驚く。

 二人の少女は、そんな勇気と付添人に気づく事なく森の中へと入って行った。

 

「今のって……」

 エルシーとフランシス。

 コティングリーの森の中で、妖精の写真を撮った従姉妹の少女達だ。

「森に行ったって事は……」

「もしかして、妖精に会おうとしているのかもしれないわ……ちょっと、何をするの、勇気?」

 勇気は慌てて落ちていた太い木の枝を拾った。

「これでも、ないよりはマシだよね……」

「何するのよ、やめなさいよ!」

「だって、武器がないと戦えないし……行くよ」

 ディアーナは勇気を止めようとするが、勇気は彼女を無視していた。

 勇気はそれを手に、急いで二人の後を追った。

 

「まったく、キユウ以外に仲間を信じないのかしら?」

「弱い癖に意地を張る、というのが、人間じゃからな」

 ディアーナとチェイニーも、愚痴を吐きながら彼の後を追った。

 

 森の中は、あちこちに木洩れ日が差していた。

 村の騒がしい雰囲気が嘘のように、静寂に包まれている。

 小川があり、透き通った澄んだ水が緩やかに流れている。

 小川の中に目をやると、小さな魚達が泳いでいた。

 どこかから、鳥のさえずりが聞こえる。

 

「ふぅ……落ち着くわね。懐かしいわ」

 幻想的で美しい空間。

 こんな森なら本当に妖精が棲んでいてもおかしくないと勇気は思った。

 ディアーナも「帰らずの森」の光景を思い出して思わず休憩してしまう。

「お主、異変を解決するのではないのか?」

「あ、忘れてた!」

 だが、妖精事件を解決するために、長く居座ってはいけない。

 やがて、少し離れた場所から、声が聞こえてくる。

「みんな、どこにいるの?」

「お願い、出てきて」

 勇気達は、声のした方に近づく。

 すると、小川の傍にある岩場の前に、エルシーとフランシスが立っていた。

(妖精を呼んでるんだよね……?)

(多分ね……)

 勇気達は二人にバレないように、さらに近づこうとした。

 が、勇気は落ちていた枝を踏んでしまい、音が響いた。

 瞬間、エルシーとフランシスが勇気達の方を見た。

「あ、えっと、違うんだ」

 勇気は必死に言い訳をしようとするが、

 エルシー達は枝を武器のようにして持っている事に気づき、身構えた。

「お兄ちゃん、妖精さん達を捕まえに来たの?」

「フランシス、下がって!」

「ちょ、ちょっとやめて。話を聞いて!」

 エルシーは傍にあった石を拾うと、勇気を睨みながら振り上げる。

 勇気は枝を投げ捨てると、手を挙げて、攻撃の意志がない事をアピールした。

「あなた、この村の子じゃないわよね?」

 エルシーは石を振り上げたまま、勇気に尋ねる。

「う、うん。遠いところから来たんだ」

「遠いところ? やっぱりお兄ちゃん、妖精さんを捕まえようと思ってるんでしょ!」

「違うって、僕は妖精を倒しに来たんだ!」

「あっ、それは言っちゃいけない言葉よ!」

 勇気の言葉に、(かみ)のエルフであるディアーナは口にさっと手を当てる。

「ご、ごめんなさい。……ねえ、ディアーナ、代わりに話してくれる?」

「分かってるわよ。

 あのね、勇気が夢で見た妖精が、魔法の鱗粉で悪い事をしようとしたんだって」

「何よそれ……?」

「そんな悪い妖精さん、この森には一人もいないよ」

 妖精達は悪戯好きだが、みんな陽気で明るく、人に危害を加える事などないという。

 特徴としては、幻想郷の妖精とほぼ変わりがないようだ。

「妖精は不気味な笑い声を上げないもん!」

「そ、そうなんだ……」

 やはり、エルシー達が知っている妖精は全く別の種類のようだ。

 チェイニーは「だろうな」と頷く。

(ならば、見捨里市で鱗粉を撒いておる妖精はどの妖精なのじゃ……?)

 チェイニーは困惑した。

 あの妖精達は、他の時代に存在していた妖精達だったのだろうか?

 

「わっ!」

 突如、勇気の目の前を、羽の生えた物体が飛んで来た。

 虫が飛んできたのだと思い、勇気は手で払おうとする。

 すると、その物体がひらりと避けた。

「あっぶないナ~、何するんだヨ!」

「えっ?」

 そこにいたのは、妖精の男の子だ。

 耳が尖り、緑の衣装に身を包み、腰にはポーチを着けている。

 ピーター・パンとティンカー・ベルを足して2で割ったような容姿だ。

「プーカ!」

 エルシー達が声をかけると、プーカと呼ばれた妖精は、

 猛スピードで二人のもとへ飛んで行った。

「おお、エルシーにフランシス。オイラは疲れたヨ」

 プーカはフランシスに飛びついた。

「疲れたって、どうしたの? 他の妖精さん達はどこにいるの?」

「まあ、話すのも面倒くさいって言うカ……。って、それ、くるみパンだよネ?」

「え、うん」

「おおお~、オイラの大好物じゃないカ!」

 プーカはフランシスからくるみパンを奪うように取った。

 パンは自分の身体と同じぐらいの大きさがある。

 プーカは、それを幸せそうな笑みを浮かべながら、一気に食べ切った。

「う~ん、美味しイ~。やっぱりくるみはパンと一緒に食べるのが一番いいねェ。

 フランシス、もう1個ちょうだイ!」

「う、うん」

「そんな事より、プーカ! みんなはどこなの!」

「みんナ? あああ、そうだっタ」

 面倒臭そうに答えたプーカは、フランシスからくるみパンを受け取るとまた食べ始めた。

「困ったもんだヨ。人間どもを退治するって皆が夢中になってるんダ。

 それって絶対に間違ってるからやめロ、って説得したんだけどダメでネ。

 もうすぐ総攻撃を始めるヨ」

「総攻撃って……?」

「気にするなヨ。バカはバカ同士で戦えばいいんだヨ。

 妖精を捕まえようとする人間もバカだシ、

 そんな人間どもをやっつけようとするオイラの仲間もバカだからネ」

「そんな……」

 そう言葉を漏らしたエルシーは、この騒動について吐き出すように語り出した。

「私達はプーカや他の妖精さん達に本当に会ったのに、誰も信じてくれなかった。

 だから、妖精の絵を描いてそれを切り抜いて、ヘアピンで地面に留めて写真を撮ったの。

 パパやママや友達が信じてくれれば良かっただけなのに……」

 言葉に詰まったエルシーに代わってフランシスが続ける。

「まさか、コナン・ドイルさんまで写真を見るなんて考えてなかったもの……」

 従姉妹の少女二人は戸惑った表情でお互いの顔を見て、小さく頷いた。

「まあ、妖精達は写真に撮られるのがイヤだからネ。

 だからって、嘘の写真を撮ったのは失敗だったナ」

「「ごめんなさい……」」

 エルシーとフランシスはしょんぼりとプーカに謝った。

「でも、今一番の問題は、

 オイラの仲間が、刀を持った変な男の子の話でますます人間に不満を持っちまった事だナ。

 人間なんて、どうせすぐに色んな事を忘れちゃうからネ。

 放っておけばオイラ達妖精の事だって忘れちゃうんだからサ」

「はぁ……。って」

 プーカはむしゃむしゃとパンを食べなから持論を語った。

「刀を持った変な男の子?」

「それって!」

 勇気達がプーカ達の傍に駆け寄った。

「その男子(おのこ)は、片目に包帯を巻いていたのじゃな」

「キミ、だレ? どうしてそれを知ってるんだヨ? あ、もしかしてあいつの仲間なんだナ?」

「仲間なんかじゃない! 僕は邪鬼に利用された怪を倒さないといけないんだ。

 あいつは、僕が一番倒したい相手だ!」

「あたし達も仕事があるの。それだけよ」

 勇気達は、プーカを真剣に見た。

「プーカ、あたしの説明をよく聞きなさい。あなたの仲間はきっと邪鬼に騙されているのよ。

 邪鬼は怪を別世界に送り込んで、世界をボロボロにしようとしているのよ。

 でも、その割に邪鬼は全然あたし達の前に姿を現さないのよね。

 ラスボスっていつもこんな感じなのかしら?」

「あの少年が信用できないのは直感で分かったヨ。でも、オイラの仲間はすっかり信じちまっタ。

 でもなんで世界をメチャメチャにしようとしてるんダ?」

「そんなの、あたしは知らないわよ。

 でも、あたし達は勇気って子が住んでる町を守るためにわざわざ遠い世界から来たのよ。ね?」

「うん」

 勇気は天空を見上げて指差した。

 その右手には太陽の羅針盤のグローブが嵌められている。

 それを見たプーカはハッとなり、さらに勇気の左手を見た。

 そこには月の羅針盤のグローブが嵌められていた。

「キミ、そのグローブはどこデ……?」

「は? このグローブがどうかしたのか?」

「それはキミの物カ?」

「そうだ。大切な友達が僕にくれたんだ」

 プーカは左右のグローブをじっと見つめた。

 その時――茂みの中から甲高い笑い声が聞こえてきた。

 

「待って!」

「えっ?」

 勇気が声のした方を見ると、茂みが激しく揺れ動いている。

 次の瞬間、地響きが起き、フランシスはエルシーに抱きついた。

「何なの、この音は?」

「ついに総攻撃を始めたんダ」

 妖精達の不気味な笑い声に混ざって、鈍い地響きが近づいている。

「キャキャキャキャキャキャ」

 辺りの草木が激しく揺れる。

「一体、何が起きるんだ」

 震える声で勇気がプーカに尋ねた。

「魔法の鱗粉だヨ。鱗粉は様々な物を生き物に変えて、操る事が出来るんだヨ」

「それで木々を生き物に?」

「そウ。凶暴な生き物にネ」

 勇気達がよく見ると、森が動いている。

 背の高い様々な木々が巨人のように歩き、小川を横切っていこうとしている。

 草木のかぶり物をしたゾウやキリンの大群が歩いているようだった。

 木々の上にはキラキラと輝く鱗粉が降り注いでいた。

 羽を羽ばたかせて鱗粉を散らしている妖精達の姿は真っ赤だった。

「妖精って、あんな怖い姿をしてるんだね」

 勇気はゾッとした。

「いや、普段はあんなじゃないヨ。みんな憎悪に取り憑かれてるんダ」

「ねえ、妖精さんと歩く木はどこに向かってるの?」

 エルシーは不安になってプーカに尋ねる。

「それは、もちろん、ここに集まった人間達を踏み潰しに向かってるんダ。

 そして、ここの村の建物を全部潰す気だヨ」

「え? そんな!」

 フランシスとエルシーはショックを受けた。

「それだけじゃないヨ。ここの村を壊した後に、×印状の罅の向こうの町を壊しに行くヨ」

「まさか、それって!」

 今度は逃げ切れない。

 こんな時、今まではキユウが上手いアイディアを出してくれた。

「キユウ! どうしたらいいんだよ? 助けてぇ!

 勇気は思わず叫んだ。

 しかし、キユウはいないのだ。

 ディアーナがそんな勇気を呆れた目で見ていた時、

 五人の上に巨大な木の根っこが覆いかぶさろうとした。

「あっ!」

 その時、羽の生えた大きな丸太が飛んできた。

 それは巨大なトンボのようでもあった。

 勇気、ディアーナ、チェイニー、エルシー、フランシスは、

 羽の生えた丸太にすくい上げられ、巨木の根に踏み潰される事はなかった。

 

「わぁ! なんだこれ!」

すごぉ~い!

 勇気が驚いて見渡すと、

 自分とディアーナとチェイニーと二人の少女が空を飛んでいる事に気がついた。

 巨大なトンボのような丸太がせわしなく羽を動かして飛んでいるのだ。

「キミ達、乗り心地はどうだイ?」

 空飛ぶ丸太と並んでプーカが飛んでいた。

「これは、何が起きてるんだ?」

「キミ達を救っただけサ。森の中に倒れていた丸太にこれを一振りかけてネ」

 そう言うプーカの羽ばたく羽からキラキラと輝く鱗粉が散った。

 魔法の鱗粉で丸太を空飛ぶ生き物に変えたのだ。

「なんて素敵なの!」

「やっぱり妖精さんって最高!」

 エルシーとフランシスは死にかけた事をすっかり忘れて、目を輝かせた。

「じゃが、ずんと飛んでいるわけにはゆかぬな」

 チェイニーが目を下に向けると、巨人のような木々が村に向かっていた。

「何とかして食い止めないと!」

「オイラに考えがあるんダ」

「なんじゃ?」

「長老に会いに行くんダ。もう一度、長老を説得してみるヨ」




~次回予告~

邪鬼によって妖精は邪悪になってしまった。
人間に不信感を抱く妖精は、人間を滅ぼそうとしていた。
勇気、ディアーナ、チェイニーはそれを阻止するべく、プーカと共に長老に相談する事にした。
だが、それは一筋縄ではいかないようだった……。
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