怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

1920年のイギリスで、勇気達は妖精が住むというコティングリーに入る。
しかし、そこには妖精を捕まえようと人間がたくさん来ていた。
ツチノコ異変の時と同様に、ディアーナは人間の醜さを思い出して不快になる。
そんなコティングリーで勇気達はエルシー、フランシス、そしてプーカと出会い、
異変を解決するために彼らと協力する事になった。


5 - 妖精を説得せよ

 勇気達は森の上を飛んでいた。

「エルシーお姉ちゃん、あれ、見て!」

「何?」

 エルシーはフランシスの指差す方向を見た。

 勇気、ディアーナ、チェイニーもそこを見下ろした。

 すると、プーカが飛びながら悲しげに言葉を発する。

「これが、人間達の仕業だヨ」

 皆が見下ろした場所には、ゴミが散乱していた。

 木々は踏まれ、草木も倒れていた。

 よく見ると、それは一ヶ所だけではない。

 至るところで、同じような光景が広がっていたのだ。

「オイラ達を捕まえようとして、人間達が森を滅茶苦茶にしたんダ」

「それって……」

 村にいた人々の事だ。

「あいつら、オイラ達を出てこさせようとして、次から次に斧で木を切り離したんだゼ」

 勇気達は最初、この森が幻想的で美しいと思った。

 だがそれは一部だけで、森の多くが人々に汚されてしまっていたのだ。

「はぁ……。だから、あなたの仲間は……」

 ディアーナには、妖精達が人間に怒るのも仕方がないと思えた。

 同時に、同族としてそれに対する同じ怒りを抱く。

「全部、私達のせいよ……」

 エルシーが呟いた。

「私達があんな偽物の写真さえ撮らなければ……」

「エルシーお姉ちゃん……」

「いつまでもそんな事を気にするのはバカのやる事だヨ」

 見た目は可愛い妖精なのに、プーカは厳しい事を言うと勇気は思った。

 ディアーナは、一刻も早く仕事を終わらせなければ、と思った。

 それは、チェイニーも同じ気持ちだ。

 

「キャキャキャ」

 背後から甲高い笑いが聞こえた。

 ハッとして振り返ると、真っ赤な妖精達が飛んできていた。

「くっ、しっかり掴まレ!」

 プーカは勇気やエルシー達に指示を出した。

 そして、自分の羽を今まで以上に強く羽ばたかせた。

 無数の鱗粉が散り、羽の生えた丸太に掛かる。

 その途端、丸太の羽も物凄い勢いで羽ばたき始め、空飛ぶ丸太がスピードアップした。

わぁぁぁぁ!

「「「きゃぁぁぁ!」」」

ふぬぅぅぅぅ!

 勇気、ディアーナ、チェイニー、二人の少女はそのスピードに悲鳴を上げた。

「しっかり掴まるんダ! 落ちるなヨ! オイラがあいつらを引き離ス!」

 プーカは追ってくる真っ赤な妖精達に向かおうとしたが、

 後方からも何かが飛んできた。

 それは別の妖精達だ。

 勇気達を乗せた空飛ぶ丸太は違う方向へ逃げようとするが、そこにも妖精達がいた。

「これじゃあ逃げられない!」

 勇気達は、四方を妖精達に囲まれてしまった。

「キャキャキャ キャキャキャ」

 真っ赤な妖精達は不気味に笑い、徐々に迫って来る。

「このままじゃ襲われちゃう!」

 叫ぶ勇気の周りを、プーカはぐるりと回った。

 そして、勇気の肩に止まる。

「ねぇ、キミ達はローラーコースターに乗った事があるかイ?」

「え?」

「私、乗った事がないの。乗ってみたい」

「あ、あたしもない。一度乗ってみたいんだ」

「あたしも!」

「悪くないぞ」

 エルシー、フランシス、ディアーナ、チェイニーはすぐに答えた。

「ぼ、僕は何度か乗ってるけど、あんな怖い物は嫌いだよ」

 勇気は怯えた口調で答えた。

「君は嫌いなんだネ。じゃ、これから好きになりなヨ」

 プーカは悪戯っぽい笑いを浮かべた。

 彼が自分の羽を軽く羽ばたかせると、鱗粉が散って丸太に掛かった。

「えっ?」

 次の瞬間、空飛ぶ丸太は真下に落ちた。

 周りにいた妖精達の顔から突然消える、五人を乗せた丸太。

 キョロキョロと見回して「キャキャッ」となっている妖精達。

 五人を乗せた丸太が空気を切り裂いて真下に落ちていく。

ぎゃああああああああ! 助けてぇ!

 勇気が悲鳴を上げた。

わああぁああ!

「あはははははっ!」

「楽しいわよ!」

 エルシー、フランシス、ディアーナが喜び、チェイニーは無心で丸太に乗っている。

 そして、プーカは強烈な風を受けながらも、勇気の背中に余裕で座っていた。

 やがて五人を乗せた丸太は、妖精達が操る巨人のような木々の先頭の前に来ると、

 ピタリと宙で止まった。

 

ぬわぁぁぁ!

 目の前に勇気達を乗せた丸太が現れて驚いたのは、

 赤黒くて長い顎鬚を伸ばした年寄りの妖精だった。

なんジャ! お前達ハ!

 真っ赤な顔で赤黒い顎鬚の妖精は勇気達を睨みつける。

 この老人が長老のようだ。

人間じゃナ! やっつけるのジャ!

 長老は巨人のような木々に命令をする。

長老、やめてくださイ! オイラですヨ! プーカですヨ!

 勇気の肩にいたプーカが叫んだので、巨人の木々の動きは止まった。

ぬおォォ! 何故人間と一緒にいるのジャ?

「聞いてくださイ。人間全員が悪いわけじゃないんでス」

その話は聞き飽きたゾ!

「でも、人間を全部倒すなんて考えるのはおかしいでス」

人間がこの森の木々を切り倒し、ゴミを散らかし、滅茶苦茶にしたんだ。

 この森の平和を守るためには人間を倒すしかないのジャ

 長老は後ろに控える真っ赤な妖精達を見た。

さア、皆のもノ、人間を倒すのジャ!

 長老は自分の羽を激しく羽ばたかせて鱗粉をさらに散らした。

 巨人のような木々が行進を始めた。

「長老、やめてくださイ!」

「プーカ! どうすればいいのよ!」

「長老もみんなも、憎んだり、嫌ったりする悪い感情に囚われてるだけなんダ。

 あの少年に騙されて、憎む心が大きくなっただけなんダ!」

うるさイ! あの子が言っていタ。人がいなければ森は平和になるのジャ!

 プーカは顔を歪めて呟いた。

「ダメだ。止められなイ。長老もみんなも『憎しみの化け物』になってル」

 エルシーとフランシスは肩を寄せ合った。

「エルシーお姉ちゃん、このままじゃ、村が無くなっちゃう」

「お母さんやお父さんはどうなっちゃうの?」

 二人は泣き出した。

 それを見た勇気も、絶望的な気分になり呟いた。

「コティングリーの村だけじゃない。僕の見捨里市も無くなってしまう」

「……仕方ない」

「あのね、チェイニー……」

 ディアーナは小声でチェイニーに話した。

 すると、チェイニーは頷いて勇気にこう言った。

「勇気、協力せよ」

「え? なんで……」

 チェイニーは妖精達を止めるべく、意を決して、自分の血液からメイスを作り出す。

「儂が其奴等の頭に一発くれてやろう」

「え! 殴って解決?」

「話が分からないのには、これが最適だからね」

やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 勇気が止めるのも空しく、チェイニーは妖精達に向けてメイスを振り下ろした。

 衝撃波がメイスから飛び、憎悪の塊の真っ赤な妖精と、

 それに操られた巨人のような木々にぶつかった。

 そして……静寂が訪れた。

 

「あ、あの~、妖精のみんな、えっと、えっと、なんというか、その~~。

 僕もさっき森が壊されているのを見た。だから、人間を憎む気持ちは分かるけど……。

 邪鬼という悪い心を持った少年に騙されてるというか~。

 その少年の言葉で憎しみが膨らんでしまっただけだと思うんだよねぇ~~」

 勇気はそこまで語ったところで、今までと雰囲気がすっかり変わっている事に気づいた。

 長老が、じっと見ている。

 正気に戻った長老が、勇気をじっと見ている。

 しかし、それは勇気の顔ではなく、その両手だった。

そのグローブはどこで手に入れられたのジャ?

「え? このグローブ? 僕の大切な友達からだけど……」

そのグローブを持てるのは、特別な方だけジャ

「特別な方?」

そうジャ、特別な方だけがそのグローブを嵌める事ができる。

 あなたも、あなたの大切な友達も特別な方ジャ

「はあぁ」

 勇気は狐に抓まれた気分だ。

特別なあなたが言う事が正しイ。わしらは間違っておっタ

 長老は背後に控える妖精達を見回した。

皆のもの、よく聞ケ! わしらは憎しみの化け物になっていたのジャ!

 そう聞いた妖精達の身体から突然、黒い煙が出始めた。

 一人一人の妖精達の身体から黒い煙が立ち、黒い煙が風になびき散っていく。

 今まで憎悪の赤に染まっていた妖精達の身体が美しく透き通るような白や緑や青に変わった。

 長老の赤黒い顎鬚も、白く綺麗な顎鬚に変わった。

「おお、良い気分ジャ。あなたのおかげで元に戻れたわイ。感謝しますゾ」

「……あの、元に戻したのは僕じゃなくて、チェイニーなんですけど……」

 長老は勇気に礼を言い、白、緑、青の妖精達も勇気に頭を下げた。

 

「よシ、じゃ、みんな、森に帰るんダ!」

「はい、了解ジャ」

 プーカが朗らかに言うと、長老と妖精達は森へ戻っていく。

 一方、勇気達の背後にいた二人の少女はぼんやりしていた。

「エルシーお姉ちゃん、あたし達、なんでこんなところにいるんだろ?」

「私にも分からないよ」

 エルシーとフランシスは今までの事を忘れたようだ。

 プーカが勇気達の傍にブーンと近づいてきた。

「憎む心が怪だったんダ。ありがとウ。キミ達のおかげで仲間が元の妖精に戻ったヨ」

 プーカはホッとして勇気、ディアーナ、チェイニーを見る。

 

「でも、どうして……」

 勇気は不思議な気持ちで両手のグローブを見た。

 ディアーナとチェイニーも、グローブを覗いている。

「それは、特殊能力を持つ人だけが嵌める事ができるのね」

「色は怪を象徴する漆黒。怪を倒した時に現れる煙と同じじゃな」

 

「みんな集まって!」

 村の広場で、エルシーがフランシスや子供達を集めていた。

「さあ、今から私が妖精のお話をしてあげるわよ!」

 エルシーはそう言って、妖精が描かれた絵を見せた。

 どうやら紙芝居のようだ。

「エルシーお姉ちゃん、妖精さんってほんとにいるのかな?」

「フランシス、そんなの決まっているでしょ。妖精は、きっといるわ!」

 その言葉を聞き、フランシスは笑顔になる。

 エルシーはそんな彼女を見て微笑み、紙芝居を始めた。

 

 勇気、ディアーナ、チェイニー、プーカは、少し離れた場所からその光景を見ていた。

「ほんとに、二人の記憶からはオイラ達の事は消えたんだナ……」

「可哀想に……」

「じゃが、それも宿命なのじゃよ」

 チェイニーは空を見てそう呟いた。

 

 プーカは勇気から、怪を倒した後、

 人々の中からその出来事の記憶が消える事を教えてもらっていた。

「やはり、伝説の通りだナ……」

「それって、どういう事? というか、何故、プーカ……プーカ達はリセットされないんだ?」

「妖精も怪だからネ」

「そーなのかー*1、キユウの嘘つき」

「でもさ、大体、なんで、みんなは僕のグローブを見て元に戻ったの?」

 プーカは、勇気の両手をまじまじと見つめていた。

「世の中には信じられなイ、こんな事があるんだヨ」

 プーカはそう言うと、着けていたポーチから何かを取り出した。

 それは、およそ小さなポーチには入り切らないような物体だ。

 

漆黒のレザーグローブ!!

 それは、あの漆黒のレザーグローブだった。

 勇気の嵌めているものとそっくりなグローブだが、一ヶ所だけ違っている。

 プーカがポーチから取り出したのは、星の羅針盤が付いたグローブだった。

「このグローブはオイラ達妖精が編んだものなんだヨ」

 勇気は目を丸くした。

 上の妖精(ハイエルフ)のディアーナは「そうね」と呟いた。

 

 そして、ディアーナ達は路地裏に帰って、今回の事をジャネットに報告した。

「以上が、今回の仕事の内容じゃ」

「報告ありがとうございます。……なるほど、あの三つのグローブは妖精が作ったものでしたか」

「そうなのよ。妖精(エルフ)ってさぁ、なんだかんだで不思議な存在なのよね! あたしみたいに!」

 ディアーナは胸を張ってジャネットにそう言った。

 ノノとアプリルが拍手して、チェイニーも「あっぱれ」と言う。

「ようやく、私が言った事が分かりましたか。私としても本当に嬉しいです。

 これからも仕事、よろしくお願いしますよ!」

「はい!(これって使い走り……?)」

(じゃろうな……)

*1
『東方紅魔郷』のルーミアのセリフ。




~次回予告~

妖精を正気に戻し、プーカを仲間にした勇気達は、無事に見捨里市に帰ってきた。
どうやら、太陽・月・星のグローブは妖精が作ったものらしい。
邪鬼は人間にも怪にも不倶戴天であり、倒すべき存在であると判明した。
一方、羽心は星のグローブを見て、勇気と共に戦いたいと思っていた。
前回は怪狩りに同行できなかった羽心だが、今度こそ同行できるだろうか。
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