勇気と羽心はプーカから、三つのグローブについて詳細に教わった。
プーカは妖精族の王子であり、王様のポーチという魔法の道具を持っていた。
妖精伝承によれば、勇気、キユウ、羽心の三人は、
異能を持ったとある人間の家族と関係があるらしく、
グローブを嵌める事ができるのもそれが理由であった。
そして羽心も自身の能力に気づき、勇気と共に戦いたいと思っていた。
そんな事を胸に、勇気と羽心は見捨里小学校に通うのだった。
翌日、学校が終わり、勇気と羽心は一緒に帰っていた。
「学校というのはなかなか面白いところだネ」
胸ポケットの中から、プーカが顔を出す。
プーカは学校に付いて来ていたのだ。
「プーカ、教室の中で飛んじゃ駄目よ」
「そうだよ。もうちょっとで原末先生に見つかりそうだっただろ。
見つかっていたら、大騒動になってたんだぞ」
「オイラは妖精族の王子だゾ。見つかるようなヘマをするわけないだロ」
プーカは全く悪びれる様子がなかった。
勇気はプーカに呆れる。
その時、羽心が前方を指差した。
「ねえ、あれ、原末先生じゃない?」
「えっ?」
勇気が前を見ると、横断歩道のところに原末先生が立っていた。
何故かソワソワしながら、信号が変わるのを待っているようだ。
「先生、何をしてるんですか?」
勇気達は気になって傍に駆け寄ると声をかけた。
「おお、真之に白鳥か」
「先生、もう帰るの?」
学校の先生はもう少し遅い時間に帰るものだと思っていた。
「そうじゃない。職員室でネットを見ていたら、この町のとんでもないニュースがあってな。
それでちょっと見に行ってみようと思ったんだよ」
「ニュース?」
「ああ、見捨山で『温泉』が湧き出たんだ」
「えええ?」
見捨山とは、見捨里市の外れにある小さな山だ。
しかし、温泉など今まで一度も湧き出た事はなかった。
「ねえ、勇気。温泉ってそんなに簡単に湧き出すものなの?」
「よく分からないけど、簡単じゃないと思うよ」
勇気は以前、テレビで温泉の掘り方を紹介する番組を見た事があった。
温泉の源泉は地下の奥深くにあり、掘り出すためには地面を何kmも掘らなければならない。
「あの、原末先生。その温泉って、どこかの会社が掘ったって事ですか?」
温泉を掘るためには大規模な工事が必要である。
だが、見捨山で温泉を掘っているなど聞いた事がなかった。
すると、原末先生が首を大きく横に振った。
「誰かが掘ったんじゃない。昼間、急に地面から湧き出たらしいんだ」
「急に?」
勇気が驚くと、プーカがポケットの中から喋った。
「怪しいねェ」
「プーカ、喋っちゃ駄目だって」
勇気は慌ててポケットの中のプーカを小声で注意する。
プーカはそんな勇気を見つめた。
「勇気クン、これは怪の仕業かもしれないゾ」
「えっ?」
驚く勇気の横で、羽心が小さく頷いた。
「私もそうかもって思った」
「羽心……?」
「温泉が急に湧き出す事はあり得ない事じゃないけど、見捨山も見捨里市の一部でしょ」
「あっ……」
この町では、邪鬼の作った罅のせいで怪現象が起きる。
「勇気、行ってみましょう」
「あ、ああ!」
勇気は戸惑いながらも、羽心と共に原末先生に付いて行く事にした。
「それで、この山に行くの?」
「温泉が湧いたらしいからのぅ。ここで休息するのも良いぞ」
見捨山で温泉が湧き出た事は、ディアーナとチェイニーも知っていた。
二人はそれを調査するために、見捨山に行こうとしていた。
ノノは空を飛べるのだが、二人は飛べないため、徒歩で向かった。
「あ~あ、ノノがついていけばよかったのにねぇ」
「文句を言うでない。ジャネットは儂を、勇気の力になるために呼んだのじゃ」
チェイニーは、勇気の騎士になるためにジャネットが呼んだのだ。
だが、地下は地上より危険だとジャネットは言っていた。
そんな場所に二人だけで勇気と同行するのは、自殺行為かもしれない。
しかも、キユウは消え、羽心もきっと勇気が同行を阻止するかもしれない。
こんな調子で怪狩りができるのか、ディアーナはちょっぴり不安になった。
だが、不安だからこそ、ディアーナはある事をしようとした。
「勇気に、後で何か言いましょう」
「皆さん、押さないで!」
見捨山に到着した勇気達は、峠道を上った。
すると、途中の少し開けた場所に、大勢の野次馬が集まっていた。
一角に数人の警察官が立っていて、それ以上先へは行かせないようにしている。
辺りからは、硫黄の臭いが僅かに漂っている。
どうやら、警察官達が立っている向こうに、湧き出た温泉があるようだ。
「う~ん、これじゃあ肝心の温泉が見えないなぁ」
原末先生は真面目な性格だが、意外とミーハーな一面もあるようだ。
「……原末先生、どうにかして温泉まで行けないですか?」
「真之、警察官がああやって立っているという事は、危ないからそうしているんだ。
これ以上は近づかない方がいい」
原末先生は、教師らしい答えを言った。
いつもは短気な性格をしているが、こういうところだけは尊敬できる。
「だけど、勇気。もう少し近くまで行かないと、怪現象かどうか分からないわよ?」
羽心が勇気に顔を近づけて小声で言う。
「それはそうだけど……」
勇気も同じ意見だが、原末先生がいる限り、これ以上は近づけそうにない。
「ふう~、人間というのはホント、情けないねェ」
「プーカ、出ちゃ駄目だって」
プーカが、勇気の胸ポケットから飛び出した。
勇気はプーカを捕まえると、慌てて原末先生から離れた。
「おい、何するんだヨ」
「それはこっちのセリフだよ!」
「せっかく、頼りないキミ達の代わりに、
オイラが怪現象かどうか調べてあげようと思ったのにサ」
「えっ?」
勇気が手を緩めると、プーカは再び宙に浮かんだ。
「プーカ、どうやって調べるっていうのよ?」
傍にやってきた羽心が首を傾げながら尋ねる。
すると、プーカは呆れ顔で溜息を漏らした。
「ふう~。キミ達、オイラの羽は何のためについていると思っているんだイ?
そう、空を飛ぶためだヨ。身体もキミ達より小さいし、頭もキミ達よりいイ。
つまり、オイラは誰にもバレずに温泉の近くまで行く事ができるんダ」
「確かに、そう言われればそうかもしれないわね……」
「頭がいいのは関係ないと思うけど……。
って言うか、飛んで行って万が一誰かにバレたらどうするんだよ?」
周りには大勢の人達がいる。
皆、スマホで写真や動画を撮っているのだ。
「おいおい、オイラを誰だと思っているんだイ。妖精族の王子だヨ。
見つからないように、ちゃ~んといい道具を持っているに決まっているだロ」
「道具?」
妖精族の王族に伝わる透明になれるマントとかだろうか?
「これさえあれば、絶対に誰にもバレないゾ!」
そう言って、プーカはポーチの中から、葉っぱで作った『傘』を取り出した。
「ええっと、それをどうやって使うの?」
「こうやって使うんだヨ」
プーカは、傘を開くと、前に向けて身体を隠した。
「ほら、これで葉っぱが浮いてるように見えるだロ」
確かに、空中に葉っぱで作った傘が浮いている。
だが、傘の下からは、しっかりとプーカの足が見えていた。
「あのねえ、プーカ、こんなものが浮いてたら余計目立っちゃうと思うよ」
「勇気クン、キミは分かってないねェ。
コティングリーの森では、これで一度も人間達に見つからなかったんだゾ」
「ええっと、それは多分……」
コティングリーの森は自然が多く残された森だ。
葉っぱで身を隠せば見つかりにくくなるだろう。
だが、今いる場所は舗装された山道で、葉っぱが浮いているとかなり目立つ。
「よし、キミ達はそこでお手玉でもして待っていてくレ」
「あっ、ちょっと!」
勇気は慌てて止めようとしたが、プーカは羽をパタパタと動かしながら、
警察官が立っている方へと飛んで行ってしまった。
「お手玉って何だよ~、見つかったらほんと大変な事になっちゃうんだぞ」
「その時は、人形型の小型ドローンですって言い張るしかないわね」
「あのねえ」
プーカもプーカだが、羽心も羽心だ。
しかし、こうなったらプーカに頼るしかなかった。
~次回予告~
見捨里市内で起こった異変は、大人達にも影響を及ぼしていた。
硫黄によって幻覚が見えてしまい、大人達にもありもしないものが見えていた。
このまま放っておけば、見捨里市は幻覚によって混乱し、あらゆるインフラが崩壊する。
勇気と羽心は、この異変の元凶を探しに行くのだった。