怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

勇気と羽心はプーカから、三つのグローブについて詳細に教わった。
プーカは妖精族の王子であり、王様のポーチという魔法の道具を持っていた。
妖精伝承によれば、勇気、キユウ、羽心の三人は、
異能を持ったとある人間の家族と関係があるらしく、
グローブを嵌める事ができるのもそれが理由であった。
そして羽心も自身の能力に気づき、勇気と共に戦いたいと思っていた。
そんな事を胸に、勇気と羽心は見捨里小学校に通うのだった。


2 - 温泉騒動

 翌日、学校が終わり、勇気と羽心は一緒に帰っていた。

「学校というのはなかなか面白いところだネ」

 胸ポケットの中から、プーカが顔を出す。

 プーカは学校に付いて来ていたのだ。

「プーカ、教室の中で飛んじゃ駄目よ」

「そうだよ。もうちょっとで原末先生に見つかりそうだっただろ。

 見つかっていたら、大騒動になってたんだぞ」

「オイラは妖精族の王子だゾ。見つかるようなヘマをするわけないだロ」

 プーカは全く悪びれる様子がなかった。

 勇気はプーカに呆れる。

 その時、羽心が前方を指差した。

「ねえ、あれ、原末先生じゃない?」

「えっ?」

 勇気が前を見ると、横断歩道のところに原末先生が立っていた。

 何故かソワソワしながら、信号が変わるのを待っているようだ。

「先生、何をしてるんですか?」

 勇気達は気になって傍に駆け寄ると声をかけた。

「おお、真之に白鳥か」

「先生、もう帰るの?」

 学校の先生はもう少し遅い時間に帰るものだと思っていた。

「そうじゃない。職員室でネットを見ていたら、この町のとんでもないニュースがあってな。

 それでちょっと見に行ってみようと思ったんだよ」

「ニュース?」

「ああ、見捨山で『温泉』が湧き出たんだ」

「えええ?」

 見捨山とは、見捨里市の外れにある小さな山だ。

 しかし、温泉など今まで一度も湧き出た事はなかった。

「ねえ、勇気。温泉ってそんなに簡単に湧き出すものなの?」

「よく分からないけど、簡単じゃないと思うよ」

 勇気は以前、テレビで温泉の掘り方を紹介する番組を見た事があった。

 温泉の源泉は地下の奥深くにあり、掘り出すためには地面を何kmも掘らなければならない。

「あの、原末先生。その温泉って、どこかの会社が掘ったって事ですか?」

 温泉を掘るためには大規模な工事が必要である。

 だが、見捨山で温泉を掘っているなど聞いた事がなかった。

 すると、原末先生が首を大きく横に振った。

「誰かが掘ったんじゃない。昼間、急に地面から湧き出たらしいんだ」

「急に?」

 勇気が驚くと、プーカがポケットの中から喋った。

「怪しいねェ」

プーカ、喋っちゃ駄目だって

 勇気は慌ててポケットの中のプーカを小声で注意する。

 プーカはそんな勇気を見つめた。

「勇気クン、これは怪の仕業かもしれないゾ」

「えっ?」

 驚く勇気の横で、羽心が小さく頷いた。

「私もそうかもって思った」

「羽心……?」

「温泉が急に湧き出す事はあり得ない事じゃないけど、見捨山も見捨里市の一部でしょ」

「あっ……」

 この町では、邪鬼の作った罅のせいで怪現象が起きる。

「勇気、行ってみましょう」

「あ、ああ!」

 勇気は戸惑いながらも、羽心と共に原末先生に付いて行く事にした。

 

「それで、この山に行くの?」

「温泉が湧いたらしいからのぅ。ここで休息するのも良いぞ」

 見捨山で温泉が湧き出た事は、ディアーナとチェイニーも知っていた。

 二人はそれを調査するために、見捨山に行こうとしていた。

 ノノは空を飛べるのだが、二人は飛べないため、徒歩で向かった。

「あ~あ、ノノがついていけばよかったのにねぇ」

「文句を言うでない。ジャネットは儂を、勇気の力になるために呼んだのじゃ」

 チェイニーは、勇気の騎士になるためにジャネットが呼んだのだ。

 だが、地下は地上より危険だとジャネットは言っていた。

 そんな場所に二人だけで勇気と同行するのは、自殺行為かもしれない。

 しかも、キユウは消え、羽心もきっと勇気が同行を阻止するかもしれない。

 こんな調子で怪狩りができるのか、ディアーナはちょっぴり不安になった。

 だが、不安だからこそ、ディアーナはある事をしようとした。

 

「勇気に、後で何か言いましょう」

 

「皆さん、押さないで!」

 見捨山に到着した勇気達は、峠道を上った。

 すると、途中の少し開けた場所に、大勢の野次馬が集まっていた。

 一角に数人の警察官が立っていて、それ以上先へは行かせないようにしている。

 辺りからは、硫黄の臭いが僅かに漂っている。

 どうやら、警察官達が立っている向こうに、湧き出た温泉があるようだ。

「う~ん、これじゃあ肝心の温泉が見えないなぁ」

 原末先生は真面目な性格だが、意外とミーハーな一面もあるようだ。

「……原末先生、どうにかして温泉まで行けないですか?」

「真之、警察官がああやって立っているという事は、危ないからそうしているんだ。

 これ以上は近づかない方がいい」

 原末先生は、教師らしい答えを言った。

 いつもは短気な性格をしているが、こういうところだけは尊敬できる。

だけど、勇気。もう少し近くまで行かないと、怪現象かどうか分からないわよ?

 羽心が勇気に顔を近づけて小声で言う。

「それはそうだけど……」

 勇気も同じ意見だが、原末先生がいる限り、これ以上は近づけそうにない。

「ふう~、人間というのはホント、情けないねェ」

「プーカ、出ちゃ駄目だって」

 プーカが、勇気の胸ポケットから飛び出した。

 勇気はプーカを捕まえると、慌てて原末先生から離れた。

「おい、何するんだヨ」

「それはこっちのセリフだよ!」

「せっかく、頼りないキミ達の代わりに、

 オイラが怪現象かどうか調べてあげようと思ったのにサ」

「えっ?」

 勇気が手を緩めると、プーカは再び宙に浮かんだ。

「プーカ、どうやって調べるっていうのよ?」

 傍にやってきた羽心が首を傾げながら尋ねる。

 すると、プーカは呆れ顔で溜息を漏らした。

「ふう~。キミ達、オイラの羽は何のためについていると思っているんだイ?

 そう、空を飛ぶためだヨ。身体もキミ達より小さいし、頭もキミ達よりいイ。

 つまり、オイラは誰にもバレずに温泉の近くまで行く事ができるんダ」

「確かに、そう言われればそうかもしれないわね……」

「頭がいいのは関係ないと思うけど……。

 って言うか、飛んで行って万が一誰かにバレたらどうするんだよ?」

 周りには大勢の人達がいる。

 皆、スマホで写真や動画を撮っているのだ。

「おいおい、オイラを誰だと思っているんだイ。妖精族の王子だヨ。

 見つからないように、ちゃ~んといい道具を持っているに決まっているだロ」

「道具?」

 妖精族の王族に伝わる透明になれるマントとかだろうか?

「これさえあれば、絶対に誰にもバレないゾ!」

 そう言って、プーカはポーチの中から、葉っぱで作った『傘』を取り出した。

「ええっと、それをどうやって使うの?」

「こうやって使うんだヨ」

 プーカは、傘を開くと、前に向けて身体を隠した。

「ほら、これで葉っぱが浮いてるように見えるだロ」

 確かに、空中に葉っぱで作った傘が浮いている。

 だが、傘の下からは、しっかりとプーカの足が見えていた。

「あのねえ、プーカ、こんなものが浮いてたら余計目立っちゃうと思うよ」

「勇気クン、キミは分かってないねェ。

 コティングリーの森では、これで一度も人間達に見つからなかったんだゾ」

「ええっと、それは多分……」

 コティングリーの森は自然が多く残された森だ。

 葉っぱで身を隠せば見つかりにくくなるだろう。

 だが、今いる場所は舗装された山道で、葉っぱが浮いているとかなり目立つ。

「よし、キミ達はそこでお手玉でもして待っていてくレ」

「あっ、ちょっと!」

 勇気は慌てて止めようとしたが、プーカは羽をパタパタと動かしながら、

 警察官が立っている方へと飛んで行ってしまった。

 

「お手玉って何だよ~、見つかったらほんと大変な事になっちゃうんだぞ」

「その時は、人形型の小型ドローンですって言い張るしかないわね」

「あのねえ」

 プーカもプーカだが、羽心も羽心だ。

 しかし、こうなったらプーカに頼るしかなかった。




~次回予告~

見捨里市内で起こった異変は、大人達にも影響を及ぼしていた。
硫黄によって幻覚が見えてしまい、大人達にもありもしないものが見えていた。
このまま放っておけば、見捨里市は幻覚によって混乱し、あらゆるインフラが崩壊する。
勇気と羽心は、この異変の元凶を探しに行くのだった。
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