勇気とディアーナが書斎で出会ったのは、赤い髪をした謎の少年だった。
謎の少年はこの世界に異変を起こしている『怪』――常識では考えられない存在について教えた。
怪物、怪人、怪奇現象という言葉を聞いて、勇気は怯える。
そして、勇気は謎の少年に導かれ、ディアーナと共に時のトンネルを潜るのだった。
「わああああああ!!」
勇気は、光のトンネルを手足をばたつかせながら飛んでいた。
ディアーナは目を閉じて、トンネルの中を移動する。
勇気はスカイダイビングをやった事がないが、もしやったら、こんな感じかもしれない。
勇気は混乱しながらも、そんな事を考える。
「うわあ! わああ! わあああぁぁ!」
やがて、光のトンネルの奥に、松明の炎が見えてきた。
勇気は勢いよく地面に倒れ、ディアーナは乱れたスカートの裾を直す。
しばらくすると、ディアーナの髪が淡く光った。
「いたたた……」
「……洞窟?」
ピチャン、ピチャンと音がする。
地面はヒンヤリとしてゴツゴツしていた。
勇気は起き上がりながら、ディアーナと共に自分がどこにいるのか確認した。
そこは、薄暗い洞窟の中だった。
岩肌に松明が取り付けられていて、炎が揺らめいている。
「休憩している暇はないよ」
いつの間にか、少年が横に立っていた。
「ここはどこ?」
勇気は周りを見る。
鎧に身を包み剣を手にした石像が、いくつも転がっていた。
その顔は皆、何故か恐怖に慄いている。
「さっきの男の仲間だよ。怪に襲われたんだ。
宝目当てに、盗賊が次から次へとこの洞窟にやってくるからね」
「それって、人間って事?」
「ああ、今はもうただの石だけどね」
「こいつらもメデューサの被害を受けたのね」
彼らの服装は、映画や歴史図鑑で見た事がある。
「もしかして、ここは……昔のギリシャ?」
「もしかしなくても、その通りだよ。
君達は、時と場所を超える『時のトンネル』を通ってきたんだ」
「そんなのあり得ないよ!」
「へぇ、あの子が使う技と同じね」
その時、ディアーナの足元でパリンと音がした。
ディアーナが見ると、石になった盗賊達の傍に、割れた鏡がいくつも落ちていた。
それを拾って調べてみると、この鏡は誰かが割った事に気づいた。
「鏡が割れている……一体、誰が割ったのかしら?」
すると突然、不気味な音が響いた。
「隠れるんだ!」
少年に言われ、勇気は訳も分からず、慌てて物陰に隠れた。
しかしディアーナは遅れてしまい、視線を一瞬だけ見て重圧を受ける。
「……っつー。しまったわ」
不気味な音を出しながら、誰かが近づいてくる。
松明の炎が、その姿をうっすらと映した。
ボロボロの布を纏った女だ。
女の頭には、髪の代わりに、無数の蛇が蠢いていた。
無数の蛇の尾や舌が細かく震えて音が出ている。
不気味で悍ましい声の下に、眼光鋭い恐ろしい女の顔がある。
身体は巨大な蛇そのもので、女はその蛇の身体をくねくねと動かしながら、地面を進んでいた。
それを見て、勇気は悲鳴をあげそうになる。
そんな勇気に、少年は「しー!」と注意した。
「あれが、怪のメデューサね」
「メデューサ!? 本物のメデューサ!? 生き物を石にしてしまうギリシャ神話の怪物の!?」
「そうだ。あの気味の悪い女と目が合うと、石になってしまうんだ」
「ジャネットは言っていた……石化事件を解決しなさいと」
「……ジャネット?」
ディアーナは右腕を挙げながら、そう言った。
その時、メデューサが石になった盗賊達の前で止まった。
一つだけ、割れていない鏡が落ちていた。
次の瞬間、メデューサは地獄から響くような叫び声を上げ、蛇の身体で鏡を粉々に砕いた。
やがて、メデューサは洞窟の奥へと消えていった。
「鏡が割れた?」
重圧が解けたディアーナは、メデューサが見えなくなったのを確認する。
「鏡にメデューサの顔を映せば、それを見たメデューサは
自分の力によって石になってしまう、とジャネットは言ってたわ。だけど」
ディアーナは割れた鏡の傍に立った。
「ご覧の通り、弱点に気づいてしまったらしいわ。もう鏡は通じないわよ」
「だから、そのカメラが必要になったんだよ」
少年は、勇気の持つインスタントカメラを見た。
「カメラでメデューサの顔を撮るんだ。
その写真をメデューサに見せれば、石にして倒す事ができる」
「……あたしは?」
「メデューサを弱らせてくれ」
「分かったわ」
この時代にカメラはないだろうから、メデューサにも気づかれないかもしれない。
勇気は納得しながらも、ふと疑問を抱いた。
「だけどそれなら、君がカメラを持ってくればよかったんじゃないの?」
それを聞くと少年はフッと笑って、勇気の持つカメラを掴もうとした。
しかし、その手はカメラをすり抜けた。
「へっ?」
「僕は霊体だって言っただろ」
少年は、ふわりと宙に浮いた。
「僕も、怪の一つなんだよ」
「えええ?」
「安心して。別に襲ったりはしないよ。怪の全てが悪い存在というわけじゃないからね」
「それは妖精も同じよ」
少年は、勇気に向かって飛んできた。
「や、やめて!」
勇気はとっさに身構えるが、少年は勇気の身体をすり抜けてしまった。
「ご覧の通りさ」
「ご覧の通りって……」
二人が話していると、洞窟の奥から不気味な音が響いてきた。
「こうしちゃいられないわ!」
ディアーナは遠くからメデューサ目掛けて風の刃を放ったが、
攻撃はギリギリでかわされてしまう。
「当たらなかったわね……行くわよ」
少年、勇気、ディアーナは洞窟の奥へ走った。
「ああっ!」
洞窟の奥に、メデューサがいる。
メデューサの前に、×印状の罅が浮かんでいた。
蛇が一層大きな音を立て、メデューサが一層大きな声で叫ぶ。
その度に、×印状の罅が大きくなっていった。
「……何よこれ」
「勇気の町で、かなりの小動物が石にされたせいだね」
「石にされた小動物の数が増えると、罅が大きくなるのね」
「ああ。このままじゃ、メデューサそのものが、
あそこを通って勇気の住む世界に行けるようになってしまう」
「じゃ、早く止めないと!」
勇気はカメラを少年に渡そうと突き出した。
「エルフはメデューサを弱らせてくれ。
そして勇気は、気づかれないように回り込んで、正面から写真を撮るんだ」
「分かったわ。でも、カメラはなんで勇気が持つの?」
「さっき説明しただろう。僕はシャッターボタンを押せない」
「だけど、目が合うと石になっちゃうんだよね!」
「気づかれないようにって言ったじゃないか。さあ、頑張って!」
今ここでカメラを持つ事ができるのは、勇気しかいない。
戦えるのも、ディアーナしかいない。
弱音を吐いても、誰も代わってくれない。
(ここまで来たら、やるしかない、よね……)
勇気は歯を食いしばると、真っ直ぐ前を向いた。
「いくわよ!」
「ああもー!」
勇気とディアーナは、メデューサの下へ向かった。
「かぜのせいれいよ、みえざるしょうげきを! Wind Blast」
ディアーナは竜巻を起こし、メデューサを巻き込んでダメージを与えた。
その隙に、勇気は身を屈めて距離を詰め、カメラのシャッターボタンを押した。
フラッシュが光り、メデューサが声を上げる。
「やった! 僕やったよ!」
勇気は少年の元へ駆け寄り、急いでカメラから写真を取り出そうとした。
突然、カメラから鈍い音がした。
見ると、写真が途中で引っかかってしまっている。
カメラが古いせいだ。
「もー、こんな時に!」
「ちょっと、勇気!」
勇気が写真を引っ張ると、勢い余ってカメラを放り投げてしまった。
カメラが岩にぶつかり、無残に割れ、写真も破れてしまった。
「勇気、流石に笑えないよ」
「分かってるよ!」
「……あっ」
少年はメデューサの方を見て、声を漏らした。
「あれも流石に笑えないね」
「分かってるってば!」
勇気はメデューサが襲ってくると思い、慌てて目を瞑った。
「そうじゃない、見てみろ」
「えっ?」
少年に促され、勇気は、視線を合わせないように恐る恐るメデューサの方を見た。
すると、メデューサの姿が消えていた。
「どこに行ったのよ」
「逃げたよ。いや、新しい獲物を狙いに行ったというのが正解かな」
「新しい獲物?」
「まさか」
勇気とディアーナは、空中に浮かぶ×印状の罅を見た。
「メデューサが罅の中に入ったわ。まずいわね」
このままでは、ディアーナの言う通り、町の人々が石にされてしまう。
「仕方がない。このまま僕達も行くよ」
少年は、罅へ向かって宙を滑るように移動する。
「行くって、あの罅に入るつもり?」
「ああ」
「あの大きさなら入れるわ」
少年とディアーナはそう言うと、罅の中に飛び込んだ。
「ちょ、ちょっと!」
勇気も無我夢中で罅に飛び込んだ。
~次回予告~
メデューサは×印の罅を通り、見捨里市に向かっていった。
このままでは、見捨里市の生物が全て石化してしまう。
その中には、もちろん、羽心も含まれていた。
勇気達はメデューサを倒し、見捨里市を守る事ができるのだろうか。