温泉が湧き出る見捨山を調査していたプーカは、山の中に邪鬼が作った×印状の罅を発見する。
やはり、これは邪鬼によって起きた異変だったのだ。
勇気達は大急ぎで書斎に戻り、怪を狩る準備をするのだが、
その道中で、羽心はプーカにある「お願い」をした。
それは、羽心にとって、非常に重要な事であった。
家へ帰ってきた勇気と、ディアーナ、チェイニーは、書斎に駆け込んだ。
勇気は太陽と月のグローブを両手に嵌めると、壁に近づき、時のトンネルを開こうとした。
すると、羽心が部屋に駆け込んできた。
「ちょっと待って!」
「羽心。だから君は――」
「私も行くわ! 私もこの町を守りたいの。
この部屋で勇気の事を待っているだけなのはもう嫌なの!」
羽心は勇気をじっと見ている。
「だけど……」
勇気は、羽心を危険な目には遭わせたくない。
何より、二人は少しずつ仲の良さが戻ってきていたが、それでもぎこちなさは残っていた。
「どうして、あの子を連れて行きたくないの?」
「だって、羽心はキユウじゃないから、足手まといになるかもしれないんだよ!
確かに羽心は怪奇現象に詳しいけど、キユウの方が……」
「キユウキユウと、五月蠅いわね。
いい加減にしなさい! あの子の代わりになれるのは、羽心しかいないのよ!」
「羽心は、キユウの代わりになんかなれないよ!」
勇気とディアーナは言い争っている。
羽心とプーカはその様子を見て、少し呆れていた。
「
勇気は壁に向かって手をかざして、呪文を唱えようとした。
だが、羽心が駆け寄り、後ろから勇気の肩を掴んだ。
「待って!」
「羽心は連れて行かないってば! ここで待ってて!」
「そうじゃなくて、今回の怪現象をどんな怪が起こしたのか分かってるの?」
「え?」
「そう言われれば、そうじゃな」
勇気はその事をすっかり忘れていた。
怪現象を起こした怪が分からなければ、時空を超える事はできない。
「ええっと、今回の怪は……」
硫黄のような臭いによって、今見ている人が別人の姿に見える怪現象を起こす怪。
そんなものは全く分からなかった。
「くっ、ボォーッとして夢を見たら分かるかもしれないのに」
「えっ、そうなの?」
「じゃあ、今すぐボォーッとしなさいよ!」
「今から?」
「早くしないと大変な事になっちゃうでしょ!」
放っておいたら、町中がパニックになってしまう。
「わ、分かったよ。ええい、こうなったら――!」
勇気は夢を見るために、ボォーッとしてみる事にした。
「ボォーッ~」
口を開け、全身の力を抜く。
「ボォーッ~、ボォーッ~」
さらに脱力する。
だが、意識すればするほど逆にボォーッとなどする事ができなかった。
「ううう、やっぱり無理だよ!」
「当然じゃろう。意識して無意識になる事など、不可能じゃからな。
儂も予知ができれば、勇気の力になれたのじゃが……」
チェイニーの言う通りだ。
彼は予知能力を持っていたようだが、今は力をほとんど使えないようだ。
このままでは、怪の手がかりを得る事ができない。
「どうしよう……」
勇気は頭を抱えてしまった。
そんな勇気と羽心の前を、プーカが飛んでいる。
「情けないねェ。キミ達、どんな怪なのか分からないのかイ?」
「ああ、だから困ってるんだろ」
勇気の言葉に、プーカはにやりと笑った。
「オイラはねぇ、今回の怪現象が、どんな怪が起こしたものなのか分かるヨ」
「えっ?」
「プーカ、ホントに分かるの?」
「ああ、オイラは妖精族の中で一番怪に詳しいからネ」
「ふーん。で、どんな怪なの?」
「――これは恐らく『地底人』の仕業ダ」
「知ってるわ。それって、地底に住んでるあの地底人って事よね?」
「ああ、あいつらは人を捕まえては食べる凶暴な奴らダ」
「人を食べる? そんなのって!」
勇気は思わずゾッとして、プーカからさらに話を聞こうとした。
一方、羽心は何を思ったか、部屋を見回した。
そして、傍にあったリュックを手に取ると、部屋に置かれていた物を次々に入れていった。
「羽心、何してるんだよ?」
「さぁ、行くわよ!」
「行くって?」
「さっきも言ったでしょ。私も怪狩りに行くわ!」
羽心は隠し持っていた靴を見せた。
「だから、羽心は連れて行かないってば! そもそもグローブは渡すつもりはないから!」
グローブを装備するか、異次元の旅人でなければ、時のトンネルを潜る事はできない。
勇気は、グローブを守るかのように両手を後ろに隠した。
「そんな事しなくても、それは奪わないわよ」
羽心は微笑むと、ポケットの中からある物を出した。
それは、星のグローブだ。
「どうしてそれを?」
星のグローブは、プーカが王様のポーチにしまっていたはずだ。
勇気はプーカの方を見た。
「いやぁ、羽心チャンに貸してくれって頼まれてね」
「貸しちゃ駄目だよ!」
「どうして?」
「だって、羽心を巻き込みたくないんだもん!」
「勇気クン、彼女にも手伝ってもらった方がいいゾ。
キミは少しは勇気があるみたいだけど、今いち頼りないからねェ」
「頼りないって……」
「何よりも羽心はやる気満々だもの。やっと一緒に戦えるんだもの!
そうじゃなかったら、羽心は勇気のところに来ないわよ!」
そんな事ない、と勇気は言おうとしたが、
前回、キユウがいない状態で怪狩りを行い、散々な目に遭った。
それを思い出すと、否定する事ができなくなってしまう。
「勇気、これはあなただけの問題じゃないの。
私にも特殊能力がある、って邪鬼が赤文字で言っていたわ。
それはつまり、私にもこの町を守る使命があるって事よ」
「どんな能力なのかは分からないけど、役に立つ事は確かだと思うから!」
「それに……直接ではないとはいえ、私はキユウさんを消してしまった。
だから、私……ディアーナさんが言ってたみたいに、キユウさんの代わりになりたいから」
「それは……」
羽心はどうしても、キユウを消した責任を取りたいようだ。
ディアーナとチェイニーが許したとはいえ、それでもまだ心残りがあるようだ。
女性二人の迫力に、勇気は言葉が詰まる。
「ここまで来たら連れて行くしかないと思うネ」
プーカはそう言いながら、勇気の傍に飛んできた。
「まあ、安心しロ。オイラも付いて行ってあげるかラ」
「お主の幼馴染がこれだけ真剣に頼んだのじゃ。断る理由など、存在せぬ」
「プーカ、チェイニー……」
「ちなみに、王様のポーチはグローブと同じ素材だから、
オイラはグローブがなくても時のトンネルを潜れるヨ。じゃあ、よろしク」
プーカはそう言うと、勇気の胸ポケットに入った。
「仕方ない……」
羽心の決意は、本気だった。
こうなったら、同行させる以外に選択肢はない。
「僕から離れちゃ駄目だからな!」
「分かってるわよっ!」
勇気は諦めると、壁に近づき、左手をかざして呪文を唱える事にした。
「
次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。
「行くよ!」
勇気、ディアーナ、チェイニーは、光の渦の中に飛び込む。
「よおし、私も……」
羽心は星のグローブを嵌めようとした。
だが、意気込みとは裏腹に、手が震え、なかなかグローブを嵌める事ができなかった。
相手は凶暴な地底人だ。
正直、行くのは怖い。
だけど。
「ああもー!」
羽心は震える手の甲をもう一方の手で叩いた。
「私だって、できるんだから!」
そう言うと、羽心は星のグローブを嵌めた。
次の瞬間、勇気を振り絞って、渦の中に飛び込んだ。
「きゃああああああ!」
羽心は、光のトンネルを足をばたつかせながら飛んでいた。
目が回り、頭が回る。
スカイダイビングなんてやった事はないが、もしやったらこんな感じかもしれない。
羽心は混乱しながらも、そんな事を考える。
「きゃああ! 何なのよ~!!」
やがて、光のトンネルの奥に、岩場が見えてきた。
羽心は勢いよく地面に尻もちをついた。
「あいたた……」
そんな羽心の傍に、勇気、ディアーナ、チェイニーがやって来た。
「最初はやっぱりそうなるわよね」
「なんか、スカイダイビングをやったみたいだったんだけど」
「ああ。僕も最初はそう思った。まあそのうち慣れるよ」
勇気が先輩風を吹かす。
羽心はそんな勇気に少しイラっとしたが、それよりも周りの景色が気になった。
「ここは、どこなの……?」
周りは岩だらけだ。
四人は、どこかの岩場の一角にいるようだ。
すると、勇気の胸ポケットから顔を出していたプーカが答えた。
「ここは、数万年前のとある山の中だネ」
「数万年前? えええ!!」
~次回予告~
ついに、羽心は勇気と共に戦う事になった。
だが、初めての本格的な戦いに、怪奇現象に詳しい羽心も困惑する。
それでも、勇気の力になるために、羽心は星のグローブを装備し、
ディアーナ、チェイニー、プーカと共に時を超えるのだった。
次の目的地は地底国、果たして勇気達は怪を倒す事はできるのだろうか。