星のグローブを装備した羽心は、ついに勇気と共に戦う事を決意した。
危険な戦いに羽心を巻き込みたくないと思った勇気だったが、
羽心の決意は止められず、渋々ながら彼女を連れていく事になった。
今回、勇気達が向かった場所は、数万年前の世界。
そこは何もかもが原始的で、何もかもが新しい世界だった。
勇気は今まで色んな時代に行ったが、数万年も前の時代に来たのは初めてだった。
「地底人はそんな昔からいたの?」
「あア。人間がまだ文明すら築いていない時から、あいつらは存在していたんダ」
プーカは勇気の胸ポケットから飛び出すと、前方を見つめた。
「恐らく、地底人はあの奥にいル」
「えっ?」
勇気達が顔を向けると、そこには洞窟があった。
「あいつらは真夜中になると、あそこから時々地上に出て来るんだヨ」
「地上に? 一体どうして?」
「人間を捕まえるためダ。人間を食べるって言っただロ」
それを聞き、勇気、羽心、ディアーナ、チェイニーの表情が一気に強張る。
プーカは怯える四人をよそに、宙に浮きながら鼻をヒクヒクさせた。
「うン。今のところ臭いはないみたいだナ」
「プーカ、何してるのよ?」
「あア、硫黄の臭いをチェックしてるんダ。
あいつらはあの臭いで、ターゲットとなった人間に、
自分達の姿を『好きな相手』や『憧れの相手』のように思わせるんダ。
そして油断したターゲットを、自分達の棲み処に連れて行くんだヨ」
「それって……」
見捨山で目撃した光景だ。
原末先生達は、周りの人々が好きな人や憧れている人に見えてしまい、混乱してしまったのだ。
「やはり、あれは幻覚だったってのか」
「じゃあ、もし見捨里市に地底人が現れたら……」
×印状の罅が広がり、地底人が見捨里市に来るようになったら、
怪の力によって町中の人々が幻覚を見て地底人が襲ってきても逃げる事も身を護ったりもせず、
アイドルや俳優だと思って近づいて、全員捕まってしまうだろう。
「「そんな事、絶対にさせないわ!」」
「僕だって、そんな事はさせない!」
「儂も仕事じゃからな、手は抜かん!」
羽心とディアーナは声を上げ、勇気とチェイニーも力強く言う。
「行こう。洞窟の奥へ!」
勇気、羽心、ディアーナ、チェイニーは覚悟を決めると、
地底人を倒すために、洞窟の中に入って行った。
洞窟の中は、暗くジメジメしていた。
地面も壁も石や岩がむき出しになっていて、慎重に歩かないと転んでしまいそうだ。
先頭を歩く勇気は、懐中電灯を持っていた。
先ほど書斎で羽心がリュックに詰め込んだ物の中に、懐中電灯があったのだ。
羽心は他にも色々な物をリュックに入れているらしいが、
どんな物があるのかは教えてくれなかった。
勇気はそんな羽心に戸惑いながらも、懐中電灯で洞窟を照らしながら奥へ進んで行った。
ちなみに、ディアーナには暗視があるので問題はない。
「洞窟に入って随分経つけど、まだ着かないの?」
後ろを歩く羽心が、勇気の胸ポケットの中にいるプーカに尋ねた。
下っているのか上っているのかよく分からない。
だんだん不安になってきたようだ。
「どれぐらい歩くのかは、流石のオイラにも分からないネ。
だけど、あいつらはもっともっと奥にいるはずダ」
「どうしてそんな奥に?」
洞窟の奥で暮らしていたら人間を捕まえに行く時に不便なのではと、勇気は思った。
「決まっているだロ。あいつらは、地上の世界とは別の『地底の王国』に住んでいるんだヨ」
「地底の王国?」
「キミ達は『地球空洞説』っていうのは知ってるかイ?」
「え? 何それ?」
「確か、世界の不思議の本に載ってたわねえ……」
羽心は、以前本で読んだ事があった。
~地球空洞説~
地球空洞説とは、地球の内部が空洞になっていて、
そこにもう一つの世界が広がっているというものである。
そこには、地球の表面に住む我々の世界と同じように、
植物が生い茂り、動物が暮らしているのだという。
さらには、文明が築かれていて、
人間のような存在がその世界を支配しているとも言われている。
19世紀から20世紀にかけて、
アジアのどこかに『アガルタ』という地下都市が存在するという噂が広がった。
また、イギリスの作家、ジェームズ・ヒルトンは、小説の中で、
アガルタと同じように地下にある『シャングリラ』という王国を紹介し、
これも本当にあるのではと噂されるようになった。
一説には、地上のどこかに、地底の王国へと繋がる入り口があると言われている。
「確か、ハレー彗星を発見したエドモンド・ハレーも、地球空洞説を発表した事があったはずよ」
「そう、アンダーダークと同じなのね」
「だけど、地底人はほんとにそんな地底の王国に住んでるの?」
勇気が尋ねると、プーカは大きく頷いた。
「ああ、地下に町があるらしイ。
もっとも、キミ達のような高度な文明を築いているわけではないけどネ。
どちらかというとオイラ達妖精族のような素朴な文明に近いかナ。
まあ、せいぜい捕まって食べられないようにする事だネ」
その言葉に、勇気、羽心、ディアーナは改めて地底人に恐怖を感じた。
チェイニーも油断は決してしないと心構えをする。
「と、とにかく進もう」
「え、ええ……」
四人は気を引き締め直すと、洞窟をさらに進んで行った。
「えっ?」
長い坂を下りた瞬間、前方にぼんやりとした光が広がっているのが見えた。
「あれは何だ?」
「光、よね……?」
勇気と羽心が食い入るように見つめると、プーカが胸のポケットから飛び出した。
「どうやら着いたようだネ。恐らく、あそこが地底の王国ダ」
「あそこが……」
勇気、ディアーナ、チェイニーは緊張が高まる。
そんな中、羽心は背負っていたリュックを降ろし、何かを取り出した。
「ようやく出番のようね……」
そう言って、羽心はリュックから『ヘッドライト』を取り出した。
「羽心、それって書斎にあった?」
「ええ、地底人と戦うために持ってきたの」
「戦うために? あああ!」
そう言えば、怪の弱点が何なのか全く考えていなかった。
「どうしよう! 弱点が分からないと倒す事ができないよ?」
勇気が焦ると、羽心がリュックを突き出した。
「そのためにこれを持ってきたのよ」
リュックの中には、書斎にあったペンライトや、
スイッチを押すと全身がピカピカと光るロボットなどが入っていた。
「プーカから怪の正体が地底人って聞いた時、武器が必要だと思ったの。
地底人っていうぐらいだから、地底に住んでるでしょ。だったら『光』に弱いと思ったのよ」
「確かにそうかも……」
「おお、羽心チャン、鋭いネ。あいつらの弱点は光だ。
洞窟から出てくるのも暗くなった真夜中だけだからネ」
(ま、あたしは光魔法、ちょっと使えるんだけどね)
どうやら、羽心は勇気に言われなくても怪の弱点である武器を用意していたようだ。
「だけど、いくら光るからってロボットのオモチャは役に立たないと思うよ」
「そ、それは、転ばぬ先の杖よ。世の中、何が起きるか分からないでしょ」
「はあ……」
勇気は自分が持っている懐中電灯を見る。
これも羽心が事前に用意した物だ。
もし懐中電灯がなかったら、真っ暗な洞窟を進まなければならず、
途中で転んで怪我をしていたところだろう。
勇気は羽心の機転に感心すると同時に、自分の事を情けなく思う。
だがその時、羽心を見てある事に気づいた。
羽心の手が震えていたのだ。
たとえ武器を用意したとしても、相手は凶暴な怪だ。
強がってはいるが、恐怖を感じているのだろう。
勇気も最初の怪狩りではただただ怯えていた。
相手はメデューサだった。
あの時は訳も分からず夢中で戦ったが、思い出すたびに今でも震える。
羽心がここまで付いて来ただけでも十分勇気のある行動だったのだ。
「羽心、後は僕に任せて」
勇気は優しい表情でそう言った。
すると、羽心は首を横に振った。
「大丈夫。私だってできるんだから」
「だけど……」
羽心が無理をしている事が、勇気には手に取るように分かる。
しかしここで言い争っている場合ではない。
恐らく、羽心はちゃんと覚悟を決めてここにいるのだ。
「分かった……」
勇気は静かにそう言うと、坂を下りる事にした。
「羽心、震えてるの? 武者震い?」
「儂らは、人間の気持ちなど理解できぬな……」
「どうしたの、二人とも? 早く行くよ?」
「はーい!」
ディアーナとチェイニーはしばらくの間、止まっていたが、勇気に言われて歩き出した。
「ここが、地底の王国……」
四人が坂を下りると、広い空間に出た。
そこには、文字通り町があった。
岩で作られた四角い建物がいくつも見える。
ビルのような大きな建物はなく、どれも小屋のような小さな建物ばかりだ。
壁には光蘚が生えていて、それがこの空間をぼんやりと照らしていた。
小屋以外の構造物はないようで、地面も岩がゴツゴツとしている。
プーカの言う通り、人間のような高度な文明を築いているわけではなさそうだ。
「地底人は
勇気達は目を凝らして、辺りを見た。
しかし、地底人の姿はどこにもない。
勇気、羽心、ディアーナ、チェイニーは、恐る恐る傍にある建物に近付いた。
建物には窓らしい四角い穴があり、中を覗けるようになっている。
勇気達はそれぞれ懐中電灯とヘッドライトを照らし、中を覗き込んだ。
小屋の中には部屋が一つしかない。
勇気と羽心は隅々まで光を当てるが、地底人の姿はない。
「どうなってるんだ……?」
勇気達は他の建物の中も確認してみるが、どこも同じだった。
人間ほどではないにせよ、文明を築いているのだ。
それにも関わらず、まるでこの町は廃墟のようになっていた。
「ここには、地底人は住んでいないんじゃないの?」
「ああ。どうもそうみたいだな」
勇気、羽心、ディアーナ、チェイニーは、
どうなっているのかプーカに尋ねようとした。
すると、建物の角から声が響いた。
「おい、こっちに来てくレ!」
プーカの声だ。
いつの間にか、別の場所を見回っていたようだ。
「プーカ!」
地底人に襲われたのかもしれない。
三人は慌てて建物の角へと走った。
だが、角を曲がった瞬間、勇気達は目を大きく見開いた。
そこには……無数の骨が散らばっていたのだ。
~次回予告~
地底国にあったたくさんの骨の正体は、地底人の成れの果てだった。
地底人の欲は、地底人自身も滅ぼしていた。
そして勇気達は、異変の元凶である生き残った地底人と遭遇する。
相手は凶暴で人食いであり、単純な強さだけなら今までの怪を凌駕していた。
そんな強敵に対し、勇気、羽心、ディアーナ、チェイニーはどう立ち向かうのだろうか。