怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

73 / 135
~前回までのあらすじ~

見捨里市で起きる幻覚異変を阻止するべく、勇気達は数万年前の地底国へ向かった。
そこに住む地底人は凶暴であり、人間を食べる事もあるという強敵だった。
羽心は地底人の弱点である光を放つ道具をたくさん持っていたが、
彼女は内心で地底人に殺されるのではないかと不安を抱いていた。
そんな羽心のために、勇気達は彼女を元気づけた。
そして、地下都市に向かうが、そこには地底人の姿はなく、
代わりに、たくさんの骨が転がっていた……。


6 - もう一人の勇気

「きゃあ!」

 羽心は思わず目を背ける。

 書斎にある骨格標本は平気だが、本物を見るのは初めてだった。

 捕らえられた人間の骨なのだろうか?

 しかし、勇気は転がっていた骸骨を見て違和感を抱いた。

 大きさは人間の骸骨と同じぐらいだったが、明らかに動物の頭のような形をしていたのだ。

「これは……?」

 周りを見ると、他の骨も同じような形をしていた。

「これは、地底人の骨のようだネ……」

 プーカが骨を見ながら言う。

「これが全部、地底人の骨?」

「あア、どうやら仲間を食糧にしたようダ」

「そんな……」

 勇気はその言葉に唖然となる。

「それって、共食いって事?」

 羽心が尋ねると、プーカは頷いた。

「恐らく、この辺りの人間が少なくなったんだろウ。

 地底人は他の動物も食糧にするけど、それもいなくなったんだヨ」

「だから、地底人は仲間を襲い、食糧にしたってわけね」

「それで、廃墟みたいになってるって事……?」

 勇気は呆然としながら町を眺めた。

 町の大きさから推測すると、100体ぐらいがここには住んでいたはずだ。

 プーカは、地底人は凶暴だと言っていた。

 彼らは食糧がなくなった時、仲間と助け合うのではなく、争ってしまったのだ。

「じゃあ、ここにはもう地底人はいないって事なのか?」

 そうだとしたら、何故ここに来てしまったのだろう?

 

 その時――

 

 勇気、ディアーナ、チェイニーの鼻を、強烈な臭いが刺激した。

「これは!」

「まずいわ、あれを嗅いだら!」

 三人は一瞬で険しい表情になると、鼻と口を塞いだ。

 山で嗅いだ、あの硫黄のような臭いだ。

 しかもあの時よりも強烈な臭いを漂わせている。

「羽心、鼻と口を塞……」

 勇気は羽心にも顔を向けた。

 すると、羽心は鼻と口を押さえる事なく、少し離れた場所を見ていた。

「羽心!」

 勇気は驚きながらその方向を見る。

あああ!

 そこには、人影が立っていた。

 人間と同じぐらいの大きさだが、全身が毛で覆われ、手は異常に大きかった。

 その顔は、モグラそっくりだ。

地底人だ!!

 地底人は毛に半分隠れていた目をギョロリとさせた。

「羽心、光を当てるぞ!」

 勇気は羽心にそう指示を出し、地底人に懐中電灯の光を当てようとした。

 しかし、そんな勇気の前に、羽心が何故か立ち塞がった。

「勇気、いつの間にそんなところに移動したの?」

「えっ?」

 羽心は、地底人(真之勇気)の方を見ていた。

「あ、明かりがあると眩しいわよね」

 ヘッドライトの光を手で遮る地底人(真之勇気)を見て、羽心は慌ててライトを外すと、明かりを消した。

 そして、そのまま地底人(真之勇気)の方へと走って行った。

 

「ちょっと、羽心!」

「幻覚を見てるんダ!」

 羽心は地底人が発する硫黄のような臭いをまともに嗅いでしまった。

 そのせいで、地底人が勇気に見えていたのだ。

「羽心、しっかりするんだ!」

 勇気(地底人)は羽心に駆け寄ると、彼女の腕を掴んだ。

 彼を見た羽心は、悲鳴を上げる。

「僕だよ! 勇気だよ!」

「来ないで! 地底人!」

「わっ!」

 羽心が暴れ、勇気は思わず手を離す。

 そして、振り払われた衝撃で、懐中電灯を落としてしまった。

 懐中電灯の光が、落ちた衝撃で消えた。

 

何するのよ!!

「落ち着け、幻覚を見ていただけじゃ」

 思わず双剣を抜くディアーナを、チェイニーが何とか制止させる。

「とはいえ、光源がなければ地底人には立ち向かえぬ。何か手段は無いか……」

「あたしに任せて!」

 ディアーナは何かを閃き、勇気達のところに走った。

「儂も向かう! 一人で行くでないぞ!」

 

「そんな!」

 勇気は慌てて懐中電灯を拾い、スイッチを押すが、全く反応がない。

 懐中電灯を落としたせいで、壊れてしまったからだ。

「助けて、勇気!」

 羽心は逃げるように、地底人(真之勇気)の方へと走って行く。

 幻覚を見ている彼女には地底人が勇気に、勇気が地底人に見えているのだ。

「羽心、そっちは僕じゃないってば!」

「やばいゾ。このままじゃ羽心チャンが連れ去られてしまウ」

 町はかなり広い。

 連れ去られてしまったら、捜すのに時間がかかる。

 その間に、もし地底人に羽心が食べられてしまったら……。

「羽心!」

 勇気は懐中電灯を諦め、羽心の下へ駆け出した。

 だが、岩や石だらけの地面はぼんやりとしか見えず、上手く走れない。

「うわ! うわああ!」

 勇気はバランスを崩し、その場に倒れてしまった。

 

「いざという時に頼りにならないんだから!」

「あの小娘は、勇気と逆じゃのう」

 ディアーナとチェイニーは、羽心の方に向かって走った。

 彼女を幻覚から救い、共に戦わせるために。

 

 一方、羽心はもう一人の勇気の下へ辿り着いた。

「勇気、一旦逃げるわよ!」

 羽心は目の前に立っている『勇気』の腕を掴むと、その場から離れようとした。

 その時、前方の壁に×印状の罅があるのが見えた。

「勇気、罅よ!」

 羽心は隣にいる『勇気』に叫ぶ。

 全ての元凶は、あの罅なのだ。

 しかし、隣にいる『勇気』は、何故か罅を見て喜んでいた。

「勇気……?」

 羽心はふと、『勇気』の腕を掴んだ手に違和感を抱いた。

「何だか……毛むくじゃらなんだけど……」

 羽心は、ゆっくりと隣にいる『勇気』の腕を見た。

 

ガァァァァァッ!

 雄たけびのような声を上げ、モグラのような顔をした怪物――地底人が口を開いた。

きゃあああ!

 我に返った羽心は、咄嗟に持っていたヘッドライトのスイッチをつけようとしたが、

 地底人がそれを手で叩き落とした。

きゃあ!

「羽心!」

 勇気は立ち上がり、再び走り出す。

 だが、間に合いそうにない。

 地底人は雄たけびのような声を上げながら、さらに口を大きく開いた。

 羽心がまさに、食べられそうになった時だった。

 

ひかりのせいれいよ、やみをうがつそのかがやきによりてわがてきをやきころせ! Bright Bomb

 ディアーナが光の精霊を召喚し、光速で地底人にぶつけたのだ。

 光は何よりも速いため、遠くからでも確実に攻撃を与える事ができる。

 これで、時間稼ぎをする事に成功した。

「羽心!」

 勇気は羽心の傍まで駆け込むと、地面に落ちていたヘッドライトを取る。

 同時に、ディアーナとチェイニーも到着した。

落ち着いて! 地底人を倒すのよ!

「み、みんな……」

 ディアーナが強く叫んで混乱している羽心を落ち着かせる。

 そうだ、地底人を倒して見捨里市を守るんだ……と羽心は混乱から立ち直る。

「よし、行くわよ!」

「ええ!」

ひかりのせいれいよ、やみをうがつそのかがやきによりてわがてきをやきころせ! Bright Bomb

 ディアーナは光の精霊を呼び出すと、

 光の精霊は光の玉になって地底人目掛けて体当たりし、激しい爆発を起こす。

 勇気、羽心、チェイニーはその隙に地底人に接近した。

「さて、儂も力を振るわせてもらおうかのう!」

 そう言ってチェイニーは自身の血液からメイスを作り、地底人に思いっきり振り回した。

 メイスは命中し、地底人は吹っ飛ばされる。

「……自分の血から武器を作るの?」

 羽心はチェイニーの戦闘スタイルに呆然とした。

 すると、地底人が立ち上がり、腕を大きく振り下ろした。

かぜのせいれいよ、きたりてたてとなり、われにとびくるものをそらせ! Wind Guard

 ディアーナは風の精霊を呼び出し、風の障壁を張って攻撃を防ごうとする。

 だが、地底人の腕力は凄まじく、障壁をいとも簡単に破壊し、腕は振り下ろされた。

嫌ああああ!

 瞬間、羽心は激しく身体をよじり、その場に倒れた。

 衝撃で、リュックの中に入っていた物が地面に散乱する。

 その中には、ロボットのオモチャもあった。

 地面に転がった拍子にスイッチが入り、ロボットが音を立てて光った。

 ロボットから大きな音が鳴り響き、赤、青、緑と、カラフルな光が点滅する。

グギャハガッ!!!

 それを見て、地底人は慌てて羽心から離れた。

 どうやら、このような光や音を見た事がなく、パニックになっているようだ。

「今じゃ、勇気!」

 とどめを刺すなら、今だ。

 勇気はチェイニーの掛け声と共にヘッドライトのスイッチをつけると、光を地底人に向けた。

ギャガグア!!!

 地底人の身体から黒い煙が漏れ出す。

 黒い煙は散っていき、やがて地底人は消えた。

 

「羽心、大丈夫か!」

「ゆ、勇気……」

 勇気は、戸惑う羽心に手を差し伸べる。

 羽心はそんな勇気を見ながら、その手を握り締めた。

 ディアーナとチェイニーも武器をしまい、二人の様子を微笑ましく見守る。

 壁にできた罅が、消えていく。

 四人はそんな罅を、ただじっと見つめていた。

 

「温泉が湧いたという騒動は、なかった事になったのね?」

「山も元通りになっているわね……」

 見捨里市に戻ってきた勇気達は、町並みを見ていた。

 皆、いつもと同じように、夕方のひと時を過ごしている。

「ああ。怪が消えれば、その怪が起こした全てはリセットされるからね」

「覚えているのは、特別な力を持った者だけ……」

 羽心がそう言うと、勇気は小さく頷いた。

「それにしても、地底人が勇気クンに見えちゃうなんてネ」

 プーカが宙に浮かびながら、羽心に言った。

「だけど、どうして僕だったんだ?」

 勇気が首を傾げて、ふと羽心の方を見た。

「確か、地底人が見せる幻覚は――」

「あああ、それはもういいから!」

 羽心は急に顔を真っ赤にすると、手をぶんぶんと振った。

「そんな事より! 勇気、気を抜いちゃ駄目だからね!」

「あ、ああ、それはもちろん分かってるよ」

 勇気は険しい表情になった。

 これで終わりというわけではない。

「あいつはきっと、この町をまた……」

 勇気はそう思うと、拳を強く握り締めた。

 それを見て、羽心も真剣な顔つきになる。

 邪鬼は怪を使役して、必ず、この見捨里市を襲って来るだろう。

(その時、私は……)

 羽心は勇気と同じように、拳を強く握り締めた。

 ディアーナとチェイニーも、ジャネットの仕事のためにと気を引き締めるのだった。

 

 とある場所。

 真夜中の暗闇の中に、一人の人物がいた。

 黒い着流しが風になびいている、片目を包帯で覆った少年――邪鬼だ。

 邪鬼の目の前には、巨大な影が立っていた。

 獰猛な獣のような影をしていて、邪鬼を威嚇している。

 そんな影を見て、邪鬼は優しく微笑んだ。

 

「君にも力になって欲しいんだよ」

 次の瞬間、邪鬼は巨大な獣のような影を睨んだ。

 すると、獣のような影は急に大人しくなった。

「いい子だね」

 邪鬼はにやりと笑う。

 しかし、すぐに険しい表情になった。

「それにしても、まさか真之勇気達がここまでやるとはね。

 ……だけど、これ以上はもう邪魔をさせないよ。

 魔術師の英霊(キャスター)が与えた、この傷の分も、お返しさせてもらうよ。ふっふっふっふ」

 邪鬼はディアーナによって負った傷がある右腕を撫でる。

 暗闇の中に、邪鬼の不気味な笑い声が響き渡った。




~次回予告~

邪鬼は怪を自在に操る力を持ち、それにより見捨里市に異変を起こしていた。
だがそんな事は、勇気達は知る由もなかった。
ジャネットは戦う事ができないため、
再びディアーナとチェイニーは怪奇現象の調査に向かう事になった。
そして、平安のエイリアンが、見捨里市に襲い掛かろうとしていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。