怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

地底人が起こそうとした異変は、勇気達によって阻止された。
羽心の初めての怪狩りは、勇気達に助けられるというやや不甲斐ない形で終わった。
彼女に秘められた特別な力は一体何なのだろうか。
不安になりながらも、羽心はプーカ、ディアーナ、チェイニーと共に勇気を支えようと思った。
だが、裏では邪鬼が、何か良からぬ事を考えていた。
彼が使役する怪は、獣の姿をしていたようだが……。


episode4 - Star of Hope ~ 平安の恐怖
1 - 夜のジョギング


 夜、一人の若い女性が道路を走っていた。

 ピンク色のトレーニングウェア姿で、ピンク色のスパッツを穿いている。

 キャップもシューズもピンク色だ。

 やがて、公園にやってきた女性は、ベンチの前で止まった。

「ふう~」

 大きく息を吐き、両手を上へ伸ばし、アキレス腱を伸ばす。

 この場所で5分ほど休憩するのが彼女のルーティンになっていた。

 夜の公園は、静まり返っていた。

 大きな公園なので、犬の散歩をしている人や、

 同じようにジョギングをしている人をよく見かけるが、今夜はいないようだ。

(あと2kg、痩せなくっちゃ)

 女性は、自分のお腹を指でつまむ。

 ジョギングを始めて二ヶ月、毎日一時間ほど走る。

 おかげで3kg痩せた。

 目標の5kgダイエットまで、もうひと踏ん張りだ。

 女性は、ふとポケットにしまっていたスマホを取り出した。

 画面には、若い男性がテニスラケットを持って微笑んでいる写真が写っている。

(5kg痩せたら、山下君に告白するんだ……)

 女性は、大学で彼と同じテニスサークルに入っている。

 知り合って半年以上が経つ。

 いつの間にか彼の事が好きになっていた。

(頑張らなくっちゃ)

 女性はやる気になると、スマホをしまい、ジョギングを再開しようとした。

 

ヒョー ヒョー

 突然、どこからか不気味な音が聞こえてきた。

「えっ?」

 女性は一瞬、それが何なのか分からなかった。

 だがすぐに、生き物が発する鳴き声だと気づいた。

(だけど、他の鳴き声なの?)

 犬とも猫とも違った。

 鳩やカラスだろうか?

 

ヒョー ヒョー

 また鳴き声が聞こえた。

 今度は、先程よりはっきりと聞こえる。

(鳩とかカラスなんかじゃない……)

 鳴き声は、地を這うような低い唸り声だ。

 今までこんな鳴き声は聞いた事がない。

 女性は何だか怖くなる。

 早くここから立ち去った方がいいと思い、慌ててその場から駆け出そうとした。

 その瞬間――

 

「うう!」

 女性は、急に寒気を感じた。

 全身が震え、意識が朦朧とする。

 まともに立っている事ができない。

「た、助けて……」

 女性は助けを求める。

 だが、周りには誰もいない。

「だ、誰か……」

 彼女はよろよろとよろめくと、そのままその場に倒れてしまった。

 

 一方、路地裏の建物では、ジャネットが神妙な面持ちで顎に手を当てていた。

「どうやら、また怪奇現象が起きたようですね……」

「ジャネット、それを起こしてるのはどんな怪なのよ?」

「分かりません」

「え?」

「だから、分かりません」

 どうやら、ジャネットにも怪の正体は分からないようだ。

 正体不明の怪という事だろうか。

「それはどういう事なのじゃ? 教えよ」

「あまりにも分からない部分が多すぎるのです。だから、正体は分からないのです。

 今まではそういう特徴だからそうだ、だからこういう怪なんだ、

 と分かったのですが……あまりにも特徴が分からなさ過ぎて……」

 どうやら、この怪奇現象を起こしている怪は、

 ジャネットでも事前調査できないほどお手上げのようだ。

「それで、あたし達が怪について『また』調査に行くのね?」

「お願いします……」

 ディアーナとチェイニーは、怪を調査するため、路地裏の建物を出ていくのだった。

 

「正体が分からないのは、怪らしいといえばらしいけど……」

「あの女が知らないようなら、儂らで調べるしかなさそうじゃのう」

「チェイニー、あの女じゃなくて、ジャネットだからね」

 

「ねえ、羽心ちゃん、『大草原の小さな本屋さん』どうだった?」

 翌日の放課後。

 羽心は、花恋と一緒に学校から帰っていた。

 『大草原の小さな本屋さん』とは、先日花恋が貸してくれた小説のタイトルだ。

 花恋が言うには、今まで読んだ小説の中でベスト5に入るお気に入りらしい。

「大草原の中で、仲良く家族で本屋さんを経営するなんて、とっても素敵な話よねぇ」

「う、うん、凄くいい小説よね」

 羽心は無理に笑顔を作って答えた。

(ホントは、まだ全然読んでないんだけど……)

 花恋が貸してくれる本は、いつも面白いものばかりだ。

 『大草原の小さな本屋さん』の小説も、借りた時はすぐに読もうと思っていた。

 しかし、勇気の様子がおかしい事に気づき、その後、様々な騒動に巻き込まれてしまった。

(まさか、私が本当に怪と戦う事になるなんて……)

 羽心は初めて時空を超えて怪狩りを行った。

 今でも自分が数万年前の世界に行った事が信じられない。

 何とか地底人を倒す事ができたが、次にいつ新たな怪現象が起きるか分からなかった。

 正直、怖い。

 だが、逃げるわけにはいかない。

(私だって、この町を守る一員なんだから……)

 前回はほとんど役に立たなかったが、次こそは役に立ちたいと思っていた。

「羽心ちゃん?」

 いつの間にか、花恋が覗き込むように羽心を見ていた。

「どうしたの? ボォーッとしてたよ」

「え、あ、ええっと……」

 考え事をしていたせいで、道の真ん中で立ち止まってしまっていたようだ。

 

(こんなところでボォーッとしちゃうなんて、何だか勇気みたい)

 羽心は苦笑いを浮かべた。

 今日、勇気は学校が終わるとすぐに帰ってしまった。

 母親の仕事が休みなので、外食に行くという。

 勇気の母親は看護師の仕事をしている。

 夜勤もあり、毎日忙しそうだ。

 たまの休みを勇気は楽しみにしていたのだ。

(口には出さないけど、勇気、お母さんの事大好きだもんね)

 今頃もう出かけているかもしれない。

 羽心は微笑ましく思いながら、花恋と再び歩き始めた。

 すると、前方に、信じられないものが現れた。

 のんびりと空を飛ぶ、プーカだ。

 プーカは、自分と同じぐらいの大きさのパンを抱えるように持っていた。

「プーカ!」

 羽心は思わず声を上げた。

「プーカ?」

 花恋が首を傾げながら、プーカの方に顔を向けようとする。

「あああ、花恋ちゃん、ストップ!」

 羽心は慌てて花恋の前に立つと、両手をぶんぶんと上下に動かした。

「羽心ちゃん、何してるの?」

「えっ、ええっと、手の運動! あっ、ほら、そこのお花、綺麗よ!」

 羽心は、プーカとは反対の位置にある家の庭を指差した。

「あっ、ほんと、綺麗ねぇ」

「うんうん、お花って癒されるわよねぇ」

 羽心はチラチラと、プーカの方を見る。

 プーカはそのまま飛びながら道路の角を曲がり、見えなくなった。

 

「花恋ちゃん、私ちょっと用事思い出しちゃった。ここでバイバイするわね」

「えっ、用事って?」

「それはええっと、あ、そう!

 知り合いのおばさんに犬の散歩を頼まれてて、これから行かなくちゃいけないの」

「そうなんだ! 私、ワンちゃん好きだよ。一緒に散歩したい!」

「え、えっと、その犬、凄い人見知りで、知らない人がいると一歩も動かなくなっちゃうのよ」

「そうなんだぁ」

 ガッカリする花恋を見て、羽心は何だか心が痛む。

 しかし、仕方がない。

「人見知りが直ったら、一緒に散歩しようね!」

 羽心はそう言うと、花恋と別れた。

 

(プーカのせいで、花恋ちゃんに嘘をついちゃったじゃない!)

 羽心は頬を膨らませながら道路を走り、プーカを捜した。

「あっ!」

 すると、前方の家の塀の上に、プーカがちょこんと座っているのが見えた。

「う~ん、まさかこっちの世界にも、くるみパンがあるなんてネ」

 プーカは幸せそうに微笑むと、くるみパンを一口食べた。

「プーカ、何してるのよ!」

「お~、羽心チャン。何って、散歩に決まっているだろウ」

「散歩って、外に一人で出ちゃ駄目って言ったでしょ!」

 勇気達が学校に行っている間、プーカは書斎で待っているはずだった。

 しかし、プーカは首を大きく横に振った。

「おいおい、オイラは妖精族の王子だヨ。

 どうして人間であるキミ達の言う事を聞かなくちゃいけないんだイ?」

「あのねぇ」

 プーカが見つかってしまうと、現代世界に妖精がいる、と大騒動になるだろう。

 その事をプーカは全く分かっていない。

 プーカは笑顔のまま、くるみパンを食べ切った。

「いいから、帰るわよ」

 羽心はプーカを連れて帰る事にした。

 その時、羽心達の方へ、勇気、ディアーナ、チェイニーが走って来た。

 三人は何故か険しい表情をしている。

「ディアーナとチェイニーは仕事だろうけど、おばさんと食事に出かけたんじゃないの?」

 しかし、母親の姿はない。

「もしかして、オイラ怒られるのカ?」

 プーカは羽心の肩に掴まると、隠れるかのように身を縮めた。

「羽心チャン、怒られないようにオイラをフォローするんダ」

「どうして私が?」

「人間も妖精も困った時には助け合うものだロ」

「まったく~」

 プーカは完全に勇気に怯えているようだ。

 羽心は呆れながらも、小さく息を吐いた。

「私も一緒に謝ってあげるから」

 プーカはやんちゃかつ無駄にプライドが高いが、悪い妖精ではない。

 邪鬼を倒そうとしている勇気達を手伝ってくれているのだ。

 羽心は目の前まで勇気、ディアーナ、チェイニーが来るとプーカを庇うように立った。

「あのね、プーカは悪気があったわけじゃ……」

「そんな事より、羽心! 怪現象が起きたんだ!」

「正体不明の怪が、襲ってくるわよ!」

「えっ? えええ?」




~次回予告~

ジャネットにも分からない正体不明の怪が、見捨里市を襲おうとしていた。
夜、女性が突然気を失って倒れた事が、この異変のきっかけである。
正体が分からず、ディアーナとチェイニーは不安なまま、勇気達のところに赴く。
果たして、正体不明の怪の正体は何なのだろうか。
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