怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

見捨里市に鵺が襲い掛かり、多くの者を病に侵そうとしていた。
様々な動物の特徴を持ち、またその身体も大きい部類に入る鵺。
伝承では弓矢で退治したらしいが、今回はそれだけでは上手くいかないらしい。
夜にしか現れないその怪を倒すために、勇気達は戦う決意を固めた。


3 - 平安の都へ

「あら、もう帰ってきたの?」

 勇気達が家へ帰って来ると、勇気の母親が出迎えた。

「花恋ちゃんのお家で勉強会をしてたんじゃないの?」

「えっ、それはええっと……」

 どうやら勇気は母親に嘘をついて、罅探しに出たようだ。

「おばさん、勉強会はやってるわ。

 だけど勇気、教科書を持って来なかったから取りに帰る事になって」

 羽心が笑って説明をした。

「あら、そうなの。勇気、勉強会に教科書忘れちゃ駄目でしょ」

「えっ、あ、うん、そうだね」

「羽心ちゃん、勇気にみっちり算数を教えてあげてね」

「はい。任せて!」

 母親は羽心の言葉に安心して、リビングへと戻って行った。

 

「ふう~、危なかったわね」

 勇気の母親に怪しまれたら面倒だ。

「羽心、いくらなんでも、僕、教科書を忘れたりしないよ」

「しょうがないでしょ。嘘をつくしかなかったんだから」

「嘘ならもうちょっとマシなものを……」

「ああんも~、そんな事より、猿と蛇をどうやって別々の方向に動かすか考えなきゃ」

「そ、そうだよね……」

 夢の中では、頭の猿と尻尾の蛇が別々に襲いかかろうとして、動けなくなっていた。

「確か、猿と蛇を同時に動かせる方法があれば……」

「それって、同時に気を引くって事よねぇ……」

「「う~ん」」

 勇気と羽心が考えていると、胸ポケットからプーカが顔を出した。

「そんなの簡単だヨ。食べ物で釣ればいいのサ」

「食べ物?」

「そっか、それはいい手かも!」

 猿と蛇にそれぞれ好きな食べ物を見せれば、それを食べようと動き出すだろう。

 反対方向に誘えば、身体が引っ張られ動かなくなるはずだ。

「そのような単純な作戦など通用せぬよ」

 だが、チェイニーはプーカの提案に反対した。

 いくらなんでも、あんな怪に単純な作戦が通用するのか、と。

「あたしが魔法を使えば、鵺なんて一殺(いちころ)よ」

「でも、僕達は魔法を使えないし、魔法だって万能じゃないだろ?」

「それも一理ある。今回はお主らの意見を採用しよう」

「ありがとう。ええっと、猿の好きなものって言えば……」

「そりゃあ、もちろんバナナよ!」

 羽心の言葉に、勇気は大きく頷いた。

「バナナは家にあるよ。後は蛇の好きなものと言えば……」

「それは、ネズミとかだネ」

 プーカが自信満々に答えた。

 蛇は、ネズミや鳥のヒナを襲って呑み込むのだ。

「ネズミって、そんなの持っていけないよ!」

 ドラキュラの時同様に、勇気は残酷なものが苦手だ。

「……あ!」

 その時、勇気は棚の一角に目を留めた。

 そこには、仔ウサギの置物が飾られていた。

 父親がどこかで買ってきたものだ。

 とても精巧に作られていて、本物の仔ウサギのように見える。

「これなら、蛇を上手く誘導できるかな?」

「おお、ありだと思うヨ。蛇は仔ウサギも襲ったりするからネ」

「よーし」

 勇気は、キッチンにバナナを取りに行くと、両手に太陽と月のグローブを嵌めた。

「何としても、怪を倒さないとね……」

 羽心は、机の引き出しを開ける。

 そこには、星のグローブが置かれていた。

 勇気は星のグローブを羽心が嵌める事は認めたが、普段は書斎の机にしまっているのだ。

「勇気……」

 羽心は勇気の方を見た。

 彼は余程、羽心を戦わせたくないのだろう。

 認めたくない理由でもあるのだろうか、と羽心は思っていた。

「羽心、早く用意して!」

「う、うん……」

「ノノとアプリルはあたしを信じてる。仕事仲間が、待っている!

 だから、二人の期待に応えるためにも、あたしは絶対に仕事を成功させる!」

「仕事仲間、か……」

 準備を進める勇気を、羽心はじっと見つめる。

 何かを言おうとしたが、やはり言えない。

 羽心は、無言のまま星のグローブを右手に嵌めた。

 ディアーナとチェイニーも仕事の準備をした。

「よし、行こう」

 勇気はバナナと仔ウサギの置物を右手に持つと、壁に近づき、左手をかざして呪文を唱えた。

 

時空貫通(カオス・ゲート)

 

 次の瞬間、壁に大きな渦の穴ができた。

 勇気、ディアーナ、チェイニーは、光の渦の中に飛び込む。

 羽心もごくりと唾を呑み込むと、その後に続いた。

 

「んんんん!」

 羽心は、光のトンネルの中で必死にバランスを取る。

 目が回る、頭が回る。

 それでも歯を食いしばり、前を見つめた。

 やがて、光のトンネルの奥に、地面が見えてきた。

 

「きゃ!」

 羽心は悲鳴を上げそうになるが、全身に力を入れ、何とか上手く着地をした。

「へえ、綺麗に着地できたじゃないカ」

 プーカが浮かびながら褒める。

「そ、そりゃあ2回目だからね」

 羽心は立ち上がると、勇気の方を見た。

 勇気、ディアーナ、チェイニーは既に身構え、周りを確認していた。

 時刻は、夜。

 目の前に大きな屋敷が見える。

 どうやら、羽心達はその屋敷の庭に立っているようだ。

「だけど、ここってどこなの?」

 平安時代に来たはずだ。

 しかし、屋敷も庭もあまりにも広すぎた。

 暗いのでよく分からないが、明らかに普通の人が暮らす家には見えない。

 羽心達の後ろには、池が見える。

 木々が綺麗に剪定されていて、月明かりに照らされた庭は絵画のように美しい。

「勇気、ここで本当にいいのよね?」

「あ、ああ、多分間違いないとは思うけど……」

「相手は鵺なのよ? あたしに倒せるのかしら?」

「儂には見えぬな……」

 勇気も自信がなさそうだ。

 ディアーナとチェイニーも、鵺という怪に困惑する。

 だが、来てしまった以上は、他に行く事もできない。

「とりあえず、鵺を探さなきゃ」

鵺じゃと!?

 勇気がそう呟くと、突然、暗闇から男性の声が聞こえた。

 誰かが勇気達の方へと近づく。

 その人が持っているものが月明かりに照らされ、僅かに光った。

 それは、刀だった。

「お主達、何者じゃ?」

「な、何だよ、こいつハ?」

「何じゃ、今のは?」

 暗闇から、甲冑を着て刀を構えた男性が現れた。

 プーカは慌てて勇気の胸ポケットの中に避難する。

 男性はこの時代にいないはずのプーカを見ていた。

「あっ、えっと、今のは動く人形です!」

「はあ? 何を言っておる? そもそも、お主達どうやってこの御所に忍び込んだのじゃ?」

「御所? それって天皇が住んでるところよね?」

「そうか、だからこんなに広い屋敷だったんだね」

 勇気は改めて屋敷を見て、その広さに納得した。

 男性はそんな勇気の方に顔を向けた。

「それよりもお主、先ほど鵺と言ったな?」

「あっ、うん」

「やはりそうか。お主達、その珍妙な服から察するに、鵺の家来じゃな!」

 男性は勇気を睨むと、刀を振り上げた。

「え、ああ、ちょっと!」

 勇気は自分達の事を説明しようと思ったが、

 振り上げられた刀を見て身体が竦み、声が出なくなってしまった。

「成敗いたす!」

「んんん!」

 斬られる――!

 勇気がそう思った瞬間、誰かが前に立った。

 

待ちなさい! あたし達は鵺の家来じゃないわよ!

 ディアーナだ。

 勇気を救うために、ディアーナは咄嗟に間に入ったのだ。

 男性は真剣な表情で訴えるディアーナを見て、刀を下ろした。

「家来ではない? それはどういう事じゃ?」

「あたし達は、鵺を倒すためにここに来たのよ!」

 

 上妖精説明中……

 

 ディアーナは、このままでは見捨里市が鵺のせいで大変な事になってしまう事を話した。

「なるほど、そうじゃったのか。お主達、皆を救うために鵺と戦おうと思っておるのじゃな」

 男性は、ディアーナの説明に納得し、感心しているようだ。

「ならば、目的はわしらと同じという事か」

「同じ?」

「じゃあ、ええっと、あなたは……」

 勇気と羽心は、男性を改めて見てハッとした。

「もしかして、あなたは源頼政さん?」

 病に倒れた二条天皇を救うために、家来の猪早太と共に鵺退治を行った、

 都で一番の弓の使い手である武将だ。

「僕、あなたの事を本で読んだ事があります!」

「堂々と鵺と戦うなんて凄いわ!」

 怪狩りを行う者にとって、怪を倒した事のある人間は憧れの存在だ。

 勇気と羽心は目を輝かせながら、男性を見た。

 しかし、彼は困惑したような表情を浮かべた。

「わしが、源頼政様じゃと……?」

「えっ?」

 その時、池の方から声がした。

 

「おおい、早太。鵺の家来はもう倒したか?」

 見ると、池の傍にある大きな松の木の後ろに、誰かが隠れていた。

 早太と呼ばれた男性は、その人物を見て呆れ顔になった。

「あなたがそんなところに隠れてどうするのですか。頼政様!」

「えっ、あの人が?」

 見ると、頼政は弓を持っていた。

 都一の弓の使い手は、松の木の後ろに隠れながら、ぶるぶると震えていたのだ。




~次回予告~

見捨里市に鵺が来るのを阻止するため、勇気達は平安時代の日本に行った。
源頼政、猪早太と共に、勇気達は鵺を倒す事になる。
鵺は弓矢が弱点らしいのだが、それにはある「特別なもの」が必要だった。
その特別なものを探すべく、勇気達は平安の武士達に同行するのだった。
だが、肝心の頼政は、かなりの臆病者だった……。
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