勇気、羽心、ディアーナ、チェイニー、そしてプーカは、
見捨里市を襲おうとしている鵺を倒すべく、平安時代の日本に向かった。
平安京に辿り着いた勇気達は、武士の男と出会う。
勇気はその男を源頼政だと思っていたが、実は頼政の家臣、猪早太だった。
本物の源頼政は意外にも、臆病な人物であった。
「早太、鵺退治はこの子達に任せて、わしらは帰ろう!」
勇気達が鵺を倒しに来たと知った頼政は、猪早太の腕を引っ張った。
「しかし、頼政様!」
「しかしじゃない。わしの言う事が聞けぬというのか?」
「そ、それは……」
家来である猪は頼政に強く言えないようだ。
「何だか、本に載ってた話と大分違うんだけど……」
勇気は羽心にそう言う。
本の中では、頼政が弓で鵺を倒したと書かれていた。
だが、どう考えても目の前にいる頼政では、鵺を倒せるとは思えなかった。
「あの、頼政さんは都で一番の弓の使い手なんですよね?」
「わしがか?」
頼政は急にオロオロし始めた。
「わしは弓の使い手なんかではない。
戦の時、あまりの怖さで弓を闇雲に射ったら、それがたまたま全部敵に当たっただけなのじゃ」
「全部って」
「滅茶苦茶ラッキーだったって事よね」
「おかげでそれ以来、皆がわしの事を都一の弓の使い手だと言うようになって。
今回だって、熱を出して体調が悪いと嘘をついて断ろうと思ったのに、
一族の者達が勝手に鵺退治を承諾してしまって」
頼政は泣きそうな顔で、大きな溜息をついた。
「わしは、こんな事、嫌なのじゃ……」
どうやら、頼政は全く頼りにならないようだ。
「意外に彼はビビリだったのね」
「まあ、元々弓では鵺は倒せないもんね」
羽心が勇気に小声で言う。
夢の中で、弓道部の部員達が鵺に向かって矢を放ったようだったが、全く効かなかったのだ。
「僕が何とかするしかない――」
勇気は、持っているバナナと仔ウサギの置物を見つめた。
「僕が……」
羽心がふと、呟くように言った。
「どうした、羽心?」
「えっ、あ、ええっと、あのね……」
羽心はずっと思っていた事を話そうと思った。
しかし、プーカが勇気の胸ポケットの中からひょっこりと顔を出し、先に喋った。
「ところで、一つ質問していいかナ?」
「プーカ、君は隠れていた方がいいってば」
「いやいや、キミ達はどうも頼りにならないと思ってネ」
「頼りにならない?」
勇気、羽心、ディアーナ、チェイニーは、頼政達から少し離れると、プーカを見た。
「それで、質問って何?」
「キミ達は鵺と戦う時、バナナと仔ウサギの置物を囮に使うんだロ?」
「うん、そのつもりだけど」
「だけど、それで鵺の興味を引いたとして、その後、一体どうやって倒すつもりなんだイ?」
「その後……?」
勇気が首を傾げると、次の瞬間、ハッとした。
「どうやって倒せばいいんだ?」
猿の頭と蛇の尻尾を別々の方向に移動させれば、身体は動けなくなる。
だがそこから、どうやって鵺を倒すのか全く考えていなかった。
「はあ~、やっぱりそうカ。まったく、人間って奴は肝心なところがダメだよねぇ」
「勇気、本当に何も考えていなかったのか?」
「い、いや、動けなくなれば、倒すチャンスができると思って」
「それはそうだけど、どうやって倒すのよ?」
「制約さえなければ、あたしが魔法で倒したのにね」
鵺に決定的なダメージを与えないと、倒す事など不可能だろう。
ディアーナは強力な魔法が使えるが、あくまで彼女は引き立て役なのだ。
「どうしよう。完璧な作戦だと思ったのに」
「何かアイデアを考えましょう。私も力になるから!」
羽心はそう言うが、勇気には全くその声が届いていないようだった。
「僕が何とかしなくちゃ、僕が何とかしなくちゃ……」
「勇気……」
羽心は寂しそうな表情で、そんな勇気を見つめた。
すると、怒りを抑えられなくなったディアーナが、勇気の顎を掴んで上げ、平手打ちをした。
大きな音が平安の都に響く。
「痛っ! 何するんだよ、ディアーナ!」
当然、勇気は痛みに怒るが、ディアーナは動じずに勇気を真っ直ぐ見てこう言った。
「あなた一人でかっこつける気なの? あたしならともかく、あなたはまだ子供でしょ?」
「君に僕の何が分かるんだ!」
勇気はディアーナに向かって叫ぶが、彼女は首を横に振った。
「分からないわよ。あなたがそんなだと、誰も分からないわよ。
勇気、羽心が何のためにあなたについてきたのか、分かっているの?」
「……」
「だんまりね? 羽心は鵺の動きを止めるための作戦を考えてきたのよ。
羽心はあなたの力になりたくて同行したのよ。
アプリルが言った事を思い出してちょうだい。あたし達は、一緒に怪狩りをする仲間なのよ。
羽心が来た意味を無駄にしようとするあなたに、怪を狩る資格はない!」
ディアーナは毅然とした表情で、勇気に説教をした。
勇気は反論しようとしたが、あまりに理路整然としているために、全く反論できなかった。
すると、猪が勇気達の傍にやってきた。
「お主達、鵺の動きを止められるというのか?」
「あ、はい。止める事まではできると思います」
「ならば、鵺を倒す事ができるぞ」
「えっ?」
猪は頼政の方を見た。
「頼政様、彼らと協力すれば、必ずや鵺を倒せます!」
猪はそう言うと、満面の笑みを浮かべた。
しかし、勇気、羽心、ディアーナ、チェイニーは困った顔をした。
「あの、それって弓で矢を射って倒そうと思ってるって事ですよね?」
「弓は強い武器だけど、鵺はそれじゃあ倒せないのよ?」
勇気達が進言すると、猪はニカっと笑った。
「相手は化け物じゃ。普通の矢では倒せぬ事ぐらいわしらにも分かっておる。
だから、『特別な矢』を用意したのじゃ」
「特別な矢?」
勇気達が戸惑っていると、猪は頼政の下へと戻り、彼が持っていた矢を見せた。
「この矢の
どんな動物でも、この矢が刺されば倒す事ができるのじゃ」
「毒か、確かにそれなら効果あるかも」
「だけど、相手は怪よ?」
羽心が疑問に感じると、プーカが猪達には聞こえない小さな声で喋った。
「効果あると思うヨ。鵺は猿と虎と蛇が合体した化け物だからネ」
生き物の身体をしているのであれば、最も効くはずなのだ。
「そっか、それなら矢が武器になるわね」
「ああ、これで鵺を倒せる!」
「頼政様。やりましょう! あなたの弓で鵺を倒すのです!」
猪は強い口調で頼政に言う。
だが、泣きそうな表情のまま首を大きく横に振った。
「そんなの無理じゃ! わしには化け物なんかと戦う勇気などない!」
「頼政様……」
「早太、幼き頃から共におるお前なら、わしの事をよく知っておるだろ?
口先だけは一人前じゃが、本当は刀も弓もまるで扱えん事を。だから逃げよう!」
頼政は、猪の腕を掴んで逃げようとした。
瞬間、勇気が声を上げた。
「いい加減、勇気を出してよ!
僕だって怖いけど、戦おうと思ってるんだ!」
頼政は、昔の勇気そっくりだった。
そんな頼政を見て、勇気は我慢できなくなったのだ。
猪は頼政をじっと見つめた。
「あなたは確かに臆病で勇気がない。だが、わしはそんなあなたを慕っておるのです……」
「早太……?」
「あなたは明るくて優しい。一緒にいるとわしは楽しくなるのです。
だから、わしはあなたが鵺退治に選ばれた時、
わしだって、あの少年達と同じように化け物を相手にするのは怖い。
命を落とすかもしれません。しかし勇気を出して、あなたを守りたいと思ったのです!」
よく見ると、猪の手や足は震えていた。
彼もまた、鵺との戦いにずっと怯えていた。
怯えながらも、頼政を守るために、勇気を奮い立たせていたのだ。
「猪さん……」
勇気は猪達をじっと見つめた。
そして、羽心、ディアーナ、チェイニーもそんな猪を見て何かを思うと、小さく頷いた。
「頼政様、戦いましょう。必ずわしらは勝てるはずです」
猪は、頼政に手を差し出した。
「早太……」
頼政は泣きそうな顔で、猪を見た。
その時。
「ヒョー ヒョー」
上空から、不気味な声が響いた。
勇気達は空を見る。
そこには、×印状の罅が浮かんでいた。
そしてその横に、真っ黒な塊があった。
「あれは!」
「ヒョー ヒョー」
黒い塊の一部が、四本の虎の脚になる。
脚の上に虎の身体の形が作られる。
次の瞬間、猿の頭と蛇の尻尾が現れた。
「鵺だ!」
「来たわね!」
「相手になってやろう!」
勇気の声が、御所の庭に響いた。
ディアーナとチェイニーは、それぞれ身構える。
「勇気、バナナを貸して!」
「バナナを? 猿の頭と蛇の尻尾は僕が引き付ける!」
「何言ってるの、同時に引き付けないと意味がないでしょ!」
その言葉に、勇気はハッとした。
「確かに、羽心チャンの言う通りだネ」
プーカは、勇気の服の胸ポケットから出ると、飛びながらにやりと笑う。
「そ、それはそうだけど……」
勇気はどう答えればいいのか分からなくなってしまった。
そんな勇気に、羽心は手を差し出した。
「だから、バナナを貸して!
ディアーナさんが言ってたでしょ! 何のために私がいると思ってるのよ!」
「羽心……」
勇気は戸惑いながらも、羽心にバナナを渡す。
羽心はそれをしっかりと受け取った。
「同時に行くわよ」
「え、あ、ああ、分かった!」
勇気は自分の頬を叩き、気合いを入れ直した。
「やるしかないのう」
「頼政さん、鵺の動きが止まったら弓を射ってください!」
勇気は頼政達の方を見てそう言った。
だが次の瞬間、驚く。
なんと、頼政と猪がいつの間にかいなくなっていたのだ。
~次回予告~
平安京で、鵺との戦いが始まった。
勇気は臆病な頼政を奮い立たせ、彼や仲間と共に鵺と戦う。
奇妙な生態に翻弄される勇気達だったが、決して諦める事はしなかった。
そして、勇気はこの戦いで、ある大切な事を知るのだった。