ディアーナ達の路地裏での暮らしを特集します。
時系列はエピソード2、ツタンカーメンとツチノコの間となります。
路地裏暮らしも悪くない?
見捨里市の路地裏。
普段、ディアーナら怪と、
怪奇現象が起こった時は調査し、勇気達と共に時空を超えて怪を狩っている。
路地裏と言うと汚いイメージを思い浮かべるが、
家事担当のキキーモラ、パーシャが毎日掃除しているため意外と綺麗だ。
ちなみに、調査手当はジャネットがフランスのお金を、
製作担当の透明人間、ナタリアが開発した自動換金装置により円に換えている。
「こちらは調査手当です」
「大事に使うんだよ」
ツタンカーメンが見捨里市に現れるのを防いだディアーナとノノは、
ジャネットから調査手当の20000円を貰った。
「それにしても、怪奇現象がよく起こる見捨里市の割に、ここは安全なんだねぇ」
「それを言うのはいけませんよ」
ナタリアはやれやれといった声色をしていた。
ジャネットは歩いて、ディアーナとノノの前に立つ。
「この仕事、どうでしたか?」
「楽しかったわよ。まぁ、欲を言うなら、ジャネットも付き合ってほしかったけど」
「私が表に出たら処罰の対象となるのをお忘れですか!」
ジャネットは強大な力を持ち、表に出たら目立ってしまう。
なので、彼女は路地裏の建物から出る事ができないのだ。
「そして、ノノもお疲れ様でした」
「ありがとう!」
「それでは二人とも、二日のお休みを取ってください」
「やったぁ! あそぼー、あそぼー!」
休みが貰えて大喜びするノノ。
対照的に、ディアーナは難しい顔をしていた。
「でも、エルフや獣人が見捨里市を堂々と出歩いたら、バレちゃわない?」
「誰が『見捨里市に出る』と行ったのですか? ここの路地裏を歩き回るんですよ。
といっても、パーシャのおかげで綺麗ですし、店は充実していますよ」
「感謝します」
メイド姿のパーシャがお辞儀をする。
路地裏なのに店が充実しているなんておかしい、とディアーナが頭を捻ると、
調合担当の三毛猫の獣人、小春が小声で説明した。
「ジャネット様が所持している金剛石の指輪のおかげです」
「ええ。指輪は時の流れからこの路地裏を守り、周囲の光景が広がったように見せかけます。
ただ、邪悪なものと繋がっていますので、公然とは使えませんが……」
ジャネットの指には、ちかちかと光が灯っていた。
「こんなに綺麗な光なのに」
「邪悪なものが滅びる時、この光もまた消え、人ならざる者の時代は終わります」
時代が下るにつれて、地球から人ならざる者の姿はどんどん去っていった。
表で楽しく過ごしていた人ならざる者達も、現代では路地裏でしか姿を見かけなくなった。
そして、路地裏にもまた、衰退の時が訪れようとしていた。
「とはいえ、わたし達の時間は、まだ続いています」
「じゃあ次の異変が起こるまで、あたしとノノは自由に過ごせるって事なのね」
「ええ。充実したお休みを、楽しんでくださいね」
ジャネットがディアーナとノノに微笑む。
路地裏での食事や買い物、建物で何かするなど、時間の許す限りは好きな事ができる。
調査だけでなく、休息もディアーナ達には必要なのだ。
「それでは、お休みなさい」
「おやすみなさい!」
ディアーナはジャネットが用意した部屋に戻った。
「人間が怪になる事もあるらしいから、
英霊も人を傷つけたり恐怖に陥れたりするようであればそれはもう怪としか言えないのね」
ディアーナは目を閉じて、眠りについた。
次の怪が何なのかは知りたいが、今はまず、休もうと思った。
さて、ここで路地裏にいる三人の後方支援者を紹介しよう。
まず、製作担当のナタリアは、透明人間の女性だ。
姿を見る事はできないが、そのために知覚されずに移動でき、
戦闘もそれなりに出来る偵察兵である。
手先も器用なので、路地裏の製作を担当しているわけだ。
次に、家事担当のパーシャは、キキーモラというロシアの妖精だ。
普段は献身的な性格をしているが、ある言葉を言われると乱暴者になってしまう困った女性だ。
戦闘能力は無く、普段は路地裏を掃除しながら、怪達に料理を振る舞っている。
最後に、調合担当の小春は、三毛猫の獣人で「忍びの者」だ。
忍びの者と言えど本質的には盗賊と同じである麗羅達とは異なり、正真正銘のくノ一である。
普段は見捨里市の商店街の薬屋で働く、笑顔かつ丁寧な人物だが、
仕事の時になると一変し、素早い動きで小太刀を使い標的を仕留める。
「それじゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
普段着に着替えた小春と別れたディアーナとノノは、早速路地裏に出た。
「わぁっ、凄いわね!」
路地裏の中は、とても明るい光景だった。
アルカディア出身のディアーナは、懐かしそうな顔をしていた。
「アイーダの酒場」と看板に書かれた建物や、冒険の疲れを取るためのレストラン、
ファンタジーグッズを売っている建物などなど。
ジャネットが嵌めた指輪のおかげで、まるで剣と魔法の世界のようになっていた。
「アイーダの酒場」と看板に書かれた建物や、冒険の疲れを取るためのレストラン、
ファンタジーグッズを売っている建物などなど。
さらには、洞窟やジャングル、山岳、闘技場など、冒険者が喜びそうな場所がたくさんあった。
(あたしも故郷に帰りたい気持ちはあるんだけど、ここで暮らすのも悪くないかもね。
ジャネットもノノも優しいし、ナタリアもパーシャも綺麗だし、
ここの路地裏に広がる風景は、あたしが元いた世界とそっくりだし……)
異次元の旅人であるディアーナは、ファンタジー世界から現代世界にやってきた。
この世界では科学の発達と引き換えに、奇跡も魔法も失われている。
自分が魔法を使えたり、異種族であったりする事を、一般の人に知られてはならないのが常識。
だがこの路地裏は、強力な攻撃魔法を使っても誰も咎める事はない。
現代世界に残された、最後の聖地なのだ。
そしてその聖地もまた、終わりを迎えようとする。
緩やかな滅びは、ハイエルフと同じ道だった。
それでも、彼女はこの世界で暮らしたかった。
この世界の事を、もっと知りたかったのだ。
「じゃあ、まずはここに行きましょう!」
「うん!」
二人が最初に行った場所は、「ドキッ! 罠だらけの森」。
ここにはたくさんの罠が仕掛けられていて、きちんと調べなければ引っかかってしまう。
「うわ、何これ、引っかかっちゃいそう」
二人の前には、無数の蜘蛛の巣があった。
ノノは飛べるが、ディアーナは飛べないため、この通路は迂回した。
「ここにはどんな罠があるのかしら」
ディアーナが足元を調べてみると、鳴子の罠が仕掛けられていた。
ここを通ったら、敵に気づかれてしまうだろう。
ノノは空を飛んで楽々回避したが、問題はディアーナだ。
ディアーナはゆっくり、ゆっくりと歩く。
「あっ!」
しかし、うっかり鳴子を鳴らしてしまい、音と共にボムロックが四体現れた。
ボムロックは笑っているが、刺激すれば爆発するだろう。
ディアーナはそっとボムロックの後ろを通り抜けた。
「今度はスライム?」
「きもちわるいなぁ、もう」
ボムロックを通り抜けたと思ったら、今度は道を巨大なスライムが塞いでいた。
身体を伸ばして取り込み溶かす強敵であり、女性が最も嫌う怪でもあった。
ディアーナとノノは迂回したが、さらに遠回りせざるを得なかった。
しかも、遠回りした先の通路には、獲物を眠らせるガスが漂っている。
そこも迂回した先に、ボムロックがいた。
「戦わずして抜けるには、こうするしかないのよ」
「えっ、ちょ、ちょっと!」
ディアーナは直感を生かし、怪に遭遇せずに罠を次々に潜り抜けていく。
酸を吹き上げる間欠泉、棘つき茨で覆い尽くされた通路、怪がひしめき合う部屋、泥の沼など。
それらを全て突破し、ディアーナとノノは出口に着いた。
「もう、あそこには二度と行きたくないわ……」
罠だらけの森は、ディアーナにとって嫌なものであった。
製作者は女性に何らかの恨みがあるのだろうとディアーナは思っていた。
「ディアーナおねえちゃん、ここにいこう?」
「そ、そうね」
気を取り直して、ノノに誘われて次に行った場所は、湿地。
ここには森ほどの罠はなく、二人は安心して入る。
湿地には既に二人の怪がいて、四人で行動するようだ。
「わっ!」
突然、周囲の光景がぐにゃりと歪んだ。
四人はワープゾーンに飲み込まれようとしたが、素早く動いてワープゾーンを回避した。
進んでいくと、一定の間隔で転がる巨石が行方を阻む。
ディアーナは軽く飛び越え、ノノ達も後に続いたが、五体のガーゴイルが姿を現した。
ナイフを持った妖精がガーゴイルに飛びかかり、ガーゴイルの急所を突く。
「きゃっ!」
ガーゴイルはディアーナに素早く襲い掛かり、ディアーナを爪で切り裂く。
「♪~♪~♪♪~」
だが、一体一体は弱かったため、ノノの歌によって一掃された。
そして、ガーゴイルを撃退すると、湿地の奥からジャイアント・ローパーが姿を現した。
名前の通り、非常に巨大なイソギンチャクの姿をした怪だ。
攻撃力だけでなく毒液も放つため、最も出会いたくない怪と言えるだろう。
「やるしかないわよ!」
ディアーナは双剣を構え、ジャイアント・ローパーに突っ込んでいくが、
触手で双剣攻撃を防がれる。
だが彼女のおかげで隙ができたようで、
ナイフを持った妖精がジャイアント・ローパーにナイフを突き刺す。
「やめてぇっ!」
ジャイアント・ローパーはノノ目掛けて毒液を飛ばし、彼女の身体を毒に侵す。
毒に侵されたノノの顔色が青くなっていく。
刀の付喪神が自分の刀に炎を纏わせ、ジャイアント・ローパーを斬りつけて爆発を起こす。
炎はジャイアント・ローパーの身体を容赦なく包み込み、大ダメージを与える。
「♪♪~♪~」
ノノは歌って自分にかかった状態異常を取り払う。
妖精がジャイアント・ローパーの背後に回り込み、ナイフで触手を切り裂く。
「とどめよ、ライトニング・スラッシュ!」
そして、ディアーナと刀の付喪神の一閃によって、
ジャイアント・ローパーは真っ二つになった。
(……湿地にこんな魔物、いたかしら?)
何とかジャイアント・ローパーを倒したディアーナ。
仲間に助けられたが、文句は決して言わなかった。
怪狩りというのは、仲間がいるからこそできる事だと思っているからだ。
最後に行った場所は、遺跡。
ここには獣人の格闘家とオークの槍使いがいた。
(うーん、オークってあまりいい印象はないわ。でも、文句を言ってる暇はないわね)
どうも、ディアーナはオークを嫌っているようだが、ここで喧嘩をしては意味がない。
ディアーナ達が遺跡に入ると、アッシュモンスターとリビングアーマーが現れた。
「♪~♪~♪♪~」
ノノは魔力のこもった歌を歌う。
音の振動によってアッシュモンスターとリビングアーマーの防御力が減少する。
アッシュモンスターは灰を飛ばすが、ディアーナは双剣で攻撃を防ぐ。
格闘家と槍使いがリビングアーマーに突っ込んで攻撃し、リビングアーマーをバラバラにした。
「ライトニング・スラッシュ!」
最後はディアーナの双剣によってアッシュモンスターは真っ二つになった。
精霊魔法を得意とするエルフだが、ディアーナは若いために剣術も秀でているのだ。
「見て、あれ!」
ディアーナ達が歩いていると、六体の岩飛ばしがこちらを迎え撃とうとしていた。
もしディアーナが気付いていなければ、こちらに不意打ちを仕掛けてきただろう。
そのおかげで、格闘家と槍使いは岩飛ばしに先制攻撃をする事に成功し、
ディアーナも双剣で岩飛ばし達をまとめて貫く。
「♪♪~♪~♪~」
ノノは彼女らしからぬ激しい歌声で、岩飛ばしの防御力を減らす。
槍使いは岩飛ばしの攻撃に対し反撃し、ディアーナとノノは攻撃を食らうが、
ノノの歌声で体力を回復した。
「ライトニング・スラッシュ!」
雷を纏ったレイピアとダガーが岩飛ばし達を貫く。
直後にディアーナは水の精霊魔法を唱え、岩飛ばし達を流して壁に叩きつけた。
「♪~♪~♪~♪♪~」
ノノの歌声が、岩飛ばし達の戦意を大きく削ぎ、一体の岩飛ばしが戦意を喪失して立ち去る。
その後、槍使いが岩飛ばしの攻撃に対し反撃し二体を倒した。
ノノは歌って自分の傷を癒しながら攻撃し、槍使いと格闘家も岩飛ばしの体力を削る。
「これで、とどめよ!!」
そして、ディアーナが風の精霊魔法で岩飛ばしを一掃し、戦闘は終わった。
「さて、この辺にはもう、敵や罠の気配はないわね」
周囲には敵や罠の気配はなかった。
ディアーナ達は先に進むと、有毒ガスを噴き出す場所に差し掛かり、ディアーナ達は迂回する。
そして迂回した先に、遺跡のボス・デーモンの姿があった。
強敵だが、皆で協力すれば倒せない敵ではない。
ディアーナとノノはそれぞれ身構えて、デーモンに戦いを挑んだ。
「せいやぁっ!」
「♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~」
格闘家とディアーナはデーモンに突っ込んで攻撃する。
ノノは歌声で味方の士気を上げた。
「ナイス、ノノ!」
ディアーナは水の精霊を呼び出し、大波でデーモンを流し、槍使いも追撃する。
「きゃっ! このぉっ!」
直後にディアーナはデーモンの爪を受け、傷を負う。
ディアーナは双剣を振り、デーモンに反撃した。
槍使いもデーモンの攻撃に反撃し、ノノは歌でディアーナを回復させる。
そして、格闘家がデーモンに突っ込んで連続攻撃を行い、デーモンを撃破した。
「あ~、遊んだ遊んだ!」
「たのしかったねー!」
ディアーナとノノは、意気揚々と遺跡を出た。
見捨里市では絶対に楽しめない冒険だったため、二人の機嫌はとても良い。
「なんだか、楽しんだらお腹空いちゃったわ」
「じゃあ、レストランにいこー! いこー!」
「ふふ、そうね。何を食べようかしら」
そうして、二人は疲れを取るため、レストランに行くのだった。
全てが終わった時、この路地裏もやがては衰退して消える。
だが、この世界で過ごした事は、無駄ではない。
ディアーナはしばらくの間、見捨里市での時を楽しむのだった。
人間が怪と密かに戦うのであれば、怪も密かに暮らす。
これが、ポリシーなのです。