怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

見捨里市で動物が石化する異変を解決するため、
勇気、謎の少年、ディアーナは時のトンネルを潜り、古代ギリシャへと向かった。
そこで、三人は半人半蛇の怪、メデューサと遭遇した。
彼女の姿を見た者は、魔力を持たなければ石化してしまう。
メデューサを倒すためには彼女に自身の顔を見せるのが必須だが、
既に弱点を見破られ、鏡は割られていた。
鏡の代わりになるカメラも壊れ、メデューサも見捨里市に向かい、
勇気達は絶体絶命の危機に陥った。


6 - 勇気の決断

 勇気とディアーナは地面に落ちた。

「まただ、痛たたた……」

 見上げると、空中に大きな×印状の罅が浮かんでいる。

「ここは?」

 勇気とディアーナは周りを見る。

 そこは、見捨里小学校の校舎だ。

 校舎の壁にかけられた時計の針は、夜の8時過ぎを指していた。

 勇気とディアーナが書斎で少年と会った時から、ほとんど時間は経っていないようだ。

 

「勇気、エルフ、これを見て」

 声に反応し、前を見ると、少年がいた。

 少年の横には、像が立っている。

「あんなところに石像なんてあったっけ?」

 勇気とディアーナは目を凝らして見てみた。

ああ!

 像は、両手を上げて驚いた表情のまま石になった、原末先生だ。

「先生!」

「とうとう人間も被害者に……」

 勇気は原末先生の元へ駆け寄る。

「残業をしてて、メデューサに会ってしまったんだろうね」

「そんな! 先生、いつも怒ってばかりで大嫌いだったけど、こんな姿になるのは嫌だよ!」

 勇気はショックで石像になった原末先生に抱きついた。

「とにかく、メデューサを倒すんだ」

「メデューサを倒せば何とかなるわ」

僕がカメラを壊したからだ! 先生、ごめんなさい!!

しっかりしろ真之勇気! お前が泣いてたら、お前の名前が泣くぞ!

 それを聞き、勇気は我に返った。

「勇気、エルフ、君達だけがこの町を救えるんだ」

「分かったわよ……」

 勇気は原末先生から離れると、拳をぎゅっと握り締めた。

 少年とディアーナは、校舎の方を見た。

「このまま何も持たずに戦っても勝ち目はない。カメラを探そう」

「そんなの探してる暇ないよ?」

「カメラを壊したのは君だよ」

「ぐっ、それは」

「まあいい、だったら鏡だ。それならすぐ見つかるだろ?

 上手く割られないようにすれば、メデューサを倒せるかもしれないからね」

「あたし、メデューサを探すわ」

 ディアーナは双剣を構える。

 少年は鏡を手に入れるために、校舎に入ろうとした。

 

きゃあああ!

 校舎の横から、悲鳴が聞こえた。

「誰かがメデューサに襲われてるんじゃ?」

「勇気!」

 勇気は慌てて声がした方へ走り、少年も勇気を追う。

 勇気は、校舎の端までやってくると、声のした方を見つめた。

 飼育小屋の前に、メデューサがいる。

 襲われているのは、羽心だ。

「羽心!」

「……酷い、女を襲うなんて!」

 羽心は、這うように逃げていた。

 今はメデューサに背を向けているが、目を見て石にされてしまうのも時間の問題だ。

「助けなきゃ!」

「当然よ!」

 勇気とディアーナは羽心の下へ駆け出した。

 だがそんな勇気とディアーナに、少年が立ち塞がった。

「やめろ! 今はカメラか鏡を探すのが先だ!」

「あの子を見殺しにするわけ?」

「彼女は諦めろ! 君達が犠牲になったら町が全滅するぞ!」

 少年の言葉に頭にきたディアーナは、双剣を抜き放った。

「怪を倒しても人を守れないなんて、何の意味もないわ」

「そうだ。僕の名前は、真之勇気なんだ!

 勇気とディアーナは少年の身体をすり抜けると、羽心の下へ走った。

「勇気、エルフ!」

 少年が呼び止めるが、勇気とディアーナは振り向く事なく走り続ける。

「目を閉じなさい!」

 勇気とディアーナは、這って逃げる羽心に駆け寄った。

 

「メデューサ、もう来たわね」

 蛇達が髪になったメデューサが、不気味な音を立てて背後から迫ってくる。

「勇気、私、動物を撮影しようと思って……」

 羽心の横には、スマホが落ちていた。

「無茶しちゃって……いい? 何があっても目は閉じなさい」

「わ、分かった!」

 勇気とディアーナは背中に羽心を庇い、振り返った。

ガアアアアアアア!!

 目を合わせないよう、視線を落とした勇気とディアーナの耳に、

 メデューサが迫る音が聞こえる。

 不気味な蛇の音がゆっくりと近づいてくる。

「羽心! 僕の合図で目を閉じたまま立ち上がって走るんだ!」

「う、うん!」

 その時、メデューサの叫び声が上がった。

 メデューサの巨大な蛇の身体と地面をこする音が迫ってくる。

 

かぜよ、ふきあれろ!

 ディアーナは呪文を唱え、竜巻を起こして攻撃する。

 彼女の決意が乗った竜巻は、メデューサをずたずたに切り刻んだ。

 その派手な威力に勇気は驚くが、メデューサを倒すためならばこちらも負けてはいられない。

 勇気はメデューサに思い切り頭突きし、傍にあった石を投げつけてメデューサを怯ませる。

「今だ!」

 勇気はその隙を突いて、羽心の傍に落ちていたある物を手に取った。

「動け、早くっ!」

 震える指先で、必死にある物を動かす。

 そんな勇気と、ディアーナに向かって、メデューサが襲いかかった。

「これを見ろ!」

 しかし、それより一瞬早く、勇気が眼前にある物を突き出した。

 それは、スマホだ。

 画面に、メデューサの瞳が映っている。

 スマホを操作し、カメラのレンズを画面の方に切り替えたのだ。

ガアアアアアア!!

 自分の目を見たメデューサが、咆哮した。

 頭に生えた無数の蛇も悶え苦しみながら、固まっていく。

 完全に石になったメデューサが地面に倒れた。

 メデューサが粉々に砕け散り、黒い煙が辺りに四散した。

 

「やった!」

「……あたし達の勝ちね……」

「ゆ、勇気……」

 羽心は、ふらふらになりながらも勇気とディアーナの方を見た。

「羽心、無事で良かった」

「こ、怖かっ……うっ、ひぐ……」

 いつも強気な羽心が泣き出して、勇気は驚いて肩を支えた。

 

「勇気、エルフ、信じられないけど、見事だったね」

 少年とディアーナが勇気の傍にやってきた。

「本当に、倒せたの?」

「ああ、罅も消えたよ」

 少年はふと、勇気が持っているスマホを見る。

「ところで、それは何だい?」

「スマホだよ。カメラ機能を利用したんだ」

「ス・マ・ホ?」

「もしかして、知らないの?」

「この時代の事はあまり知らないね」

「どういう事?」

「さあ、何だろうねえ」

 勇気が尋ねるが、少年は話をはぐらかした。

 

「ジャネットに報告しましょう」

 ディアーナはそっと、勇気の傍から去っていった。

 

「おい、お前達、何をしてるんだ?」

 校庭から、原末先生が走ってきた。

 勇気は目を丸くして「あ!」と声を上げる。

「先生! 先生が元に戻った!」

「元にって、どういう事だ?」

「先生は、先生は石になってたんです!」

「はあ? 真之、またボォーッとしてたのか?」

「違います! さっき見たでしょ!」

 戸惑う勇気の傍に、少年が歩み寄ってきた。

「怪が消えれば、その怪が起こした全てはリセットされるんだ。

 つまり、怪の事を覚えているのは、君と……あのエルフだけという事だね」

「僕だけ? って事は、羽心も……羽心も何も覚えてないの?

 さっきあんな目に遭ってたのに、そんなはずないだろ……」

 勇気が驚いていると、羽心が首を捻った。

「勇気、一人で喋ってるの?」

 さっきまで泣いていたはずなのに、すっかりいつも通りだ。

「一人って、僕は今、彼と……」

「ああ、これも言ってなかったね。僕の事は、君と、怪と、妖精にしか見えないんだよ」

「あ? え?」

「勇気、本当に大丈夫?」

 羽心は眉を潜めている。

「ええっと、羽心こそ大丈夫なの? 怖かっただろ?」

「怖い? っていうか、私、どうしてこんな時間に学校にいるの?」

 周囲を見回した羽心は、原末先生が睨みつけているのに気づいた。

「それは先生が聞きたいね。真之、白鳥、こんな時間に学校で何をしてたんだ?」

「そ、それは……」

 勇気はどう説明すればいいのか分からず、しどろもどろになった。

 

「そろそろ帰るよ」

 少年はそう言うと、宙に浮かんだ。

「ちょ、ちょっと! 君は何者なんだよ?」

 勇気は慌てて少年の傍に駆け寄る。

「名前くらい教えてよ!」

「名前? それは好きに呼んでくれていいよ」

「好きにって!」

「そうだ。君が『勇気』だから、僕は逆の『キユウ』っていうのはどうかな?」

「何だよ、そのいい加減な名前は!」

「まあまあ、大事なのはそこじゃないから」

 キユウは浮かびながら、勇気をじっと見つめた。

 

「これは始まりに過ぎないよ。この町を救えるのは、君しかいないんだからね」

 キユウはそう言うと、そのまま空を飛んでいった。

 

「何なんだよ。どういう事なんだよ……」

 勇気は戸惑う。

 それは、6月の騒々しい夜だった。

 勇気は、ディアーナと、キユウと出会い、この町を守る使命を負った。




~次回予告~

メデューサは倒れ、勇気の最初の怪狩りは終わった。
あれが本当の事だったのかは、勇気とディアーナにしか分からなかった。
何故なら、メデューサを倒した事で、怪が存在しなかった事になったからだ。
謎の少年キユウによれば、これは始まりに過ぎないのだという。
そう、怪狩りはまだ、始まったばかりなのだ。
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