見捨里市で動物が石化する異変を解決するため、
勇気、謎の少年、ディアーナは時のトンネルを潜り、古代ギリシャへと向かった。
そこで、三人は半人半蛇の怪、メデューサと遭遇した。
彼女の姿を見た者は、魔力を持たなければ石化してしまう。
メデューサを倒すためには彼女に自身の顔を見せるのが必須だが、
既に弱点を見破られ、鏡は割られていた。
鏡の代わりになるカメラも壊れ、メデューサも見捨里市に向かい、
勇気達は絶体絶命の危機に陥った。
勇気とディアーナは地面に落ちた。
「まただ、痛たたた……」
見上げると、空中に大きな×印状の罅が浮かんでいる。
「ここは?」
勇気とディアーナは周りを見る。
そこは、見捨里小学校の校舎だ。
校舎の壁にかけられた時計の針は、夜の8時過ぎを指していた。
勇気とディアーナが書斎で少年と会った時から、ほとんど時間は経っていないようだ。
「勇気、エルフ、これを見て」
声に反応し、前を見ると、少年がいた。
少年の横には、像が立っている。
「あんなところに石像なんてあったっけ?」
勇気とディアーナは目を凝らして見てみた。
「ああ!」
像は、両手を上げて驚いた表情のまま石になった、原末先生だ。
「先生!」
「とうとう人間も被害者に……」
勇気は原末先生の元へ駆け寄る。
「残業をしてて、メデューサに会ってしまったんだろうね」
「そんな! 先生、いつも怒ってばかりで大嫌いだったけど、こんな姿になるのは嫌だよ!」
勇気はショックで石像になった原末先生に抱きついた。
「とにかく、メデューサを倒すんだ」
「メデューサを倒せば何とかなるわ」
「僕がカメラを壊したからだ! 先生、ごめんなさい!!」
「しっかりしろ真之勇気! お前が泣いてたら、お前の名前が泣くぞ!」
それを聞き、勇気は我に返った。
「勇気、エルフ、君達だけがこの町を救えるんだ」
「分かったわよ……」
勇気は原末先生から離れると、拳をぎゅっと握り締めた。
少年とディアーナは、校舎の方を見た。
「このまま何も持たずに戦っても勝ち目はない。カメラを探そう」
「そんなの探してる暇ないよ?」
「カメラを壊したのは君だよ」
「ぐっ、それは」
「まあいい、だったら鏡だ。それならすぐ見つかるだろ?
上手く割られないようにすれば、メデューサを倒せるかもしれないからね」
「あたし、メデューサを探すわ」
ディアーナは双剣を構える。
少年は鏡を手に入れるために、校舎に入ろうとした。
「きゃあああ!」
校舎の横から、悲鳴が聞こえた。
「誰かがメデューサに襲われてるんじゃ?」
「勇気!」
勇気は慌てて声がした方へ走り、少年も勇気を追う。
勇気は、校舎の端までやってくると、声のした方を見つめた。
飼育小屋の前に、メデューサがいる。
襲われているのは、羽心だ。
「羽心!」
「……酷い、女を襲うなんて!」
羽心は、這うように逃げていた。
今はメデューサに背を向けているが、目を見て石にされてしまうのも時間の問題だ。
「助けなきゃ!」
「当然よ!」
勇気とディアーナは羽心の下へ駆け出した。
だがそんな勇気とディアーナに、少年が立ち塞がった。
「やめろ! 今はカメラか鏡を探すのが先だ!」
「あの子を見殺しにするわけ?」
「彼女は諦めろ! 君達が犠牲になったら町が全滅するぞ!」
少年の言葉に頭にきたディアーナは、双剣を抜き放った。
「怪を倒しても人を守れないなんて、何の意味もないわ」
「そうだ。僕の名前は、真之勇気なんだ!」
勇気とディアーナは少年の身体をすり抜けると、羽心の下へ走った。
「勇気、エルフ!」
少年が呼び止めるが、勇気とディアーナは振り向く事なく走り続ける。
「目を閉じなさい!」
勇気とディアーナは、這って逃げる羽心に駆け寄った。
「メデューサ、もう来たわね」
蛇達が髪になったメデューサが、不気味な音を立てて背後から迫ってくる。
「勇気、私、動物を撮影しようと思って……」
羽心の横には、スマホが落ちていた。
「無茶しちゃって……いい? 何があっても目は閉じなさい」
「わ、分かった!」
勇気とディアーナは背中に羽心を庇い、振り返った。
「ガアアアアアアア!!」
目を合わせないよう、視線を落とした勇気とディアーナの耳に、
メデューサが迫る音が聞こえる。
不気味な蛇の音がゆっくりと近づいてくる。
「羽心! 僕の合図で目を閉じたまま立ち上がって走るんだ!」
「う、うん!」
その時、メデューサの叫び声が上がった。
メデューサの巨大な蛇の身体と地面をこする音が迫ってくる。
「かぜよ、ふきあれろ!」
ディアーナは呪文を唱え、竜巻を起こして攻撃する。
彼女の決意が乗った竜巻は、メデューサをずたずたに切り刻んだ。
その派手な威力に勇気は驚くが、メデューサを倒すためならばこちらも負けてはいられない。
勇気はメデューサに思い切り頭突きし、傍にあった石を投げつけてメデューサを怯ませる。
「今だ!」
勇気はその隙を突いて、羽心の傍に落ちていたある物を手に取った。
「動け、早くっ!」
震える指先で、必死にある物を動かす。
そんな勇気と、ディアーナに向かって、メデューサが襲いかかった。
「これを見ろ!」
しかし、それより一瞬早く、勇気が眼前にある物を突き出した。
それは、スマホだ。
画面に、メデューサの瞳が映っている。
スマホを操作し、カメラのレンズを画面の方に切り替えたのだ。
「ガアアアアアア!!」
自分の目を見たメデューサが、咆哮した。
頭に生えた無数の蛇も悶え苦しみながら、固まっていく。
完全に石になったメデューサが地面に倒れた。
メデューサが粉々に砕け散り、黒い煙が辺りに四散した。
「やった!」
「……あたし達の勝ちね……」
「ゆ、勇気……」
羽心は、ふらふらになりながらも勇気とディアーナの方を見た。
「羽心、無事で良かった」
「こ、怖かっ……うっ、ひぐ……」
いつも強気な羽心が泣き出して、勇気は驚いて肩を支えた。
「勇気、エルフ、信じられないけど、見事だったね」
少年とディアーナが勇気の傍にやってきた。
「本当に、倒せたの?」
「ああ、罅も消えたよ」
少年はふと、勇気が持っているスマホを見る。
「ところで、それは何だい?」
「スマホだよ。カメラ機能を利用したんだ」
「ス・マ・ホ?」
「もしかして、知らないの?」
「この時代の事はあまり知らないね」
「どういう事?」
「さあ、何だろうねえ」
勇気が尋ねるが、少年は話をはぐらかした。
「ジャネットに報告しましょう」
ディアーナはそっと、勇気の傍から去っていった。
「おい、お前達、何をしてるんだ?」
校庭から、原末先生が走ってきた。
勇気は目を丸くして「あ!」と声を上げる。
「先生! 先生が元に戻った!」
「元にって、どういう事だ?」
「先生は、先生は石になってたんです!」
「はあ? 真之、またボォーッとしてたのか?」
「違います! さっき見たでしょ!」
戸惑う勇気の傍に、少年が歩み寄ってきた。
「怪が消えれば、その怪が起こした全てはリセットされるんだ。
つまり、怪の事を覚えているのは、君と……あのエルフだけという事だね」
「僕だけ? って事は、羽心も……羽心も何も覚えてないの?
さっきあんな目に遭ってたのに、そんなはずないだろ……」
勇気が驚いていると、羽心が首を捻った。
「勇気、一人で喋ってるの?」
さっきまで泣いていたはずなのに、すっかりいつも通りだ。
「一人って、僕は今、彼と……」
「ああ、これも言ってなかったね。僕の事は、君と、怪と、妖精にしか見えないんだよ」
「あ? え?」
「勇気、本当に大丈夫?」
羽心は眉を潜めている。
「ええっと、羽心こそ大丈夫なの? 怖かっただろ?」
「怖い? っていうか、私、どうしてこんな時間に学校にいるの?」
周囲を見回した羽心は、原末先生が睨みつけているのに気づいた。
「それは先生が聞きたいね。真之、白鳥、こんな時間に学校で何をしてたんだ?」
「そ、それは……」
勇気はどう説明すればいいのか分からず、しどろもどろになった。
「そろそろ帰るよ」
少年はそう言うと、宙に浮かんだ。
「ちょ、ちょっと! 君は何者なんだよ?」
勇気は慌てて少年の傍に駆け寄る。
「名前くらい教えてよ!」
「名前? それは好きに呼んでくれていいよ」
「好きにって!」
「そうだ。君が『勇気』だから、僕は逆の『キユウ』っていうのはどうかな?」
「何だよ、そのいい加減な名前は!」
「まあまあ、大事なのはそこじゃないから」
キユウは浮かびながら、勇気をじっと見つめた。
「これは始まりに過ぎないよ。この町を救えるのは、君しかいないんだからね」
キユウはそう言うと、そのまま空を飛んでいった。
「何なんだよ。どういう事なんだよ……」
勇気は戸惑う。
それは、6月の騒々しい夜だった。
勇気は、ディアーナと、キユウと出会い、この町を守る使命を負った。
~次回予告~
メデューサは倒れ、勇気の最初の怪狩りは終わった。
あれが本当の事だったのかは、勇気とディアーナにしか分からなかった。
何故なら、メデューサを倒した事で、怪が存在しなかった事になったからだ。
謎の少年キユウによれば、これは始まりに過ぎないのだという。
そう、怪狩りはまだ、始まったばかりなのだ。