怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

コティングリー妖精事件をきっかけに、妖精王子プーカが勇気達の仲間になった。
プーカは星のグローブを羽心に渡し、ようやく彼女も勇気と共に戦う道を選ぶ。
勇気は当初、一人でも怪狩りができると思っていたが、
鵺との戦いを機に、羽心を仲間として認める。
羽心もまた、勇気との仲の良さを完全に取り戻した。
そして、勇気が精神的に成長した時、夢の中の神殿で、キユウと出会う。
あの時、キユウは、消滅していなかったのだ。


episode5 - The approaching nightmare ~ 彷徨う怪達
1 - 奇妙な男女


「あの夢は、一体何だったんだろう……」

 放課後。

 勇気は、学校から帰って来ると、いつものように書斎にこもっていた。

 傍には本が何冊も積み上がっていて、その山を見て勇気は溜息を漏らす。

 

 先日、勇気は奇妙な夢を見た。

 それは、邪鬼によって消されてしまったと思われていたキユウが、

 ピラミッドのような建築物の頂上にある神殿の前に立っているというものだ。

 キユウは勇気の方を見て、何かを言おうとしていた。

 彼が何を言おうとしていたのかは分からない。

「だけど、あれはただの夢じゃない……」

 キユウはあの神殿の前で、勇気が来るのを待っているのかもしれない。

 勇気は夢を見てからというもの、毎日父親の書斎で怪奇現象や超常現象の本を調べ、

 あの建築物を見つけ出そうと思っていた。

 しかしどれだけ調べても、全く手がかりは得られなかった。

 

 今日も成果はゼロだ。

「もしかしたら、キユウはあそこに捕らえられていて苦しんでるのかも」

 一刻も早く、あの建築物を見つけ出してキユウを助けたい。

 それなのに手がかりがない。

 勇気は、日に日に焦るようになっていた。

 

「まあまあ、落ち着いテ。焦っても何もいい事ないと思うゾ」

 プーカが飛びながら、ドアの隙間から部屋に入ってきた。

 くるみパンを大事そうに抱えている。

「プーカ、また勝手にリビングに行ったの?」

「安心しロ。キミのお母さんには見つからないようにパンを取ったかラ」

「見つからないって、あのねぇ!」

 プーカは、目を離すとすぐにリビングへ行ってくるみパンを取って来る。

 最初はバレないように必死に隠れながら移動していたが、最近は堂々と家の中を飛んでいる。

「お母さんに見つかったら、何て言えばいいんだよ」

「だから大丈夫だっテ。見つかったら見つかったで、友達になればいいだけだしネ」

「友達って。怪と人がそう簡単に友達になれるわけがないだろ!」

 幻想郷じゃあるまいし、プーカを見たら、母親はきっと悲鳴を上げるだろう。

「今度からくるみパンが欲しい時は僕に言って。取って来るから」

 勇気は溜息交じりにそう言った。

 その時、ドアが開いた。

「やばい!」

 勇気は母親が入ってきたのだと思い、飛んでいるプーカを掴むと、ポケットに入れた。

「いやあ、今日は天気がよくて暖かいねえ。あっ、ポケットには何も入ってないよ。

 ちょっと寒いかもって思って、手を入れてるだけだから」

 勇気は下手な作り笑いをしながら、ポケットに入れた手をアピールする。

 すると、入ってきた人物が大きな溜息を漏らした。

 

「言ってる事が滅茶苦茶なんだけど」

 

「えっ?」

 ドアの前に立っていたのは、羽心だった。

「おい、妖精をいきなりポケットに突っ込むのはよくないゾ!」

 プーカが怒りながらポケットから出て来る。

「いやあ、あの、あはは。ところで羽心、今日はどうしたの?」

 勇気は笑って誤魔化しながら、話題を変えた。

 すると、羽心は険しい表情になった。

 そんな羽心を見て、勇気はハッとする。

「まさか」

「そう、そのまさかよ」

 羽心は勇気をじっと見つめた。

 

「町にまた、怪現象が現れたわ」

 

 その頃、ディアーナとジャネットは、見捨里市に襲撃してくる怪の話をしていた。

 それは、見捨里市に襲撃してくる怪の話である。

 だが、危機感を抱く勇気達とは裏腹に、ディアーナとジャネットは楽天的だった。

「ジャネットはフランスの英雄だっけ?

 あたし、イギリスに行った事はあるけど、フランスに怪なんていたかしら?」

「遠回しに私を見下す気ですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 ディアーナはネッシー、ファフロツキーズ、コティングリーと、

 かつてフランスと敵対していたイギリスに行く事が多かったため、

 フランスに怪は存在しないのかと思っていた。

 ジャネットはかつての事を思い出して眉を(ひそ)める。

「人間でも怪になる事はありますか?」

「あるわ」

「なら、ジルも怪の素質はありますね」

 「ジル」とは、童話「青髭」のモデルになったと言われている、ジル・ド・レイの事だ。

 ジャネットことジャンヌ・ダルクの戦友だったが、

 彼女が魔女として火炙りとされた事から正気を失い、狂ってしまったのだという。

「じゃあ、ジルもツタンカーメンみたいに、怪になる可能性はあるのね?」

「絶対にないとは言い切れません。……ところで、話は変わりますが」

「何?」

「ディアーナ、今日は仕事を休んでも構いませんよ」

「ホント? やったぁ!」

 ジャネットから休息を貰って、喜ぶディアーナ。

「その代わり、仕事に行く人は自分から立候補してもらいますよ」

 つまり、今日の仕事は立候補制である。

 行くのも自由であり、行かないのも自由なのだ。

 

「じゃあ、ノノがいく!」

 最初に立候補したのは、ノノだった。

 彼女は鳥に変身する事で高い飛行能力を得る事ができ、歌を歌って味方を鼓舞する事ができる。

 サポート役としてこれほど役に立つ怪はいない。

「儂も行こう、ノノだけでは不安じゃからな」

 次に立候補したのは、チェイニーだった。

 ノノはまだ幼いため、怪の中でも攻撃力と実力が高い彼が同行する事にしたのだ。

「よろしい、ノノとチェイニーが行くのですね」

「うん! ジャネットおねえちゃん、ノノ、がんばって『かいがり』するからね!」

「一刻も早く事件を解決する事、それが儂らの仕事じゃ」

 元気いっぱいのノノと、落ち着いた様子のチェイニー。

 対照的だが、怪狩りに向かう気持ちは同じだ。

 

「じゃあ、あたし達は留守番ってわけね」

「怪我するんじゃないぞ、ノノ、チェイニー!」

 ディアーナとアプリルは、今日は路地裏の建物で留守番する事になった。

 二人は勇気と羽心、そしてプーカに同行しようとするノノとチェイニーを笑顔で見送った。

 

「あ、そういえば、ジャネット……どんな怪が出てくるか、分かってるの?」

「ええ、私には御見通しですよ」

 ジャネットはにっこりとディアーナに微笑んだ。

 

「ここが現場よ。あら、ノノちゃんにチェイニーさんも来てるのね」

 勇気は羽心と共に、住宅地の路地にやってきた。

 既に現場には、ノノとチェイニーも来ている。

「うん。ノノ、しごとしにきたんだ」

「ノノだけでは心許ないからのぅ」

 昨日ここで、部活帰りの三人の中学生が奇妙な男女に襲われそうになったのだ。

「その二人は死んだような青色の顔をしていて、

 フラフラと歩きながら、中学生を捕まえようとしてきたらしいの」

「怪の力を受けてそうなったって事なのかな?」

「さあ、それはまだ分からないけど」

「青色の顔ねェ」

 プーカは四人の傍を飛びながら、「う~ン」と唸った。

「プーカ、どんな怪の力か知ってるの?」

「勇気クン、まあ待つんダ。焦っても何もいい事ないと思うゾ」

「?」

「またそのセリフ?」

「とりあえず、調べてみましょう」

「あ、うん、そうだね」

 勇気達は路地を歩き出そうとした。

 

「助けてえ!」

 突然、路地の向こうから、一人のおばさんが走ってきた。

「どうしたんですか?」

「変なカップルがいたの!」

「それは、青い顔のフラフラと歩く人か?」

 チェイニーの言葉に、おばさんは何度も大きく頷いた。

「路地を曲がったところにいたわ!」

「羽心!」

「ええ!」

「いっくよー!」

 勇気、羽心、チェイニーは同時に角へと走り、ノノは鳥に変身して空を飛んだ。

 

「ここだ!」

 勇気達は路地の節を曲がると、身構えながら道路を見た。

 しかし、誰もいない。

「移動したのかしら?」

「まだ近くにいるはずだ」

 三人はさらに路地を歩き、ノノは空を飛び続ける。

 

「えっ?」

 角のところで、一人の男の人が蹲っていた。

「あの人、何だかヤバそうだゾ」

「もしかして不気味な男達に襲われたのかも!」

 勇気達は男の人の下へ駆け寄った。

「あの、大丈夫ですか?」

「救急車、呼んだ方がいい?」

 勇気と羽心は、男の人の様子を確認しようと顔を覗き込んだ。

 

「……!」

 瞬間、三人は目を大きく見開いた。

 男の人の顔は、死んだような青色だったのだ。

アアアァァ

 男はフラフラしながら立ち上がると、唸り声を上げながら手を伸ばし、

 勇気達を捕まえようとしてきた。

「こいつが不気味な男だ!」

 勇気達は、慌ててその男から離れようとする。

 だがその時、羽心の背中が誰かとぶつかった。

 見ると、背後に死んだような青色の顔をした女が立っていた。

ウウゥウゥ

 女は虚ろな目で呻き声を上げながら、 羽心を捕まえようとする。

「嫌あああ!」

「やめてっ!」

 ノノは変身を解除し、女を蹴り飛ばす。

「はやく、にげて!」

「場合によっては戦いも必要じゃな」

 チェイニーは血液から槍を生み出し、女を突き刺す。

ウウウゥ

 女が怯んだ隙に、勇気と羽心、チェイニーはその場から駆け出し、ノノは空を飛んだ。

 

「何なんだ、あの怪現象は?」

「勇気、見て!」

 羽心は走りながら、空を指差した。

「ああ!」

 空に、×印状の罅が浮かんでいる。

 罅の中で、黒い煙がゆらゆらと揺らめいていて、罅はかなり大きくなっていた。

 その罅の中から、何かが這い出ようとしていた。

アアァアア

 それは、青色の顔をした不気味な人間だ。

「あれは怪現象じゃなイ! 怪そのものだゾ!」

 プーカが四人にそう言った。

「ジャネットはお見通し……分かっていたのじゃな……」

 チェイニーがそう呟くと、罅から這い出た不気味な人間が、地面に落ちる。

 不気味な人間は、フラフラとしながら立ち上がると、勇気達の方へと歩いてきた。

「逃げろ!」

 勇気は羽心達を連れて、走り出した。

「怪が直接こっちの時代に出て来たってことか」

「ねえ、邪鬼の力が強まってるんじゃないの?」

「……」

「そんな! だけどあれは何なんだ?」

 勇気の焦る声に、プーカが反応した。

 

思い出したゾ。あれは『ゾンビ』ダ!

 

「それって映画とかドラマに出てくるあのゾンビって事?」

「テレビ? 映画だっテ? それはよく分からないけど、奴らはゾンビで間違いないゾ」

 プーカの言葉に、羽心は走りながら頷いた。

「死んだような青色の顔に、虚ろな目、それにフラフラとした歩き方。

 プーカの言う通り、あれはゾンビよ」

「くっ、ゾンビが来るなんて……」

「えー、じゃあディアーナおねえちゃん、こなくてよかったのかな」

「暢気に言ってる場合じゃないだろ!」

 メデューサがこちらの世界に来た時以来の大事件だ。

 このままでは、見捨里市がゾンビだらけになってしまう。

「羽心、家に戻るぞ! どんな怪か分かれば倒す事ができるはずだ!」

「ノノたちも、いくよ!」

 怪を倒せば、全てが元に戻る。

 町に現れたゾンビ達も消えるのだ。

 勇気達は家へと向かった。




~次回予告~

見捨里市に現れたゾンビ。
怪奇現象ではなく、怪が直接現れるようになったという事は、
邪鬼の力が強まっている可能性が高い。
見捨里市を救うためにも、勇気達は怪を止めなければならない。
勇気達が向かったのは、アメリカの場所の一つ、エリア51だった。
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