勇気はキユウが現れた夢を探るため、書斎で調査をしていた。
だが、一向にキユウに関する手掛かりが見つからなかった。
そんな時、見捨里市に不気味な男女――ゾンビが現れる。
今までは怪奇現象が起きるだけだったが、今回はゾンビそのものが見捨里市に現れた。
きっと、邪鬼の力が強まっているのだろう。
そう判断した勇気達は、大急ぎで時空を超えて現場に向かおうとしていた。
勇気達は家に帰って来ると、書斎に駆け込んだ。
「ゾンビの弱点……ゾンビの弱点……」
「燃やせればいいのじゃがな……」
勇気達は、倒すための道具を探す。
すると、プーカが口を開いた。
「ゾンビの弱点は頭だゾ」
「頭?」
勇気と羽心は同時に首を傾げた。
チェイニーは、うむ、と頷いた。
「儂の槍さえあれば、ゾンビを一撃で仕留められるぞ」
「その前に、どうすればいいんだよ」
「そうだ! 音はどうかしら?」
羽心が勇気達を見た。
「音ってどういう事?」
「以前本で読んだ事があるの。
ゾンビには意思はなくて、ただ音の鳴る方に動く習性があるって」
「そう言われれば、確かに意思はなさそうだったよね」
「でしょ。音を鳴らして上手く誘導して、チェイニーさんが頭を攻撃した後、
海や池に沈めれば倒せるんじゃない?」
「なるほド。羽心チャン、ナイスアイデアだゾ!」
「儂も手伝うぞ」
「音か……」
勇気は書斎の中を眺めた。
すると、棚に飾られていたある物が目に留まった。
「これならいけるかも!」
それは、民芸品の『横笛』だ。
「いいわね。笛なら遠くまで音が聞こえるものね!」
「ノノもうたえるから、うたうよ!」
横笛とノノ、二つの音があれば、ゾンビを撃退できるはずだ。
勇気は両手に太陽と月のグローブを嵌めると、横笛を手に取った。
「羽心も!」
「うん!」
羽心は、ポケットから、星のグローブを取り出す。
そして、それを右手に嵌めた。
「よし、行こっ!」
プーカが勇気の服の胸ポケットに入る。
勇気は、壁に近づくと、左手をかざして呪文を唱えた。
「
次の瞬間、壁に大きな光の渦ができた。
勇気、ノノ、チェイニーは、光の渦の中に飛び込む。
羽心もそんな勇気達を見ながら、その後に続いた。
勇気、羽心、ノノ、チェイニーは、光のトンネルの中で必死にバランスを取る。
目が回るし、頭が回る。
それでも四人は前を見つめた。
やがて、光のトンネルの奥に、地面が見えてきた。
「はっ!」
勇気、羽心、ノノ、チェイニーは、綺麗に着地をした。
「おお~、見事だねェ!」
「完璧でしょ!」
羽心は勇気のポケットから顔を出したプーカに、笑顔でピースをした。
ノノとチェイニーも、笑みを浮かべる。
一方、勇気は周りの景色を確認していた。
「ここはどこなんだ?」
照り付ける太陽の下、見渡す限り荒れた大地が広がっていた。
遠くに、道路が見える。
道路は果てしなく真っ直ぐ延びていて、車は走っていない。
かなりの田舎のようだ。
「ねえ、あそこ!」
羽心は、道路の向こうを指差した。
そこには、いくつかの家が見えていた。
「行ってみよう」
勇気達は、慌てて駆け出した。
「ここは、町だよね……?」
建物の傍までやってきた勇気達は首を傾げた。
小さな家が、ポツンポツンと10軒ほど建っている。
その家の近くに車が止まっているが、人の姿はない。
「町にしては小さすぎるような気がするけど」
その時、建物の隣から、ワンピースを着た、勇気達と同じぐらいの歳の少女が現れた。
「あなた達は誰?」
「ええっと、僕達は……」
「もしかして、あなた達も親を連れ戻しにきたの?」
「なに、おやを?」
「『あなた達も』とは、どういう意味じゃ?」
チェイニーが尋ねると、少女は正面に見える一軒の家を見た。
「私のパパ、あそこで『宇宙人ホテル』を経営しているの」
「宇宙人ホテル?」
家の前には看板があり、宇宙人のようなイラストが大きく描かれている。
「ええっと、ここはどこ?」
「どこって、レイチェルの町よ」
「レイチェルって言われても、流石にそれだけじゃ分からないよ」
勇気が困った顔をすると、隣にいた羽心が口を開いた。
「宇宙人……レイチェル……そっか、ここがどこか分かったかも」
「えっ? どこなんだ?」
「『エリア51』の近くよ!」
「えええ!?」
「なるほど」
勇気は驚きながら羽心を見た。
「それって、宇宙人の秘密基地があるっていう軍の施設だよね?」
「そう、アメリカで有名なUFOスポットよ!」
勇気も世界の不思議に関する本などで、その名前を何度も見た事があった。
~エリア51~
アメリカのネバダ州にある空軍基地。
この基地の近くでは、UFOの目撃情報が多く、軍と宇宙人が極秘に手を組み、
UFOの飛行実験を行っているのでは、と噂されている。
一般人は近づく事ができず、もし禁止エリアを越えて侵入すると、
警備員に発砲される恐れもあるという。
「私には、エリア51の近くに、UFO好きの人達が作った町があるって書いてあったよ」
「そう、それがこのレイチェルの町よ」
羽心の言葉に、少女は大きく頷いた。
話を聞くと、彼女はアリスといい、勇気達より1歳年下だった。
今は、1990年らしい(つまりアリスの生年は1979年)。
2~3年ほど前から、この辺りでUFOがよく目撃されるようになり、
エリア51が注目されるようになったという。
アリスの父親は、元々アリス達家族と一緒にサンフランシスコで暮らしていた。
だが、2年前にUFOブームを知ると、一人でレイチェルの町に引っ越してしまい、
ホテル兼お土産屋を始めたのだという。
「パパ、すぐに帰るって言ったんだけど」
2年経っても、全然帰って来る気配がないという。
そのため、アリスと母親が呼び戻しにきたのだ。
「2年も帰って来ないなんて、随分いい加減なお父さんね」
羽心は、アリスの父親の行動に呆れる。
その中、勇気は苛立ったような表情を浮かべた。
「家族が待ってるのに帰って来ないなんて、そんなのよくないよ」
「勇気……」
勇気の父親は、勇気が2歳の時、出張中に事故に遭って死んでしまっていた。
勇気は今でも父親に会いたいと思っていた。
そのため、家族のもとへ帰らないアリスの父親の行動に腹が立ったのだ。
すると、宇宙人ホテルから二人の大人が出てきた。
「ママ、パパ!」
アリスは二人に声をかける。
どうやらアリスの母親と父親のようだ。
「アリス、あなたからも言ってちょうだい。この人、宇宙人は本当にいるって言うのよ!」
「ええ? パパまだそんな事言ってるの?」
「アリス、パパはここに住んでよ~く分かったんだ!
この世の中にはね。僕達がまだ知らない存在や現象がたくさんあるんだ。
軍は何かを隠してるって、ポールが言っていたからねぇ」
「ボール?」
「ああ、この町に住んでいるバンドマンだよ~!」
父親は少し離れた場所に見えるトレーラーハウスを指差した。
「ポールは自分の作った音楽を宇宙人に聞かせるために、この町に引っ越してきたんだよ。
トレーラーハウスは完全防音になっててねぇ、
彼は毎日『宇宙人ラブラブロック』という歌を練習しているんだよ~」
「何それ?」
「ポールが作った名曲さ。宇宙人も~地球人も~みんなラブラブでロックを歌おう~♪
この町のみんなは~宇宙人が大好き~♪」
「みんなだいすきうちゅうじん~♪」
父親はノリノリで歌を歌う。
ノノもそれに合わせて歌った。
「何だか妙にテンションが高い人だね……」
勇気達は、戸惑いながら父親を見た。
「おや、君達は観光客かい?」
「うん!」
父親は満面の笑みを浮かべて、勇気達の下へやってきた。
「お土産にエリア51クッキーはどうだい? 宇宙人キーホルダーもあるよ!
今なら三つ買ったら一つオマケするよ~」
「かうかう~!」
「いや、ええっと、その」
そんな父親を見て、アリスが声を上げた。
「もうパパ、やめて! 宇宙人なんかいるわけないでしょ!
あなた達からもそんなのいないって言ってあげて!」
アリスはそう言うが、勇気は困ったような表情を浮かべた。
「エリア51にUFOとか宇宙人がいるかどうかは分からないけど、
この世の中には僕達がまだ知らない存在や現象があるのは事実だよ」
勇気は、キユウと出会い、今まで様々な怪と遭遇してきた。
「地底人とかもいたもんね」
羽心もその時の事を思い出して、身震いした。
「宇宙人はまだ出会った事はないけど、宇宙人型のロボットは会った事があるよ」
それは、フラットウッズ・モンスターの事だ。
「ノノ、とりさんだよ」
「儂は神じゃがな。エルフや英霊もいたぞ」
「それに、オイラもいるしネ」
プーカが勇気の服の脇ポケットから顔を出して笑った。
「おおお、何だいそれは~?」
「えっ、あ、いやあ、ただのオモチャです!」
勇気は慌ててプーカをポケットの中に押し込んだ。
「君が出てきたら話がややこしくなるだろ……!」
「いやあ、ついアピールしたくテ」
「何なのよ!」
突然、アリスが声を荒らげた。
「あなた達もここに来てるって事は、宇宙人が好きって事だもんね!」
アリスは勇気達を睨んだ。
「えっと、僕達は宇宙人が好きなわけじゃなくて」
「そうよ。怪奇現象全般が好きなだけよ!」
「羽心!」
「もういい!」
アリスは頬を膨らませると、母親の傍に駆け寄った。
「ママ、帰ろう。パパなんか知らない!」
「アリス、いいの?」
「いい! 早く帰ろう!」
母親は戸惑いながらも、仕方なく帰る事にした。
「羽心、余計な事言っちゃだめだろ」
「私は正直に言っただけよ」
「ああもう!」
「……交渉失敗じゃな」
勇気は、アリスの父親の方を見た。
「とにかく、二人を引き止めて下さい。これじゃあ、本当に家族と会えなくなっちゃいますよ!」
家族がいつまでも一緒にいられるとは限らない。
父親のいない勇気には、それが痛いほど分かっていたのだ。
しかし、父親は明るい調子でこう言った。
「そんな事より、今は君達がお土産を買う事の方が重要だろ~!」
「えええ?」
「君達、今夜この町に泊まるだろ? だったらウチに泊まったらどうだい?
親御さんはどこにいるのかな~?」
父親はアリス達を放って、勇気達に営業を始めた。
「何なんだ、この人……」
「アリスちゃんが怒るのも無理ないわよね」
勇気と羽心は、父親の態度にゲンナリしてしまう。
その中、プーカがポケットの中から小声で話しかけてきた。
「ところで、ゾンビはどうなったんだイ?」
「そう言われれば!」
時空を超えてこの場所に来たのは、ゾンビを倒すためだったのだ。
「ゾンビなんてどこにもいないわよね?」
「あの、この辺りでゾンビを見ませんでしたか?」
勇気は父親に尋ねた。
「ゾンビ? おいおい、この辺りでって、まさかゾンビがいるのかい?」
「ええ、多分いるはずなんです」
「おおお、それは凄い! 宇宙人にゾンビ! これはさらに儲かるぞお!」
父親は一人で盛り上がった。
「商売の事ばかりじゃな……」
「だけど、ゾンビの事は知らないようね。この辺りにいるわけじゃないのかも」
「だったら、どうして時のトンネルが繋がった先がここだったんだ?」
「えー、わからないよ」
勇気達はどこを探せばいいのか分からなくなってしまった。
「大変よ!」
その時、アリスと母親が走って戻ってきた。
「どうしたの?」
勇気が尋ねると、二人は道路の方を指差す。
何台もの車が列になって道路を走っているのが見えた。
どれも物々しい雰囲気を漂わせた緑色の大型車だ。
「どうして軍の車が?」
父親は目をパチクリさせた。
「軍って、アメリカの軍って事?」
「油断禁物じゃぞ」
勇気達が戸惑っていると、軍の車が町の入り口で停車した。
そして、銃を持った兵士達が降りてきた。
~次回予告~
エリア51に、大量のゾンビが現れた。
もし襲われれば、どうなってしまうのかは分からない。
ゾンビを倒すため、アメリカ軍は戦いを挑むが……。