怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

エリア51に現れたゾンビは、勇気達の活躍で退散する。
異変の真相は、金髪のゾンビを邪鬼が操ってゾンビ達のリーダーにしたからであった。
そして、金髪のゾンビは消滅する間際、意味深な言葉を勇気達に残す。
どうやら邪鬼は、怪にとっての神らしいが……?


episode5 - The approaching nightmare ~ 呪いの歌声
1 - 謎の歌声


 真夜中。

 小学4年生の田山守は、薄暗い家の廊下を歩いていた。

(こんな時間にトイレに行きたくなっちゃうなんて)

 去年まで、夜中にトイレに行きたくなったら、

 隣の部屋で寝ている母親を起こして、付いて来てもらっていた。

 しかし、もう4年生だ。

 守は、トイレぐらい自分一人で行かなければならないと思うようになっていた。

 階段を下り、1階へとやって来た守は、しんと静まり返った薄暗いリビングを見る。

 何だか怖い。

 いつも見ているリビングとはまるで違うように思える。

(早くトイレに行こう)

 守はできるだけ周りを見ないようにして、足早にトイレの方へと向かった。

 その時、微かに、女の人の歌声が聞こえて来た。

(どうしてこんな時間に?)

 歌声は、キッチンの方から聞こえる。

(お母さんが歌っているの?)

 母親も目が覚めて、お茶でも飲みに1階に下りて来たのだろうか?

「お母さん……?」

 守は戸惑いながらも、キッチンを見た。

 だが、キッチンは真っ暗で、誰もいなかった。

「気のせいだったのかな……?」

 見ると、キッチンの窓が少し開いている。

 風が吹いて、それが歌声のように聞こえただけなのかもしれない。

「もう、驚かさないでよ……」

 守は、窓を閉めようと傍に近づいた。

 すると、また歌声が聞こえた。

 声は、窓の外からしているようだ。

(誰が歌ってるの?)

 守の家は、住宅地の真ん中にある。

 夜中に外で歌を歌っている人など今までいなかった。

 守は何だか怖くなり、窓を閉めて、キッチンから出ようと思った。

 だが、窓を閉める事ができなかった。

 

 その歌声に、何故か惹かれてしまったのだ。

 

 どこの言葉なのかは分からない。

 透き通るような女の人の声で、心の奥の奥まで響く。

 守は導かれるかのように、裏口のドアから外へと出た。

 だが、道路には誰もいなかった。

 守は耳を澄ませながら、聴いて行く。

 いつの間にか、うっとりとした表情になっている。

 やがて、歌声が少しずつ大きくなってきた。

「近くにいる……」

 守は期待に胸を膨らませながら、だんだん早足になる。

 ついには、走って女の人を探し始めた。

 歌声は、さらに大きくなる。

 前方に横断歩道が見える。

 あの横断歩道の近くで歌っているようだ。

 守は微笑みながら、そこまで辿り着いた。

 

 しかし、そこにも誰もいなかった。

 

「どうして?」

 歌声ははっきり聞こえている。

 この近くに必ずいるはずだ。

「どこにいるの? ねえ、出て来て」

 守は必死に女の人を探した。

「あっ!」

 横断歩道の傍に、空き地がある。

 空き地の奥の方で、誰かが座っていた。

(もしかして歌ってる人かも!)

 守はそう思うと、空き地に入り、その人の傍に駆け寄った。

「あの!」

 背中を向けて座っているその人に近づく。

 やっと会えた。

 守は嬉しくなって満面の笑みを浮かべた。

 しかし、その表情はすぐに固まった。

 そこに座っていたのは、警察官の男の人だったのだ。

「あ、あの、何をしてるの?」

 守は警察官に声をかけるが、全く反応しない。

「あの……」

 守は戸惑いながら、肩を触ると、警察官はそのまま地面に倒れた。

「あっ!」

 警察官は、眠っていた。

 倒れても全く目を覚まさない。

「どういう事?」

 守が動揺していると、ふと、近くに数人の影が見えた。

 目を凝らして見てみると、近所の人達だ。

 彼らは、警察官と同じように、パジャマを着たまま倒れて眠っていた。

「みんな、どうしたの?」

 守は慌てて彼らの傍に走った。

「ねえ、大丈夫? 起きて!」

 守は彼らの身体を揺さぶる。

 だが、彼らは全く目を覚ます気配がなかった。

「どうなってるの?」

 守は、恐ろしくなって空き地から出ようとした。

 

「フフフ」

 突然、女の笑い声が聞こえた。

 守はハッとして、その声が聞こえた方を見た。

「何、あれ……?」

 空中に、×印状の罅が浮かんでいる。

 その罅から、黒い煙が漏れていた。

「フフフ、フフフフ」

 罅から笑い声が聞こえ、やがてそれは歌声に変わった。

「あ、あああ」

 守は逃げ出そうと思うが、何故か身体が動かない。

 歌声が、心の奥の奥まで響く。

 気が付くと、守はまたうっとりとした表情になっていた。

「何だか……僕……」

 守はその場に蹲ると、深い眠りに落ちてしまった。

 

「うっ……うっ……泣かせてくれるじゃねぇか……」

 路地裏で、アプリルは本を読んで泣いていた。

 本の表紙には、たくさんの涙がついている。

「何々……えーっと、『人魚姫』? あ!」

 ディアーナが表紙を見ると、それは「人魚姫」の本だった。

 海底にある人魚の国、その王の末娘として生まれた人魚姫は、難破船にいた王子を救出する。

 王子に恋心を抱いた人魚姫は、声と引き換えに人間になる薬を魔女からもらう。

 だが、そのせいで王子に思いを伝えられず、王子は隣国の王女と結婚する事になってしまう。

 それを阻止するためには姉からもらったナイフで王子を殺めなければならなかったが、

 人魚姫にはそれができず、海の泡になってしまった。

 

「でも、人魚姫は本当に死んだわけじゃないわ。

 人魚姫は精霊に生まれ変わって、この世界を見守っているのよ……ってナタリアが言ってたわ」

 ちなみにこの本を貸したのは、ナタリアである。

 ジャネットが怪奇現象の発生を予知し、その怪に関係のあるものを路地裏に出すのだ。

 命令してばかりの印象が強いジャネットだが、彼女自身が赴くと処罰の対象になるため、

 代理人であるディアーナ達に指示を出しているのだ。

「それで、怪奇現象と何の関係があるんだよ」

「ディアーナ、以前、雪女と会った事がありましたよね。

 あの時、ディアーナは雪女を倒さずに、別の世界に送りましたよね」

「えっ、あ、それは」

「神が定めた台本を歪めれば、世界にも歪みが生じてしまいます」

 以前、ディアーナは雪女を止めるため、勇気とキユウと共に江戸時代に行った事がある。

 その時、巳之吉とお雪の悲しい姿を見たディアーナは激怒して、

 お雪を無理矢理妖怪屋敷に連れて行ったのだ。

「今回の事を繰り返さないように私はこの本を出しました」

 ジャネットは、ディアーナが問題行動を起こさないように「人魚姫」の本で戒めをするという。

 ドラキュラとの戦いで謹慎処分を受けたディアーナは、痛いほど分かっていた。

「……分かったわ。軽率な行動は慎む」

 下手に怪に同情すると、ろくでもない事が起きるのは明らかだ。

 ディアーナはできる限り、仕事で被害を小さくする事を決めた。

「そういえば、人魚って不思議な種族なのよね。水中で力が増したり、歌声で魅了したり」

「うた……うーん、ノノとおなじー」

 人魚の歌声は船を沈めると言われている。

 きっと、今回の怪奇現象も、それに関係のあるものだろう。

 そう思ったディアーナは、今回の仕事を受けようとしていた。

「あたし、仕事に行ってきます」

「待ちなさい。『あの時』のように、問題行動を起こさないと誓えますか?」

「……誓います」

 ディアーナは小声でそう言ったが、ジャネットは信頼していなかった。

 すると、アプリルがディアーナの傍にやってきて、彼女の肩に手を置く。

「大丈夫だ、俺がついているから安心しな」

「アプリル……」

 彼ならば、この怪奇現象を止められるかもしれない。

 ディアーナは安心して頷き、アプリルと共に路地裏を出ていくのだった。




~次回予告~

羽心はキユウがいたという建物の真相を探るため、情報を調べていた。
また、オシリスの鈴に関しても、何らかの秘密があると思って調べようとする。
だが、一向に情報は得られなかった。
そんな時、見捨里市で、人々が次々に眠りに落ち……?
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